2024.06.04

不動産投資のコツ

ベルテックスコラム事務局

不動産投資の修繕費と資本的支出の違いがわかる判断基準とフローチャート

  • 修繕
  • 賃貸管理
  • 不動産投資

不動産投資では、所有している建物やそれに附随する住宅設備の修繕・交換が必要な場合があります。この際にかかった費用は、内容によって「修繕費」と「資本的支出」に分けられます。

「修繕費」は、経年劣化(時間の経過)による傷みや壊れた部分を元の状態に戻すための費用です。かかった費用は、その年の経費として計上できます。一方、「資本的支出」は資産価値を向上させる、耐久性を高めるなど、物件や設備の価値を高めるものです。

不動産投資の初心者は「修繕費」と「資本的支出」の違いがわからず、記帳の際などに迷うことが多いでしょう。この記事では、「修繕費」と「資本的支出」の判断基準、両者の違い、具体的な項目などについて詳しく解説します。

フローチャートで解説する箇所もありますので、「難しいのは苦手」という人でもスムーズにご理解いただけるはずです。

修繕費と基本的支出の具体的な項目例は?

まずは具体的な項目を挙げながら、不動産投資の「修繕費」と「資本的支出」の違いについて整理していきましょう。

原状回復のための修繕:修繕費

物件を元の物件の状態に戻すための原状回復工事、または物件を現状維持させるための工事は、修繕費となります。

修繕費に相当する工事としては、以下のようなものがあります。

  • 外壁塗装
  • 退去時の原状回復工事全般
  • ルームクリーニング費用
  • エアコンクリーニング費用
  • 現状維持または原状回復するための防水工事
  • ベランダの手すり部分などへのペンキ塗り替え
  • 床や壁の壊れた部分の取替・畳みの表替え
  • 障子・ふすま・網戸の張替え
  • ドア・トイレ・キッチン・換気扇などのトラブル修理
  • 部屋の単純な改装工事
  • 法令に沿った消火器の交換・消火栓取替

ただし、工事前の物件の状態、工事のタイミングや程度などにより、オーナーが修繕のつもりで行った工事だとしても資本的支出とみなされるケースもあります。

基本的に修繕は、物件の原状回復または現状維持が目的なので、畳の部屋をフローリングに変更した場合などは修繕とみなされません。

確実に修繕費としてみなしてもらうためには、税務署からの細かなチェックが入ることを前提として、修繕を行う前に税理士などに内容を確認してから進めることが望ましいでしょう。

資産価値を高めるための修繕:資本的支出

工事を行った結果、物件が以下の要件に当てはまる場合は、修繕費ではなく資本的支出となります。

  • 物件設備の機能がグレードアップした(工事前にできなかったことができるようになる)
  • 元の状態よりも明らかに設備仕様・機能などの価値が上がった
  • 工事をしたことで、物件の使用可能期間が長くなった

つまり、「その工事をすることにより、明らかに購入当時よりも、物件価値が上昇した工事」は、全て資本的支出となります。

資本的支出の具体例としては以下のようなものがあります。

  • 外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更
  • 大がかりな間取り変更
  • 非常階段・ハシゴなどの新規取付
  • 部屋の用途を変更するための模様替え
  • システムキッチンの交換
  • ユニットバス交換
  • エアコン・給湯機の交換
  • お風呂に追い炊き機能を追加
  • 普通の便器から、温水洗浄便座への交換
  • 部屋の壁紙をグレードアップ
  • 床を畳からフローリングへ変更

工事の過程で、古いものを撤去して新しいものに取り換えたなど、物件に新しい資産がプラスされたと考えられる工事が、資本的支出となります。

修繕費・資本的支出の判断基準とフローチャート

次に、不動産投資の「修繕費」と「資本的支出」の判断基準について解説します。

多くの場合は顧問税理士が適切な仕訳をしてくれると思いますが、健全経営のためにはオーナー自身が「修繕費」と「資本的支出」の判断基準を理解していることが重要です。物件オーナーがご自身で「修繕費にあたるかどうか」を判断する場合は、以下のフローチャートに沿って、01〜07の基準に当てはめながら適切に判定しましょう。

基準01:支出額が20万円未満か否か?修繕費

1つ目の判断基準は、「その修繕や設備交換などに関する支出が20万円未満か」です。支出が20万円未満なら、修繕費として扱います。

ただし、一つ工事の合計金額が20万円未満であることが条件となるので、費用を分割支払いした結果、一回の支払額が20万円未満になったケースは該当しません。

支出が20万円以上なら、後述の基準2以下に当てはめて判断します。

基準02:約おおむね3年以内の周期で定期的に支出しているか否か?

基準1に当てはまらなかった20万円以上の支出でも、おおむね3年以内の周期で支出している場合は修繕費として経費計上します。この「おおむね3年以内の周期」というのは、一物件に対して個別の実績が評価されるため、過去に物件Aに対し2~3年に一度、同じような工事を繰り返した場合、その工事は修繕費とみなしても問題がありません。

初めて購入した部材などの場合で、交換周期がおおむね3年以内なのかどうかわからない場合は、仕入業者に一般的な耐用年数や交換頻度を確認とよいでしょう。

基準03:明らかに資産価値または物件価格が向上しているか?

基準1と2に当てはまらなかった場合でも、「明らかに資産価値または物件価格が向上しているか?」という問いに対する回答が「はい」であれば、その費用は「資本的支出」として扱います。

逆に、「明らかに原状回復または現状維持のための支出か?」という問いに対する回答が「はい」であれば、その費用は「修繕費」とします。また、災害で被害を受けた建物や住宅設備を元に戻すための支出も「修繕費」として扱います。

基準04・05:費用が60万円未満または前期未取得価値の10%以下か?

基準01〜03に当てはまらなかった支出で、以下のいずれかに当てはまるものは修繕費として扱います。
・ 支出額が60万円以下である
・ 前期物件取得額1割以下である

基準06・07:その他の基準

01〜05までの基準で、大半の支出が「修繕費」または「資本的支出」に分けられたと思います。それでも分けられない項目については、継続下区分割合を採用していて以下のいずれかに該当する場合は「修繕費」として扱います。

・ 支出額の30%相当額である
・ 取得額1割のうち少ない方である
 

修繕費と資本的支出の違い

不動産経営をすれば所得が発生して税金がかかるので、節税という観点からみると、かかった費用を修繕費にできるか、資本的支出になるかで大きな違いが生まれます。修繕費と資本的支出は、経理上の処理も違います。

修繕費は一括費用計上

修繕費は、支出をした年度に、不動産経営の必要経費として全額を経費にできます。経費になれば、賃料収入から工事費の全額を差し引けるので、所得税や住民税の課税対象額が減り、節税しやすくなります。

修繕費の注意点は、修理を発注して事前支払を終えていたとしても、工事が完了していないと経費計上ができない点です。

工事期間が長いタイプのもの、例えば、範囲の広い改修工事・複数回に及ぶ工事が一工程となっている場合、その年に経費計上したいのであれば、年内に工事が完了している必要があります。年内に工事を完了させるためには、事前のスケジュール調整が必要になります。

税務署に指摘されずに、確実にその年の修繕費として計上するには、工事担当者からの見積書・請求書・領収証以外にも、工事計画書・完了報告書など、工事のスケジュールと完了時期を証明できるものを複数用意しておくとよいでしょう。

資本的支出は減価償却

資本的支出は、一旦、資産として計上してから、減価償却費として毎年、耐用年数に応じた金額を計上していくことになります。

減価償却とは「年月が経つことによって劣化したり性能が落ちたりして、その価値が少しずつ減っていくタイプの資産は、毎年一定額や一定の割合で、分割して費用にしましょう」という会計上の考え方です。

減価償却をする際は、法律で定められている「法定耐用年数」の基準をもとに、品目ごとに対処をしていきます。注意すべきなのは、資本的支出による耐用年数は、原則として資産本体(物件本体)と同じ耐用年数で償却をしなければならないという決まりがある点です。

例えば、鉄筋コンクリート造マンションの法定耐用年数は47年です。このマンションに一区画の物件を持ち、工事代金が1,000万円だった場合でシミュレーションしてみましょう。

この工事費用1,000万円は、新たな資産価値をプラスするためのものとみなされますので、法定耐用年で分割した金額を、毎年、減価償却をしながら、価値を減少させていくことになります。

オーナーは、修理をした年には1,000万円分の修理費を支払済ですが、その年に経費として計上できるのは、法定耐用年数で分割した金額(約20万円程度)のみになります。

大きな工事費を支払ったのにもかかわらず、経費として差し引行ける金額は、期待したほど大きくないため、不動産所得を減らすことができず、その年の税負担は大きくなる可能性があります。

税負担が大きくなれば、不動産経営のキャッシュフローは悪化することになります。ただし、資本的支出として計上をしても、経費として計上しても、トータルでかかった経費としての合計金額は同じです。

修繕費の方がその期での税金圧縮になる

節税目的であれば、修繕費として計上できる方が、圧倒的に節税効果は高くなります。また、全ての項目が修繕費にならなくても、かかった費用の一部だけ修繕費として適用されるケースもあります。修繕費の割合を地道に増やしていくことで、節税効果を高めることができます。

かかった費用を修繕費として確実に認めてもらうためには、適用の正確さが重要なので、以下のフローチャートを参考に、間違いのないように判断してください。

ご自身の判断に自信がない場合は、工事前に税理士などの税やお金の専門家に相談するとよいでしょう。

【参照元】国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」をもとに弊社作成

上記フローチャートでわかる通り、資本的支出は比較的、条件が明確なので間違えにくいのですが、修繕費はケースバイケースで判断することが多いため注意が必要です。

オーナーの判断で「これは修繕費にしよう」と思っていても、修繕費に該当しない場合は、確定申告後に税務署からチェックが入り、申告のやり直しをしなければならないケースもあります。

修繕費として扱うべきか資本的支出として扱うべきかを迷った場合は、⑤の金額で判断する方法を使います。支出額が60万円以下である、または前期物件取得額の1割以下の金額⑤ならば、修繕費になります。

それでもさらに区分が不明なケースがある場合は、⑦支出額の30%または取得額の1割のうち、少ない方を修繕費とし、残りを資本的支出として計上することもできます。

ただし、この方法は、一度選択した方法を継続することが前提となっているため、前回の工事で⑦を採択した場合は、次回の工事でも、⑦方法を選択する必要があります(⑥)。

今後も類似の工事を続ける可能性がある場合は、工事依頼をする前の段階で、税や経理の専門家に相談することが望ましいでしょう。

不動産投資における資本的支出に該当する項目

不動産投資・不動産経営をする上で、比較的よくある工事の中で、確実に資本的支出となる工事内容を紹介します。その内容を表にまとめると、以下のようになります。

項目

資本的支出に該当する項目 補足
外壁の交換 吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更 単純なデザイン変更の場合は修繕費になる
外壁塗装工事 塗装をグレードアップ 耐久性が向上するなら資本的支出になる
大がかりな間取り変更 リノベーション工事 間取り変更は物件価値の向上になる
部屋の用途を変更するための模様替え 用途変更のための模様替え 用途変更が目的であれば資本的支出になる
非常階段・ハシゴなどの新規取付 非常階段・ハシゴなどの新規取り付け 防災機能が向上するため資本的支出になる
システムキッチンの交換 システムキッチンの交換 同レベルのシステムキッチンへの交換は修繕費となる
ユニットバスの交換 ユニットバスの交換 同レベルのユニットバスへの交換は修繕費となる
エアコン・給湯器の交換 エアコン・給湯器の交換 10万円以下であれば消耗品費として一括計上できる
お風呂に追い炊き機能を追加 追い焚き機能の追加 浴室の部分交換でも内容によっては資本的支出になる
普通の便器から温水洗浄便座への交換 温水洗浄便座への交換 付加価値をプラスしているので資本的支出になる
部屋の壁紙をグレードアップ 機能性壁紙への交換 素材やデザイン変更が目的の場合は修繕費になる
床を畳からフローリングへ変更 フローリングへの交換 素材を変更しても物件価値が向上していなければ修繕費となる

個々の項目の詳細は、以下で解説しています。「なぜ、これが資本的支出となるのか」の説明もしていますので、読み進めていくうちに、自然と修繕費との違いが理解できるようになります。

外壁の交換

外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更をしたなど、外壁機能を上げるための工事は、資本的支出となります。

本来、外壁自体には、建物の機能を向上させるほどの力はないとみなされています。しかし、外壁を以前よりもグレードの高いものに交換することで、従前の防汚防水以上の効果が期待でき建物の耐久性が向上する場合、工事によって資産価値が向上したことになります。

同じ外壁を取り換えるのでも、外壁をオシャレなデザインのものに交換するなどの場合は、外壁の機能向上・耐久性向上にはならないため、修繕費となります。

外壁塗装工事

外壁塗装自体は防汚防水のためのものであり、物件機能を向上させるほどの力はありませんが、塗料の内容をグレードアップした場合には、資本的支出となります。

例えば、今までは通常の塗装をしていたけれども、今回からはフッ素塗料・光触媒塗装などの、ワンランク上の薬剤を使った塗料に変更したとします。

新しい塗料のコーティング力により、外壁に汚れ・コケ・カビなどがつきにくくなり、外観がキレイな状態が長持ちすることで、結果として建物の耐久性が向上することが明らかな場合は、物件の価値が上昇することになるので、資本的支出となります。

大がかりな間取り変更

世間一般で言われるフルリノベーションやリノベーション工事のことです。例えば、2DKを広い1LDK仕様に変更する間取り変更などは、室内の動線を良くし、利便性を上げることによって物件価値が明らかに向上します。

工事に伴い、当然、床材や壁紙なども変更されます。フルリノベーションの場合は、水回りを配管ごと変更します。これらの工事によって、物件の機能と資産価値そのものが刷新されて物件の耐久性が上がるので、資本的支出となります。

部屋の用途を変更するための模様替え

事務所だったものを一般の住居に変更するなど、物件を購入した時点での用途とは違う目的の物件に模様替えをする場合は、変更内容にかかわらず資本的支出となります。

フルリノベーションやリノベーションと同じ考え方ですが、こちらは、間取りではなく用途変更が主な目的となっており、用途変更は「修繕」に該当しないからです。

非常階段・ハシゴなどの新規取付

非常階段やハシゴなどがプラスされた場合は、建物全体の防災機能が向上するので、資本的支出となります。

システムキッチンの交換

システムキッチンを交換することにより、水回り配管などが物理的に変化し、キッチンの持つ機能自体が大きく向上します。

さらに、キッチンとその周辺機能の耐久性を高めることにより、物件の資産価値が向上するため、資本的支出となります。ただし、交換するシステムキッチンが従前に使っていたものと同レベルの場合は修繕費となります。

ユニットバスの交換

ユニットバスはその構造上、交換をすることにより、浴室全体が交換されたのと同じ意味を持ちます。また、ユニットバスを入れるためには、従前のユニットバス全体を取り壊して撤去してから、新しいユニットバスを設置しなければなりません。

その結果、物件に新しい価値の浴室が付加されたとみなされるため、物件価値が向上したことになり、資本的支出となります。

エアコン・給湯機の交換

エアコンや給湯機などを交換するには、古い設備を撤去してから、全く新しい設備を設置する必要があります。新しい設備を付加することにより、物件に対しても資産価値が付加されるとみなすため資本的支出となります。

ただし、エアコンや給湯機は10万円以下であれば消耗品費として一括計上できます。また一つの機器が30万円以下、総額300万円以下であれば、青色申告の方のみ、一括経費計上できる中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が適用できます。

お風呂に追い炊き機能を追加

浴室全体の交換をしたわけではないが、お風呂に従前にはなかった機能がプラスされることにより、明らかに物件価値が向上するため、資本的支出となります。

機能を付ける側からすると、あったほうが便利だろうが「なぜ資本的支出?」と不思議に思いますが、部屋を借りる立場に立つと理解しやすくなります。部屋を借りる入居希望者は、物件検索をする際に「追い炊き機能あり」のところにチェックを入れて検索します。

この機能が付加されることにより、少し賃料が高くなったとしても、追い炊き機能がない部屋よりも「明らかに借りる価値を感じる」のであれば、この物件には、元の状態よりも、資産的価値が付加されたことになります。よって、資本的支出となります。

普通の便器から、温水洗浄便座への交換

普通の便座を、温水洗浄便座に交換した場合は、元の便座を撤去してから、新しい便座を設置する必要があります。資本的支出の原則である「古いものを取り去り、新しい付加価値があるものを設置することにより、価値が上昇する」に該当するため、資本的支出になります。

部屋の壁紙をグレードアップ

室内の壁紙を、消臭効果のあるもの、防音効果のあるもの、防湿防カビ効果のあるもの、シックハウス対策の効果があるものなど、室内の機能を高める目的で交換した場合は、室内全体の機能がアップして物件の耐久性が向上するので、資本的支出となります。

ただし、交換する内容が、機能のない壁紙から機能のない布壁紙、色やデザインの良いものにする目的の場合は、修繕費となります。

床を畳からフローリングへ変更

和室仕様だった床を、フローリングに変更するための工事費は、もともとある畳を撤去してから、フローリングのための工事をして、新規に床材を引くことになります。そのため、物件に全く新しい価値を付加したことになりますので、資本的支出となります。

同じ床材を敷くのでも、例えば、オーク材から無垢材へ変更するなどの場合は、木材を変更することで物件の価値が向上したわけではないため、修繕費となります。

修繕費と資本的支出に関するよくある質問とその回答

不動産投資において「修繕費と資本的支出のどちらにするか」は、経験のある投資家でも迷うことがあります。そのため、初心者は両者の違いを繰り返し確認する必要があるでしょう。

修繕費と資本的支出のどちらかわからない金額がある場合は?

工事や設備交換などの内容をいくつかの判断基準に当てはめることで、修繕費と資本的支出のいずれかに分けることができます。主な判断基準は次のとおりです。
 
・ 支出が20万円未満か
・ おおむね3年以内の周期で支出しているか 
・ 明らかに原状回復または現状維持のための支出か
・ 費用が60万円未満または前期未取得価値の10%以下か など

上記のいずれか判断基準でも回答が「はい」であれば、「修繕費」となります。
大切なことは、修繕費と資本的支出のどちらに分類してよいかわからない費用があるからといって、何となく記帳しないことです。仕分けで迷ったら税理士に相談しましょう。

資本的支出の具体例は?

資本的支出となる工事の具体例としては、外壁を通常のものから機能性タイプに変更した工事、大がかりな間取り変更(リノベーション工事)、用途そのものを変更する目的の模様替えなどが挙げられます。

また、旧式の台所や浴室だったものを最新のシステムキッチンやユニットバスに入れ替え、機能性を向上させた場合も資本的支出となります。

さらに細かく見ていくと、浴室の一部の設備交換でも「足し湯」を「追い焚き」の機能に変更した場合は機能性が向上しているとみなされるため、資本的支出として扱う必要があるでしょう。また、通常の壁紙交換は修繕費となりますが、機能性壁紙を採用した場合は資本的支出となります。

修繕費の具体例は?

修繕費となる経費の具体例としては、外壁塗装、防水工事、ベランダの手すり部分のペンキ塗り替え、床や壁の壊れた部分の取り替え、畳の表替え、障子やふすまの張り替え、トイレやキッチンの不具合の修理、経年劣化で古くなった部分の改装工事などが挙げられます。

ただし、外壁塗装や防水工事を修繕費として扱えるのは、現状維持または原状回復を目的とした場合に限ります。同じ外壁塗装や防水工事でも、性能や耐久性を高める内容の場合は「資本的支出」になるので注意しましょう。

資本的支出とは何費ですか?

資本的支出は資産として一旦計上した上で、減価償却費としてその年度の分を毎年経費化していきます。減価償却とは、「年月が経つことによって資産価値が減少する資産を毎年一定額、または一定の割合で分割して費用にしていく」という会計上の方式のことです。

一般的に、建物附属設備(電気設備や給排水設備など)の法定耐用年数(減価償却できる期間)は15年です。不動産投資で設備交換を行った費用が「資本的支出」となった場合、かかった費用を15年かけて経費化していくことになります。

また、建物と一体化している部材などは、基本的に建物と同じ耐用年数で経費化していきます。

修繕費はいくらまで経費として認められますか?

以下のような支出について、国税庁ではその年分の必要経費として計上できるとしています。

・ おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良などであるとき、または一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき
・ 一つの修理、改良などの金額のうちに資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場合で、その金額が60万円未満のときまたはその資産の前年末の取得価額のおおむね10パーセント相当額以下であるとき

【引用】国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」より

上記に基づくと、「おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良など」については金額に関わらず修繕費として計上できるということになります。それ以外は「20万円未満」など、その他の基準に照らし合わせて判断します。
 

まとめ

不動産投資では、修繕費の経費計上と、資本的支出への仕訳が、不動産収入や税金に大きな影響を及ぼします。

修理修繕のつもりで工事をしたら、結果的に物件価値が高まってしまったため、修繕費ではなく資本的支出として減価償却をしなければならない場合もあるので注意しましょう。

修繕費と資本的支出の違いを正確に理解しておくことで、不動産経営を計画的に行うことができます。修繕工事は、年度によっては思った以上にかかることもあるので、フローチャートなどを使いながら、修繕費・資本的支出の仕分けをして計画前の段階で調査をしておくとよいでしょう。

ベルテックスでは不動産にまつわるリスクセミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。

2024.06.04

不動産投資のコツ

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不動産投資の修繕費と資本的支出の違いがわかる判断基準とフローチャート

  • 修繕
  • 賃貸管理
  • 不動産投資

不動産投資では、所有している建物やそれに附随する住宅設備の修繕・交換が必要な場合があります。この際にかかった費用は、内容によって「修繕費」と「資本的支出」に分けられます。

「修繕費」は、経年劣化(時間の経過)による傷みや壊れた部分を元の状態に戻すための費用です。かかった費用は、その年の経費として計上できます。一方、「資本的支出」は資産価値を向上させる、耐久性を高めるなど、物件や設備の価値を高めるものです。

不動産投資の初心者は「修繕費」と「資本的支出」の違いがわからず、記帳の際などに迷うことが多いでしょう。この記事では、「修繕費」と「資本的支出」の判断基準、両者の違い、具体的な項目などについて詳しく解説します。

フローチャートで解説する箇所もありますので、「難しいのは苦手」という人でもスムーズにご理解いただけるはずです。

修繕費と基本的支出の具体的な項目例は?

まずは具体的な項目を挙げながら、不動産投資の「修繕費」と「資本的支出」の違いについて整理していきましょう。

原状回復のための修繕:修繕費

物件を元の物件の状態に戻すための原状回復工事、または物件を現状維持させるための工事は、修繕費となります。

修繕費に相当する工事としては、以下のようなものがあります。

  • 外壁塗装
  • 退去時の原状回復工事全般
  • ルームクリーニング費用
  • エアコンクリーニング費用
  • 現状維持または原状回復するための防水工事
  • ベランダの手すり部分などへのペンキ塗り替え
  • 床や壁の壊れた部分の取替・畳みの表替え
  • 障子・ふすま・網戸の張替え
  • ドア・トイレ・キッチン・換気扇などのトラブル修理
  • 部屋の単純な改装工事
  • 法令に沿った消火器の交換・消火栓取替

ただし、工事前の物件の状態、工事のタイミングや程度などにより、オーナーが修繕のつもりで行った工事だとしても資本的支出とみなされるケースもあります。

基本的に修繕は、物件の原状回復または現状維持が目的なので、畳の部屋をフローリングに変更した場合などは修繕とみなされません。

確実に修繕費としてみなしてもらうためには、税務署からの細かなチェックが入ることを前提として、修繕を行う前に税理士などに内容を確認してから進めることが望ましいでしょう。

資産価値を高めるための修繕:資本的支出

工事を行った結果、物件が以下の要件に当てはまる場合は、修繕費ではなく資本的支出となります。

  • 物件設備の機能がグレードアップした(工事前にできなかったことができるようになる)
  • 元の状態よりも明らかに設備仕様・機能などの価値が上がった
  • 工事をしたことで、物件の使用可能期間が長くなった

つまり、「その工事をすることにより、明らかに購入当時よりも、物件価値が上昇した工事」は、全て資本的支出となります。

資本的支出の具体例としては以下のようなものがあります。

  • 外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更
  • 大がかりな間取り変更
  • 非常階段・ハシゴなどの新規取付
  • 部屋の用途を変更するための模様替え
  • システムキッチンの交換
  • ユニットバス交換
  • エアコン・給湯機の交換
  • お風呂に追い炊き機能を追加
  • 普通の便器から、温水洗浄便座への交換
  • 部屋の壁紙をグレードアップ
  • 床を畳からフローリングへ変更

工事の過程で、古いものを撤去して新しいものに取り換えたなど、物件に新しい資産がプラスされたと考えられる工事が、資本的支出となります。

修繕費・資本的支出の判断基準とフローチャート

次に、不動産投資の「修繕費」と「資本的支出」の判断基準について解説します。

多くの場合は顧問税理士が適切な仕訳をしてくれると思いますが、健全経営のためにはオーナー自身が「修繕費」と「資本的支出」の判断基準を理解していることが重要です。物件オーナーがご自身で「修繕費にあたるかどうか」を判断する場合は、以下のフローチャートに沿って、01〜07の基準に当てはめながら適切に判定しましょう。

基準01:支出額が20万円未満か否か?修繕費

1つ目の判断基準は、「その修繕や設備交換などに関する支出が20万円未満か」です。支出が20万円未満なら、修繕費として扱います。

ただし、一つ工事の合計金額が20万円未満であることが条件となるので、費用を分割支払いした結果、一回の支払額が20万円未満になったケースは該当しません。

支出が20万円以上なら、後述の基準2以下に当てはめて判断します。

基準02:約おおむね3年以内の周期で定期的に支出しているか否か?

基準1に当てはまらなかった20万円以上の支出でも、おおむね3年以内の周期で支出している場合は修繕費として経費計上します。この「おおむね3年以内の周期」というのは、一物件に対して個別の実績が評価されるため、過去に物件Aに対し2~3年に一度、同じような工事を繰り返した場合、その工事は修繕費とみなしても問題がありません。

初めて購入した部材などの場合で、交換周期がおおむね3年以内なのかどうかわからない場合は、仕入業者に一般的な耐用年数や交換頻度を確認とよいでしょう。

基準03:明らかに資産価値または物件価格が向上しているか?

基準1と2に当てはまらなかった場合でも、「明らかに資産価値または物件価格が向上しているか?」という問いに対する回答が「はい」であれば、その費用は「資本的支出」として扱います。

逆に、「明らかに原状回復または現状維持のための支出か?」という問いに対する回答が「はい」であれば、その費用は「修繕費」とします。また、災害で被害を受けた建物や住宅設備を元に戻すための支出も「修繕費」として扱います。

基準04・05:費用が60万円未満または前期未取得価値の10%以下か?

基準01〜03に当てはまらなかった支出で、以下のいずれかに当てはまるものは修繕費として扱います。
・ 支出額が60万円以下である
・ 前期物件取得額1割以下である

基準06・07:その他の基準

01〜05までの基準で、大半の支出が「修繕費」または「資本的支出」に分けられたと思います。それでも分けられない項目については、継続下区分割合を採用していて以下のいずれかに該当する場合は「修繕費」として扱います。

・ 支出額の30%相当額である
・ 取得額1割のうち少ない方である
 

修繕費と資本的支出の違い

不動産経営をすれば所得が発生して税金がかかるので、節税という観点からみると、かかった費用を修繕費にできるか、資本的支出になるかで大きな違いが生まれます。修繕費と資本的支出は、経理上の処理も違います。

修繕費は一括費用計上

修繕費は、支出をした年度に、不動産経営の必要経費として全額を経費にできます。経費になれば、賃料収入から工事費の全額を差し引けるので、所得税や住民税の課税対象額が減り、節税しやすくなります。

修繕費の注意点は、修理を発注して事前支払を終えていたとしても、工事が完了していないと経費計上ができない点です。

工事期間が長いタイプのもの、例えば、範囲の広い改修工事・複数回に及ぶ工事が一工程となっている場合、その年に経費計上したいのであれば、年内に工事が完了している必要があります。年内に工事を完了させるためには、事前のスケジュール調整が必要になります。

税務署に指摘されずに、確実にその年の修繕費として計上するには、工事担当者からの見積書・請求書・領収証以外にも、工事計画書・完了報告書など、工事のスケジュールと完了時期を証明できるものを複数用意しておくとよいでしょう。

資本的支出は減価償却

資本的支出は、一旦、資産として計上してから、減価償却費として毎年、耐用年数に応じた金額を計上していくことになります。

減価償却とは「年月が経つことによって劣化したり性能が落ちたりして、その価値が少しずつ減っていくタイプの資産は、毎年一定額や一定の割合で、分割して費用にしましょう」という会計上の考え方です。

減価償却をする際は、法律で定められている「法定耐用年数」の基準をもとに、品目ごとに対処をしていきます。注意すべきなのは、資本的支出による耐用年数は、原則として資産本体(物件本体)と同じ耐用年数で償却をしなければならないという決まりがある点です。

例えば、鉄筋コンクリート造マンションの法定耐用年数は47年です。このマンションに一区画の物件を持ち、工事代金が1,000万円だった場合でシミュレーションしてみましょう。

この工事費用1,000万円は、新たな資産価値をプラスするためのものとみなされますので、法定耐用年で分割した金額を、毎年、減価償却をしながら、価値を減少させていくことになります。

オーナーは、修理をした年には1,000万円分の修理費を支払済ですが、その年に経費として計上できるのは、法定耐用年数で分割した金額(約20万円程度)のみになります。

大きな工事費を支払ったのにもかかわらず、経費として差し引行ける金額は、期待したほど大きくないため、不動産所得を減らすことができず、その年の税負担は大きくなる可能性があります。

税負担が大きくなれば、不動産経営のキャッシュフローは悪化することになります。ただし、資本的支出として計上をしても、経費として計上しても、トータルでかかった経費としての合計金額は同じです。

修繕費の方がその期での税金圧縮になる

節税目的であれば、修繕費として計上できる方が、圧倒的に節税効果は高くなります。また、全ての項目が修繕費にならなくても、かかった費用の一部だけ修繕費として適用されるケースもあります。修繕費の割合を地道に増やしていくことで、節税効果を高めることができます。

かかった費用を修繕費として確実に認めてもらうためには、適用の正確さが重要なので、以下のフローチャートを参考に、間違いのないように判断してください。

ご自身の判断に自信がない場合は、工事前に税理士などの税やお金の専門家に相談するとよいでしょう。

【参照元】国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」をもとに弊社作成

上記フローチャートでわかる通り、資本的支出は比較的、条件が明確なので間違えにくいのですが、修繕費はケースバイケースで判断することが多いため注意が必要です。

オーナーの判断で「これは修繕費にしよう」と思っていても、修繕費に該当しない場合は、確定申告後に税務署からチェックが入り、申告のやり直しをしなければならないケースもあります。

修繕費として扱うべきか資本的支出として扱うべきかを迷った場合は、⑤の金額で判断する方法を使います。支出額が60万円以下である、または前期物件取得額の1割以下の金額⑤ならば、修繕費になります。

それでもさらに区分が不明なケースがある場合は、⑦支出額の30%または取得額の1割のうち、少ない方を修繕費とし、残りを資本的支出として計上することもできます。

ただし、この方法は、一度選択した方法を継続することが前提となっているため、前回の工事で⑦を採択した場合は、次回の工事でも、⑦方法を選択する必要があります(⑥)。

今後も類似の工事を続ける可能性がある場合は、工事依頼をする前の段階で、税や経理の専門家に相談することが望ましいでしょう。

不動産投資における資本的支出に該当する項目

不動産投資・不動産経営をする上で、比較的よくある工事の中で、確実に資本的支出となる工事内容を紹介します。その内容を表にまとめると、以下のようになります。

項目

資本的支出に該当する項目 補足
外壁の交換 吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更 単純なデザイン変更の場合は修繕費になる
外壁塗装工事 塗装をグレードアップ 耐久性が向上するなら資本的支出になる
大がかりな間取り変更 リノベーション工事 間取り変更は物件価値の向上になる
部屋の用途を変更するための模様替え 用途変更のための模様替え 用途変更が目的であれば資本的支出になる
非常階段・ハシゴなどの新規取付 非常階段・ハシゴなどの新規取り付け 防災機能が向上するため資本的支出になる
システムキッチンの交換 システムキッチンの交換 同レベルのシステムキッチンへの交換は修繕費となる
ユニットバスの交換 ユニットバスの交換 同レベルのユニットバスへの交換は修繕費となる
エアコン・給湯器の交換 エアコン・給湯器の交換 10万円以下であれば消耗品費として一括計上できる
お風呂に追い炊き機能を追加 追い焚き機能の追加 浴室の部分交換でも内容によっては資本的支出になる
普通の便器から温水洗浄便座への交換 温水洗浄便座への交換 付加価値をプラスしているので資本的支出になる
部屋の壁紙をグレードアップ 機能性壁紙への交換 素材やデザイン変更が目的の場合は修繕費になる
床を畳からフローリングへ変更 フローリングへの交換 素材を変更しても物件価値が向上していなければ修繕費となる

個々の項目の詳細は、以下で解説しています。「なぜ、これが資本的支出となるのか」の説明もしていますので、読み進めていくうちに、自然と修繕費との違いが理解できるようになります。

外壁の交換

外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更をしたなど、外壁機能を上げるための工事は、資本的支出となります。

本来、外壁自体には、建物の機能を向上させるほどの力はないとみなされています。しかし、外壁を以前よりもグレードの高いものに交換することで、従前の防汚防水以上の効果が期待でき建物の耐久性が向上する場合、工事によって資産価値が向上したことになります。

同じ外壁を取り換えるのでも、外壁をオシャレなデザインのものに交換するなどの場合は、外壁の機能向上・耐久性向上にはならないため、修繕費となります。

外壁塗装工事

外壁塗装自体は防汚防水のためのものであり、物件機能を向上させるほどの力はありませんが、塗料の内容をグレードアップした場合には、資本的支出となります。

例えば、今までは通常の塗装をしていたけれども、今回からはフッ素塗料・光触媒塗装などの、ワンランク上の薬剤を使った塗料に変更したとします。

新しい塗料のコーティング力により、外壁に汚れ・コケ・カビなどがつきにくくなり、外観がキレイな状態が長持ちすることで、結果として建物の耐久性が向上することが明らかな場合は、物件の価値が上昇することになるので、資本的支出となります。

大がかりな間取り変更

世間一般で言われるフルリノベーションやリノベーション工事のことです。例えば、2DKを広い1LDK仕様に変更する間取り変更などは、室内の動線を良くし、利便性を上げることによって物件価値が明らかに向上します。

工事に伴い、当然、床材や壁紙なども変更されます。フルリノベーションの場合は、水回りを配管ごと変更します。これらの工事によって、物件の機能と資産価値そのものが刷新されて物件の耐久性が上がるので、資本的支出となります。

部屋の用途を変更するための模様替え

事務所だったものを一般の住居に変更するなど、物件を購入した時点での用途とは違う目的の物件に模様替えをする場合は、変更内容にかかわらず資本的支出となります。

フルリノベーションやリノベーションと同じ考え方ですが、こちらは、間取りではなく用途変更が主な目的となっており、用途変更は「修繕」に該当しないからです。

非常階段・ハシゴなどの新規取付

非常階段やハシゴなどがプラスされた場合は、建物全体の防災機能が向上するので、資本的支出となります。

システムキッチンの交換

システムキッチンを交換することにより、水回り配管などが物理的に変化し、キッチンの持つ機能自体が大きく向上します。

さらに、キッチンとその周辺機能の耐久性を高めることにより、物件の資産価値が向上するため、資本的支出となります。ただし、交換するシステムキッチンが従前に使っていたものと同レベルの場合は修繕費となります。

ユニットバスの交換

ユニットバスはその構造上、交換をすることにより、浴室全体が交換されたのと同じ意味を持ちます。また、ユニットバスを入れるためには、従前のユニットバス全体を取り壊して撤去してから、新しいユニットバスを設置しなければなりません。

その結果、物件に新しい価値の浴室が付加されたとみなされるため、物件価値が向上したことになり、資本的支出となります。

エアコン・給湯機の交換

エアコンや給湯機などを交換するには、古い設備を撤去してから、全く新しい設備を設置する必要があります。新しい設備を付加することにより、物件に対しても資産価値が付加されるとみなすため資本的支出となります。

ただし、エアコンや給湯機は10万円以下であれば消耗品費として一括計上できます。また一つの機器が30万円以下、総額300万円以下であれば、青色申告の方のみ、一括経費計上できる中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が適用できます。

お風呂に追い炊き機能を追加

浴室全体の交換をしたわけではないが、お風呂に従前にはなかった機能がプラスされることにより、明らかに物件価値が向上するため、資本的支出となります。

機能を付ける側からすると、あったほうが便利だろうが「なぜ資本的支出?」と不思議に思いますが、部屋を借りる立場に立つと理解しやすくなります。部屋を借りる入居希望者は、物件検索をする際に「追い炊き機能あり」のところにチェックを入れて検索します。

この機能が付加されることにより、少し賃料が高くなったとしても、追い炊き機能がない部屋よりも「明らかに借りる価値を感じる」のであれば、この物件には、元の状態よりも、資産的価値が付加されたことになります。よって、資本的支出となります。

普通の便器から、温水洗浄便座への交換

普通の便座を、温水洗浄便座に交換した場合は、元の便座を撤去してから、新しい便座を設置する必要があります。資本的支出の原則である「古いものを取り去り、新しい付加価値があるものを設置することにより、価値が上昇する」に該当するため、資本的支出になります。

部屋の壁紙をグレードアップ

室内の壁紙を、消臭効果のあるもの、防音効果のあるもの、防湿防カビ効果のあるもの、シックハウス対策の効果があるものなど、室内の機能を高める目的で交換した場合は、室内全体の機能がアップして物件の耐久性が向上するので、資本的支出となります。

ただし、交換する内容が、機能のない壁紙から機能のない布壁紙、色やデザインの良いものにする目的の場合は、修繕費となります。

床を畳からフローリングへ変更

和室仕様だった床を、フローリングに変更するための工事費は、もともとある畳を撤去してから、フローリングのための工事をして、新規に床材を引くことになります。そのため、物件に全く新しい価値を付加したことになりますので、資本的支出となります。

同じ床材を敷くのでも、例えば、オーク材から無垢材へ変更するなどの場合は、木材を変更することで物件の価値が向上したわけではないため、修繕費となります。

修繕費と資本的支出に関するよくある質問とその回答

不動産投資において「修繕費と資本的支出のどちらにするか」は、経験のある投資家でも迷うことがあります。そのため、初心者は両者の違いを繰り返し確認する必要があるでしょう。

修繕費と資本的支出のどちらかわからない金額がある場合は?

工事や設備交換などの内容をいくつかの判断基準に当てはめることで、修繕費と資本的支出のいずれかに分けることができます。主な判断基準は次のとおりです。
 
・ 支出が20万円未満か
・ おおむね3年以内の周期で支出しているか 
・ 明らかに原状回復または現状維持のための支出か
・ 費用が60万円未満または前期未取得価値の10%以下か など

上記のいずれか判断基準でも回答が「はい」であれば、「修繕費」となります。
大切なことは、修繕費と資本的支出のどちらに分類してよいかわからない費用があるからといって、何となく記帳しないことです。仕分けで迷ったら税理士に相談しましょう。

資本的支出の具体例は?

資本的支出となる工事の具体例としては、外壁を通常のものから機能性タイプに変更した工事、大がかりな間取り変更(リノベーション工事)、用途そのものを変更する目的の模様替えなどが挙げられます。

また、旧式の台所や浴室だったものを最新のシステムキッチンやユニットバスに入れ替え、機能性を向上させた場合も資本的支出となります。

さらに細かく見ていくと、浴室の一部の設備交換でも「足し湯」を「追い焚き」の機能に変更した場合は機能性が向上しているとみなされるため、資本的支出として扱う必要があるでしょう。また、通常の壁紙交換は修繕費となりますが、機能性壁紙を採用した場合は資本的支出となります。

修繕費の具体例は?

修繕費となる経費の具体例としては、外壁塗装、防水工事、ベランダの手すり部分のペンキ塗り替え、床や壁の壊れた部分の取り替え、畳の表替え、障子やふすまの張り替え、トイレやキッチンの不具合の修理、経年劣化で古くなった部分の改装工事などが挙げられます。

ただし、外壁塗装や防水工事を修繕費として扱えるのは、現状維持または原状回復を目的とした場合に限ります。同じ外壁塗装や防水工事でも、性能や耐久性を高める内容の場合は「資本的支出」になるので注意しましょう。

資本的支出とは何費ですか?

資本的支出は資産として一旦計上した上で、減価償却費としてその年度の分を毎年経費化していきます。減価償却とは、「年月が経つことによって資産価値が減少する資産を毎年一定額、または一定の割合で分割して費用にしていく」という会計上の方式のことです。

一般的に、建物附属設備(電気設備や給排水設備など)の法定耐用年数(減価償却できる期間)は15年です。不動産投資で設備交換を行った費用が「資本的支出」となった場合、かかった費用を15年かけて経費化していくことになります。

また、建物と一体化している部材などは、基本的に建物と同じ耐用年数で経費化していきます。

修繕費はいくらまで経費として認められますか?

以下のような支出について、国税庁ではその年分の必要経費として計上できるとしています。

・ おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良などであるとき、または一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき
・ 一つの修理、改良などの金額のうちに資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場合で、その金額が60万円未満のときまたはその資産の前年末の取得価額のおおむね10パーセント相当額以下であるとき

【引用】国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」より

上記に基づくと、「おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良など」については金額に関わらず修繕費として計上できるということになります。それ以外は「20万円未満」など、その他の基準に照らし合わせて判断します。
 

まとめ

不動産投資では、修繕費の経費計上と、資本的支出への仕訳が、不動産収入や税金に大きな影響を及ぼします。

修理修繕のつもりで工事をしたら、結果的に物件価値が高まってしまったため、修繕費ではなく資本的支出として減価償却をしなければならない場合もあるので注意しましょう。

修繕費と資本的支出の違いを正確に理解しておくことで、不動産経営を計画的に行うことができます。修繕工事は、年度によっては思った以上にかかることもあるので、フローチャートなどを使いながら、修繕費・資本的支出の仕分けをして計画前の段階で調査をしておくとよいでしょう。

ベルテックスでは不動産にまつわるリスクセミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。