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2025.01.14
ベルテックスコラム事務局
木造アパートの耐用年数は?法定耐用年数を超えた際のリスクと5つの対処法を解説
- 節税・税金
- 減価償却
- 計算
木造アパートの耐用年数という場合、一般的に木造アパートの「法定耐用年数」のことを指します。法定耐用年数は減価償却期間の計算に用いるもので、賃貸経営における収支に大きく関わる大切な要素です。 法定耐用年数が過ぎたたからといって建物が使えなくなるわけではなく、「法定耐用年数=寿命」ではありません。とはいえ、法定耐用年数を超えると賃貸経営上のリスクが存在するのも事実です。
この記事では、これからアパート経営を始める方や始めたばかりの方に向けて、木造アパートにまつわる法定耐用年数の基本、法定耐用年数を超えたときに起こり得るリスクとその対処法などを解説します。
木造アパートの法定耐用年数
まずは、法定耐用年数とはどのようなもので、木造アパートにおける年数はどれくらいなのか見ていきましょう。
法定耐用年数とは
法定耐用年数とは、建物や建物付属設備などの減価償却資産について、その資産が問題なく使える期間として法律で定められた年数のことです。建物は常に風雨にさらされており、年月を経るごとに劣化していきます。よって、建物は新築時の価値が最も高く、築年数が経過するほど価値は減少していくという考え方になるのです。
法定耐用年数が用いられるのは減価償却費を計算する場面です。減価償却とは、対象資産の取得にかかった費用を取得時に一括計上するのではなく、一定の期間で分割して計上する会計処理のことをいいます。建物や建物付属設備の場合、取得費用を法定耐用年数(中古の場合は残存耐用年数)で割って、1年ごとに同額ずつを経費計上(定額法といいます)します。
法定耐用年数は減価償却資産の種類や構造、用途によって個別に指定されており、勝手に変更することはできません。
木造アパートと鉄骨アパートの法定耐用年数の違い
建物においては、木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造などの骨材や構造の種類、住居用・事務所用といった建物用途によって、それぞれ法定耐用年数が定められています。アパートに関連する資産項目の耐用年数を抜粋して紹介しましょう。
構造 | 用途 | 耐用年数(年) | |
---|---|---|---|
木造 | 事務所 | 24 | |
店舗、住宅 | 22 | ||
飲食店 | 20 | ||
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 事務所 | 50 | |
住宅 | 47 | ||
飲食店 (延べ面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの) |
34 | ||
その他のもの | 41 | ||
店舗 | 39 | ||
鉄骨造 | 事務所(骨格材の肉厚が) | 4㎜を超えるもの | 38 |
30 | |||
3㎜を超え、4㎜以下のもの | |||
3㎜以下のもの | 22 | ||
店舗、住宅 | 4㎜を超えるもの | 34 | |
3㎜を超え、4㎜以下のもの | 27 | ||
3㎜以下のもの | 19 | ||
飲食店、車庫 | 4㎜を超えるもの | 31 | |
3㎜を超え、4㎜以下のもの | 25 | ||
3㎜以下のもの | 19 |
【参考】国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」2024年4月1日現在
アパートの多くは木造または鉄骨造です。上の表を確認すると、新築時の木造アパートの耐用年数は22年、鉄骨造アパートの耐用年数は使用される鋼材の厚さによって19〜34年となっています。
耐用年数と実際の寿命は異なる
建物は法定耐用年数を迎えたからといって、すぐに寿命を迎えるわけではありません。築25年を超える木造アパートは世の中にいくらでも流通しており、耐用年数を超えた物件=賃貸経営に向かない物件というわけではないのです。
法定耐用年数は一定ですが、寿命はメンテナンスを適切に行い、正しい使い方をしていれば伸ばすことができます。実際、木造アパートをしっかり管理しながら運用した場合、50〜60年程度は使い続けられるといわれています。
このように、建物の寿命は法定耐用年数より長いケースが大半です。
土地に耐用年数はない
不動産投資の基本として押さえておきたいのが、土地には耐用年数がないということです。
法定耐用年数は減価償却に用いるものであり、減価償却資産は「経年によって価値が目減りする」ことが前提です。土地は建物のように経年劣化するわけではないので、経年による価値の目減りはありません。よって、耐用年数は設定されず、減価償却費を計上することもできません。
中古木造アパートの残存耐用年数
新築木造アパートの1年ごとの減価償却費は、取得価格を法定耐用年数22年で割ることによって求められます。これに対し、中古木造アパートでは築年数を考慮した「残存耐用年数」を使って減価償却する必要があります。 続いては、中古木造アパートにおける残存耐用年数とはどのようなもので、どうやって計算するのかを見ていきましょう。
残存耐用年数とは
中古物件はすでに風雨にさらされ、劣化しはじめている物件と考えられるため、新築物件と同じ法定耐用年数は適用できません。そのため、中古物件の場合は、築年数に応じた残存耐用年数で取得価格を割り、1年ごとの減価償却費を計算します。
このあと計算方法を紹介しますが、法定耐用年数を超過した中古木造アパートでも一定の耐用年数があると評価されるため、残存価値を一度に全額経費として計上できるわけではありません。
中古木造アパートの残存耐用年数の計算方法
本来は残りの使用可能期間を見積もるのが原則ですが(見積法)、使用可能期間の見積もりが困難な場合には「簡便法」を用いることが認められています。中古アパートも簡便法を用いて計算するのが基本です。
中古木造アパートの残存耐用年数は、築年数が耐用年数を超過しているか否かで計算方法が変わってきます。それぞれの計算方法は次のとおりです。
築22年以内の場合 | 法定耐用年数22年 − 築年数 +(築年数 × 20%) |
---|---|
築22年を超える場合 | 法定耐用年数22年 × 20%(=4年) ※1年未満の端数がある場合は切り捨て |
参考:国税庁「No.5404 中古資産の耐用年数」2024年4月1日現在
たとえば、築15年の中古木造アパートを取得した場合の耐用年数を計算すると、「22年 – 15年 +(15年 × 20%)」=10年となります。
一方、築25年の場合は上記の表のとおり4年です。中古木造アパートは築年数にかかわらず、必ず残存耐用年数が4年以上になるといえます。
耐用年数を超えた場合のアパート経営上のリスク
新築にしても中古にしてもアパート経営を続けていれば、やがて耐用年数を超えるタイミングがやってきます。耐用年数を超過すると、アパート経営上どのようなリスクが想定されるのでしょうか。以下では、代表的な4つのリスクについて解説します。
減価償却による節税ができなくなる
減価償却期間を超えると減価償却ができなくなるため、節税効果がなくなり、所得税や住民税が高くなってしまいます。
減価償却期間中は減価償却費を毎年経費として計上できます。不動産所得は損益通算ができるため、減価償却費によって赤字になれば、その分、課税所得を圧縮できます。結果として、その期間にかかる所得税や住民税を節税する効果があるのです。
減価償却期間を過ぎた物件では、減価償却費を経費として計上できなくなり、その結果、課税所得が増加し、所得税や住民税の負担が増える可能性があります。
特に、減価償却が終わってもローンの返済が続いている場合、税負担が増えることで、手元に残る現金が同じか、それ以下になることも考えられます。この点を考慮したうえで、物件の収支プランをしっかりと立てておきましょう。
不動産投資における減価償却に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【おすすめ関連記事】不動産投資の減価償却とは?計算方法と税金が安くなる仕組みを解説
金融機関からの融資が受けづらくなる
新たなローンを組みにくくなるのも、法定耐用年数を超えることのリスクと考えられます。賃貸アパートに活用する目的で組む「アパートローン」は、対象物件の残存耐用年数をベースに融資期間を決めるのが一般的です。よって、法定耐用年数を超えている物件は、新たな融資を受けるのが難しくなります。
新規のローンが組めないと、修繕やリフォームを行うにしてもオーナーの自己資金で賄わなければなりません。年数を重ねて修繕箇所が増えてきているのであれば、建て替えも視野に入れる必要があるでしょう。
なお、物件の立地や融資を依頼する金融機関によっては、法定耐用年数を超えていても融資を受けられるケースもあります。
売却が難しくなる
法定耐用年数を超過した木造アパートは、オーナーだけでなく購入希望者もローンを組むのが難しくなります。物件を購入するには自己資金を用意しなければならないので、売りに出したとしてもなかなか買い手がつかない可能性も高くなっていくでしょう。 アパート経営を含む不動産投資では、出口戦略をどう描くかが重要です。最終的に物件を売却する前提で考えるなら、残存耐用年数を考慮して物件を選ぶ必要があります。
リフォームや建て替えが必要になる
法定耐用年数を超える木造アパートは築年数が経過しているため、賃貸物件としての競争力を維持するにはリフォームやリノベーションが必要になります。大きな費用がかかるので、更新後は家賃をアップして早期に投資金を回収したいところです。
しかし、内外装や設備を一新しても、周辺の新築物件と同等の家賃設定で入居者が見つかるとは考えにくく、期待しているほど家賃水準は上がらないかもしれません。
リフォーム・リノベーションでの改善が難しい場合、建て替えを検討するのも有効です。ただし、現在の入居者の退去交渉をどうするか、建て替え費用の調達をどうするかなど、考えなければならない課題は多いでしょう。
木造アパートが耐用年数を超えたときの対処法5選
所有する木造アパートが耐用年数を超えたとき、どのような対処法が考えられるのでしょうか。主な5つの方法を紹介します。
(1)建物の定期的なメンテナンスをしっかり行う
できるだけ費用を抑えながらアパート経営を続けていくには、定期的かつこまめにメンテナンスを行うのが有効です。
設備の故障や内装の劣化など、現在の入居者の生活に影響があるものには迅速に対応し、入居者が少しでも長く住み続けてくれるように努めましょう。退去発生時は、入居者がいる状態ではできなかった修繕をまとめて実施することで、新たな入居者がつきやすくなります。
ただ、この方法は延命措置に過ぎず、物件が古くなっている以上、将来的な家賃や競争力の低下は避けられません。資金調達の目途がつくまでの一時的な措置としてとらえ、準備が整ったら建て替えなどを検討するのがおすすめです。
(2)リノベーションを行う
リノベーションを実施して、競争力や家賃を維持するという方法も考えられます。
特に、木造軸組工法で建てられたアパートは構造的に壁が取り払いやすいため、間取り変更なども比較的自由に行えるのがメリットです。2×4(ツーバイフォー)工法のアパートは撤去できる壁が制限されるものの、構造上問題ない壁であれば取り払える可能性があります。
間取りや内装・設備をトレンドのスタイルに見直せば、これまでターゲットにならなかったような顧客層にもアプローチできるかもしれません。リノベーションの内容次第では、新築物件並みの家賃でも入居者がつく可能性もあります。
ただし、リノベーションは大きな費用がかかるうえ、入居者が退去したタイミングでないと実施できません。投資分を回収できるのか、しっかりシミュレーションしたうえで実施するかどうか判断しましょう。
(3)新築アパートに建て替える
資金調達や自己資金の見込みがあるなら、建て替えて新築アパートとして経営をリスタートするのがおすすめです。安定した賃貸ニーズがあるエリアなら、新築で募集をかければ入居者も集まりやすくなります。
また、法定耐用年数22年として新たに減価償却期間が始まるので、引き続き節税効果の恩恵を受けることもできるでしょう。
全室が空室になっている場合や定期建物賃貸借契約の場合を除き、建て替えるには元入居者の立ち退き交渉が必要となります。立ち退き交渉が難航することも想定されるため、早めに不動産投資会社などへ相談しましょう。
(4)オーナーチェンジ物件としてそのまま売却する
「耐用年数を超えると売却しづらくなる」と紹介しましたが、建物の価値はゼロでも、土地を担保にすれば少額なら融資を受けられる可能性があります。土地代だけで価格設定しておけば、買い手がつく可能性もあるでしょう。
建物ごと売却すれば、現在の入居者をそのまま引き継ぐことができます。こうした物件は「オーナーチェンジ物件」と呼ばれ、一定の家賃収入を確保した状態で購入できるため、買い手にとってもメリットは大きいのです。
(5)更地にする
そもそもエリアの賃貸ニーズが低下してきている場合や、ほかの用途に転用したほうが安定収入を見込める場合などは、思い切って更地にしてしまうのも一つの方法です。
更地は自分で活用してもいいですし、第三者に売却しても構いません。築年数の古い木造アパートが建っている土地よりも更地のほうが柔軟に活用できるので、買い手もつきやすくなるでしょう。
ただし、建物の解体費や整地にかかる費用は売り手側の負担となるため、注意が必要です。
リノベーションを行った場合には資本的支出に注意を
リフォームやリノベーションを行った場合、その費用の一部が「資本的支出」となり、新たに減価償却費を計上できるようになるかもしれません。
資本的支出とは、対象資産の価値を向上したり使用可能期間を延ばしたりするのに費やした金額のことです。高性能な住宅設備への更新、間取り変更などは資本的支出に該当するとされ、工事を行った年以降、費用を毎年減価償却できるようになります。
このときの減価償却期間は、資本的支出が建物の時価の50%を超える場合、 資本的支出を行った資産の法定耐用年数と同等とされているので、木造アパートであれば22年です。対処法を検討する際は、この点も考慮して最適な方法を選ぶとよいでしょう。
不動産投資における修繕費と資本的支出の違いの詳細は、こちらの記事をご覧ください。
【おすすめ関連記事】不動産投資の修繕費と資本的支出の違いがわかる判断基準とフローチャート
まとめ
木造アパートの法定耐用年数は22年です。法定耐用年数を超えても建物自体はまだ問題なく使えるケースがほとんどですが、アパート経営に関してはさまざまなリスクが想定されます。今回紹介した5つの対処法を参考に、所有する木造アパートが古くなってきたときの出口戦略を事前に検討しておきましょう。
ベルテックスでは、不動産投資の専門家による無料オンラインセミナーを開催しています。ご自宅からオンラインでご参加いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事を監修した人
宮川 真一
税理士 税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表
岐阜県大垣市出身。一橋大学商学部を1996年に卒業後、1997年より税理士としてのキャリアをスタート。25年以上の経験を持ち、税務や財務に関する深い知識を生かし、1級FP技能士、CFP®、宅地建物取引士資格も取得。企業の取締役や監査役としても幅広く活躍し、財務コンサルティングや資産管理のエキスパートとして信頼を集めている。
この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。
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- 減価償却
- 計算
木造アパートの耐用年数という場合、一般的に木造アパートの「法定耐用年数」のことを指します。法定耐用年数は減価償却期間の計算に用いるもので、賃貸経営における収支に大きく関わる大切な要素です。 法定耐用年数が過ぎたたからといって建物が使えなくなるわけではなく、「法定耐用年数=寿命」ではありません。とはいえ、法定耐用年数を超えると賃貸経営上のリスクが存在するのも事実です。
この記事では、これからアパート経営を始める方や始めたばかりの方に向けて、木造アパートにまつわる法定耐用年数の基本、法定耐用年数を超えたときに起こり得るリスクとその対処法などを解説します。
木造アパートの法定耐用年数
まずは、法定耐用年数とはどのようなもので、木造アパートにおける年数はどれくらいなのか見ていきましょう。
法定耐用年数とは
法定耐用年数とは、建物や建物付属設備などの減価償却資産について、その資産が問題なく使える期間として法律で定められた年数のことです。建物は常に風雨にさらされており、年月を経るごとに劣化していきます。よって、建物は新築時の価値が最も高く、築年数が経過するほど価値は減少していくという考え方になるのです。
法定耐用年数が用いられるのは減価償却費を計算する場面です。減価償却とは、対象資産の取得にかかった費用を取得時に一括計上するのではなく、一定の期間で分割して計上する会計処理のことをいいます。建物や建物付属設備の場合、取得費用を法定耐用年数(中古の場合は残存耐用年数)で割って、1年ごとに同額ずつを経費計上(定額法といいます)します。
法定耐用年数は減価償却資産の種類や構造、用途によって個別に指定されており、勝手に変更することはできません。
木造アパートと鉄骨アパートの法定耐用年数の違い
建物においては、木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造などの骨材や構造の種類、住居用・事務所用といった建物用途によって、それぞれ法定耐用年数が定められています。アパートに関連する資産項目の耐用年数を抜粋して紹介しましょう。
構造 | 用途 | 耐用年数(年) | |
---|---|---|---|
木造 | 事務所 | 24 | |
店舗、住宅 | 22 | ||
飲食店 | 20 | ||
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 事務所 | 50 | |
住宅 | 47 | ||
飲食店 (延べ面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの) |
34 | ||
その他のもの | 41 | ||
店舗 | 39 | ||
鉄骨造 | 事務所(骨格材の肉厚が) | 4㎜を超えるもの | 38 |
30 | |||
3㎜を超え、4㎜以下のもの | |||
3㎜以下のもの | 22 | ||
店舗、住宅 | 4㎜を超えるもの | 34 | |
3㎜を超え、4㎜以下のもの | 27 | ||
3㎜以下のもの | 19 | ||
飲食店、車庫 | 4㎜を超えるもの | 31 | |
3㎜を超え、4㎜以下のもの | 25 | ||
3㎜以下のもの | 19 |
【参考】国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」2024年4月1日現在
アパートの多くは木造または鉄骨造です。上の表を確認すると、新築時の木造アパートの耐用年数は22年、鉄骨造アパートの耐用年数は使用される鋼材の厚さによって19〜34年となっています。
耐用年数と実際の寿命は異なる
建物は法定耐用年数を迎えたからといって、すぐに寿命を迎えるわけではありません。築25年を超える木造アパートは世の中にいくらでも流通しており、耐用年数を超えた物件=賃貸経営に向かない物件というわけではないのです。
法定耐用年数は一定ですが、寿命はメンテナンスを適切に行い、正しい使い方をしていれば伸ばすことができます。実際、木造アパートをしっかり管理しながら運用した場合、50〜60年程度は使い続けられるといわれています。
このように、建物の寿命は法定耐用年数より長いケースが大半です。
土地に耐用年数はない
不動産投資の基本として押さえておきたいのが、土地には耐用年数がないということです。
法定耐用年数は減価償却に用いるものであり、減価償却資産は「経年によって価値が目減りする」ことが前提です。土地は建物のように経年劣化するわけではないので、経年による価値の目減りはありません。よって、耐用年数は設定されず、減価償却費を計上することもできません。
中古木造アパートの残存耐用年数
新築木造アパートの1年ごとの減価償却費は、取得価格を法定耐用年数22年で割ることによって求められます。これに対し、中古木造アパートでは築年数を考慮した「残存耐用年数」を使って減価償却する必要があります。 続いては、中古木造アパートにおける残存耐用年数とはどのようなもので、どうやって計算するのかを見ていきましょう。
残存耐用年数とは
中古物件はすでに風雨にさらされ、劣化しはじめている物件と考えられるため、新築物件と同じ法定耐用年数は適用できません。そのため、中古物件の場合は、築年数に応じた残存耐用年数で取得価格を割り、1年ごとの減価償却費を計算します。
このあと計算方法を紹介しますが、法定耐用年数を超過した中古木造アパートでも一定の耐用年数があると評価されるため、残存価値を一度に全額経費として計上できるわけではありません。
中古木造アパートの残存耐用年数の計算方法
本来は残りの使用可能期間を見積もるのが原則ですが(見積法)、使用可能期間の見積もりが困難な場合には「簡便法」を用いることが認められています。中古アパートも簡便法を用いて計算するのが基本です。
中古木造アパートの残存耐用年数は、築年数が耐用年数を超過しているか否かで計算方法が変わってきます。それぞれの計算方法は次のとおりです。
築22年以内の場合 | 法定耐用年数22年 − 築年数 +(築年数 × 20%) |
---|---|
築22年を超える場合 | 法定耐用年数22年 × 20%(=4年) ※1年未満の端数がある場合は切り捨て |
参考:国税庁「No.5404 中古資産の耐用年数」2024年4月1日現在
たとえば、築15年の中古木造アパートを取得した場合の耐用年数を計算すると、「22年 – 15年 +(15年 × 20%)」=10年となります。
一方、築25年の場合は上記の表のとおり4年です。中古木造アパートは築年数にかかわらず、必ず残存耐用年数が4年以上になるといえます。
耐用年数を超えた場合のアパート経営上のリスク
新築にしても中古にしてもアパート経営を続けていれば、やがて耐用年数を超えるタイミングがやってきます。耐用年数を超過すると、アパート経営上どのようなリスクが想定されるのでしょうか。以下では、代表的な4つのリスクについて解説します。
減価償却による節税ができなくなる
減価償却期間を超えると減価償却ができなくなるため、節税効果がなくなり、所得税や住民税が高くなってしまいます。
減価償却期間中は減価償却費を毎年経費として計上できます。不動産所得は損益通算ができるため、減価償却費によって赤字になれば、その分、課税所得を圧縮できます。結果として、その期間にかかる所得税や住民税を節税する効果があるのです。
減価償却期間を過ぎた物件では、減価償却費を経費として計上できなくなり、その結果、課税所得が増加し、所得税や住民税の負担が増える可能性があります。
特に、減価償却が終わってもローンの返済が続いている場合、税負担が増えることで、手元に残る現金が同じか、それ以下になることも考えられます。この点を考慮したうえで、物件の収支プランをしっかりと立てておきましょう。
不動産投資における減価償却に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【おすすめ関連記事】不動産投資の減価償却とは?計算方法と税金が安くなる仕組みを解説
金融機関からの融資が受けづらくなる
新たなローンを組みにくくなるのも、法定耐用年数を超えることのリスクと考えられます。賃貸アパートに活用する目的で組む「アパートローン」は、対象物件の残存耐用年数をベースに融資期間を決めるのが一般的です。よって、法定耐用年数を超えている物件は、新たな融資を受けるのが難しくなります。
新規のローンが組めないと、修繕やリフォームを行うにしてもオーナーの自己資金で賄わなければなりません。年数を重ねて修繕箇所が増えてきているのであれば、建て替えも視野に入れる必要があるでしょう。
なお、物件の立地や融資を依頼する金融機関によっては、法定耐用年数を超えていても融資を受けられるケースもあります。
売却が難しくなる
法定耐用年数を超過した木造アパートは、オーナーだけでなく購入希望者もローンを組むのが難しくなります。物件を購入するには自己資金を用意しなければならないので、売りに出したとしてもなかなか買い手がつかない可能性も高くなっていくでしょう。 アパート経営を含む不動産投資では、出口戦略をどう描くかが重要です。最終的に物件を売却する前提で考えるなら、残存耐用年数を考慮して物件を選ぶ必要があります。
リフォームや建て替えが必要になる
法定耐用年数を超える木造アパートは築年数が経過しているため、賃貸物件としての競争力を維持するにはリフォームやリノベーションが必要になります。大きな費用がかかるので、更新後は家賃をアップして早期に投資金を回収したいところです。
しかし、内外装や設備を一新しても、周辺の新築物件と同等の家賃設定で入居者が見つかるとは考えにくく、期待しているほど家賃水準は上がらないかもしれません。
リフォーム・リノベーションでの改善が難しい場合、建て替えを検討するのも有効です。ただし、現在の入居者の退去交渉をどうするか、建て替え費用の調達をどうするかなど、考えなければならない課題は多いでしょう。
木造アパートが耐用年数を超えたときの対処法5選
所有する木造アパートが耐用年数を超えたとき、どのような対処法が考えられるのでしょうか。主な5つの方法を紹介します。
(1)建物の定期的なメンテナンスをしっかり行う
できるだけ費用を抑えながらアパート経営を続けていくには、定期的かつこまめにメンテナンスを行うのが有効です。
設備の故障や内装の劣化など、現在の入居者の生活に影響があるものには迅速に対応し、入居者が少しでも長く住み続けてくれるように努めましょう。退去発生時は、入居者がいる状態ではできなかった修繕をまとめて実施することで、新たな入居者がつきやすくなります。
ただ、この方法は延命措置に過ぎず、物件が古くなっている以上、将来的な家賃や競争力の低下は避けられません。資金調達の目途がつくまでの一時的な措置としてとらえ、準備が整ったら建て替えなどを検討するのがおすすめです。
(2)リノベーションを行う
リノベーションを実施して、競争力や家賃を維持するという方法も考えられます。
特に、木造軸組工法で建てられたアパートは構造的に壁が取り払いやすいため、間取り変更なども比較的自由に行えるのがメリットです。2×4(ツーバイフォー)工法のアパートは撤去できる壁が制限されるものの、構造上問題ない壁であれば取り払える可能性があります。
間取りや内装・設備をトレンドのスタイルに見直せば、これまでターゲットにならなかったような顧客層にもアプローチできるかもしれません。リノベーションの内容次第では、新築物件並みの家賃でも入居者がつく可能性もあります。
ただし、リノベーションは大きな費用がかかるうえ、入居者が退去したタイミングでないと実施できません。投資分を回収できるのか、しっかりシミュレーションしたうえで実施するかどうか判断しましょう。
(3)新築アパートに建て替える
資金調達や自己資金の見込みがあるなら、建て替えて新築アパートとして経営をリスタートするのがおすすめです。安定した賃貸ニーズがあるエリアなら、新築で募集をかければ入居者も集まりやすくなります。
また、法定耐用年数22年として新たに減価償却期間が始まるので、引き続き節税効果の恩恵を受けることもできるでしょう。
全室が空室になっている場合や定期建物賃貸借契約の場合を除き、建て替えるには元入居者の立ち退き交渉が必要となります。立ち退き交渉が難航することも想定されるため、早めに不動産投資会社などへ相談しましょう。
(4)オーナーチェンジ物件としてそのまま売却する
「耐用年数を超えると売却しづらくなる」と紹介しましたが、建物の価値はゼロでも、土地を担保にすれば少額なら融資を受けられる可能性があります。土地代だけで価格設定しておけば、買い手がつく可能性もあるでしょう。
建物ごと売却すれば、現在の入居者をそのまま引き継ぐことができます。こうした物件は「オーナーチェンジ物件」と呼ばれ、一定の家賃収入を確保した状態で購入できるため、買い手にとってもメリットは大きいのです。
(5)更地にする
そもそもエリアの賃貸ニーズが低下してきている場合や、ほかの用途に転用したほうが安定収入を見込める場合などは、思い切って更地にしてしまうのも一つの方法です。
更地は自分で活用してもいいですし、第三者に売却しても構いません。築年数の古い木造アパートが建っている土地よりも更地のほうが柔軟に活用できるので、買い手もつきやすくなるでしょう。
ただし、建物の解体費や整地にかかる費用は売り手側の負担となるため、注意が必要です。
リノベーションを行った場合には資本的支出に注意を
リフォームやリノベーションを行った場合、その費用の一部が「資本的支出」となり、新たに減価償却費を計上できるようになるかもしれません。
資本的支出とは、対象資産の価値を向上したり使用可能期間を延ばしたりするのに費やした金額のことです。高性能な住宅設備への更新、間取り変更などは資本的支出に該当するとされ、工事を行った年以降、費用を毎年減価償却できるようになります。
このときの減価償却期間は、資本的支出が建物の時価の50%を超える場合、 資本的支出を行った資産の法定耐用年数と同等とされているので、木造アパートであれば22年です。対処法を検討する際は、この点も考慮して最適な方法を選ぶとよいでしょう。
不動産投資における修繕費と資本的支出の違いの詳細は、こちらの記事をご覧ください。
【おすすめ関連記事】不動産投資の修繕費と資本的支出の違いがわかる判断基準とフローチャート
まとめ
木造アパートの法定耐用年数は22年です。法定耐用年数を超えても建物自体はまだ問題なく使えるケースがほとんどですが、アパート経営に関してはさまざまなリスクが想定されます。今回紹介した5つの対処法を参考に、所有する木造アパートが古くなってきたときの出口戦略を事前に検討しておきましょう。
ベルテックスでは、不動産投資の専門家による無料オンラインセミナーを開催しています。ご自宅からオンラインでご参加いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事を監修した人
宮川 真一
税理士 税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表
岐阜県大垣市出身。一橋大学商学部を1996年に卒業後、1997年より税理士としてのキャリアをスタート。25年以上の経験を持ち、税務や財務に関する深い知識を生かし、1級FP技能士、CFP®、宅地建物取引士資格も取得。企業の取締役や監査役としても幅広く活躍し、財務コンサルティングや資産管理のエキスパートとして信頼を集めている。
この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。