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- その物件、持ち続けて大丈夫?FPが指南する保有不動産の「健康診断」とポートフォリオ組み換え術
2025.12.19
藤原 洋子
その物件、持ち続けて大丈夫?FPが指南する保有不動産の「健康診断」とポートフォリオ組み換え術
- 不動産投資
なぜ「不動産の棚卸し」が必要なのか
一般企業の「棚卸し」は、事業活動のために保有している在庫の数量や状態を確認する作業のことです。個人の保有する不動産においても、保有物件の現状を定期的に点検し、資産価値や収益性を見直す「棚卸し」が欠かせません。なぜなら、不動産を取り巻く環境は常に変化しており、主に下記の3つの変化へ適切に対応する必要があるからです。
1.市況の変化
購入時には最善であった運用計画も、市況の変化による金利の上昇や周辺地域の地価の下落などで収益性が落ちることがあります。特に金利上昇局面では、変動金利ローンの返済負担が増大し、キャッシュフローが悪化するリスクがあることに注意しましょう。
2.物件の築年数経過
築年数の経年劣化は避けられません。築年数の経過は、修繕費の増加や空室リスクの上昇を意味し、家賃収入に対するコストの割合が増大する要因になります。
3.自身のライフステージの変化
投資家自身のライフステージの変化も考慮すべきです。たとえば、相続が近いといった場合、資産の分割や税負担を見据えた戦略が求められます。保有し続けることで、将来的に相続人が重い負債や管理の手間を抱えるリスクがないかを確認し、出口戦略を明確にすることが不可欠です。
こうした要素を総合的に点検することで、あなたの不動産ポートフォリオを「健康」に保ち、次の成長へと導くことが可能になります。
FP式・保有物件「健康診断」5つのチェックリスト
保有不動産を長期的に安定運用するためには、数字で現状を把握する定期的な「健康診断」が欠かせません。FPが推奨するチェックポイントは5つあります。
1.実質利回り
表面利回りだけでは見えない、現実的な収益力を確認します。家賃収入から管理費、修繕積立金、固定資産税などの経費をすべて差し引いた額を、物件の購入価格と諸経費の合計額で割った、「手残り」ベースの利回りを把握しましょう。
2.キャッシュフロー
毎月の家賃収入からローン返済額とすべての経費を差し引いた、純粋な手残りを計算します。これが継続的にプラスであるか、安定性や健全性を診断します。
3.ローン残高と売却査定額(含み益/損)
現在のローン残高と、不動産会社による客観的な売却査定額を比較します。査定額がローン残高を上回っていれば「含み益」であり、売却時に手元に残る金額の目安となります。査定額が残高を下回る場合は「含み損」であり、売却時に自己資金の持ち出しが発生する「残債リスク」があることを認識しなければなりません。
4.修繕積立金の状況
特にマンションの場合、10~15年周期で発生する「大規模修繕費用」の積立状況を確認します。積立金が不足していると、近いうちに一時金として多額の負担を強いられるリスクが高く、キャッシュフローを悪化させる要因となります。
5.入居率・賃料相場
過去の平均空室期間や現在の賃料を近隣物件と比較し、入居率が維持されているか、賃料が適正かをチェックします。エリア需要の変化を早期に察知することが重要です。
これらを点検して総合的に保有物件の「健康状態」を把握し、まさに人間ドックのように、早期のリスクの発見と対策につなげましょう。
「売るべき物件」「残すべき物件」の見極め方
健康診断の結果に基づき、不動産を「売却候補」と「継続保有」に分類します。見極めの最大のポイントは、現在の収益性と将来のリスクです。
売るべき物件のサイン
売却を検討すべき物件は、主に次の特徴を持ちます。
- キャッシュフローの悪化・マイナス物件
毎月の収入から支出を引いたキャッシュフローが恒常的にマイナス、または近いうちにマイナスに転じる見込みがある物件です。
- デッドクロスが近い物件
デッドクロスとは、ローンの元金返済額が建物の減価償却費を上回る状態を指します。減価償却費は帳簿上の経費に計上できますが、元金返済額は経費として計上できません。この時期が近づくと、帳簿上の利益は増えて税金を支払っているのに、実際には手元の現金が減っていく状態に陥ります。
- 売却で利益が出る物件
これまでの家賃収入の累計と、客観的な売却査定額の合計が、購入金額を大きく上回る物件は、利益確定(売却)の好機といえます。
残すべき物件のサイン
安定した入居率を維持し、地域の将来性が高く管理状態に優れた物件など、ポートフォリオの土台として機能している物件は継続保有が基本となります。
感情ではなく数字と市場状況を基準に、「いま動くべきか」を見極めることが、ポートフォリオの最適化につながるのです。
「組み替え」戦略:売却益で次の優良物件へ
売却すべき物件がみつかったら、単に現金化して終わりにするのではなく、その資金を有効に活用することもできます。たとえば、その売却益を活かしてポートフォリオを強化する「組み替え」戦略を検討してみましょう。これは、収益性の低い物件から、キャッシュフローや将来性の高い優良物件へ乗り換える積極的な投資行動です。
たとえば、地方の老朽アパートを売却し、都心の区分マンションに買い替えるケース。これにより、空室リスクの軽減や資産価値の安定化、管理負担の削減など、複数のメリットが得られます。
地方物件は人口減少や賃貸需要の縮小により空室リスクが高まる一方、都心で駅近の区分マンションは流動性が高く、単身者需要が堅調です。資産を組み替えることで、空室リスクの軽減や資産価値の安定化、管理負担の削減などが期待できます。
また、不動産の売却益には、原則として譲渡所得税が課税されますが、「事業用資産の買換えの特例」などの税制優遇措置(適用には面積や期間などの一定の要件があります)を利用すれば、譲渡益に対する課税を、買い替え資産の売却時まで繰り延べできる可能性があります。これにより、売却で得た資金の多くを、新たな物件の頭金や購入費用に充てられ、再投資に回すことで長期的に資産を拡大しやすくなるでしょう。
売却と購入は一連の戦略です。単なる「手放す」行為ではなく、「よりよい資産を手に入れる」ための前向きなアクションと捉えましょう。長期的な資産形成において、より大きな効果を発揮します。
まとめ
不動産の「棚卸し」は、市況や築年数、自身のライフステージの変化に対応するための必須戦略です。FP式チェックで実質利回りや含み損益を診断し、キャッシュフローの悪化やデッドクロスが近い物件は売却を検討しましょう。「売る・残す・組み替える」を戦略的に行うことが、資産の質と安定性を最大化する鍵となります。
<参考>
国土交通省:「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて
この記事を書いた人
藤原 洋子
FP dream 代表FP
大学卒業後、食品メーカーに就職。結婚を機に退職後、専業主婦期間を経て国内大手生命保険会社に転職。営業担当として約12年間、保険商品の販売等を行う。FP資格を活かし、2016年から独立系ファイナンシャル・プランナーとして、マネー相談、執筆、勉強会の運営などを行っている。保険の活用と老後を見据えた資金計画、相続について、わかりやすくお伝えしている。
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2025.12.19
藤原 洋子
その物件、持ち続けて大丈夫?FPが指南する保有不動産の「健康診断」とポートフォリオ組み換え術
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なぜ「不動産の棚卸し」が必要なのか
一般企業の「棚卸し」は、事業活動のために保有している在庫の数量や状態を確認する作業のことです。個人の保有する不動産においても、保有物件の現状を定期的に点検し、資産価値や収益性を見直す「棚卸し」が欠かせません。なぜなら、不動産を取り巻く環境は常に変化しており、主に下記の3つの変化へ適切に対応する必要があるからです。
1.市況の変化
購入時には最善であった運用計画も、市況の変化による金利の上昇や周辺地域の地価の下落などで収益性が落ちることがあります。特に金利上昇局面では、変動金利ローンの返済負担が増大し、キャッシュフローが悪化するリスクがあることに注意しましょう。
2.物件の築年数経過
築年数の経年劣化は避けられません。築年数の経過は、修繕費の増加や空室リスクの上昇を意味し、家賃収入に対するコストの割合が増大する要因になります。
3.自身のライフステージの変化
投資家自身のライフステージの変化も考慮すべきです。たとえば、相続が近いといった場合、資産の分割や税負担を見据えた戦略が求められます。保有し続けることで、将来的に相続人が重い負債や管理の手間を抱えるリスクがないかを確認し、出口戦略を明確にすることが不可欠です。
こうした要素を総合的に点検することで、あなたの不動産ポートフォリオを「健康」に保ち、次の成長へと導くことが可能になります。
FP式・保有物件「健康診断」5つのチェックリスト
保有不動産を長期的に安定運用するためには、数字で現状を把握する定期的な「健康診断」が欠かせません。FPが推奨するチェックポイントは5つあります。
1.実質利回り
表面利回りだけでは見えない、現実的な収益力を確認します。家賃収入から管理費、修繕積立金、固定資産税などの経費をすべて差し引いた額を、物件の購入価格と諸経費の合計額で割った、「手残り」ベースの利回りを把握しましょう。
2.キャッシュフロー
毎月の家賃収入からローン返済額とすべての経費を差し引いた、純粋な手残りを計算します。これが継続的にプラスであるか、安定性や健全性を診断します。
3.ローン残高と売却査定額(含み益/損)
現在のローン残高と、不動産会社による客観的な売却査定額を比較します。査定額がローン残高を上回っていれば「含み益」であり、売却時に手元に残る金額の目安となります。査定額が残高を下回る場合は「含み損」であり、売却時に自己資金の持ち出しが発生する「残債リスク」があることを認識しなければなりません。
4.修繕積立金の状況
特にマンションの場合、10~15年周期で発生する「大規模修繕費用」の積立状況を確認します。積立金が不足していると、近いうちに一時金として多額の負担を強いられるリスクが高く、キャッシュフローを悪化させる要因となります。
5.入居率・賃料相場
過去の平均空室期間や現在の賃料を近隣物件と比較し、入居率が維持されているか、賃料が適正かをチェックします。エリア需要の変化を早期に察知することが重要です。
これらを点検して総合的に保有物件の「健康状態」を把握し、まさに人間ドックのように、早期のリスクの発見と対策につなげましょう。
「売るべき物件」「残すべき物件」の見極め方
健康診断の結果に基づき、不動産を「売却候補」と「継続保有」に分類します。見極めの最大のポイントは、現在の収益性と将来のリスクです。
売るべき物件のサイン
売却を検討すべき物件は、主に次の特徴を持ちます。
- キャッシュフローの悪化・マイナス物件
毎月の収入から支出を引いたキャッシュフローが恒常的にマイナス、または近いうちにマイナスに転じる見込みがある物件です。
- デッドクロスが近い物件
デッドクロスとは、ローンの元金返済額が建物の減価償却費を上回る状態を指します。減価償却費は帳簿上の経費に計上できますが、元金返済額は経費として計上できません。この時期が近づくと、帳簿上の利益は増えて税金を支払っているのに、実際には手元の現金が減っていく状態に陥ります。
- 売却で利益が出る物件
これまでの家賃収入の累計と、客観的な売却査定額の合計が、購入金額を大きく上回る物件は、利益確定(売却)の好機といえます。
残すべき物件のサイン
安定した入居率を維持し、地域の将来性が高く管理状態に優れた物件など、ポートフォリオの土台として機能している物件は継続保有が基本となります。
感情ではなく数字と市場状況を基準に、「いま動くべきか」を見極めることが、ポートフォリオの最適化につながるのです。
「組み替え」戦略:売却益で次の優良物件へ
売却すべき物件がみつかったら、単に現金化して終わりにするのではなく、その資金を有効に活用することもできます。たとえば、その売却益を活かしてポートフォリオを強化する「組み替え」戦略を検討してみましょう。これは、収益性の低い物件から、キャッシュフローや将来性の高い優良物件へ乗り換える積極的な投資行動です。
たとえば、地方の老朽アパートを売却し、都心の区分マンションに買い替えるケース。これにより、空室リスクの軽減や資産価値の安定化、管理負担の削減など、複数のメリットが得られます。
地方物件は人口減少や賃貸需要の縮小により空室リスクが高まる一方、都心で駅近の区分マンションは流動性が高く、単身者需要が堅調です。資産を組み替えることで、空室リスクの軽減や資産価値の安定化、管理負担の削減などが期待できます。
また、不動産の売却益には、原則として譲渡所得税が課税されますが、「事業用資産の買換えの特例」などの税制優遇措置(適用には面積や期間などの一定の要件があります)を利用すれば、譲渡益に対する課税を、買い替え資産の売却時まで繰り延べできる可能性があります。これにより、売却で得た資金の多くを、新たな物件の頭金や購入費用に充てられ、再投資に回すことで長期的に資産を拡大しやすくなるでしょう。
売却と購入は一連の戦略です。単なる「手放す」行為ではなく、「よりよい資産を手に入れる」ための前向きなアクションと捉えましょう。長期的な資産形成において、より大きな効果を発揮します。
まとめ
不動産の「棚卸し」は、市況や築年数、自身のライフステージの変化に対応するための必須戦略です。FP式チェックで実質利回りや含み損益を診断し、キャッシュフローの悪化やデッドクロスが近い物件は売却を検討しましょう。「売る・残す・組み替える」を戦略的に行うことが、資産の質と安定性を最大化する鍵となります。
<参考>
国土交通省:「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて
この記事を書いた人
藤原 洋子
FP dream 代表FP
大学卒業後、食品メーカーに就職。結婚を機に退職後、専業主婦期間を経て国内大手生命保険会社に転職。営業担当として約12年間、保険商品の販売等を行う。FP資格を活かし、2016年から独立系ファイナンシャル・プランナーとして、マネー相談、執筆、勉強会の運営などを行っている。保険の活用と老後を見据えた資金計画、相続について、わかりやすくお伝えしている。