- TOP
- 会社員のための不動産投資マガジン
- 記事一覧
- 不動産投資は節税になる?ならない?税金が安くなる仕組みや注意点を解説
2025.09.18
ベルテックスコラム事務局
不動産投資は節税になる?ならない?税金が安くなる仕組みや注意点を解説
- 節税・税金
結論をいうと、不動産投資は節税になる場合と、ならない場合の両方があります。
節税につながりやすいのは、たとえば高所得者や、預貯金や上場株式など相続税対策をしにくい資産を多数持つ人です。こうした条件に当てはまらないときは、節税にならない・節税の効果を実感できないおそれがあるでしょう。
ここでは、不動産投資で節税ができるしくみから、節税効果を得る・高めるポイントまで、不動産を運用するうえで理解しておきたい節税対策の基本を整理します。
不動産投資で節税できる仕組み
不動産投資による節税効果は、主に経費と赤字の活用によるものです。
税務では「減価償却費」と呼ばれる経費が中心的な役割を果たし、不動産所得が赤字になった場合は、「損益通算」により本業などの黒字所得と相殺し、課税額を減らすことができます。
減価償却費とは
減価償却とは、資産の取得価額を一度に全額経費にするのではなく、法で定められた使用可能な期間(法定耐用年数)にわたって分割し、毎年の必要経費とする手続きです。
不動産投資では、建物や設備などが減価償却の対象となり、取得価額を物件の種類ごとに定められた法定耐用年数で減価償却していきます。
建物の毎年の減価償却費は、物件の種類や、構造(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など)に応じた法定耐用年数で割って算定します。
たとえば、建物の取得価額が4,000万円、法定耐用年数が20年の場合、単純計算で毎年200万円(4,000万円 ÷ 20年)を減価償却費として経費にできます。
この減価償却費は、実際にお金が出ていくわけではない「帳簿上の経費」である点が大きな特徴です。建物の維持管理費など実際にかかる支出とは別に、築年数の経過による「資産価値の減少分」として経費化できるのです。
なお、減価償却費の計上で不動産所得が赤字になった場合、その赤字分を他の所得(たとえば給与所得)と合算して「損益通算」することが可能です。(詳しくは次の章で解説します)
損益通算とは
損益通算とは、ある所得で生じた損失(赤字)を、ほかの種類の所得の利益(黒字)から差し引くことができる制度です。これにより、全体の所得金額が減少し、結果として所得税や住民税の負担を軽くすることができます。
税制上、不動産投資で得られる所得は「不動産所得」に分類されます。不動産所得が赤字になった場合、その赤字分を給与所得や事業所得などほかの所得から控除することが可能です。
たとえば、ある年の給与所得が800万円、不動産所得がマイナス200万円だったとしましょう。この場合、損益通算により課税対象となる所得は以下のように計算されます。
給与所得(800万円) + 不動産所得(-200万円) = 課税所得(600万円)
損益通算の特徴は、現金の支出を必ずしも伴わない点です。減価償却費などが中心となる赤字なら、手元のキャッシュフローを悪化させることなく節税効果を得られます。
もっとも、損益通算の対象にならない損失(赤字)もあります。具体的には、下記の2点です。
-
土地などを取得するための借入金の利子(建物にかかる利子は対象)
-
主に趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的で所有する別荘などの貸付けによる損失
【参考】国税庁タックスアンサー「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」2024年4月1日時点
初期投資で所得を圧縮する効果もある
不動産投資を開始する際には、物件の購入代金以外にもさまざまな初期費用がかかります。
これらの費用の多くは経費として計上できるため、初年度の不動産所得が赤字になるケースもあります。その結果、赤字分をほかの所得と損益通算することで、所得税や住民税の負担を軽くできる場合があります。
経費として計上できる主な初期費用には、以下のようなものがあります。
- 不動産取得税
- 登録免許税(登記にかかる税金)
- 印紙税(売買契約書などに貼付する印紙)
- 司法書士への報酬(登記手続きの代行費用)
- 不動産投資ローンにかかる事務手数料や保証料
一方、仲介手数料や火災・地震保険料などは、扱いが異なるため注意が必要です。仲介手数料は、原則として物件の取得価額に含まれ、減価償却を通じて複数年にわたり費用化されます。また、損害保険料は、契約期間に応じて分割して計上するのが一般的です。
これらの初期費用を適切に経費計上することで、とくに投資初年度の不動産所得が圧縮され、節税につながる可能性があります。
不動産投資で節税できる税金
不動産投資では、どのような税金の負担を軽くできるのでしょうか。
ここでは、不動産投資で節税できる税金の種類を紹介します。
所得税
不動産投資で節税できる税金として、個人の1年間の所得に対して課される「所得税」が挙げられます。損益通算の対象となる下記の本業収入につき、不動産投資で出る帳簿上の赤字を使って圧縮することで、課税額も抑えることができるのです。
- 給与所得(給料、賃金、賞与など)
- 事業所得(事業から生じる所得)
- 譲渡所得(土地、建物、株式などの売却益) など
所得税の税率は、課税所得金額に応じて段階的に高くなる「超過累進課税」が採用されています。超過累進課税は、所得全体に高い税率がかかる単純累進課税とは異なり、一定の金額を超えた部分にだけ対応する税率がかかる課税方式です。
たとえば課税所得が700万円だった場合、下の表を参考にすると、330万円以上695万円未満の部分には税率20%、695万円を超える5万円に対しては税率23%がかかる計算になります。
▼所得税の税率表
課税所得金額 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
1,000円~194万9,000円 |
5% |
0円 |
195万円~329万9,000円 |
10% |
9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 |
20% |
42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 |
23% |
63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 |
33% |
153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 |
40% |
279万6,000円 |
4,000万円~ |
45% |
479万6,000円 |
※課税所得金額の計算では、1,000円未満の端数を切り捨てます。
※上記のほか、所得税額に対して2.1%の復興特別所得税もあわせて納付する必要があります。
【参考】国税庁タックスアンサー「所得税の税率」2024年4月1日時点
住民税
居住する都道府県・市町村が所得金額に応じて毎年課税する「住民税」についても、不動産投資による節税効果が得られます。
住民税の課税額は、前年の所得に基づいて計算される「所得割」と、所得にかかわらず一定額が課される「均等割」で構成されます。このうち所得割は、不動産投資によって経費を計上したり、損益通算によって課税所得を圧縮したりすることで、所得税と同じく軽減できる可能性があります。
住民税の「所得割」とは
前年の所得金額(給与所得、事業所得、不動産所得などの合計)に応じて課税されます。税率は原則として全国一律10%(都道府県民税4%、市区町村民税6%)です。
住民税の「均等割」とは
所得金額にかかわらず、原則として定額が課されます。標準的には5,000円(都道府県民税1,500円、市区町村民税3,500円)ですが、自治体によって異なる場合があります。
相続税・贈与税
不動産投資は、投資家自身の所得税・住民税の節約だけでなく、財産を将来受け継ぐことになる配偶者や子ども(相続人)の税負担を減らす目的でも行われます。
亡くなった人から財産を受け継ぐときの相続税や、無償または著しい低価格で財産を譲り受けるときの贈与税では、財産ごとに評価方法が定められています。
このとき、土地・建物は時価(実際の市場価格)よりも低い額となる評価方法が採用されており、現金などと比べて課税額が少なくなる傾向にあります。(詳しくはこのあと解説します)
法人税
不動産投資による利益が増加し、個人所得に対する課税(所得税・住民税)の節税効果が得られなくなったときは、法人化する方法が考えられます。法人化で得られる節税効果は、給与所得控除の利用や、経費の範囲拡大によるものです。
とはいえ、法人化すると、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務づけられ、保険料負担が生じることから、節税につながるかどうかはケースバイケースです。税理士などの専門家に相談し、慎重に検討するようにしましょう。
法人化することで計上できるようになる経費
個人もしくは個人事業主として計上できる経費は、法人化することで範囲が広がります。
具体的には、生命保険の掛金(一定の条件を満たす場合)・親族従業員への退職金が新たに計上できるようになり、法人名義で借りた賃貸物件が社宅に該当する場合、住居費計上の幅も広がります。
不動産投資による所得税・住民税の節税効果
不動産投資では、特に所得が高い層ほど節税効果を実感しやすい傾向にあります。
ここでは、課税所得の金額別に、不動産投資による節税効果をシミュレーションします。
【ケース①】課税所得700万円の場合
本業収入で課税所得700万円の人が、不動産投資で100万円の赤字を計上した場合、所得税・住民税合わせて年間で約30万円の節税効果が期待できます。
【給与所得のみの場合】
- 所得税:97万4,000円(700万円 × 0.23 - 63万6,000円)
- 住民税(所得割):70万円(700万円 × 0.1)
- 税額合計:167万4,000円
【不動産所得がマイナス100万円の場合】
損益通算後の課税所得:700万円 - 100万円 = 600万円
- 所得税:77万2,500円(600万円 × 0.20 - 42万7,500円)
- 住民税(所得割):60万円(600万円 × 0.1)
- 税額合計:137万2,500円
節税額:167万4,000円 - 137万2,500円 = 30万1,500円
【ケース②】課税所得1,000万円の場合
本業収入で課税所得1,000万円の方が、不動産投資で200万円の赤字を計上した場合、所得税・住民税合わせて年間で76万円の節税効果が期待できます。
【給与所得のみの場合】
- 所得税:176万4,000円(1,000万円 × 0.33 - 153万6,000円)
- 住民税(所得割):100万円(1,000万円 × 0.1)
- 税額合計:276万4,000円
【不動産所得がマイナス200万円の場合】
損益通算後の課税所得:1,000万円 - 200万円 = 800万円
- 所得税:120万4,000円(800万円 × 0.23 - 63万6,000円)
- 住民税(所得割):80万円(800万円 × 0.1)
- 税額合計:200万4,000円
節税額:276万4,000円 - 200万4,000円 = 76万円
【ケース③】課税所得1,300万円の場合
本業収入で課税所得1,300万円の方が、不動産投資で300万円の赤字を計上した場合、所得税・住民税合わせて年間で129万円もの節税効果が期待できます。
【給与所得のみの場合】
- 所得税:275万4,000円(1,300万円 × 0.33 - 153万6,000円)
- 住民税(所得割):130万円(1,300万円 × 0.1)
- 税額合計:405万4,000円
【不動産所得がマイナス300万円の場合】
損益通算後の課税所得:1,300万円 - 300万円 = 1,000万円
- 所得税:176万4,000円(1,000万円 × 0.33 - 153万6,000円)
- 住民税(所得割):100万円(1,000万円 × 0.1)
- 税額合計:276万4,000円
節税額:405万4,000円 - 276万4,000円 = 129万円
【おすすめ関連記事】【令和6年分対応】不動産収入にかかる税金は? 賢く対策し収益アップを目指そう
不動産投資をしても節税にならない4つのケース
節税効果が期待できる不動産投資ですが、すべての人・すべてのケースで必ずしもメリットがあるわけではありません。本業収入が十分でなかったり、物件選びや運用で失敗したりすると、かえって損をすることさえあります。
所得税率がもともと低い
適用される所得税率が低い人は、不動産投資による節税効果は十分に発揮されません。不動産所得が赤字になっても、それと相殺できる所得(黒字)が少なければ、節税メリットは限定的だからです。
仮に節税効果が得られたとしても、帳簿管理や管理会社とのやり取りなど、手間や時間をかけた割に見返りが少ないというケースも考えられます。
具体的な目安として、年収が900万円未満である場合は、結論を急がず、立ち止まって考えてみるのもいいかもしれません。不動産投資一本に絞らず、ほかにNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、手軽で少額から始められる投資を組み合わせるのもおすすめです。
物件選びにミスがある
節税効果を期待して不動産投資を始めても、物件選びを誤ると逆効果になるおそれがあります。具体的には、建物の価値が低すぎて減価償却費がほとんど取れなかったり、支出(※現金の支出があるもの/管理会社に支払う手数料など)が収入を上回る状態が続いたりするかもしれません。
【節税効果が得られないor逆効果になる物件の例】
- 土地と比べて建物の価値が低い物件(法定耐用年数が短い等)
- 築年数・設備・立地などの事情で入居者が見つかりにくい物件(修繕費等の支出、家賃収入が見込めない等)
不動産の運用判断を誤る
物件選びだけでなく、投資用不動産の運用や出口戦略で節税効果が薄くなることもあります。
【危険な運用判断ミスの例】
- ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態になる
- 高利回り物件を購入したものの、空室が続き収入にならない
- 不必要なリフォームを行い、経費がかさむ
- 必要な修繕を怠り、物件の価値が下がってしまう
不動産投資の本来の目的は、長期的に安定した収益を得ることです。節税はあくまで副次的な効果と捉え、収支バランスやリスク管理を疎かにしないことが重要です。
総資産額が相続税の基礎控除額を超えない
相続税対策の観点では、もともと一定の基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)がある点に注意しましょう。
基礎控除額を超えない範囲の資産しかない場合、そもそも控除されるため、不動産投資による節税効果もないからです。
なお、生前のうちにまとまった財産を贈与したいのであれば、非課税枠がある各種制度の利用(相続時精算課税など)が考えられます。
相続開始時にも「配偶者の税額の軽減」など、相続人の身分などによって基礎控除額を超える部分も非課税となる可能性があります。
不動産投資で節税できるケースとは
不動産投資で節税効果が得られるのは、本業収入がある程度のラインに達している場合や、資産の状況から見て有効と判断できる場合です。
具体的には以下のケースが当てはまります。
所得や所得税率の上昇がある
不動産投資で課税額を減らす効果が得られるのは、「高所得者層」です。または、所得が上昇しつつあり、所得税率も上がる見込みがある人も検討できるでしょう。
年収の目安は、所得税率が33%に上がる1200万円(課税所得900万円)のラインです。
ただし、税率33%は課税所得すべてにかかるわけではなく、900万円を超える部分のみとなるため(超過累進課税)、急激な負担感は感じにくいかもしれません。
しかし、税金は継続して支払うもの。納税額が膨らむ前に、早めの節税対策が賢明です。
税制上の優遇を受けられない資産が多い
相続対策として不動産投資が有効といえるのは、税制上の優遇を受けられない・受けにくい資産が多い場合です。
具体例としては、すでに紹介した現金・預貯金や、上場株式などが挙げられます。
これらはそのまま相続すると金額に対し最大55%の税率で課税されますが、投資用不動産への組み換えを行うことで、課税評価額を下げつつ家賃収入で納税資金に備えられます。
ただし、総資産額が相続税の基礎控除額、および各種税制による非課税枠を超えていないと、そもそも節税する必要もない点は注意が必要です。
節税効果を高める物件選び・投資方針のポイント5点
不動産投資で節税効果を最大限に引き出すためには、物件選びと投資方針が非常に重要です。特に「減価償却費」をいかに多く、長期間にわたって計上できるか、そして安定した賃貸経営を行えるかがカギとなります。
ここでは、節税効果を高めるための5つのポイントを解説します。
建物の構造に着目する
建物の構造によって、法律で定められた「法定耐用年数」が異なります。法定耐用年数が短いほど、年間の減価償却費を大きく計上できるため、節税効果が高まります。
たとえば、同じ建物価格であっても、法定耐用年数が長い鉄筋コンクリート造(RC造、47年)のマンションより、法定耐用年数が短い木造(22年)のアパートの方が、単年あたりの減価償却費は大きくなります。
そのため、短期間で大きな節税効果を狙うのであれば、木造や軽量鉄骨造といった法定耐用年数が比較的短い構造の物件を選ぶのがポイントです。
【構造別の法定耐用年数】
- 木骨モルタル造:20年
- 木造・合成樹脂造:22年
- 鉄筋コンクリート造:47年
- 鉄骨鉄筋コンクリート造:47年
- れんが造・石造・ブロック造:38年
- 金属造(軽量鉄骨プレハブ造など):19年~34年
築年数に着目する
中古物件の場合、すでに経過した築年数に応じて法定耐用年数が短縮されるため、新築物件よりも年間の減価償却費を大きく計上できる可能性があります。
とくに減価償却費の計上で有利といえるのは、法定耐用年数をすべて経過した中古木造物件です。
この場合、法定耐用年数の20%(木造であれば22年×20%=最短4年)で償却できるため、短期間で集中的に減価償却費を計上し、大きな節税効果を得ることも可能です。
ただし、築古物件は修繕費がかさむリスクや、融資期間が短くなる可能性のほかに「物件の条件が悪いせいで入居者が集まらない可能性」も意識しなければなりません。購入する物件の状態や収支計画は慎重に検討する必要があります。
建物比率に着目する
不動産の購入価格は、土地の価格と建物の価格で構成されます。減価償却の対象となるのは建物部分のみで、土地は減価償却できません。そのため、物件価格に占める「建物比率」が高い物件ほど、計上できる減価償却費が多くなり、節税効果も高まります。
注意したいのは、売買契約書に土地と建物の価額が明記されていない場合です。この場合は、購入代金につき固定資産税評価額の割合で按分するなど、合理的な根拠に基づいて建物価格を算出し、税務署に説明できるようにしておかなくてはなりません。
自己判断で不適切な建物比率を設定すると、後に否認されるリスクがあるため注意しましょう。
空室リスクの高い物件を避ける
いくら減価償却費を多く計上できても、家賃収入がなければ不動産投資は成り立ちません。空室が長期間続くとキャッシュフローが悪化し、節税どころか損失が拡大する恐れがあります。空室リスクを避けるためには、物件選びが重要です。
一般的に空室リスクが高いとされる物件の特徴には、下記のようなものがあります。
- 利便性や地域特性の問題で需要が少ない
- エリアと物件のニーズが一致していない
- 管理状態が悪い、魅力的な設備がない
- 周辺の競合物件と差別化できる要素がない
立地条件や賃貸需要をしっかりと調査し、安定した入居者が見込める物件を選ぶことが、節税と収益性の両立につながります。
【おすすめ関連記事】不動産投資の空室リスクとは 原因とリスク対策を徹底解説
デッドクロス発生前の売却を目指す
ローンの元金返済額(もともと融資を受けた額にかかる返済額)が減価償却費を上回る状態を「デッドクロス」といいます。
デッドクロスが発生すると、会計上は利益が出ていても手元資金が不足してしまいます。節税効果も薄れ、場合によっては追加の税負担が生じるかもしれません。
デッドクロスの発生を避ける、あるいは影響を最小限に抑えるための一つの戦略として、デッドクロスが発生する前に物件を売却し、売却益を得るという方法があります。
売却を検討する際のポイントは以下の通りです。
- 減価償却期間の終了時期を把握する
- ローン残債と売却価格のバランスをモニタリングする
- 物件の売買価格の相場をなるべく常に確認しておく
- 所有期間5年超となり、売却したときの税率が下がるタイミング(長期譲渡所得)を把握する
【おすすめ関連記事】不動産投資におけるデッドクロスとは?有効な7つの対策を解説
不動産投資が相続税・贈与税の節税になるしくみ
すでに触れたとおり、相続税・贈与税の課税において、不動産は時価よりも低く評価されます。
そこで考えられるのは、現預金での貯蓄を使って投資用不動産を購入し、子どもや孫に対する課税額を抑えつつ、家賃収入で納税資金をつくる相続対策です。
ここでは、生前の不動産投資が相続税・贈与税の課税額を減らすしくみについて解説します。
相続税・贈与税が課税されるときの不動産の評価方法
相続や贈与の対象となる不動産は、土地は「路線価方式」もしくは「倍率方式」で、建物は固定資産税評価額で評価します。その結果、土地および建物の課税評価額は、売買価格の7割から8割程度となります。
【路線価方式とは】
土地に接する道路に定められた1平方メートルあたりの価格(路線価)を確認し、これに面積を乗じて評価額を算定する方法です。
路線価は毎年改定され、国税庁のウェブサイトで確認できます。
【倍率方式とは】
路線価が定められていない土地につき、指定された倍率を固定資産税評価額に乗じて評価額を算定する方法です。
倍率は、路線価と同様に国税庁が定め、公表しています。
【参考】国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」 2024年7月1日公表
【固定資産税評価額とは】
固定資産税とは、土地・建物が所在する市町村において、その不動産の所有者に毎年課税される地方税です。
その固定資産税を決める際に、課税の基準となる土地・建物の評価額のことを「固定資産税評価額」と言います。この評価額は、実際に取引されるときの価格(実勢価格)の7割から8割程度となり、3年ごとに見直し(評価替え)が行われます。
【おすすめ関連記事】路線価、公示価格の違いを徹底解説
賃貸不動産はさらに評価額が下がる
相続や贈与の対象となる不動産が賃貸物件であるときは「貸家建付地」として評価します。所有者が自由に使える物件でないことから、床面積ベースで計算した入居率などが考慮され、自用地(自分自身で使う土地)に比べて評価が下がるのです。
土地(貸家建付地)の評価額
=【A】自用地としての評価額 ×(A - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
※Aは路線価方式・倍率方式などで計算した課税評価額
建物(貸家)の評価額
=【B】固定資産税評価額 ×(B -借家権割合 × 賃貸割合)
【参考】国税庁タックスアンサー「貸家建付地の評価」2025年5月14日時点
【借地権割合・借家権割合とは】
借地権割合とは、土地の評価額に対する借地権価額の割合です。 地域によって異なり(30~90%)、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認できます。
一方、借家権割合は、賃貸不動産の相続税評価に利用される割合のことで全国一律30%です。
【賃貸割合とは】
賃貸割合は、建物の床面積に対する賃貸されている部分の割合を指します。
入居率とも言い換えることができ、相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日を基準に判断します。
「小規模宅地等の特例」も利用可能
「小規模宅地等の特例」とは、宅地を相続する際に一定の要件を満たすと相続税評価額の一定割合を減額できる特例です。被相続人の賃貸用不動産を相続する場合は、その宅地について 200平方メートルを限度に評価額が50%減額 されます。
預貯金を賃貸不動産に換えるだけでも相続税評価額を下げることは可能ですが、小規模宅地等の特例も適用されればさらに評価額が減額されるため、相続税の節税効果は大きいといえます。
賃貸不動産の相続で小規模宅地等の特例を利用できるか判断できない場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
過度な節税は否認されるリスクがある
不動産投資は相続税対策に有効ですが、過度な節税は税務署から否認されるリスクがあります。
否認事例として世間を騒がせたのは、2012年に父親からマンションを相続し、購入時の借り入れと相殺して相続税を「0円」と申告した事件です。過少申告であるとして国税当局から追徴課税されていましたが、相続人が処分取り消しを求めて裁判を行い、2022年4月に敗訴が確定しました。
本事件は「路線価が購入価格・鑑定評価額の4分の1」「節税対策が露骨」であることなどが路線価による評価が否認された理由です。
原則として不動産は、路線価をもとに評価しますが「租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」は、国税当局が評価を覆す「例外規定」が認められます。
【参考】公益社団法人全日本不動産協会「路線価否認判決の影響と対策~不動産節税策に影響も~(月刊不動産2022年6月号掲載分)」2025年5月14日時点
まとめ
不動産投資は、本業収入に対する課税(所得税・住民税)のほか、財産を受け継ぐ家族が負担することになる相続税・贈与税の節税につながる可能性があります。
その中心となる仕組みは、減価償却費の計上による不動産所得の赤字発生と、その赤字を他の所得と相殺する損益通算です。
もっとも、不動産投資が必ずしもすべての人にとって節税になるわけではありません。所得が低い場合や、物件選び・運用方法を誤ると、期待した効果が得られないどころか、損失を被りかねません。
始めるにあたっては、今の年収および資産状況を慎重に検討し、後悔のない選択をしたいものです。そのためには、確かな情報源を持ち、ほかの不動産投資家や不動産会社などともつながりを持つ姿勢が欠かせません。
ベルテックスでは、不動産投資を活用した節税対策について、《初心者向けセミナー》を随時開催しています。この機会にぜひお問い合わせください。
この記事を監修した人
宮川 真一
税理士 税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表
岐阜県大垣市出身。一橋大学商学部を1996年に卒業後、1997年より税理士としてのキャリアをスタート。25年以上の経験を持ち、税務や財務に関する深い知識を生かし、1級FP技能士、CFP®、宅地建物取引士資格も取得。企業の取締役や監査役としても幅広く活躍し、財務コンサルティングや資産管理のエキスパートとして信頼を集めている。
この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。
- TOP
- 会社員のための不動産投資マガジン
- 記事一覧
- 不動産投資は節税になる?ならない?税金が安くなる仕組みや注意点を解説
2025.09.18
ベルテックスコラム事務局
不動産投資は節税になる?ならない?税金が安くなる仕組みや注意点を解説
- 節税・税金
結論をいうと、不動産投資は節税になる場合と、ならない場合の両方があります。
節税につながりやすいのは、たとえば高所得者や、預貯金や上場株式など相続税対策をしにくい資産を多数持つ人です。こうした条件に当てはまらないときは、節税にならない・節税の効果を実感できないおそれがあるでしょう。
ここでは、不動産投資で節税ができるしくみから、節税効果を得る・高めるポイントまで、不動産を運用するうえで理解しておきたい節税対策の基本を整理します。
不動産投資で節税できる仕組み
不動産投資による節税効果は、主に経費と赤字の活用によるものです。
税務では「減価償却費」と呼ばれる経費が中心的な役割を果たし、不動産所得が赤字になった場合は、「損益通算」により本業などの黒字所得と相殺し、課税額を減らすことができます。
減価償却費とは
減価償却とは、資産の取得価額を一度に全額経費にするのではなく、法で定められた使用可能な期間(法定耐用年数)にわたって分割し、毎年の必要経費とする手続きです。
不動産投資では、建物や設備などが減価償却の対象となり、取得価額を物件の種類ごとに定められた法定耐用年数で減価償却していきます。
建物の毎年の減価償却費は、物件の種類や、構造(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など)に応じた法定耐用年数で割って算定します。
たとえば、建物の取得価額が4,000万円、法定耐用年数が20年の場合、単純計算で毎年200万円(4,000万円 ÷ 20年)を減価償却費として経費にできます。
この減価償却費は、実際にお金が出ていくわけではない「帳簿上の経費」である点が大きな特徴です。建物の維持管理費など実際にかかる支出とは別に、築年数の経過による「資産価値の減少分」として経費化できるのです。
なお、減価償却費の計上で不動産所得が赤字になった場合、その赤字分を他の所得(たとえば給与所得)と合算して「損益通算」することが可能です。(詳しくは次の章で解説します)
損益通算とは
損益通算とは、ある所得で生じた損失(赤字)を、ほかの種類の所得の利益(黒字)から差し引くことができる制度です。これにより、全体の所得金額が減少し、結果として所得税や住民税の負担を軽くすることができます。
税制上、不動産投資で得られる所得は「不動産所得」に分類されます。不動産所得が赤字になった場合、その赤字分を給与所得や事業所得などほかの所得から控除することが可能です。
たとえば、ある年の給与所得が800万円、不動産所得がマイナス200万円だったとしましょう。この場合、損益通算により課税対象となる所得は以下のように計算されます。
給与所得(800万円) + 不動産所得(-200万円) = 課税所得(600万円)
損益通算の特徴は、現金の支出を必ずしも伴わない点です。減価償却費などが中心となる赤字なら、手元のキャッシュフローを悪化させることなく節税効果を得られます。
もっとも、損益通算の対象にならない損失(赤字)もあります。具体的には、下記の2点です。
-
土地などを取得するための借入金の利子(建物にかかる利子は対象)
-
主に趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的で所有する別荘などの貸付けによる損失
【参考】国税庁タックスアンサー「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」2024年4月1日時点
初期投資で所得を圧縮する効果もある
不動産投資を開始する際には、物件の購入代金以外にもさまざまな初期費用がかかります。
これらの費用の多くは経費として計上できるため、初年度の不動産所得が赤字になるケースもあります。その結果、赤字分をほかの所得と損益通算することで、所得税や住民税の負担を軽くできる場合があります。
経費として計上できる主な初期費用には、以下のようなものがあります。
- 不動産取得税
- 登録免許税(登記にかかる税金)
- 印紙税(売買契約書などに貼付する印紙)
- 司法書士への報酬(登記手続きの代行費用)
- 不動産投資ローンにかかる事務手数料や保証料
一方、仲介手数料や火災・地震保険料などは、扱いが異なるため注意が必要です。仲介手数料は、原則として物件の取得価額に含まれ、減価償却を通じて複数年にわたり費用化されます。また、損害保険料は、契約期間に応じて分割して計上するのが一般的です。
これらの初期費用を適切に経費計上することで、とくに投資初年度の不動産所得が圧縮され、節税につながる可能性があります。
不動産投資で節税できる税金
不動産投資では、どのような税金の負担を軽くできるのでしょうか。
ここでは、不動産投資で節税できる税金の種類を紹介します。
所得税
不動産投資で節税できる税金として、個人の1年間の所得に対して課される「所得税」が挙げられます。損益通算の対象となる下記の本業収入につき、不動産投資で出る帳簿上の赤字を使って圧縮することで、課税額も抑えることができるのです。
- 給与所得(給料、賃金、賞与など)
- 事業所得(事業から生じる所得)
- 譲渡所得(土地、建物、株式などの売却益) など
所得税の税率は、課税所得金額に応じて段階的に高くなる「超過累進課税」が採用されています。超過累進課税は、所得全体に高い税率がかかる単純累進課税とは異なり、一定の金額を超えた部分にだけ対応する税率がかかる課税方式です。
たとえば課税所得が700万円だった場合、下の表を参考にすると、330万円以上695万円未満の部分には税率20%、695万円を超える5万円に対しては税率23%がかかる計算になります。
▼所得税の税率表
課税所得金額 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
1,000円~194万9,000円 |
5% |
0円 |
195万円~329万9,000円 |
10% |
9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 |
20% |
42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 |
23% |
63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 |
33% |
153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 |
40% |
279万6,000円 |
4,000万円~ |
45% |
479万6,000円 |
※課税所得金額の計算では、1,000円未満の端数を切り捨てます。
※上記のほか、所得税額に対して2.1%の復興特別所得税もあわせて納付する必要があります。
【参考】国税庁タックスアンサー「所得税の税率」2024年4月1日時点
住民税
居住する都道府県・市町村が所得金額に応じて毎年課税する「住民税」についても、不動産投資による節税効果が得られます。
住民税の課税額は、前年の所得に基づいて計算される「所得割」と、所得にかかわらず一定額が課される「均等割」で構成されます。このうち所得割は、不動産投資によって経費を計上したり、損益通算によって課税所得を圧縮したりすることで、所得税と同じく軽減できる可能性があります。
住民税の「所得割」とは
前年の所得金額(給与所得、事業所得、不動産所得などの合計)に応じて課税されます。税率は原則として全国一律10%(都道府県民税4%、市区町村民税6%)です。
住民税の「均等割」とは
所得金額にかかわらず、原則として定額が課されます。標準的には5,000円(都道府県民税1,500円、市区町村民税3,500円)ですが、自治体によって異なる場合があります。
相続税・贈与税
不動産投資は、投資家自身の所得税・住民税の節約だけでなく、財産を将来受け継ぐことになる配偶者や子ども(相続人)の税負担を減らす目的でも行われます。
亡くなった人から財産を受け継ぐときの相続税や、無償または著しい低価格で財産を譲り受けるときの贈与税では、財産ごとに評価方法が定められています。
このとき、土地・建物は時価(実際の市場価格)よりも低い額となる評価方法が採用されており、現金などと比べて課税額が少なくなる傾向にあります。(詳しくはこのあと解説します)
法人税
不動産投資による利益が増加し、個人所得に対する課税(所得税・住民税)の節税効果が得られなくなったときは、法人化する方法が考えられます。法人化で得られる節税効果は、給与所得控除の利用や、経費の範囲拡大によるものです。
とはいえ、法人化すると、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務づけられ、保険料負担が生じることから、節税につながるかどうかはケースバイケースです。税理士などの専門家に相談し、慎重に検討するようにしましょう。
法人化することで計上できるようになる経費
個人もしくは個人事業主として計上できる経費は、法人化することで範囲が広がります。
具体的には、生命保険の掛金(一定の条件を満たす場合)・親族従業員への退職金が新たに計上できるようになり、法人名義で借りた賃貸物件が社宅に該当する場合、住居費計上の幅も広がります。
不動産投資による所得税・住民税の節税効果
不動産投資では、特に所得が高い層ほど節税効果を実感しやすい傾向にあります。
ここでは、課税所得の金額別に、不動産投資による節税効果をシミュレーションします。
【ケース①】課税所得700万円の場合
本業収入で課税所得700万円の人が、不動産投資で100万円の赤字を計上した場合、所得税・住民税合わせて年間で約30万円の節税効果が期待できます。
【給与所得のみの場合】
- 所得税:97万4,000円(700万円 × 0.23 - 63万6,000円)
- 住民税(所得割):70万円(700万円 × 0.1)
- 税額合計:167万4,000円
【不動産所得がマイナス100万円の場合】
損益通算後の課税所得:700万円 - 100万円 = 600万円
- 所得税:77万2,500円(600万円 × 0.20 - 42万7,500円)
- 住民税(所得割):60万円(600万円 × 0.1)
- 税額合計:137万2,500円
節税額:167万4,000円 - 137万2,500円 = 30万1,500円
【ケース②】課税所得1,000万円の場合
本業収入で課税所得1,000万円の方が、不動産投資で200万円の赤字を計上した場合、所得税・住民税合わせて年間で76万円の節税効果が期待できます。
【給与所得のみの場合】
- 所得税:176万4,000円(1,000万円 × 0.33 - 153万6,000円)
- 住民税(所得割):100万円(1,000万円 × 0.1)
- 税額合計:276万4,000円
【不動産所得がマイナス200万円の場合】
損益通算後の課税所得:1,000万円 - 200万円 = 800万円
- 所得税:120万4,000円(800万円 × 0.23 - 63万6,000円)
- 住民税(所得割):80万円(800万円 × 0.1)
- 税額合計:200万4,000円
節税額:276万4,000円 - 200万4,000円 = 76万円
【ケース③】課税所得1,300万円の場合
本業収入で課税所得1,300万円の方が、不動産投資で300万円の赤字を計上した場合、所得税・住民税合わせて年間で129万円もの節税効果が期待できます。
【給与所得のみの場合】
- 所得税:275万4,000円(1,300万円 × 0.33 - 153万6,000円)
- 住民税(所得割):130万円(1,300万円 × 0.1)
- 税額合計:405万4,000円
【不動産所得がマイナス300万円の場合】
損益通算後の課税所得:1,300万円 - 300万円 = 1,000万円
- 所得税:176万4,000円(1,000万円 × 0.33 - 153万6,000円)
- 住民税(所得割):100万円(1,000万円 × 0.1)
- 税額合計:276万4,000円
節税額:405万4,000円 - 276万4,000円 = 129万円
【おすすめ関連記事】【令和6年分対応】不動産収入にかかる税金は? 賢く対策し収益アップを目指そう
不動産投資をしても節税にならない4つのケース
節税効果が期待できる不動産投資ですが、すべての人・すべてのケースで必ずしもメリットがあるわけではありません。本業収入が十分でなかったり、物件選びや運用で失敗したりすると、かえって損をすることさえあります。
所得税率がもともと低い
適用される所得税率が低い人は、不動産投資による節税効果は十分に発揮されません。不動産所得が赤字になっても、それと相殺できる所得(黒字)が少なければ、節税メリットは限定的だからです。
仮に節税効果が得られたとしても、帳簿管理や管理会社とのやり取りなど、手間や時間をかけた割に見返りが少ないというケースも考えられます。
具体的な目安として、年収が900万円未満である場合は、結論を急がず、立ち止まって考えてみるのもいいかもしれません。不動産投資一本に絞らず、ほかにNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、手軽で少額から始められる投資を組み合わせるのもおすすめです。
物件選びにミスがある
節税効果を期待して不動産投資を始めても、物件選びを誤ると逆効果になるおそれがあります。具体的には、建物の価値が低すぎて減価償却費がほとんど取れなかったり、支出(※現金の支出があるもの/管理会社に支払う手数料など)が収入を上回る状態が続いたりするかもしれません。
【節税効果が得られないor逆効果になる物件の例】
- 土地と比べて建物の価値が低い物件(法定耐用年数が短い等)
- 築年数・設備・立地などの事情で入居者が見つかりにくい物件(修繕費等の支出、家賃収入が見込めない等)
不動産の運用判断を誤る
物件選びだけでなく、投資用不動産の運用や出口戦略で節税効果が薄くなることもあります。
【危険な運用判断ミスの例】
- ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態になる
- 高利回り物件を購入したものの、空室が続き収入にならない
- 不必要なリフォームを行い、経費がかさむ
- 必要な修繕を怠り、物件の価値が下がってしまう
不動産投資の本来の目的は、長期的に安定した収益を得ることです。節税はあくまで副次的な効果と捉え、収支バランスやリスク管理を疎かにしないことが重要です。
総資産額が相続税の基礎控除額を超えない
相続税対策の観点では、もともと一定の基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)がある点に注意しましょう。
基礎控除額を超えない範囲の資産しかない場合、そもそも控除されるため、不動産投資による節税効果もないからです。
なお、生前のうちにまとまった財産を贈与したいのであれば、非課税枠がある各種制度の利用(相続時精算課税など)が考えられます。
相続開始時にも「配偶者の税額の軽減」など、相続人の身分などによって基礎控除額を超える部分も非課税となる可能性があります。
不動産投資で節税できるケースとは
不動産投資で節税効果が得られるのは、本業収入がある程度のラインに達している場合や、資産の状況から見て有効と判断できる場合です。
具体的には以下のケースが当てはまります。
所得や所得税率の上昇がある
不動産投資で課税額を減らす効果が得られるのは、「高所得者層」です。または、所得が上昇しつつあり、所得税率も上がる見込みがある人も検討できるでしょう。
年収の目安は、所得税率が33%に上がる1200万円(課税所得900万円)のラインです。
ただし、税率33%は課税所得すべてにかかるわけではなく、900万円を超える部分のみとなるため(超過累進課税)、急激な負担感は感じにくいかもしれません。
しかし、税金は継続して支払うもの。納税額が膨らむ前に、早めの節税対策が賢明です。
税制上の優遇を受けられない資産が多い
相続対策として不動産投資が有効といえるのは、税制上の優遇を受けられない・受けにくい資産が多い場合です。
具体例としては、すでに紹介した現金・預貯金や、上場株式などが挙げられます。
これらはそのまま相続すると金額に対し最大55%の税率で課税されますが、投資用不動産への組み換えを行うことで、課税評価額を下げつつ家賃収入で納税資金に備えられます。
ただし、総資産額が相続税の基礎控除額、および各種税制による非課税枠を超えていないと、そもそも節税する必要もない点は注意が必要です。
節税効果を高める物件選び・投資方針のポイント5点
不動産投資で節税効果を最大限に引き出すためには、物件選びと投資方針が非常に重要です。特に「減価償却費」をいかに多く、長期間にわたって計上できるか、そして安定した賃貸経営を行えるかがカギとなります。
ここでは、節税効果を高めるための5つのポイントを解説します。
建物の構造に着目する
建物の構造によって、法律で定められた「法定耐用年数」が異なります。法定耐用年数が短いほど、年間の減価償却費を大きく計上できるため、節税効果が高まります。
たとえば、同じ建物価格であっても、法定耐用年数が長い鉄筋コンクリート造(RC造、47年)のマンションより、法定耐用年数が短い木造(22年)のアパートの方が、単年あたりの減価償却費は大きくなります。
そのため、短期間で大きな節税効果を狙うのであれば、木造や軽量鉄骨造といった法定耐用年数が比較的短い構造の物件を選ぶのがポイントです。
【構造別の法定耐用年数】
- 木骨モルタル造:20年
- 木造・合成樹脂造:22年
- 鉄筋コンクリート造:47年
- 鉄骨鉄筋コンクリート造:47年
- れんが造・石造・ブロック造:38年
- 金属造(軽量鉄骨プレハブ造など):19年~34年
築年数に着目する
中古物件の場合、すでに経過した築年数に応じて法定耐用年数が短縮されるため、新築物件よりも年間の減価償却費を大きく計上できる可能性があります。
とくに減価償却費の計上で有利といえるのは、法定耐用年数をすべて経過した中古木造物件です。
この場合、法定耐用年数の20%(木造であれば22年×20%=最短4年)で償却できるため、短期間で集中的に減価償却費を計上し、大きな節税効果を得ることも可能です。
ただし、築古物件は修繕費がかさむリスクや、融資期間が短くなる可能性のほかに「物件の条件が悪いせいで入居者が集まらない可能性」も意識しなければなりません。購入する物件の状態や収支計画は慎重に検討する必要があります。
建物比率に着目する
不動産の購入価格は、土地の価格と建物の価格で構成されます。減価償却の対象となるのは建物部分のみで、土地は減価償却できません。そのため、物件価格に占める「建物比率」が高い物件ほど、計上できる減価償却費が多くなり、節税効果も高まります。
注意したいのは、売買契約書に土地と建物の価額が明記されていない場合です。この場合は、購入代金につき固定資産税評価額の割合で按分するなど、合理的な根拠に基づいて建物価格を算出し、税務署に説明できるようにしておかなくてはなりません。
自己判断で不適切な建物比率を設定すると、後に否認されるリスクがあるため注意しましょう。
空室リスクの高い物件を避ける
いくら減価償却費を多く計上できても、家賃収入がなければ不動産投資は成り立ちません。空室が長期間続くとキャッシュフローが悪化し、節税どころか損失が拡大する恐れがあります。空室リスクを避けるためには、物件選びが重要です。
一般的に空室リスクが高いとされる物件の特徴には、下記のようなものがあります。
- 利便性や地域特性の問題で需要が少ない
- エリアと物件のニーズが一致していない
- 管理状態が悪い、魅力的な設備がない
- 周辺の競合物件と差別化できる要素がない
立地条件や賃貸需要をしっかりと調査し、安定した入居者が見込める物件を選ぶことが、節税と収益性の両立につながります。
【おすすめ関連記事】不動産投資の空室リスクとは 原因とリスク対策を徹底解説
デッドクロス発生前の売却を目指す
ローンの元金返済額(もともと融資を受けた額にかかる返済額)が減価償却費を上回る状態を「デッドクロス」といいます。
デッドクロスが発生すると、会計上は利益が出ていても手元資金が不足してしまいます。節税効果も薄れ、場合によっては追加の税負担が生じるかもしれません。
デッドクロスの発生を避ける、あるいは影響を最小限に抑えるための一つの戦略として、デッドクロスが発生する前に物件を売却し、売却益を得るという方法があります。
売却を検討する際のポイントは以下の通りです。
- 減価償却期間の終了時期を把握する
- ローン残債と売却価格のバランスをモニタリングする
- 物件の売買価格の相場をなるべく常に確認しておく
- 所有期間5年超となり、売却したときの税率が下がるタイミング(長期譲渡所得)を把握する
【おすすめ関連記事】不動産投資におけるデッドクロスとは?有効な7つの対策を解説
不動産投資が相続税・贈与税の節税になるしくみ
すでに触れたとおり、相続税・贈与税の課税において、不動産は時価よりも低く評価されます。
そこで考えられるのは、現預金での貯蓄を使って投資用不動産を購入し、子どもや孫に対する課税額を抑えつつ、家賃収入で納税資金をつくる相続対策です。
ここでは、生前の不動産投資が相続税・贈与税の課税額を減らすしくみについて解説します。
相続税・贈与税が課税されるときの不動産の評価方法
相続や贈与の対象となる不動産は、土地は「路線価方式」もしくは「倍率方式」で、建物は固定資産税評価額で評価します。その結果、土地および建物の課税評価額は、売買価格の7割から8割程度となります。
【路線価方式とは】
土地に接する道路に定められた1平方メートルあたりの価格(路線価)を確認し、これに面積を乗じて評価額を算定する方法です。
路線価は毎年改定され、国税庁のウェブサイトで確認できます。
【倍率方式とは】
路線価が定められていない土地につき、指定された倍率を固定資産税評価額に乗じて評価額を算定する方法です。
倍率は、路線価と同様に国税庁が定め、公表しています。
【参考】国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」 2024年7月1日公表
【固定資産税評価額とは】
固定資産税とは、土地・建物が所在する市町村において、その不動産の所有者に毎年課税される地方税です。
その固定資産税を決める際に、課税の基準となる土地・建物の評価額のことを「固定資産税評価額」と言います。この評価額は、実際に取引されるときの価格(実勢価格)の7割から8割程度となり、3年ごとに見直し(評価替え)が行われます。
【おすすめ関連記事】路線価、公示価格の違いを徹底解説
賃貸不動産はさらに評価額が下がる
相続や贈与の対象となる不動産が賃貸物件であるときは「貸家建付地」として評価します。所有者が自由に使える物件でないことから、床面積ベースで計算した入居率などが考慮され、自用地(自分自身で使う土地)に比べて評価が下がるのです。
土地(貸家建付地)の評価額
=【A】自用地としての評価額 ×(A - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
※Aは路線価方式・倍率方式などで計算した課税評価額
建物(貸家)の評価額
=【B】固定資産税評価額 ×(B -借家権割合 × 賃貸割合)
【参考】国税庁タックスアンサー「貸家建付地の評価」2025年5月14日時点
【借地権割合・借家権割合とは】
借地権割合とは、土地の評価額に対する借地権価額の割合です。 地域によって異なり(30~90%)、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認できます。
一方、借家権割合は、賃貸不動産の相続税評価に利用される割合のことで全国一律30%です。
【賃貸割合とは】
賃貸割合は、建物の床面積に対する賃貸されている部分の割合を指します。
入居率とも言い換えることができ、相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日を基準に判断します。
「小規模宅地等の特例」も利用可能
「小規模宅地等の特例」とは、宅地を相続する際に一定の要件を満たすと相続税評価額の一定割合を減額できる特例です。被相続人の賃貸用不動産を相続する場合は、その宅地について 200平方メートルを限度に評価額が50%減額 されます。
預貯金を賃貸不動産に換えるだけでも相続税評価額を下げることは可能ですが、小規模宅地等の特例も適用されればさらに評価額が減額されるため、相続税の節税効果は大きいといえます。
賃貸不動産の相続で小規模宅地等の特例を利用できるか判断できない場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
過度な節税は否認されるリスクがある
不動産投資は相続税対策に有効ですが、過度な節税は税務署から否認されるリスクがあります。
否認事例として世間を騒がせたのは、2012年に父親からマンションを相続し、購入時の借り入れと相殺して相続税を「0円」と申告した事件です。過少申告であるとして国税当局から追徴課税されていましたが、相続人が処分取り消しを求めて裁判を行い、2022年4月に敗訴が確定しました。
本事件は「路線価が購入価格・鑑定評価額の4分の1」「節税対策が露骨」であることなどが路線価による評価が否認された理由です。
原則として不動産は、路線価をもとに評価しますが「租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」は、国税当局が評価を覆す「例外規定」が認められます。
【参考】公益社団法人全日本不動産協会「路線価否認判決の影響と対策~不動産節税策に影響も~(月刊不動産2022年6月号掲載分)」2025年5月14日時点
まとめ
不動産投資は、本業収入に対する課税(所得税・住民税)のほか、財産を受け継ぐ家族が負担することになる相続税・贈与税の節税につながる可能性があります。
その中心となる仕組みは、減価償却費の計上による不動産所得の赤字発生と、その赤字を他の所得と相殺する損益通算です。
もっとも、不動産投資が必ずしもすべての人にとって節税になるわけではありません。所得が低い場合や、物件選び・運用方法を誤ると、期待した効果が得られないどころか、損失を被りかねません。
始めるにあたっては、今の年収および資産状況を慎重に検討し、後悔のない選択をしたいものです。そのためには、確かな情報源を持ち、ほかの不動産投資家や不動産会社などともつながりを持つ姿勢が欠かせません。
ベルテックスでは、不動産投資を活用した節税対策について、《初心者向けセミナー》を随時開催しています。この機会にぜひお問い合わせください。
この記事を監修した人
宮川 真一
税理士 税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表
岐阜県大垣市出身。一橋大学商学部を1996年に卒業後、1997年より税理士としてのキャリアをスタート。25年以上の経験を持ち、税務や財務に関する深い知識を生かし、1級FP技能士、CFP®、宅地建物取引士資格も取得。企業の取締役や監査役としても幅広く活躍し、財務コンサルティングや資産管理のエキスパートとして信頼を集めている。
この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。