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2024.02.29
ベルテックスコラム事務局
不動産投資は節税になる?ならない?税金が安くなる仕組みや注意点を解説
- 節税・税金
節税を目的として不動産投資を始める人もいます。「不動産投資は節税にならない」という意見もありますが、実際は節税になるのでしょうか。不動産投資を始める前の段階で税金が安くなる仕組みについてしっかりと理解しておくことが大切です。
この記事では、不動産投資で節税できる仕組みや税金の種類、節税効果の高い物件の特徴について解説します。
不動産投資で節税できる仕組み
どのような人でも不動産投資で節税できるわけではありませんが、条件が整えば、所得税などの税負担が軽減される可能性があります。まずは、不動産投資で節税できる仕組みについて確認していきましょう。
初期費用で所得が下がる
不動産投資では、物件取得の際に初期費用がかかります。初期費用の多くは、経費として計上できます。赤字になった不動産所得と給与所得など他の所得と損益通算した場合に課税所得が下がるため、所得税や住民税の軽減が可能です。経費として計上できる主な初期費用には、以下のようなものがあります。
- 印紙税
- 登録免許税
- 司法書士報酬
- 不動産取得税
- 事務手数料、保証料
契約書に貼付した印紙税や登記費用として支払う登録免許税、司法書士報酬、不動産取得税などは必要経費となります。不動産投資ローンを利用して物件を購入する場合は、金融機関や保証会社へ支払う事務手数料や保証料も経費として計上することが可能です。なお初期費用には、仲介手数料や損害保険料(火災保険・地震保険)も含まれますが、これらは原則として物件取得時の経費にはなりません。
仲介手数料は、物件の取得価額に含めて減価償却によって費用化し、損害保険料は1年契約で毎年保険料を支払う場合に全額をその年度の経費として計上することが可能です。長期契約の場合は、契約時に支払った金額のうち対応する期間分の保険料を毎年費用化していきます。例えば、5年契約で保険料を10万円支払った場合、5年間にわたって毎年2万円ずつ経費として計上することになります。
減価償却を使った赤字を損益通算する
減価償却とは、資産の取得価額を全額経費として計上するのではなく、その資産の使用可能期間(法定耐用年数)にわたり分割して必要経費とする手続きです。不動産投資では、建物が減価償却の対象となり、取得価額を物件の種類ごとに定められた法定耐用年数で減価償却していきます。
仮に建物の取得価額が2,000万円、法定耐用年数が20年の場合、毎年100万円ずつの減価償却費を計上することが可能です。減価償却費を計上して不動産所得が赤字になった場合、その赤字は他の所得と損益通算することができます。損益通算とは、所得金額の計算上損失が生じた場合に、その損失を他の所得から控除する(差し引く)ことです。
不動産投資で生じる不動産所得は、給与所得や事業所得などと損益通算することが認められています。不動産所得の赤字を給与所得や事業所得などから控除できるため、課税所得が下がり所得税や住民税の負担が軽減されるというわけです。建物取得時に代金の支払いは済んでいるため、減価償却費を計上しても実際に現金が出ていくわけではありません。
このように不動産投資の減価償却をうまく活用すれば、キャッシュフローを残しながら所得税や住民税を節税することが可能です。
所得が高い人ほど節税効果が期待できる
不動産投資では、所得が高い人ほど節税効果を期待できます。所得が高い人は納めている税金が多く、節税の余地が大きいからです。所得税では「超過累進課税」が採用されており、課税所得が一定額を超えた場合にその超えた金額にのみ高い税率が適用されます。所得税率は、以下のように課税所得金額に応じて5~45%の7段階に区分されています。
<所得税の速算表>
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円~ | 45% | 479万6,000円 |
例えば、課税所得金額が500万円と700万円の場合は、以下のように所得税額が変わります。
57万2,500円(500万円×0.2-42万7,500円)
97万4,000円(700万円×0.23-63万6,000円)
高所得で税負担が重い人ほど不動産投資で節税に取り組むメリットは大きいといえるでしょう。
不動産投資で節税できる税金
不動産投資では、どのような税金の負担を軽減することが可能なのでしょうか。ここでは、不動産投資で節税できる税金の種類を紹介します。
所得税
所得税は、個人の所得に対してかかる税金です。具体的には、給与や賞与、事業収入、不動産投資の家賃収入などが課税対象となります。1月1日~12月31日までの1年間全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に対応する税率を乗じて所得税額を計算する仕組みです。なお2037年までは、基準所得税額に2.1%の税率を乗じて計算する「復興特別所得税」もあわせて徴収されます。
不動産投資の家賃収入は「不動産所得」に該当し、他の所得と合算して所得税額を算出します。減価償却費や修繕費、損害保険料など不動産収入を得るために直接要した支出は、必要経費として計上することが可能です。収入から経費を差し引いて不動産所得を計算するため、経費をうまく使えば税負担を軽減できます。上述したように、不動産所得が赤字になった場合は、給与所得などと損益通算することが可能です。 会社員が副業として不動産投資に取り組めば、給与所得にかかる所得税を節税できる可能性があります。
住民税
住民税は、その地域に住む個人に課す地方税です。公共施設や学校教育などの行政サービスの活動費に充てる目的で住民票がある市区町村から徴収されます。住民税算出のもとになるのは、所得に応じて負担する「所得割」と所得にかかわらず定額を負担する「均等割」の2つです。所得割の税率は、所得に対して一律10%、均等割は通常5,000円です。
住民税の所得割は、所得を圧縮できれば税負担が軽減されます。不動産投資で経費を計上したり、赤字を他の所得と損益通算したりすれば、所得税と同じように住民税の節税が可能です。
相続税
相続税は、相続によって財産を取得した際にその財産合計額に応じて課税される税金です。相続財産が基礎控除額を超える場合は、その超える部分に対して相続税がかかります。相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。相続税の税率は、課税遺産総額(課税対象となる相続財産の額)に応じて10~55%の8段階に区分されています。
相続財産は、預貯金や金融商品のほか不動産など多岐にわたり、不動産投資をうまく活用することで相続税の節税が可能です。不動産投資で相続税が節税できる仕組みについては、後ほど詳しく説明します。
不動産投資で所得税・住民税はどれくらい節税できるのか
不動産投資で赤字が出た場合に所得税・住民税がどれくらい節税できるのかシミュレーションしてみましょう。会社員で給与所得などの課税所得金額が700万円の場合、1年間に納める所得税・住民税の額は以下のようになります。
・住民税(所得割):70万円(700万円×10%)
→税額合計:167万4,000円
上記のケースで不動産所得がマイナス100万円の場合、損益通算すると課税所得は600万円(700万円-100万円)に下がります。1年間に納める所得税・住民税の額は以下の通りです。
・住民税(所得割):60万円(600万円×10%)
→税額合計:137万2,500円
不動産投資の赤字を給与所得と損益通算することで、所得税と住民税の納税額を30万1,500円(167万4,000円-137万2,500円)減らすことができました。
不動産投資が節税になる物件
節税を目的に不動産投資を行うなら節税しやすい物件の特徴を理解しておくことが大切です。ここでは、不動産投資が節税になる物件の種類と特徴を紹介します。
減価償却が大きくとれる物件
不動産投資で節税しやすいのは、減価償却を大きくとれる物件です。具体的には、木造住宅や築古物件が該当します。他の物件に比べると短期間で多額の減価償却費を計上できる可能性があるからです。
不動産投資は、建物の構造によって法定耐用年数が異なります。例えば、鉄筋コンクリート造のマンションは47年ですが木造住宅は22年です。法定耐用年数が短いと償却期間も短くなり、1年あたりの減価償却費が多くなるため、木造住宅は課税所得を圧縮しやすくなります。減価償却を活用した節税には築古物件も有効です。
築年数が経過した建物は、以下の算式で法定耐用年数を計算します。(簡便法)
法定耐用年数×20%
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
築古物件は、新築に比べて法定耐用年数が短くなるため、短期間で償却が可能です。ただし、築年数が経過している物件は、建築基準法に定める耐震基準を満たしていない可能性があります。建物の耐震性に不安がある場合は、1981年以前に建てられた旧耐震基準の物件は避けましょう。
減価償却を活用して節税したい場合は、建物比率が高い物件を選ぶこともポイントとなります。なぜなら不動産投資で減価償却の対象となるのは建物のみで、土地は減価償却の対象外だからです。そのため、建物比率が高い物件の方が、より多くの減価償却費を計上できます。不動産取引では、土地と建物を一体として金額が決められて建物比率が明確に示されていないケースも少なくありません。
何の根拠もなく自己判断で建物比率を決めてしまうと税務署から否認されるリスクがあります。「売買契約書に土地と建物の価額を明記する」「土地と建物の固定資産税評価額の割合で按分する」など根拠資料を準備して合理的に土地と建物を分けることが大切です。
不動産投資の節税に関する注意点
不動産投資を利用した節税では、以下の点に注意が必要です。
どのような物件も節税になるわけではない
不動産投資では、節税しやすい物件もあれば、節税に不向きな物件もあります。上述したように償却期間が短く建物比率が高い物件は、短期間でより多くの減価償却費を計上できるため、節税向きです。一方で新築区分マンションは、法定耐用年数が47年と長く、1年あたりの減価償却費が少額となるため、節税には不向きといえます。
初年度は、初期費用を経費にできますが、2年目以降は計上できる減価償却費が少ないため、節税効果は期待できないでしょう。
収入が低い人は節税効果が限られる
不動産投資で節税できる金額は、納税額の範囲に限られます。高所得の人は、適用される所得税率が高く、多くの税金を納めているため、不動産投資で節税に取り組むメリットは大きいです。しかし、収入が低い人は所得税率がそれほど高くないため、不動産投資で得られる税負担の軽減効果は限定的となります。
平均的な収入を得ている人が不動産投資に取り組む場合は、節税より収益向上や規模拡大に注力するのも一つの考え方といえるでしょう。
融資審査に影響を与える可能性もある
不動産投資で節税に取り組み、不動産所得が赤字になると融資審査に影響を与える可能性があります。例えば、将来的に不動産投資の規模拡大のために物件の追加取得を検討することもあるかもしれません。しかし、不動産所得の赤字が続くと金融機関から「事業で収益を確保できていない」と判断され、融資審査に落ちる可能性があります。
赤字の主な原因が減価償却費であれば現金支出を伴わないため、融資審査への影響は少ないかもしれません。しかし、物件の追加取得で規模拡大を目指すなら安易に節税せず、課税所得をプラスにしておくのも選択肢の一つです。不動産投資の本来の目的は、長期にわたって安定した家賃収入を得ることにあります。長期的な視点で節税にメリットがあるかを判断することが大切です。
赤字の主な原因が減価償却費でキャッシュフローが黒字の場合は、融資審査への影響はないかもしれません。しかし、キャッシュフローが赤字の場合、融資審査で不利になる可能性が高いです。 長期にわたって安定した家賃収入を得るために物件の追加取得をしたい場合は、節税よりもキャッシュフローを重視することが大切です。
不動産投資が相続税の節税になる仕組み
不動産投資は、所得税や住民税だけでなく相続税の節税対策としても活用できます。ここでは、不動産投資が相続税の節税になる仕組みについて詳しく解説します。
不動産は相続税評価額が下がる
不動産投資が相続税の節税になるのは、預貯金より相続税評価額が下がるからです。預貯金は額面金額で評価しますが、土地は路線価、建物は固定資産税評価額をもとに評価します。一般的に1月1日を評価時点として、1年間の地価変動などを考慮し、地価公示価格等を基にした価格(時価)路線価は時価の80%程度、固定資産税評価額は時価の70%となるため、預貯金より不動産の方が相続税評価額を下げられるというわけです。
賃貸不動産と自宅は評価方法が異なる
同じ不動産でも賃貸不動産と自宅では、相続税評価の方法が異なります。賃貸用の土地・建物の評価方法は以下の通りです。
=自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
借地権割合とは、土地の評価額に対する借地権価額の割合です。借地権割合は、地域によって異なり(30~90%)、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認できます。借家権割合は、賃貸不動産の相続税評価に利用される割合のことで全国一律30%です。賃貸割合は、建物の床面積に対する賃貸されている部分の割合を指します。
例えば、賃貸アパートを5室賃貸して1室が空室ならば賃貸割合は80%(4室÷5室×100)です。このように賃貸不動産の評価では、借地権割合や借家権割合、賃貸割合が考慮されるため、自宅よりも相続税評価額を下げることができます。
「小規模宅地等の特例」も利用可能
「小規模宅地等の特例」とは、宅地を相続する際に一定の要件を満たすと相続税評価額の一定割合を減額できる特例です。被相続人の賃貸用不動産を相続する場合は、その宅地について200平方メートルを限度に評価額が50%減額されます。
預貯金を賃貸不動産に換えるだけでも相続税評価額を下げることは可能ですが、小規模宅地等の特例も適用されればさらに評価額が減額されるため、相続税の節税効果は大きいといえます。賃貸不動産の相続で小規模宅地等の特例を利用できるか判断できない場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
過度な節税は否認されるリスクがある
不動産投資は、相続税対策に有効ですが過度な節税は税務署から否認されるリスクがあります。否認事例としては、2012年に父親からマンションを相続して「路線価」をもとに相続税申告をしたものの不動産鑑定の価格と大きな差があるという指摘を受けて国税当局から追徴課税されたケースがありました。相続人が処分取り消しを求めて裁判を行いましたが、2022年4月に敗訴が確定しました。
本事件は「路線価が購入価格・鑑定評価額の4分の1」「節税対策が露骨」であることなどが路線価による評価が否認された理由です。原則として不動産は、路線価をもとに評価しますが「租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」は、国税当局が評価を覆す「例外規定」が認められます。
まとめ
不動産投資は、初期費用や減価償却をうまく活用することで所得税や住民税の負担軽減が期待できます。特に高収入の人は、税金を多く納めているため、節税効果は大きいでしょう。
ただし、過度な節税は税務署に否認されるリスクもあります。節税目的で不動産投資を始める場合は、事前に税理士などの専門家に相談しながら慎重に進めることが大切です。
ベルテックスでは不動産にまつわる節税対策セミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。
この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。
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- 節税・税金
節税を目的として不動産投資を始める人もいます。「不動産投資は節税にならない」という意見もありますが、実際は節税になるのでしょうか。不動産投資を始める前の段階で税金が安くなる仕組みについてしっかりと理解しておくことが大切です。
この記事では、不動産投資で節税できる仕組みや税金の種類、節税効果の高い物件の特徴について解説します。
不動産投資で節税できる仕組み
どのような人でも不動産投資で節税できるわけではありませんが、条件が整えば、所得税などの税負担が軽減される可能性があります。まずは、不動産投資で節税できる仕組みについて確認していきましょう。
初期費用で所得が下がる
不動産投資では、物件取得の際に初期費用がかかります。初期費用の多くは、経費として計上できます。赤字になった不動産所得と給与所得など他の所得と損益通算した場合に課税所得が下がるため、所得税や住民税の軽減が可能です。経費として計上できる主な初期費用には、以下のようなものがあります。
- 印紙税
- 登録免許税
- 司法書士報酬
- 不動産取得税
- 事務手数料、保証料
契約書に貼付した印紙税や登記費用として支払う登録免許税、司法書士報酬、不動産取得税などは必要経費となります。不動産投資ローンを利用して物件を購入する場合は、金融機関や保証会社へ支払う事務手数料や保証料も経費として計上することが可能です。なお初期費用には、仲介手数料や損害保険料(火災保険・地震保険)も含まれますが、これらは原則として物件取得時の経費にはなりません。
仲介手数料は、物件の取得価額に含めて減価償却によって費用化し、損害保険料は1年契約で毎年保険料を支払う場合に全額をその年度の経費として計上することが可能です。長期契約の場合は、契約時に支払った金額のうち対応する期間分の保険料を毎年費用化していきます。例えば、5年契約で保険料を10万円支払った場合、5年間にわたって毎年2万円ずつ経費として計上することになります。
減価償却を使った赤字を損益通算する
減価償却とは、資産の取得価額を全額経費として計上するのではなく、その資産の使用可能期間(法定耐用年数)にわたり分割して必要経費とする手続きです。不動産投資では、建物が減価償却の対象となり、取得価額を物件の種類ごとに定められた法定耐用年数で減価償却していきます。
仮に建物の取得価額が2,000万円、法定耐用年数が20年の場合、毎年100万円ずつの減価償却費を計上することが可能です。減価償却費を計上して不動産所得が赤字になった場合、その赤字は他の所得と損益通算することができます。損益通算とは、所得金額の計算上損失が生じた場合に、その損失を他の所得から控除する(差し引く)ことです。
不動産投資で生じる不動産所得は、給与所得や事業所得などと損益通算することが認められています。不動産所得の赤字を給与所得や事業所得などから控除できるため、課税所得が下がり所得税や住民税の負担が軽減されるというわけです。建物取得時に代金の支払いは済んでいるため、減価償却費を計上しても実際に現金が出ていくわけではありません。
このように不動産投資の減価償却をうまく活用すれば、キャッシュフローを残しながら所得税や住民税を節税することが可能です。
所得が高い人ほど節税効果が期待できる
不動産投資では、所得が高い人ほど節税効果を期待できます。所得が高い人は納めている税金が多く、節税の余地が大きいからです。所得税では「超過累進課税」が採用されており、課税所得が一定額を超えた場合にその超えた金額にのみ高い税率が適用されます。所得税率は、以下のように課税所得金額に応じて5~45%の7段階に区分されています。
<所得税の速算表>
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円~ | 45% | 479万6,000円 |
例えば、課税所得金額が500万円と700万円の場合は、以下のように所得税額が変わります。
57万2,500円(500万円×0.2-42万7,500円)
97万4,000円(700万円×0.23-63万6,000円)
高所得で税負担が重い人ほど不動産投資で節税に取り組むメリットは大きいといえるでしょう。
不動産投資で節税できる税金
不動産投資では、どのような税金の負担を軽減することが可能なのでしょうか。ここでは、不動産投資で節税できる税金の種類を紹介します。
所得税
所得税は、個人の所得に対してかかる税金です。具体的には、給与や賞与、事業収入、不動産投資の家賃収入などが課税対象となります。1月1日~12月31日までの1年間全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に対応する税率を乗じて所得税額を計算する仕組みです。なお2037年までは、基準所得税額に2.1%の税率を乗じて計算する「復興特別所得税」もあわせて徴収されます。
不動産投資の家賃収入は「不動産所得」に該当し、他の所得と合算して所得税額を算出します。減価償却費や修繕費、損害保険料など不動産収入を得るために直接要した支出は、必要経費として計上することが可能です。収入から経費を差し引いて不動産所得を計算するため、経費をうまく使えば税負担を軽減できます。上述したように、不動産所得が赤字になった場合は、給与所得などと損益通算することが可能です。 会社員が副業として不動産投資に取り組めば、給与所得にかかる所得税を節税できる可能性があります。
住民税
住民税は、その地域に住む個人に課す地方税です。公共施設や学校教育などの行政サービスの活動費に充てる目的で住民票がある市区町村から徴収されます。住民税算出のもとになるのは、所得に応じて負担する「所得割」と所得にかかわらず定額を負担する「均等割」の2つです。所得割の税率は、所得に対して一律10%、均等割は通常5,000円です。
住民税の所得割は、所得を圧縮できれば税負担が軽減されます。不動産投資で経費を計上したり、赤字を他の所得と損益通算したりすれば、所得税と同じように住民税の節税が可能です。
相続税
相続税は、相続によって財産を取得した際にその財産合計額に応じて課税される税金です。相続財産が基礎控除額を超える場合は、その超える部分に対して相続税がかかります。相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。相続税の税率は、課税遺産総額(課税対象となる相続財産の額)に応じて10~55%の8段階に区分されています。
相続財産は、預貯金や金融商品のほか不動産など多岐にわたり、不動産投資をうまく活用することで相続税の節税が可能です。不動産投資で相続税が節税できる仕組みについては、後ほど詳しく説明します。
不動産投資で所得税・住民税はどれくらい節税できるのか
不動産投資で赤字が出た場合に所得税・住民税がどれくらい節税できるのかシミュレーションしてみましょう。会社員で給与所得などの課税所得金額が700万円の場合、1年間に納める所得税・住民税の額は以下のようになります。
・住民税(所得割):70万円(700万円×10%)
→税額合計:167万4,000円
上記のケースで不動産所得がマイナス100万円の場合、損益通算すると課税所得は600万円(700万円-100万円)に下がります。1年間に納める所得税・住民税の額は以下の通りです。
・住民税(所得割):60万円(600万円×10%)
→税額合計:137万2,500円
不動産投資の赤字を給与所得と損益通算することで、所得税と住民税の納税額を30万1,500円(167万4,000円-137万2,500円)減らすことができました。
不動産投資が節税になる物件
節税を目的に不動産投資を行うなら節税しやすい物件の特徴を理解しておくことが大切です。ここでは、不動産投資が節税になる物件の種類と特徴を紹介します。
減価償却が大きくとれる物件
不動産投資で節税しやすいのは、減価償却を大きくとれる物件です。具体的には、木造住宅や築古物件が該当します。他の物件に比べると短期間で多額の減価償却費を計上できる可能性があるからです。
不動産投資は、建物の構造によって法定耐用年数が異なります。例えば、鉄筋コンクリート造のマンションは47年ですが木造住宅は22年です。法定耐用年数が短いと償却期間も短くなり、1年あたりの減価償却費が多くなるため、木造住宅は課税所得を圧縮しやすくなります。減価償却を活用した節税には築古物件も有効です。
築年数が経過した建物は、以下の算式で法定耐用年数を計算します。(簡便法)
法定耐用年数×20%
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
築古物件は、新築に比べて法定耐用年数が短くなるため、短期間で償却が可能です。ただし、築年数が経過している物件は、建築基準法に定める耐震基準を満たしていない可能性があります。建物の耐震性に不安がある場合は、1981年以前に建てられた旧耐震基準の物件は避けましょう。
減価償却を活用して節税したい場合は、建物比率が高い物件を選ぶこともポイントとなります。なぜなら不動産投資で減価償却の対象となるのは建物のみで、土地は減価償却の対象外だからです。そのため、建物比率が高い物件の方が、より多くの減価償却費を計上できます。不動産取引では、土地と建物を一体として金額が決められて建物比率が明確に示されていないケースも少なくありません。
何の根拠もなく自己判断で建物比率を決めてしまうと税務署から否認されるリスクがあります。「売買契約書に土地と建物の価額を明記する」「土地と建物の固定資産税評価額の割合で按分する」など根拠資料を準備して合理的に土地と建物を分けることが大切です。
不動産投資の節税に関する注意点
不動産投資を利用した節税では、以下の点に注意が必要です。
どのような物件も節税になるわけではない
不動産投資では、節税しやすい物件もあれば、節税に不向きな物件もあります。上述したように償却期間が短く建物比率が高い物件は、短期間でより多くの減価償却費を計上できるため、節税向きです。一方で新築区分マンションは、法定耐用年数が47年と長く、1年あたりの減価償却費が少額となるため、節税には不向きといえます。
初年度は、初期費用を経費にできますが、2年目以降は計上できる減価償却費が少ないため、節税効果は期待できないでしょう。
収入が低い人は節税効果が限られる
不動産投資で節税できる金額は、納税額の範囲に限られます。高所得の人は、適用される所得税率が高く、多くの税金を納めているため、不動産投資で節税に取り組むメリットは大きいです。しかし、収入が低い人は所得税率がそれほど高くないため、不動産投資で得られる税負担の軽減効果は限定的となります。
平均的な収入を得ている人が不動産投資に取り組む場合は、節税より収益向上や規模拡大に注力するのも一つの考え方といえるでしょう。
融資審査に影響を与える可能性もある
不動産投資で節税に取り組み、不動産所得が赤字になると融資審査に影響を与える可能性があります。例えば、将来的に不動産投資の規模拡大のために物件の追加取得を検討することもあるかもしれません。しかし、不動産所得の赤字が続くと金融機関から「事業で収益を確保できていない」と判断され、融資審査に落ちる可能性があります。
赤字の主な原因が減価償却費であれば現金支出を伴わないため、融資審査への影響は少ないかもしれません。しかし、物件の追加取得で規模拡大を目指すなら安易に節税せず、課税所得をプラスにしておくのも選択肢の一つです。不動産投資の本来の目的は、長期にわたって安定した家賃収入を得ることにあります。長期的な視点で節税にメリットがあるかを判断することが大切です。
赤字の主な原因が減価償却費でキャッシュフローが黒字の場合は、融資審査への影響はないかもしれません。しかし、キャッシュフローが赤字の場合、融資審査で不利になる可能性が高いです。 長期にわたって安定した家賃収入を得るために物件の追加取得をしたい場合は、節税よりもキャッシュフローを重視することが大切です。
不動産投資が相続税の節税になる仕組み
不動産投資は、所得税や住民税だけでなく相続税の節税対策としても活用できます。ここでは、不動産投資が相続税の節税になる仕組みについて詳しく解説します。
不動産は相続税評価額が下がる
不動産投資が相続税の節税になるのは、預貯金より相続税評価額が下がるからです。預貯金は額面金額で評価しますが、土地は路線価、建物は固定資産税評価額をもとに評価します。一般的に1月1日を評価時点として、1年間の地価変動などを考慮し、地価公示価格等を基にした価格(時価)路線価は時価の80%程度、固定資産税評価額は時価の70%となるため、預貯金より不動産の方が相続税評価額を下げられるというわけです。
賃貸不動産と自宅は評価方法が異なる
同じ不動産でも賃貸不動産と自宅では、相続税評価の方法が異なります。賃貸用の土地・建物の評価方法は以下の通りです。
=自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
借地権割合とは、土地の評価額に対する借地権価額の割合です。借地権割合は、地域によって異なり(30~90%)、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認できます。借家権割合は、賃貸不動産の相続税評価に利用される割合のことで全国一律30%です。賃貸割合は、建物の床面積に対する賃貸されている部分の割合を指します。
例えば、賃貸アパートを5室賃貸して1室が空室ならば賃貸割合は80%(4室÷5室×100)です。このように賃貸不動産の評価では、借地権割合や借家権割合、賃貸割合が考慮されるため、自宅よりも相続税評価額を下げることができます。
「小規模宅地等の特例」も利用可能
「小規模宅地等の特例」とは、宅地を相続する際に一定の要件を満たすと相続税評価額の一定割合を減額できる特例です。被相続人の賃貸用不動産を相続する場合は、その宅地について200平方メートルを限度に評価額が50%減額されます。
預貯金を賃貸不動産に換えるだけでも相続税評価額を下げることは可能ですが、小規模宅地等の特例も適用されればさらに評価額が減額されるため、相続税の節税効果は大きいといえます。賃貸不動産の相続で小規模宅地等の特例を利用できるか判断できない場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
過度な節税は否認されるリスクがある
不動産投資は、相続税対策に有効ですが過度な節税は税務署から否認されるリスクがあります。否認事例としては、2012年に父親からマンションを相続して「路線価」をもとに相続税申告をしたものの不動産鑑定の価格と大きな差があるという指摘を受けて国税当局から追徴課税されたケースがありました。相続人が処分取り消しを求めて裁判を行いましたが、2022年4月に敗訴が確定しました。
本事件は「路線価が購入価格・鑑定評価額の4分の1」「節税対策が露骨」であることなどが路線価による評価が否認された理由です。原則として不動産は、路線価をもとに評価しますが「租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」は、国税当局が評価を覆す「例外規定」が認められます。
まとめ
不動産投資は、初期費用や減価償却をうまく活用することで所得税や住民税の負担軽減が期待できます。特に高収入の人は、税金を多く納めているため、節税効果は大きいでしょう。
ただし、過度な節税は税務署に否認されるリスクもあります。節税目的で不動産投資を始める場合は、事前に税理士などの専門家に相談しながら慎重に進めることが大切です。
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この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。