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2026.01.07
宮路 幸人
サラリーマン大家と「インボイス制度」。税理士が解説「登録すべき人」と「しなくていい人」
- 節税・税金
- 税理士
- 執筆記事
インボイス制度の「キホン」を税理士がおさらい
2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)について、まずは基本的な仕組みから簡単におさらいしましょう。
消費税は、事業者が商品やサービスを販売した際に「預かった消費税」から、仕入れや経費で「支払った消費税」を差し引いて、その差額を国に納める仕組みになっています。この「支払った消費税を差し引く」ことを、専門用語で「仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)」と呼びます。 インボイス制度が始まる前は、帳簿や(消費税率などが記載された)区分記載請求書があれば、この仕入税額控除が認められていました。
しかし、2023年10月1日以降は、原則として「適格請求書(インボイス)」と呼ばれる特定の要件を満たした請求書や領収書がなければ、買手(お金を払う側)は仕入税額控除ができなくなりました。
では、その「適格請求書(インボイス)」とは何でしょうか? 簡単に言えば、「この事業者は正しく消費税を納めていますよ」ということを示す「登録番号」が記載された請求書や領収書のことです。 この登録番号は、誰でも取得できるわけではありません。税務署に申請し、「適格請求書発行事業者」として登録を受けた事業者だけが発行できます。そして、この登録ができるのは「課税事業者」(消費税を納める義務がある事業者)だけです。
これまで、多くのサラリーマン大家のように、年間の課税売上高(※後述しますが、居住用の家賃は非課税です)が1,000万円以下の事業者は、「免税事業者」として消費税の納税が免除されていました。免税事業者は、インボイスを発行することができません。
つまり、インボイス制度の核心は、「買手(お金を払う側)が、仕入税額控除(支払った消費税を引くこと)をしたいかどうか」であり、そのために「売手(お金をもらう側)にインボイスの発行を求めるかどうか」という点にあります。 サラリーマン大家(売手)にとって、自身の入居者さん(買手)がインボイスを必要とする相手なのかどうか、そこが最大の分岐点となります。
あなたの「入居者」は誰ですか?
では、サラリーマン大家の場合、具体的にどう判断すれば良いのでしょうか。まずは、自身が所有する物件の「家賃」の性質と、「入居者」の属性を確認する必要があります。
不動産賃貸業における収入には、消費税がかかるもの(課税)と、かからないもの(非課税)があります。
- 非課税売上: 居住用(人が住むため)の家賃
- 課税売上: 事務所や店舗など事業用の家賃、駐車場代(※条件によりますが、多くは課税です)、テナントの共益費など
インボイス制度は消費税の制度ですから、そもそも「非課税」である居住用の家賃収入には、何の影響もありません。
そして、サラリーマン大家が所有する物件がワンルームマンションやファミリータイプのアパートなどで、入居者が「個人(一般消費者)」である場合。部屋を借りている個人は、その家賃を「経費」として申告し、仕入税額控除を行うでしょうか? 答えは「No」。一般の消費者(サラリーマンや学生など)は事業者ではありませんから、仕入税額控除という概念そのものがありません。したがって、入居者が個人の場合、大家に対してインボイス(適格請求書)の発行を求めることは、まずあり得ません。
たとえ駐車場代などで一部「課税売上」があったとしても、その課税売上高が年間1,000万円を超えない限り、大家は「免税事業者」のままで、基本的に何の影響もありません。多くのサラリーマン大家はこのケースに該当するはずです。周囲が「インボイス登録を」と騒がしくしていても、慌てて登録する必要はない、といえるでしょう。
注意!「法人(事業者)」が入居者の場合
一方で、注意が必要なのは、あなたの物件の入居者が「法人(事業者)」である場合です。
たとえば、あなたが所有する物件を、事務所(オフィス)や店舗(飲食店、美容室など)として法人に貸しているケースを想像してください。この場合、法人が支払う家賃は「課税取引」にあたります(※土地の貸付は非課税など例外がありますが、ここでは建物の賃貸を想定します)。
お金を支払う法人(買手)にとって、この家賃は会社の「経費(課税仕入れ)」です。当然、法人は支払った家賃に含まれる消費税分を「仕入税額控除」したいと考えます。 ここで大家(売手)が「免税事業者」のままであると、インボイスを発行できません。 すると、法人(買手)は、その家賃にかかる消費税分を仕入税額控除できなくなり、実質的な税負担が増えてしまいます。
結果、入居している法人はどう動くでしょうか? 当然、大家に対して「インボイスを発行してください」と要求してくる可能性が非常に高くなります。 もし大家が「うちは免税事業者なので発行できません」と回答した場合、法人は「それなら、インボイスを発行してくれる別の物件(課税事業者である大家の物件)に移転しよう」と考えるかもしれません。
これは、サラリーマン大家にとって、深刻な「退去リスク」であり、今後の「競争力の低下」につながります。
事務所、店舗、あるいは事業用の倉庫などを貸しており、入居者から家賃(課税売上)を受け取っている場合。入居者からインボイスの発行を求められる可能性が極めて高く、それに応じられない場合は退去されるリスクがあります。このケースでは、自身の課税売上高が1,000万円以下であっても、あえて「課税事業者」となり、「インボイス登録」を行うことを真剣に検討する必要があります。
「課税事業者」になるメリット・デメリット
では、免税事業者のサラリーマン大家が、あえて「課税事業者」になる(インボイス登録をする)ことを選んだ場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット:法人客を逃さない
メリットは非常に明確です。 インボイスを発行できるようになるため、事務所や店舗として物件を借りている法人(事業者)の入居者のニーズに応えることができます。
- 既存の法人入居者の、インボイスを理由とした退去リスクを回避できます。
- 今後、新たな募集をかける際にも「インボイス対応可能」とアピールでき、事業者向けの物件としての競争力を維持・確保できます。
デメリット:消費税の申告・納税義務の発生
一方のデメリットは、これまで免除されていた「消費税の申告・納税」という義務が発生することです。
たとえば、事務所家賃として年間240万円(税抜)を受け取っていた場合、消費税10%分として24万円も一緒に預かっています。免税事業者の間は、この24万円を納税する必要がありませんでした。
しかし、課税事業者になると、この預かった消費税24万円から、経費(管理費、修繕費、広告費など)で支払った消費税を差し引いた額を、国に納めなければなりません。 これは、単純に「手残り」が減ることを意味します。 また、消費税の計算と申告書の作成という「事務的な手間」も発生します。自身で行うか、税理士に依頼することになります。
負担軽減措置(2割特例・簡易課税)
ただし、インボイス登録によって免税事業者から課税事業者になった方向けに、負担を軽減する特例措置も用意されています。
これは非常に強力な特例で、インボイス登録を機に課税事業者になった場合、預かった消費税額(売上税額)の2割だけを納めれば良い、というものです。
2割特例の期間が終わった後や、あえてこちらを選ぶ場合(※有利不利の判定が必要です)の選択肢です。 基準期間(通常は2年前)の課税売上高が5,000万円以下の場合に選択できます。 支払った経費の消費税を細かく計算する代わりに、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って納税額を簡易的に計算します。
不動産賃貸業は「第六種事業」に該当し、みなし仕入率は40%です。 つまり、預かった消費税の(100% - 40% =)60%を納税します。 課税事業者になるとはいえ、こうした特例を活用することで、納税の負担や事務的な手間を軽減できる道も残されています。
まとめ
インボイス制度は、買手が仕入税額控除を行うための制度です。サラリーマン大家は、自身の「入居者」が誰かによって対応が分かれます。入居者が「個人(一般消費者)」のみであれば、インボイスを求められることはなく、基本的に「免税事業者」のままで影響は少ないでしょう。
一方、入居者が「法人(事業者)」で、事務所や店舗として貸している場合は、退去リスクを避けるために「課税事業者(インボイス登録)」になることを検討すべきです。その際は、納税義務が発生しますが、「2割特例」などの負担軽減措置も存在します。自身の賃貸経営の状況をよく確認し、判断することが大切です。
この記事を書いた人
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所 税理士/行政書士/CFP
税理士としての豊富な実務経験により、会計税務の問題から経営や資金繰りの相談など、様々な問題に対応。強みのある分野は不動産と相続関連。特に相続問題では、税金面だけでなく、家族が幸せになれる「笑顔相続」を心がけトータルな提案を重視している。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格も保有。
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宮路 幸人
サラリーマン大家と「インボイス制度」。税理士が解説「登録すべき人」と「しなくていい人」
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インボイス制度の「キホン」を税理士がおさらい
2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)について、まずは基本的な仕組みから簡単におさらいしましょう。
消費税は、事業者が商品やサービスを販売した際に「預かった消費税」から、仕入れや経費で「支払った消費税」を差し引いて、その差額を国に納める仕組みになっています。この「支払った消費税を差し引く」ことを、専門用語で「仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)」と呼びます。 インボイス制度が始まる前は、帳簿や(消費税率などが記載された)区分記載請求書があれば、この仕入税額控除が認められていました。
しかし、2023年10月1日以降は、原則として「適格請求書(インボイス)」と呼ばれる特定の要件を満たした請求書や領収書がなければ、買手(お金を払う側)は仕入税額控除ができなくなりました。
では、その「適格請求書(インボイス)」とは何でしょうか? 簡単に言えば、「この事業者は正しく消費税を納めていますよ」ということを示す「登録番号」が記載された請求書や領収書のことです。 この登録番号は、誰でも取得できるわけではありません。税務署に申請し、「適格請求書発行事業者」として登録を受けた事業者だけが発行できます。そして、この登録ができるのは「課税事業者」(消費税を納める義務がある事業者)だけです。
これまで、多くのサラリーマン大家のように、年間の課税売上高(※後述しますが、居住用の家賃は非課税です)が1,000万円以下の事業者は、「免税事業者」として消費税の納税が免除されていました。免税事業者は、インボイスを発行することができません。
つまり、インボイス制度の核心は、「買手(お金を払う側)が、仕入税額控除(支払った消費税を引くこと)をしたいかどうか」であり、そのために「売手(お金をもらう側)にインボイスの発行を求めるかどうか」という点にあります。 サラリーマン大家(売手)にとって、自身の入居者さん(買手)がインボイスを必要とする相手なのかどうか、そこが最大の分岐点となります。
あなたの「入居者」は誰ですか?
では、サラリーマン大家の場合、具体的にどう判断すれば良いのでしょうか。まずは、自身が所有する物件の「家賃」の性質と、「入居者」の属性を確認する必要があります。
不動産賃貸業における収入には、消費税がかかるもの(課税)と、かからないもの(非課税)があります。
- 非課税売上: 居住用(人が住むため)の家賃
- 課税売上: 事務所や店舗など事業用の家賃、駐車場代(※条件によりますが、多くは課税です)、テナントの共益費など
インボイス制度は消費税の制度ですから、そもそも「非課税」である居住用の家賃収入には、何の影響もありません。
そして、サラリーマン大家が所有する物件がワンルームマンションやファミリータイプのアパートなどで、入居者が「個人(一般消費者)」である場合。部屋を借りている個人は、その家賃を「経費」として申告し、仕入税額控除を行うでしょうか? 答えは「No」。一般の消費者(サラリーマンや学生など)は事業者ではありませんから、仕入税額控除という概念そのものがありません。したがって、入居者が個人の場合、大家に対してインボイス(適格請求書)の発行を求めることは、まずあり得ません。
たとえ駐車場代などで一部「課税売上」があったとしても、その課税売上高が年間1,000万円を超えない限り、大家は「免税事業者」のままで、基本的に何の影響もありません。多くのサラリーマン大家はこのケースに該当するはずです。周囲が「インボイス登録を」と騒がしくしていても、慌てて登録する必要はない、といえるでしょう。
注意!「法人(事業者)」が入居者の場合
一方で、注意が必要なのは、あなたの物件の入居者が「法人(事業者)」である場合です。
たとえば、あなたが所有する物件を、事務所(オフィス)や店舗(飲食店、美容室など)として法人に貸しているケースを想像してください。この場合、法人が支払う家賃は「課税取引」にあたります(※土地の貸付は非課税など例外がありますが、ここでは建物の賃貸を想定します)。
お金を支払う法人(買手)にとって、この家賃は会社の「経費(課税仕入れ)」です。当然、法人は支払った家賃に含まれる消費税分を「仕入税額控除」したいと考えます。 ここで大家(売手)が「免税事業者」のままであると、インボイスを発行できません。 すると、法人(買手)は、その家賃にかかる消費税分を仕入税額控除できなくなり、実質的な税負担が増えてしまいます。
結果、入居している法人はどう動くでしょうか? 当然、大家に対して「インボイスを発行してください」と要求してくる可能性が非常に高くなります。 もし大家が「うちは免税事業者なので発行できません」と回答した場合、法人は「それなら、インボイスを発行してくれる別の物件(課税事業者である大家の物件)に移転しよう」と考えるかもしれません。
これは、サラリーマン大家にとって、深刻な「退去リスク」であり、今後の「競争力の低下」につながります。
事務所、店舗、あるいは事業用の倉庫などを貸しており、入居者から家賃(課税売上)を受け取っている場合。入居者からインボイスの発行を求められる可能性が極めて高く、それに応じられない場合は退去されるリスクがあります。このケースでは、自身の課税売上高が1,000万円以下であっても、あえて「課税事業者」となり、「インボイス登録」を行うことを真剣に検討する必要があります。
「課税事業者」になるメリット・デメリット
では、免税事業者のサラリーマン大家が、あえて「課税事業者」になる(インボイス登録をする)ことを選んだ場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット:法人客を逃さない
メリットは非常に明確です。 インボイスを発行できるようになるため、事務所や店舗として物件を借りている法人(事業者)の入居者のニーズに応えることができます。
- 既存の法人入居者の、インボイスを理由とした退去リスクを回避できます。
- 今後、新たな募集をかける際にも「インボイス対応可能」とアピールでき、事業者向けの物件としての競争力を維持・確保できます。
デメリット:消費税の申告・納税義務の発生
一方のデメリットは、これまで免除されていた「消費税の申告・納税」という義務が発生することです。
たとえば、事務所家賃として年間240万円(税抜)を受け取っていた場合、消費税10%分として24万円も一緒に預かっています。免税事業者の間は、この24万円を納税する必要がありませんでした。
しかし、課税事業者になると、この預かった消費税24万円から、経費(管理費、修繕費、広告費など)で支払った消費税を差し引いた額を、国に納めなければなりません。 これは、単純に「手残り」が減ることを意味します。 また、消費税の計算と申告書の作成という「事務的な手間」も発生します。自身で行うか、税理士に依頼することになります。
負担軽減措置(2割特例・簡易課税)
ただし、インボイス登録によって免税事業者から課税事業者になった方向けに、負担を軽減する特例措置も用意されています。
これは非常に強力な特例で、インボイス登録を機に課税事業者になった場合、預かった消費税額(売上税額)の2割だけを納めれば良い、というものです。
2割特例の期間が終わった後や、あえてこちらを選ぶ場合(※有利不利の判定が必要です)の選択肢です。 基準期間(通常は2年前)の課税売上高が5,000万円以下の場合に選択できます。 支払った経費の消費税を細かく計算する代わりに、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って納税額を簡易的に計算します。
不動産賃貸業は「第六種事業」に該当し、みなし仕入率は40%です。 つまり、預かった消費税の(100% - 40% =)60%を納税します。 課税事業者になるとはいえ、こうした特例を活用することで、納税の負担や事務的な手間を軽減できる道も残されています。
まとめ
インボイス制度は、買手が仕入税額控除を行うための制度です。サラリーマン大家は、自身の「入居者」が誰かによって対応が分かれます。入居者が「個人(一般消費者)」のみであれば、インボイスを求められることはなく、基本的に「免税事業者」のままで影響は少ないでしょう。
一方、入居者が「法人(事業者)」で、事務所や店舗として貸している場合は、退去リスクを避けるために「課税事業者(インボイス登録)」になることを検討すべきです。その際は、納税義務が発生しますが、「2割特例」などの負担軽減措置も存在します。自身の賃貸経営の状況をよく確認し、判断することが大切です。
この記事を書いた人
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所 税理士/行政書士/CFP
税理士としての豊富な実務経験により、会計税務の問題から経営や資金繰りの相談など、様々な問題に対応。強みのある分野は不動産と相続関連。特に相続問題では、税金面だけでなく、家族が幸せになれる「笑顔相続」を心がけトータルな提案を重視している。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格も保有。