2025.12.19

不動産投資の基礎知識

三藤 桂子

不動産投資の「出口戦略」、いつ考える?FPがライフイベント別に解説する「最適な売り時」

  • 出口戦略

「出口戦略」とは?なぜ購入時に考えるべきか

金融機関にお金を預けていても利子がほとんどない状態が続くいま、資産形成の必要性を感じている人は多いでしょう。

その選択肢の一つが不動産投資です。 

不動産投資には、安定した家賃収入(インカムゲイン)を得る目的と、物件価格が上がったときに売却して利益(キャピタルゲイン)を得る目的があります。 

キャピタルゲイン狙いの場合、将来性のある地域を見極め、購入費用だけでなく保有期間中の運営経費も含めて、それら投下したコストをいつ回収できるかまで精査して購入しなければなりません。成功すれば大きな利益となりますが、景気の影響を強く受けるため、見込みを誤ると大きな損失にもつながります。 

一方、インカムゲイン狙いの場合でも、毎月の家賃収入が順調に入っていても、物件自体の価値が購入時より大きく下落していれば、トータルの損益はわかりません。最終的に物件を売却した金額によっては、それまでの家賃収入(インカム)がすべて相殺されてしまう可能性もあるため、インカム狙いであっても「売却時」が本当の「利益確定」のタイミングとなるのです。 

つまり、どちらの目的であっても、購入時に「いつ、どうやって手放すか」という出口戦略を明確に考えておくことが、不動産投資の成否をわける鍵となります。 

ライフイベントから考える「売り時」の4つのタイミング

人生にはさまざまなライフイベントがあります。不動産投資の売却タイミングは、市場の動向だけでなく、自身のライフイベントと密接に関わるため、特に資金が必要になる次の4つのタイミングが、「売り時」の候補となります。パターン別にみていきましょう。 

1.子どもの大学進学(教育費)

文部科学省が公表した学校基本調査によると、2024年の日本の大学進学率は約59%、高等教育機関への進学率は約87%です。教育費は現役世代の人に重くのしかかっています。教育費が大きくかかるタイミングで売却益を充てる、というのも有力な出口戦略の一つです。 

2.住宅ローンの完済

物価高により住宅価格も上昇し、住宅ローンの返済も長期化しています。投資用不動産を売却した資金で、自宅の住宅ローンを完済し、家計の負担を軽くするという考え方です。 

3.自身の定年退職

人生100年時代、セカンドライフの生活設計は一層重要度を増しています。退職金や年金にプラスする「老後のための現金」として、このタイミングで物件を売却し、まとまった資金を手にする戦略です。 

4.相続対策

土地や建物を貸した場合には、相続税評価額は約1/2~1/3となります。不動産は分割が難しく、子どもが複数人いる場合、相続時に「争族」の原因にもなり得ます。元気なうちに売却して現金化し、分割しやすい形で準備しておくことも、有効な相続対策となります。 

経済指標でみる「売り時」のサイン

ライフイベントによって「売りたい時期」の目安が見えてきたら、次に確認すべきが「市場の状況」です。 

「教育費が必要になったから」と焦って売却するのではなく、そのタイミングで市場がどのような状況にあるのか、これから解説する「売り時」のサインにも目を向けることで、より有利な条件での売却を目指すことができます。 

金利の動向

低金利政策が終わり、本格的な金利上昇局面になると、ローン金利も上昇し、不動産購入希望者の購買力が低下するため、価格下落の要因となります。金利上昇への転換点は重要な売り時のサインかもしれません。 

不動産価格指数・空室率

不動産価格指数とは、国土交通省が発表している、全国の不動産価格の動向を示す統計データです。不動産価格指数がピークを過ぎて下落しはじめたら、売り時を検討する時期といえます。ほかにも、空室率の上昇や賃料の下落傾向がみられる場合、そのエリアの賃貸需要が低下しているサインです。 

税制(5年超保有)

不動産を売却した際、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかで検討します。

所有期間 5年超

「長期譲渡所得」となり、税率が低く優遇されます。

→ 所得税15%、住民税5%

所有期間 5年以下

「短期譲渡所得」となり、長期と比較して、税率が高くなります。

→ 所得税30%、住民税9%(復興特別所得税は除く)

この税制も「売り時」を決める大きな判断材料でしょう。 

これらの経済指標は、複合的に判断することが大切です。景気や市場の動向をよく見極め、ライフイベント上の出口戦略と合わせて最適な「売り時」を検討することが成功につながります。 

「売らない」という出口戦略もある

インカムゲイン狙いで安定した収入を得るために、売却せず、そのまま子どもに資産として承継する(相続・贈与)という選択肢もあります。そのメリットとデメリットをFP視点で解説します。 

  • メリット

子どもが経済的に苦労することなく、引き続き安定した収入源(家賃収入)を残してあげられます。

  • デメリット

子どもが複数人いると、平等にわけることが難しく争族に発展するリスクがあります。

さらに注意点すべきは、引き継ぐ子どもが「賃貸経営は事業である」という認識を持てていないケースです。「放っておいても勝手に家賃が入ってくる」と安易に考えていると、物件管理や市場動向のチェックが疎かになりがちです。経営戦略なしに引き継いでしまえば、空室対策や修繕対応が遅れ、結果として経営に失敗してしまうこともあります。資産だけでなく、賃貸経営者としてのノウハウや心構えもセットで引き継ぐことが重要です。 

まとめ

不動産投資の出口戦略は、まず「大きな利益(キャピタルゲイン)を狙う」のか、「安定収入(インカムゲイン)のために長期保有する」のか、大方針を決めることが重要です。 

そのうえで、自身のライフイベントや経済市況を複合的に検討し、最適な「売り時」、あるいは「売らない」という判断を見極めましょう。 

<参考> 

文部科学省:令和6年度学校基本調査(確定値)について公表します。 

https://www.mext.go.jp/content/20241213-mxt_chousa01-000037551_01.pdf 

国税庁:譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき) 

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm 

 

この記事を書いた人

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP 共同代表

会社員時代に年金の仕組みに興味を持ち、社会保険労務士、FPの資格を取得。公務員、自営業、会社員、専業主婦、シングルマザーとあらゆる立場の経験をもとに、会社側と社員(個人)側、両方の立場を理解することで、社労士として労務・年金相談、FPとして家庭内のお金の悩み等をサポートしている。

2025.12.19

不動産投資の基礎知識

三藤 桂子

不動産投資の「出口戦略」、いつ考える?FPがライフイベント別に解説する「最適な売り時」

  • 出口戦略

「出口戦略」とは?なぜ購入時に考えるべきか

金融機関にお金を預けていても利子がほとんどない状態が続くいま、資産形成の必要性を感じている人は多いでしょう。

その選択肢の一つが不動産投資です。 

不動産投資には、安定した家賃収入(インカムゲイン)を得る目的と、物件価格が上がったときに売却して利益(キャピタルゲイン)を得る目的があります。 

キャピタルゲイン狙いの場合、将来性のある地域を見極め、購入費用だけでなく保有期間中の運営経費も含めて、それら投下したコストをいつ回収できるかまで精査して購入しなければなりません。成功すれば大きな利益となりますが、景気の影響を強く受けるため、見込みを誤ると大きな損失にもつながります。 

一方、インカムゲイン狙いの場合でも、毎月の家賃収入が順調に入っていても、物件自体の価値が購入時より大きく下落していれば、トータルの損益はわかりません。最終的に物件を売却した金額によっては、それまでの家賃収入(インカム)がすべて相殺されてしまう可能性もあるため、インカム狙いであっても「売却時」が本当の「利益確定」のタイミングとなるのです。 

つまり、どちらの目的であっても、購入時に「いつ、どうやって手放すか」という出口戦略を明確に考えておくことが、不動産投資の成否をわける鍵となります。 

ライフイベントから考える「売り時」の4つのタイミング

人生にはさまざまなライフイベントがあります。不動産投資の売却タイミングは、市場の動向だけでなく、自身のライフイベントと密接に関わるため、特に資金が必要になる次の4つのタイミングが、「売り時」の候補となります。パターン別にみていきましょう。 

1.子どもの大学進学(教育費)

文部科学省が公表した学校基本調査によると、2024年の日本の大学進学率は約59%、高等教育機関への進学率は約87%です。教育費は現役世代の人に重くのしかかっています。教育費が大きくかかるタイミングで売却益を充てる、というのも有力な出口戦略の一つです。 

2.住宅ローンの完済

物価高により住宅価格も上昇し、住宅ローンの返済も長期化しています。投資用不動産を売却した資金で、自宅の住宅ローンを完済し、家計の負担を軽くするという考え方です。 

3.自身の定年退職

人生100年時代、セカンドライフの生活設計は一層重要度を増しています。退職金や年金にプラスする「老後のための現金」として、このタイミングで物件を売却し、まとまった資金を手にする戦略です。 

4.相続対策

土地や建物を貸した場合には、相続税評価額は約1/2~1/3となります。不動産は分割が難しく、子どもが複数人いる場合、相続時に「争族」の原因にもなり得ます。元気なうちに売却して現金化し、分割しやすい形で準備しておくことも、有効な相続対策となります。 

経済指標でみる「売り時」のサイン

ライフイベントによって「売りたい時期」の目安が見えてきたら、次に確認すべきが「市場の状況」です。 

「教育費が必要になったから」と焦って売却するのではなく、そのタイミングで市場がどのような状況にあるのか、これから解説する「売り時」のサインにも目を向けることで、より有利な条件での売却を目指すことができます。 

金利の動向

低金利政策が終わり、本格的な金利上昇局面になると、ローン金利も上昇し、不動産購入希望者の購買力が低下するため、価格下落の要因となります。金利上昇への転換点は重要な売り時のサインかもしれません。 

不動産価格指数・空室率

不動産価格指数とは、国土交通省が発表している、全国の不動産価格の動向を示す統計データです。不動産価格指数がピークを過ぎて下落しはじめたら、売り時を検討する時期といえます。ほかにも、空室率の上昇や賃料の下落傾向がみられる場合、そのエリアの賃貸需要が低下しているサインです。 

税制(5年超保有)

不動産を売却した際、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかで検討します。

所有期間 5年超

「長期譲渡所得」となり、税率が低く優遇されます。

→ 所得税15%、住民税5%

所有期間 5年以下

「短期譲渡所得」となり、長期と比較して、税率が高くなります。

→ 所得税30%、住民税9%(復興特別所得税は除く)

この税制も「売り時」を決める大きな判断材料でしょう。 

これらの経済指標は、複合的に判断することが大切です。景気や市場の動向をよく見極め、ライフイベント上の出口戦略と合わせて最適な「売り時」を検討することが成功につながります。 

「売らない」という出口戦略もある

インカムゲイン狙いで安定した収入を得るために、売却せず、そのまま子どもに資産として承継する(相続・贈与)という選択肢もあります。そのメリットとデメリットをFP視点で解説します。 

  • メリット

子どもが経済的に苦労することなく、引き続き安定した収入源(家賃収入)を残してあげられます。

  • デメリット

子どもが複数人いると、平等にわけることが難しく争族に発展するリスクがあります。

さらに注意点すべきは、引き継ぐ子どもが「賃貸経営は事業である」という認識を持てていないケースです。「放っておいても勝手に家賃が入ってくる」と安易に考えていると、物件管理や市場動向のチェックが疎かになりがちです。経営戦略なしに引き継いでしまえば、空室対策や修繕対応が遅れ、結果として経営に失敗してしまうこともあります。資産だけでなく、賃貸経営者としてのノウハウや心構えもセットで引き継ぐことが重要です。 

まとめ

不動産投資の出口戦略は、まず「大きな利益(キャピタルゲイン)を狙う」のか、「安定収入(インカムゲイン)のために長期保有する」のか、大方針を決めることが重要です。 

そのうえで、自身のライフイベントや経済市況を複合的に検討し、最適な「売り時」、あるいは「売らない」という判断を見極めましょう。 

<参考> 

文部科学省:令和6年度学校基本調査(確定値)について公表します。 

https://www.mext.go.jp/content/20241213-mxt_chousa01-000037551_01.pdf 

国税庁:譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき) 

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm 

 

この記事を書いた人

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP 共同代表

会社員時代に年金の仕組みに興味を持ち、社会保険労務士、FPの資格を取得。公務員、自営業、会社員、専業主婦、シングルマザーとあらゆる立場の経験をもとに、会社側と社員(個人)側、両方の立場を理解することで、社労士として労務・年金相談、FPとして家庭内のお金の悩み等をサポートしている。