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2026.01.07
宮路 幸人
「法人化」の分岐点は年収いくら? 税理士がシミュレーションする「節税メリット」と「隠れコスト」
- 法人化
- 税理士
- 執筆記事
なぜ「法人化」で節税になるのか?
不動産投資における「法人化」が節税につながる最大の理由は、個人に課される「所得税」と、法人に課される「法人税」の“税率の仕組み”の違いにあります。個人の所得税(および住民税)は「累進課税」が採用されています。これは、所得が多ければ多いほど、高い税率が適用される仕組みです。不動産所得は、給与所得など他の所得と合算され(総合課税)、その合計額(課税所得)に対して税率が決まります。
<個人の所得税・住民税の税率(速算表)>
所得税:5%~45%(7段階)
住民税:一律 約10%
この2つを合わせると、課税所得が900万円を超えると税率(所得税+住民税)は43%に、1,800万円を超えると50%、4,000万円を超えると最大約55%にも達します。
一方で、法人に課される税金(法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税など)の合計(実効税率)は、資本金1億円以下の中小法人の場合、所得(利益)が800万円以下の部分は比較的低く抑えられ、800万円を超える部分も、おおむね約30%台前半~半ばで頭打ちになります。 個人の税率は所得の増加に伴い階段状に上がり続けますが、法人の税率はある一定のライン(約30%台)でほぼ横ばいになります。
つまり、ある一定の所得を超えると、個人の税率(最大55%)> 法人の税率(約30%台)という逆転現象が起こります。この「税率の差」を利用し、個人の高い税率が適用される所得の一部を、税率の低い法人に移すこと(=法人化)が、節税の基本的な仕組みです。
法人化のメリットは「税率」だけじゃない
税率差(節税)は法人化の最も分かりやすいメリットですが、税理士の視点からは、それ以外にも見逃せない重要なメリットが複数あります。
1.経費計上の幅が広がる
個人事業主では経費として認められにくい支出も、法人では経費(損金)として計上できる幅が広がります。
個人事業主の場合、事業主本人に「給与」は支払えません(生活費とみなされます)。家族への給与(専従者給与)も、届出や要件が厳格です。しかし、法人化すれば、自分自身や家族を「役員」とし、役員報酬を支払うことができます。受け取った側(個人)は、給与所得控除(経費の概算枠のようなもの)が適用されるため、個人の税負担を抑えつつ、法人の利益を圧縮(=節税)できます。所得を家族に分散させる効果も期待できます。
長期間、役員として働いた対価として「退職金」を支給できます。退職金は、役員報酬(給与)と比べて税制面で非常に優遇されており(退職所得控除)、大きな節税効果を生みます。個人の不動産投資では、この「退職金」という出口戦略は存在しません。
個人で加入する生命保険料の控除(所得控除)は、年間最大12万円と上限が低いです。一方、法人が契約者となる生命保険は、保険の種類や目的(役員の死亡保障、退職金準備など)に応じて、支払った保険料の全額または一部を損金(経費)として計上できる場合があります。
役員が住む自宅を法人が借り上げ、「社宅」として役員に貸し出すことで、家賃の一部(定められた要件に該当する場合、5割~9割程度)を法人の経費にできます。個人事業主が自宅兼事務所の家賃を経費にする(家事按分)よりも、一般的に経費計上できる割合が大きくなります。
2.欠損金(赤字)の繰越期間が長い
不動産投資は、購入初年度に不動産取得税や登記費用などで大きな支出が出たり、大規模修繕で一時的に赤字になったりすることがあります。この赤字(欠損金)は、翌年以降の黒字と相殺できますが、その繰越期間が異なります。
- 個人(青色申告):3年間
- 法人(青色申告):10年間 (※)
※2018年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠損金
投資初期等の大きな赤字を10年間にわたって活用できるのは、長期的なキャッシュフローを考える上で大きな利点です。
3.相続・事業承継対策
個人で不動産を所有している場合、その不動産(現物)がそのまま相続財産となります。評価額が高額になりやすく、また相続人の間で分割しにくい(共有にすると売却が困難になる)という問題があります。
法人化して不動産を法人所有にすると、相続財産は不動産そのものではなく「会社の株式」となります。
株式の評価額(株価)は、法人の純資産や利益に基づいて計算されますが、役員報酬や退職金の活用、生命保険の加入などで、計画的に利益を圧縮し、株価の上昇をコントロールしやすいという特徴があります。結果として、相続税評価額を抑え、円滑な事業承継(相続)につながる可能性があります。
税理士が試算する「法人化の分岐点」
具体的に、いくらの所得があれば法人化を検討すべきでしょうか。
よく「課税所得900万円」というラインが目安として語られます。これは、前述の通り、個人の所得税率が900万円を超えると23%から33%(住民税と合わせて33%→43%)へと大きくジャンプアップする境目だからです。法人の実効税率(約30%台)と比較して、個人の税率が明らかに高くなるのがこの付近なのです。
しかし、これはあくまで目安の一つに過ぎません。税理士としてシミュレーションを行う際、「900万円」という数字以上に重要視しているのは、「その人の所得の“内訳”」です。
ケース1:不動産所得のみ(専業大家)の場合
専業大家で、課税所得が900万円の場合を考えます。個人のままなら、900万円を超える部分には43%の税率がかかってきます。
ここで法人化し、例えば役員報酬を500万円(個人の税率が低い範囲)に設定し、残りの400万円を法人の利益として残す、といった「所得の分散」が可能になります。 役員報酬500万円(給与所得控除後の課税所得は約350万円)にかかる個人の税率(約20%)と、法人利益400万円にかかる法人税率(約25%程度・中小企業の軽減税率を適用)は、どちらも個人のまま43%で課税されるより低くなります。
このケースでは、目安通り「課税所得900万円」あたりが、法人化を検討し始める現実的なラインと言えるでしょう。
ケース2:サラリーマン大家(給与所得あり)の場合
たとえば、給与所得が既に1,000万円(課税所得で約700万円)ある人が、副業の不動産投資で新たに500万円の不動産所得(課税所得)を得たとします。
個人の場合、この不動産所得500万円は、給与所得700万円の上に積み重なります(総合課税)。つまり、課税所得は合計1,200万円となり、追加の不動産所得500万円の大部分(700万円~900万円の200万円と、900万円~1200万円の300万円)に、33%~43%(住民税込)という高い税率が適用されます。
もしこの500万円の不動産所得を生む物件を「法人」で所有していたらどうでしょうか。
個人の給与所得1,000万円(税率は変わらず)とは切り離され、法人の利益500万円に対しては、約25%程度の法人税率が適用されるだけです。 このケースでは、不動産所得は「500万円」ですが、高い税率で課税されることを回避できるため、法人化の節税メリットは非常に大きくなります。
このようにシミュレーションの結果、法人化の分岐点は、単純な所得額ではないことがわかります。
- 専業大家の場合:課税所得が800万~1,000万円を超えてくるあたり。
- 高所得のサラリーマン大家の場合:他の所得と合算して高い累進税率が適用されるため、不動産所得が500万~700万円程度でも、法人化のメリットが出るケースが多くなります。
見落とすな!法人化のデメリットと「維持コスト」
法人化には多くのメリットがありますが、当然ながらデメリット、特に「確実に発生するコスト」が存在します。節税効果がこうした負担を上回らなければ、法人化によるメリットは実質的に得られません。
1.設立費用(イニシャルコスト)
会社を設立する(登記する)ために、以下の費用が必ずかかります。
- 株式会社: 約20万円~25万円(登録免許税、定款認証手数料など)
- 合同会社: 約6万円~10万円(登録免許税など)
この他に、司法書士など専門家へ依頼する場合は、別途手数料が発生します。
2.運営・維持コスト(ランニングコスト)
設立後、会社を維持・運営していくために、以下のコストが継続的に発生します。
法人は、たとえその年の経営が赤字であっても、事業所があるだけで「法人住民税の均等割」という税金を納めなければなりません。金額は自治体によりますが、最低でも年間約7万円はかかります。
個人の確定申告と異なり、法人の決算・申告(法人税申告)は極めて複雑です。会計処理も複式簿記が必須となり、専門知識がなければまず対応できません。そのため、税理士との顧問契約が実質的に必須となります。費用は法人の規模や業務量によりますが、年間で安くても20万~30万円、通常はそれ以上(月額顧問料+決算料)がかかります。
個人事業主の場合、健康保険は「国民健康保険」、年金は「国民年金」です。しかし、法人を設立し、役員報酬を(たとえ1円でも)受け取ると、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます。社会保険料は、役員報酬の金額(標準報酬月額)に基づいて決まり、会社と個人が半分ずつ(折半)負担します。
国民健康保険料には上限額がありますが、社会保険料は役員報酬が高くなるほど増える仕組みです。 節税のために役員報酬を高く設定した結果、社会保険料の負担が個人の頃より大幅に増えてしまい、手残りが減ってしまうケースは少なくありません。
会計処理の複雑化に加え、役員に変更があった場合(重任登記など)の登記費用、税務調査の対応など、個人事業主時代にはなかった様々な事務手続きと、それにかかるコストが発生します。これらのデメリットとコスト(年間で数十万円~)を総合的に勘案し、それでも「税率差のメリット」や「経費化のメリット」が上回ると判断できるかが、法人化の最終的な分かれ道となります。
まとめ
不動産投資の法人化は、個人の累進課税と法人の税率差を利用した節税策であり、経費計上の拡大や相続対策といった多様なメリットも期待できます。しかし、その分岐点は「課税所得900万円」といった画一的なものではなく、給与所得の有無や家族構成によって大きく変動します。
また、設立費用や税理士顧問料、特に赤字でも発生する法人住民税や、負担が重くなりがちな社会保険料といった「維持コスト」も確実に発生します。これらのコストを上回る節税効果が、ご自身の現状で見込めるのかどうか、多角的なシミュレーションが成功の鍵を握ります。
この記事を書いた人
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所 税理士/行政書士/CFP
税理士としての豊富な実務経験により、会計税務の問題から経営や資金繰りの相談など、様々な問題に対応。強みのある分野は不動産と相続関連。特に相続問題では、税金面だけでなく、家族が幸せになれる「笑顔相続」を心がけトータルな提案を重視している。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格も保有。
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宮路 幸人
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なぜ「法人化」で節税になるのか?
不動産投資における「法人化」が節税につながる最大の理由は、個人に課される「所得税」と、法人に課される「法人税」の“税率の仕組み”の違いにあります。個人の所得税(および住民税)は「累進課税」が採用されています。これは、所得が多ければ多いほど、高い税率が適用される仕組みです。不動産所得は、給与所得など他の所得と合算され(総合課税)、その合計額(課税所得)に対して税率が決まります。
<個人の所得税・住民税の税率(速算表)>
所得税:5%~45%(7段階)
住民税:一律 約10%
この2つを合わせると、課税所得が900万円を超えると税率(所得税+住民税)は43%に、1,800万円を超えると50%、4,000万円を超えると最大約55%にも達します。
一方で、法人に課される税金(法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税など)の合計(実効税率)は、資本金1億円以下の中小法人の場合、所得(利益)が800万円以下の部分は比較的低く抑えられ、800万円を超える部分も、おおむね約30%台前半~半ばで頭打ちになります。 個人の税率は所得の増加に伴い階段状に上がり続けますが、法人の税率はある一定のライン(約30%台)でほぼ横ばいになります。
つまり、ある一定の所得を超えると、個人の税率(最大55%)> 法人の税率(約30%台)という逆転現象が起こります。この「税率の差」を利用し、個人の高い税率が適用される所得の一部を、税率の低い法人に移すこと(=法人化)が、節税の基本的な仕組みです。
法人化のメリットは「税率」だけじゃない
税率差(節税)は法人化の最も分かりやすいメリットですが、税理士の視点からは、それ以外にも見逃せない重要なメリットが複数あります。
1.経費計上の幅が広がる
個人事業主では経費として認められにくい支出も、法人では経費(損金)として計上できる幅が広がります。
個人事業主の場合、事業主本人に「給与」は支払えません(生活費とみなされます)。家族への給与(専従者給与)も、届出や要件が厳格です。しかし、法人化すれば、自分自身や家族を「役員」とし、役員報酬を支払うことができます。受け取った側(個人)は、給与所得控除(経費の概算枠のようなもの)が適用されるため、個人の税負担を抑えつつ、法人の利益を圧縮(=節税)できます。所得を家族に分散させる効果も期待できます。
長期間、役員として働いた対価として「退職金」を支給できます。退職金は、役員報酬(給与)と比べて税制面で非常に優遇されており(退職所得控除)、大きな節税効果を生みます。個人の不動産投資では、この「退職金」という出口戦略は存在しません。
個人で加入する生命保険料の控除(所得控除)は、年間最大12万円と上限が低いです。一方、法人が契約者となる生命保険は、保険の種類や目的(役員の死亡保障、退職金準備など)に応じて、支払った保険料の全額または一部を損金(経費)として計上できる場合があります。
役員が住む自宅を法人が借り上げ、「社宅」として役員に貸し出すことで、家賃の一部(定められた要件に該当する場合、5割~9割程度)を法人の経費にできます。個人事業主が自宅兼事務所の家賃を経費にする(家事按分)よりも、一般的に経費計上できる割合が大きくなります。
2.欠損金(赤字)の繰越期間が長い
不動産投資は、購入初年度に不動産取得税や登記費用などで大きな支出が出たり、大規模修繕で一時的に赤字になったりすることがあります。この赤字(欠損金)は、翌年以降の黒字と相殺できますが、その繰越期間が異なります。
- 個人(青色申告):3年間
- 法人(青色申告):10年間 (※)
※2018年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠損金
投資初期等の大きな赤字を10年間にわたって活用できるのは、長期的なキャッシュフローを考える上で大きな利点です。
3.相続・事業承継対策
個人で不動産を所有している場合、その不動産(現物)がそのまま相続財産となります。評価額が高額になりやすく、また相続人の間で分割しにくい(共有にすると売却が困難になる)という問題があります。
法人化して不動産を法人所有にすると、相続財産は不動産そのものではなく「会社の株式」となります。
株式の評価額(株価)は、法人の純資産や利益に基づいて計算されますが、役員報酬や退職金の活用、生命保険の加入などで、計画的に利益を圧縮し、株価の上昇をコントロールしやすいという特徴があります。結果として、相続税評価額を抑え、円滑な事業承継(相続)につながる可能性があります。
税理士が試算する「法人化の分岐点」
具体的に、いくらの所得があれば法人化を検討すべきでしょうか。
よく「課税所得900万円」というラインが目安として語られます。これは、前述の通り、個人の所得税率が900万円を超えると23%から33%(住民税と合わせて33%→43%)へと大きくジャンプアップする境目だからです。法人の実効税率(約30%台)と比較して、個人の税率が明らかに高くなるのがこの付近なのです。
しかし、これはあくまで目安の一つに過ぎません。税理士としてシミュレーションを行う際、「900万円」という数字以上に重要視しているのは、「その人の所得の“内訳”」です。
ケース1:不動産所得のみ(専業大家)の場合
専業大家で、課税所得が900万円の場合を考えます。個人のままなら、900万円を超える部分には43%の税率がかかってきます。
ここで法人化し、例えば役員報酬を500万円(個人の税率が低い範囲)に設定し、残りの400万円を法人の利益として残す、といった「所得の分散」が可能になります。 役員報酬500万円(給与所得控除後の課税所得は約350万円)にかかる個人の税率(約20%)と、法人利益400万円にかかる法人税率(約25%程度・中小企業の軽減税率を適用)は、どちらも個人のまま43%で課税されるより低くなります。
このケースでは、目安通り「課税所得900万円」あたりが、法人化を検討し始める現実的なラインと言えるでしょう。
ケース2:サラリーマン大家(給与所得あり)の場合
たとえば、給与所得が既に1,000万円(課税所得で約700万円)ある人が、副業の不動産投資で新たに500万円の不動産所得(課税所得)を得たとします。
個人の場合、この不動産所得500万円は、給与所得700万円の上に積み重なります(総合課税)。つまり、課税所得は合計1,200万円となり、追加の不動産所得500万円の大部分(700万円~900万円の200万円と、900万円~1200万円の300万円)に、33%~43%(住民税込)という高い税率が適用されます。
もしこの500万円の不動産所得を生む物件を「法人」で所有していたらどうでしょうか。
個人の給与所得1,000万円(税率は変わらず)とは切り離され、法人の利益500万円に対しては、約25%程度の法人税率が適用されるだけです。 このケースでは、不動産所得は「500万円」ですが、高い税率で課税されることを回避できるため、法人化の節税メリットは非常に大きくなります。
このようにシミュレーションの結果、法人化の分岐点は、単純な所得額ではないことがわかります。
- 専業大家の場合:課税所得が800万~1,000万円を超えてくるあたり。
- 高所得のサラリーマン大家の場合:他の所得と合算して高い累進税率が適用されるため、不動産所得が500万~700万円程度でも、法人化のメリットが出るケースが多くなります。
見落とすな!法人化のデメリットと「維持コスト」
法人化には多くのメリットがありますが、当然ながらデメリット、特に「確実に発生するコスト」が存在します。節税効果がこうした負担を上回らなければ、法人化によるメリットは実質的に得られません。
1.設立費用(イニシャルコスト)
会社を設立する(登記する)ために、以下の費用が必ずかかります。
- 株式会社: 約20万円~25万円(登録免許税、定款認証手数料など)
- 合同会社: 約6万円~10万円(登録免許税など)
この他に、司法書士など専門家へ依頼する場合は、別途手数料が発生します。
2.運営・維持コスト(ランニングコスト)
設立後、会社を維持・運営していくために、以下のコストが継続的に発生します。
法人は、たとえその年の経営が赤字であっても、事業所があるだけで「法人住民税の均等割」という税金を納めなければなりません。金額は自治体によりますが、最低でも年間約7万円はかかります。
個人の確定申告と異なり、法人の決算・申告(法人税申告)は極めて複雑です。会計処理も複式簿記が必須となり、専門知識がなければまず対応できません。そのため、税理士との顧問契約が実質的に必須となります。費用は法人の規模や業務量によりますが、年間で安くても20万~30万円、通常はそれ以上(月額顧問料+決算料)がかかります。
個人事業主の場合、健康保険は「国民健康保険」、年金は「国民年金」です。しかし、法人を設立し、役員報酬を(たとえ1円でも)受け取ると、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます。社会保険料は、役員報酬の金額(標準報酬月額)に基づいて決まり、会社と個人が半分ずつ(折半)負担します。
国民健康保険料には上限額がありますが、社会保険料は役員報酬が高くなるほど増える仕組みです。 節税のために役員報酬を高く設定した結果、社会保険料の負担が個人の頃より大幅に増えてしまい、手残りが減ってしまうケースは少なくありません。
会計処理の複雑化に加え、役員に変更があった場合(重任登記など)の登記費用、税務調査の対応など、個人事業主時代にはなかった様々な事務手続きと、それにかかるコストが発生します。これらのデメリットとコスト(年間で数十万円~)を総合的に勘案し、それでも「税率差のメリット」や「経費化のメリット」が上回ると判断できるかが、法人化の最終的な分かれ道となります。
まとめ
不動産投資の法人化は、個人の累進課税と法人の税率差を利用した節税策であり、経費計上の拡大や相続対策といった多様なメリットも期待できます。しかし、その分岐点は「課税所得900万円」といった画一的なものではなく、給与所得の有無や家族構成によって大きく変動します。
また、設立費用や税理士顧問料、特に赤字でも発生する法人住民税や、負担が重くなりがちな社会保険料といった「維持コスト」も確実に発生します。これらのコストを上回る節税効果が、ご自身の現状で見込めるのかどうか、多角的なシミュレーションが成功の鍵を握ります。
この記事を書いた人
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所 税理士/行政書士/CFP
税理士としての豊富な実務経験により、会計税務の問題から経営や資金繰りの相談など、様々な問題に対応。強みのある分野は不動産と相続関連。特に相続問題では、税金面だけでなく、家族が幸せになれる「笑顔相続」を心がけトータルな提案を重視している。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格も保有。