2025.12.19

ライフプランと資産形成

川淵 ゆかり

1戸目より難しい「2戸目の壁」…FPと考える「買い増し」の最適タイミングとファイナンス戦略

  • 購入

なぜ「2戸目」の審査は厳しくなるのか?

金融機関は、1戸目の不動産ローン審査は「個人信用(属性)」を重視します。しかし、2戸目になると評価軸が「事業信用」へとシフトする傾向があります。 

2戸目を購入すれば、当然ながら総借入額が増えます。そのため金融機関は、単なる個人の返済能力だけでなく、「賃貸経営者としての実績」を厳しくチェックしはじめるのです。具体的には、1戸目の収益性・空室率・運営管理の状況から、返済能力が判断されます。 

FPがチェックする「買い増し」可能ライン

では、どのような状態なら2戸目に進めるのでしょうか。FPとして買い増しを判断する際は、「キャッシュフロー黒字 + 自己資金 + 与信力」の3点セットを重視します。 

まずは、現在の状況を客観的に整理してみましょう。以下は、FPがチェックする代表的な判断基準(チェックリスト)です。 

チェック項目 目安 補足
1戸目のキャッシュフロー 月1万円以上の黒字 空室リスクや修繕費を考慮して黒字が望ましい
自己資金 300万~500万円以上 頭金+諸費用+予備資金として
年収 700万円以上が目安 属性により異なるが、融資審査で有利
勤務先 上場企業・公務員・医師・士業など 安定性が高く、与信力が強い
信用情報 延滞・債務整理がないこと CIC・JICCなどで確認可能
1戸目の運用期間 1年以上が望ましい 返済実績が評価される
物件の収益性 利回り4%以上が目安 家賃収入-支出で判断
ローン返済比率 年収の35%以内 返済負担率(返済額÷年収)で評価

[図表1]2戸目の買い増し、チェックリスト 

出所:筆者作成 

2戸目の買い増しにはタイミングも重要です。下記のチャートで、自分の状況をチェックし「2戸目を買ってもいいタイミングかどうか」を判断してみましょう。特に、1戸目の収支がマイナスの場合、2戸目で挽回しようとするのは危険です。まずは1戸目の経営改善を優先すべきです。 

スタート    
   
1戸目の運用は黒字ですか? NO
まずは1戸目の収支改善を優先しましょう
↓YES    
自己資金は300万円以上ありますか? NO
自己資金を貯めてから再検討を
↓YES    
年収は700万円以上ですか? NO
年収に応じた物件選びと金融機関の見直しを
↓YES    
信用情報に問題ありませんか? NO
信用情報の改善が必要です
↓YES    
2戸目の購入は可能性あり!金融機関戦略を検討しましょう    

[図表2]2戸目購入の判断チャート 

出所:筆者作成 

「レバレッジ」を再び効かせるための金融機関戦略

2戸目の融資戦略で重要なのは、1戸目と同じ金融機関にこだわらず、選択肢を広げることです。FPとしては、属性・収益性・地域性に応じて、最適な金融機関を戦略的に使い分けることが“買い増し成功”の鍵だと考えます。 

2戸目は1戸目と別の金融機関を選ぶことでレバレッジを再構築しやすくなるほか、下記のような有利な点があります。 

1.融資枠の限界を突破する

同じ金融機関では「既存借入額」が審査に影響し、融資枠が圧迫される可能性があります。特に都市銀行やメガバンクは、個人への不動産融資に慎重な傾向があり、2戸目以降は審査が厳しくなる傾向にあります。 

2.審査基準の違いを活かす

金融機関によって「なにを重視するか」は異なります。地方銀行や信用金庫は、物件の収益性や地域性を重視する傾向があり、1戸目と違う視点で評価してくれることも。ノンバンク系は、属性より事業性重視で通りやすい場合もあります。 

3.不動産会社の提携ローンを活用する

複数の金融機関と提携している不動産会社なら、投資家の属性に合った金融機関を紹介してくれるケースもあります。 

図表3に金融機関の特徴の違いをまとめましたので、参考にしてください。 

金融機関 審査の厳しさ 金利水準 融資上限額 評価ポイント 向いている投資家
都市銀行(メガバンク) 非常に厳しい 低め(1.5~2.0%) 年収・属性により制限あり 個人信用・勤務先・年収重視 高年収・上場企業勤務者
地方銀行 やや厳しい 中程度(1.8~2.5%) 物件評価により柔軟 物件収益性・地域性・事業性 中堅会社員・地元物件投資
信用金庫・信用組合 柔軟な傾向 やや高め(2.0~2.8%) 地域密着で柔軟対応 地元との関係性・事業性重視 地域在住者・地元物件投資
ノンバンク 比較的通りやすい 高め(2.5~3.5%) 自己資金+物件収益で判断 事業性・キャッシュフロー重視 属性に不安がある投資家

[図表3]金融機関の特徴の違い 

出所:筆者作成 

「買い増し」で失敗しないための物件選び

2戸目の購入は、単なる買い増しによる“資産形成(増やすこと)”だけでなく、設計と管理が問われるステージです。つまり、“資産管理(守ること)”の視点も求められます。 

1戸目の成功体験に固執せず、以下のように戦略的な物件選びを行いましょう。 

リスク分散(エリア・タイプを変える)

1戸目から少しエリアをずらした物件を選ぶなど、1戸目と築年数・間取りなどを変えて、異なるリスク特性を持つ物件を組み合わせることで、災害リスクや賃貸需要の変動リスクを分散させます。 

管理効率化(エリアを集中させる)

逆に、1戸目と同じエリアや同じ管理会社で揃えることで、巡回や管理の手間を省き、管理会社との交渉力を高め、空室リスクを抑えた運用をする戦略もあります。 

FPからの視点では「収益性+出口戦略+管理体制」の3点を重視して評価しますが、図表4の項目を参考に検討してみてください。 

 
項目 選び方のポイント 補足
エリア選定 都心・駅近・賃貸需要が安定している場所 1戸目と同エリアで「集中」するか、別エリアで分散するかを検討
築年数 築浅~10年以内が望ましい 修繕リスクが低く、家賃下落も緩やか
間取り 1R~1K(単身者向け) 空室リスクが低く、管理がしやすい
価格帯 3,000万~4,500万円程度 ローン審査・返済比率・利回りのバランスが取りやすい
利回り 表面利回り4%以上が目安 実質利回り(家賃-支出)も確認
管理体制 管理会社の有無・修繕積立金の状況 長期保有を前提に、管理の安定性を重視
出口戦略 売却しやすい物件かどうか 将来の売却価格・需要・税制も考慮

[図表4]2戸目、選び方のポイント 

出所:筆者作成 

なお、2戸目の購入は、単なる“買い増し”ではなく、ポートフォリオ全体の設計と管理が問われるステージです。1戸目で得た収益を活かしながら、リスク分散・収益安定・出口戦略までを見据えた“資産管理”の視点が重要になります。 

まとめ

2戸目の不動産投資には、信用力・資金力・戦略力の3つが問われます。 

FPとしては、1戸目の投資経験で得た反省や運用実績を活かしつつ、2戸目では金融機関との付き合い方と物件選びをより戦略的に設計することが、難しいといわれる「2戸目の壁」を乗り越えて成功させる鍵だと考えます。 

「2戸目の壁」は誰もが悩むステージです。壁を乗り越え、複数物件を運用できるようになれば、資産拡大のスピードが飛躍的に向上する可能性もあります。本記事が、あなたの次の一歩のヒントになれば幸いです。 

この記事を書いた人

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所 代表 ファイナンシャルプランナー (1級ファイナンシャル・プランニング技能士)

国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。 https://yukarik-fp.jimdofree.com/

2025.12.19

ライフプランと資産形成

川淵 ゆかり

1戸目より難しい「2戸目の壁」…FPと考える「買い増し」の最適タイミングとファイナンス戦略

  • 購入

なぜ「2戸目」の審査は厳しくなるのか?

金融機関は、1戸目の不動産ローン審査は「個人信用(属性)」を重視します。しかし、2戸目になると評価軸が「事業信用」へとシフトする傾向があります。 

2戸目を購入すれば、当然ながら総借入額が増えます。そのため金融機関は、単なる個人の返済能力だけでなく、「賃貸経営者としての実績」を厳しくチェックしはじめるのです。具体的には、1戸目の収益性・空室率・運営管理の状況から、返済能力が判断されます。 

FPがチェックする「買い増し」可能ライン

では、どのような状態なら2戸目に進めるのでしょうか。FPとして買い増しを判断する際は、「キャッシュフロー黒字 + 自己資金 + 与信力」の3点セットを重視します。 

まずは、現在の状況を客観的に整理してみましょう。以下は、FPがチェックする代表的な判断基準(チェックリスト)です。 

チェック項目 目安 補足
1戸目のキャッシュフロー 月1万円以上の黒字 空室リスクや修繕費を考慮して黒字が望ましい
自己資金 300万~500万円以上 頭金+諸費用+予備資金として
年収 700万円以上が目安 属性により異なるが、融資審査で有利
勤務先 上場企業・公務員・医師・士業など 安定性が高く、与信力が強い
信用情報 延滞・債務整理がないこと CIC・JICCなどで確認可能
1戸目の運用期間 1年以上が望ましい 返済実績が評価される
物件の収益性 利回り4%以上が目安 家賃収入-支出で判断
ローン返済比率 年収の35%以内 返済負担率(返済額÷年収)で評価

[図表1]2戸目の買い増し、チェックリスト 

出所:筆者作成 

2戸目の買い増しにはタイミングも重要です。下記のチャートで、自分の状況をチェックし「2戸目を買ってもいいタイミングかどうか」を判断してみましょう。特に、1戸目の収支がマイナスの場合、2戸目で挽回しようとするのは危険です。まずは1戸目の経営改善を優先すべきです。 

スタート    
   
1戸目の運用は黒字ですか? NO
まずは1戸目の収支改善を優先しましょう
↓YES    
自己資金は300万円以上ありますか? NO
自己資金を貯めてから再検討を
↓YES    
年収は700万円以上ですか? NO
年収に応じた物件選びと金融機関の見直しを
↓YES    
信用情報に問題ありませんか? NO
信用情報の改善が必要です
↓YES    
2戸目の購入は可能性あり!金融機関戦略を検討しましょう    

[図表2]2戸目購入の判断チャート 

出所:筆者作成 

「レバレッジ」を再び効かせるための金融機関戦略

2戸目の融資戦略で重要なのは、1戸目と同じ金融機関にこだわらず、選択肢を広げることです。FPとしては、属性・収益性・地域性に応じて、最適な金融機関を戦略的に使い分けることが“買い増し成功”の鍵だと考えます。 

2戸目は1戸目と別の金融機関を選ぶことでレバレッジを再構築しやすくなるほか、下記のような有利な点があります。 

1.融資枠の限界を突破する

同じ金融機関では「既存借入額」が審査に影響し、融資枠が圧迫される可能性があります。特に都市銀行やメガバンクは、個人への不動産融資に慎重な傾向があり、2戸目以降は審査が厳しくなる傾向にあります。 

2.審査基準の違いを活かす

金融機関によって「なにを重視するか」は異なります。地方銀行や信用金庫は、物件の収益性や地域性を重視する傾向があり、1戸目と違う視点で評価してくれることも。ノンバンク系は、属性より事業性重視で通りやすい場合もあります。 

3.不動産会社の提携ローンを活用する

複数の金融機関と提携している不動産会社なら、投資家の属性に合った金融機関を紹介してくれるケースもあります。 

図表3に金融機関の特徴の違いをまとめましたので、参考にしてください。 

金融機関 審査の厳しさ 金利水準 融資上限額 評価ポイント 向いている投資家
都市銀行(メガバンク) 非常に厳しい 低め(1.5~2.0%) 年収・属性により制限あり 個人信用・勤務先・年収重視 高年収・上場企業勤務者
地方銀行 やや厳しい 中程度(1.8~2.5%) 物件評価により柔軟 物件収益性・地域性・事業性 中堅会社員・地元物件投資
信用金庫・信用組合 柔軟な傾向 やや高め(2.0~2.8%) 地域密着で柔軟対応 地元との関係性・事業性重視 地域在住者・地元物件投資
ノンバンク 比較的通りやすい 高め(2.5~3.5%) 自己資金+物件収益で判断 事業性・キャッシュフロー重視 属性に不安がある投資家

[図表3]金融機関の特徴の違い 

出所:筆者作成 

「買い増し」で失敗しないための物件選び

2戸目の購入は、単なる買い増しによる“資産形成(増やすこと)”だけでなく、設計と管理が問われるステージです。つまり、“資産管理(守ること)”の視点も求められます。 

1戸目の成功体験に固執せず、以下のように戦略的な物件選びを行いましょう。 

リスク分散(エリア・タイプを変える)

1戸目から少しエリアをずらした物件を選ぶなど、1戸目と築年数・間取りなどを変えて、異なるリスク特性を持つ物件を組み合わせることで、災害リスクや賃貸需要の変動リスクを分散させます。 

管理効率化(エリアを集中させる)

逆に、1戸目と同じエリアや同じ管理会社で揃えることで、巡回や管理の手間を省き、管理会社との交渉力を高め、空室リスクを抑えた運用をする戦略もあります。 

FPからの視点では「収益性+出口戦略+管理体制」の3点を重視して評価しますが、図表4の項目を参考に検討してみてください。 

 
項目 選び方のポイント 補足
エリア選定 都心・駅近・賃貸需要が安定している場所 1戸目と同エリアで「集中」するか、別エリアで分散するかを検討
築年数 築浅~10年以内が望ましい 修繕リスクが低く、家賃下落も緩やか
間取り 1R~1K(単身者向け) 空室リスクが低く、管理がしやすい
価格帯 3,000万~4,500万円程度 ローン審査・返済比率・利回りのバランスが取りやすい
利回り 表面利回り4%以上が目安 実質利回り(家賃-支出)も確認
管理体制 管理会社の有無・修繕積立金の状況 長期保有を前提に、管理の安定性を重視
出口戦略 売却しやすい物件かどうか 将来の売却価格・需要・税制も考慮

[図表4]2戸目、選び方のポイント 

出所:筆者作成 

なお、2戸目の購入は、単なる“買い増し”ではなく、ポートフォリオ全体の設計と管理が問われるステージです。1戸目で得た収益を活かしながら、リスク分散・収益安定・出口戦略までを見据えた“資産管理”の視点が重要になります。 

まとめ

2戸目の不動産投資には、信用力・資金力・戦略力の3つが問われます。 

FPとしては、1戸目の投資経験で得た反省や運用実績を活かしつつ、2戸目では金融機関との付き合い方と物件選びをより戦略的に設計することが、難しいといわれる「2戸目の壁」を乗り越えて成功させる鍵だと考えます。 

「2戸目の壁」は誰もが悩むステージです。壁を乗り越え、複数物件を運用できるようになれば、資産拡大のスピードが飛躍的に向上する可能性もあります。本記事が、あなたの次の一歩のヒントになれば幸いです。 

この記事を書いた人

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所 代表 ファイナンシャルプランナー (1級ファイナンシャル・プランニング技能士)

国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。 https://yukarik-fp.jimdofree.com/