2023.10.10
ベルテックスコラム事務局
不動産投資の修繕費と資本的支出の違いがわかる判断基準とフローチャート
- 修繕
- 賃貸管理
- 不動産投資
不動産投資をスタートすると、退去時の原状回復などの基本的な工事以外にも、建物が古くなったことに対した工事、付帯設備が劣化したことによる工事など、不動産経営を円滑に行うために必要な修繕費用が次々と発生します。これらの費用は、基本的には「修繕費」として経費計上できるものが多いですが、全ての工事費用が経費とみなされるわけではありません。修繕することによって物件の価値が向上する場合には「資本的支出」として減価償却しなければならないケースもあります。
この記事では、修繕費と資本的支出の違いや、スムーズな不動産経営のサポートとなる情報をまとめています。
不動産投資での修繕費は全てが費用計上できるわけではない
まずは、所有している物件に修繕工事した際、どのような基準で、修繕のための経費とそうでないものに分けるのか説明します。
不動産投資・不動産経営において、物件に何らかの工事をすることがあります。退去時の室内の原状回復や、数年ごとに行われるペンキの塗り替えなど、スムーズな経営を続けるために必要だとされる工事はたくさんあります。
工事などに支払った費用は、基本的には不動産経営のための「修繕費」として経費計上できます。しかし、中には、修繕費にはならないケースもあり、会計や経理に詳しくないと、正確な判断が難しいことがあります。
工事にかかった費用が修繕費になるか否かは、その工事内容が、資本的支出なのか、修繕費にあたるのかで変わります。それぞれの振り分け方法は以下の通りですが、オーナーが修繕費だと思っても、経理的な判断ではそうならないこともあります。
・資本的支出
資産価値が向上する、耐久性が増すなど、工事後に物件価値がグレードアップしている
・修繕費
物件で壊れたもの・棄損したものを元の状態に戻すためのもの
物件オーナーとしては、できれば全てを修繕費として計上し、経費として収入から差し引き、所得税や住民税の節税をしたいと思うものです。しかし、なんでもかんでも修繕費としてしまうと、確定申告の際に税務署から指摘をされる可能性があるので注意が必要です。
修繕費・資本的支出の判断基準
かかった費用が、修繕費になるのか、資本的支出となるのかは、その工事の名目ではなく、工事が終わった後、実質的に物件がどのような結果になったかで判断します。
税理士や経理担当などの専門家に相談できる場合は、間違いのない処理ができますが、はじめての不動産投資の場合、オーナーがご自身で判断しなければならないことの方が多いでしょう。
物件オーナーがご自身で修繕費にあたるかどうかを判断するための基準として、以下の3つが挙げられます。
- 20万円未満の修繕:修繕費
- 原状回復のための修繕:修繕費
- 資産価値を高めるための修繕:資本的支出
それぞれの基準について説明します。
20万円未満:修繕費
工事内容が実質的に物件の価値を上昇させる資本的支出に該当する内容であっても、一つの修理・改良にかかった費用が20万円未満であれば、修繕費として全額を経費計上できます。ただし、一つ工事の合計金額が20万円未満であることが条件となるので、費用を分割支払いした結果、一回の支払額が20万円未満になったケースは該当しません。
また、約3年周期などの短いサイクルで定期的に修理・改良をする必要のあるものは、工事費用が20万円以上であっても、修繕費として計上できます。このサイクルは、一物件に対して個別の実績が評価されるため、過去に物件Aに対し2~3年に一度、同じような工事を繰り返した場合、その工事は修繕費とみなしても問題がありません。
原状回復のための修繕:修繕費
物件を元の物件の状態に戻すための原状回復工事、または物件を現状維持させるための工事は、修繕費となります。
修繕費に相当する工事としては、以下のようなものがあります。
- 外壁塗装
- 退去時の原状回復工事全般
- ルームクリーニング費用
- エアコンクリーニング費用
- 現状維持または原状回復するための防水工事
- ベランダの手すり部分などへのペンキ塗り替え
- 床や壁の壊れた部分の取替・畳みの表替え
- 障子・ふすま・網戸の張替え
- ドア・トイレ・キッチン・換気扇などのトラブル修理
- 部屋の単純な改装工事
- 法令に沿った消火器の交換・消火栓取替
ただし、工事前の物件の状態、工事のタイミングや程度などにより、オーナーが修繕のつもりで行った工事だとしても資本的支出とみなされるケースもあります。
基本的に修繕は、物件の原状回復または現状維持が目的なので、畳の部屋をフローリングに変更した場合などは修繕とみなされません。
確実に修繕費としてみなしてもらうためには、税務署からの細かなチェックが入ることを前提として、修繕を行う前に税理士などに内容を確認してから進めることが望ましいでしょう。
資産価値を高めるための修繕:資本的支出
工事を行った結果、物件が以下の要件に当てはまる場合は、修繕費ではなく資本的支出となります。
- 物件設備の機能がグレードアップした(工事前にできなかったことができるようになる)
- 元の状態よりも明らかに設備仕様・機能などの価値が上がった
- 工事をしたことで、物件の使用可能期間が長くなった
つまり、「物件に対するリフォームや、リノベーションなど、その工事をすることにより、明らかに購入当時よりも、物件価値が上昇した工事」は、全て資本的支出となります。
資本的支出の具体例としては以下のようなものがあります。
- 外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更
- 大がかりな間取り変更
- 非常階段・ハシゴなどの新規取付
- 部屋の用途を変更するための模様替え
- システムキッチンの交換
- ユニットバス交換
- エアコン・給湯機の交換
- お風呂に追い炊き機能を追加
- 普通の便器から、温水洗浄便座への交換
- 部屋の壁紙をグレードアップ
- 床を畳からフローリングへ変更
工事の過程で、古いものを撤去して新しいものに取り換えたなど、物件に新しい資産がプラスされたと考えられる工事が、資本的支出となります。
修繕費と資本的支出の違い
不動産経営をすれば所得が発生して税金がかかるので、節税という観点からみると、かかった費用を修繕費にできるか、資本的支出になるかで大きな違いが生まれます。修繕費と資本的支出は、経理上の処理も違います。
修繕費は一括費用計上
修繕費は、支出をした年度に、不動産経営の必要経費として全額を経費にできます。経費になれば、賃料収入から工事費の全額を差し引けるので、所得税や住民税の課税対象額が減り、節税しやすくなります。
修繕費の注意点は、修理を発注して事前支払を終えていたとしても、工事が完了していないと経費計上ができない点です。
工事期間が長いタイプのもの、例えば、範囲の広い改修工事・複数回に及ぶ工事が一工程となっている場合、その年に経費計上したいのであれば、年内に工事が完了している必要があります。年内に工事を完了させるためには、事前のスケジュール調整が必要になります。
税務署に指摘されずに、確実にその年の修繕費として計上するには、工事担当者からの見積書・請求書・領収証以外にも、工事計画書・完了報告書など、工事のスケジュールと完了時期を証明できるものを複数用意しておくとよいでしょう。
資本的支出は減価償却
資本的支出は、一旦、資産として計上してから、減価償却費として毎年、耐用年数に応じた金額を計上していくことになります。
減価償却とは「年月が経つことによって劣化したり性能が落ちたりして、その価値が少しずつ減っていくタイプの資産は、毎年一定額や一定の割合で、分割して費用にしましょう」という会計上の考え方です。
減価償却をする際は、法律で定められている「法定耐用年数」の基準をもとに、品目ごとに対処をしていきます。注意すべきなのは、資本的支出による耐用年数は、原則として資産本体(物件本体)と同じ耐用年数で償却をしなければならないという決まりがある点です。
例えば、鉄筋コンクリート造マンションの法定耐用年数は47年です。このマンションに一区画の物件を持ち、工事代金が1,000万円だった場合でシミュレーションしてみましょう。
この工事費用1,000万円は、新たな資産価値をプラスするためのものとみなされますので、法定耐用年で分割した金額を、毎年、減価償却をしながら、価値を減少させていくことになります。
オーナーは、修理をした年には1,000万円分の修理費を支払済ですが、その年に経費として計上できるのは、法定耐用年数で分割した金額(約20万円程度)のみになります。
大きな工事費を支払ったのにもかかわらず、経費として差し引行ける金額は、期待したほど大きくないため、不動産所得を減らすことができず、その年の税負担は大きくなる可能性があります。
税負担が大きくなれば、不動産経営のキャッシュフローは悪化することになります。ただし、資本的支出として計上をしても、経費として計上しても、トータルでかかった経費としての合計金額は同じです。
修繕費の方がその期での税金圧縮になる
節税目的であれば、修繕費として計上できる方が、圧倒的に節税効果は高くなります。また、全ての項目が修繕費にならなくても、かかった費用の一部だけ修繕費として適用されるケースもあります。修繕費の割合を地道に増やしていくことで、節税効果を高めることができます。
かかった費用を修繕費として確実に認めてもらうためには、適用の正確さが重要なので、以下のフローチャートを参考に、間違いのないように判断してください。
ご自身の判断に自信がない場合は、工事前に税理士などの税やお金の専門家に相談するとよいでしょう。
上記フローチャートでわかる通り、資本的支出は比較的、条件が明確なので間違えにくいのですが、修繕費はケースバイケースで判断することが多いため注意が必要です。
オーナーの判断で「これは修繕費にしよう」と思っていても、修繕費に該当しない場合は、確定申告後に税務署からチェックが入り、申告のやり直しをしなければならないケースもあります。
修繕費として扱うべきか資本的支出として扱うべきかを迷った場合は、⑤の金額で判断する方法を使います。支出額が60万円以下である、または前期物件取得額の1割以下の金額⑤ならば、修繕費になります。
それでもさらに区分が不明なケースがある場合は、⑦支出額の30%または取得額の1割のうち、少ない方を修繕費とし、残りを資本的支出として計上することもできます。
ただし、この方法は、一度選択した方法を継続することが前提となっているため、前回の工事で⑦を採択した場合は、次回の工事でも、⑦方法を選択する必要があります(⑥)。
今後も類似の工事を続ける可能性がある場合は、工事依頼をする前の段階で、税や経理の専門家に相談することが望ましいでしょう。
不動産投資における資本的支出に該当する項目
不動産投資・不動産経営をする上で、比較的よくある工事の中で、確実に資本的支出となる工事内容を紹介します。
「なぜ、これが資本的支出となるのか」の説明もしていますので、読み進めていくうちに、自然と修繕費との違いが理解できるようになります。
外壁の交換
外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更をしたなど、外壁機能を上げるための工事は、資本的支出となります。
本来、外壁自体には、建物の機能を向上させるほどの力はないとみなされています。しかし、外壁を以前よりもグレードの高いものに交換することで、従前の防汚防水以上の効果が期待でき建物の耐久性が向上する場合、工事によって資産価値が向上したことになります。
同じ外壁を取り換えるのでも、外壁をオシャレなデザインのものに交換するなどの場合は、外壁の機能向上・耐久性向上にはならないため、修繕費となります。
外壁塗装工事
外壁塗装自体は防汚防水のためのものであり、物件機能を向上させるほどの力はありませんが、塗料の内容をグレードアップした場合には、資本的支出となります。
例えば、今までは通常の塗装をしていたけれども、今回からはフッ素塗料・光触媒塗装などの、ワンランク上の薬剤を使った塗料に変更したとします。
新しい塗料のコーティング力により、外壁に汚れ・コケ・カビなどがつきにくくなり、外観がキレイな状態が長持ちすることで、結果として建物の耐久性が向上することが明らかな場合は、物件の価値が上昇することになるので、資本的支出となります。
大がかりな間取り変更
世間一般で言われるフルリノベーションやリノベーション工事のことです。例えば、2DKを広い1LDK仕様に変更する間取り変更などは、室内の動線を良くし、利便性を上げることによって物件価値が明らかに向上します。
工事に伴い、当然、床材や壁紙なども変更されます。フルリノベーションの場合は、水回りを配管ごと変更します。これらの工事によって、物件の機能と資産価値そのものが刷新されて物件の耐久性が上がるので、資本的支出となります。
部屋の用途を変更するための模様替え
事務所だったものを一般の住居に変更するなど、物件を購入した時点での用途とは違う目的の物件に模様替えをする場合は、変更内容にかかわらず資本的支出となります。
フルリノベーションやリノベーションと同じ考え方ですが、こちらは、間取りではなく用途変更が主な目的となっており、用途変更は「修繕」に該当しないからです。
非常階段・ハシゴなどの新規取付
非常階段やハシゴなどがプラスされた場合は、建物全体の防災機能が向上するので、資本的支出となります。
システムキッチンの交換
システムキッチンを交換することにより、水回り配管などが物理的に変化し、キッチンの持つ機能自体が大きく向上します。
さらに、キッチンとその周辺機能の耐久性を高めることにより、物件の資産価値が向上するため、資本的支出となります。ただし、交換するシステムキッチンが従前に使っていたものと同レベルの場合は修繕費となります。
ユニットバス交換
ユニットバスはその構造上、交換をすることにより、浴室全体が交換されたのと同じ意味を持ちます。また、ユニットバスを入れるためには、従前のユニットバス全体を取り壊して撤去してから、新しいユニットバスを設置しなければなりません。
その結果、物件に新しい価値の浴室が付加されたとみなされるため、物件価値が向上したことになり、資本的支出となります。
エアコン・給湯機の交換
エアコンや給湯機などを交換するには、古い設備を撤去してから、全く新しい設備を設置する必要があります。新しい設備を付加することにより、物件に対しても資産価値が付加されるとみなすため資本的支出となります。
ただし、エアコンや給湯機は10万円以下であれば消耗品費として一括計上できます。また一つの機器が30万円以下、総額300万円までであれば、青色申告の方のみ、一括経費計上できる中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が適用できます。
お風呂に追い炊き機能を追加
浴室全体の交換をしたわけではないが、お風呂に従前にはなかった機能がプラスされることにより、明らかに物件価値が向上するため、資本的支出となります。
機能を付ける側からすると、あったほうが便利だろうが「なぜ資本的支出?」と不思議に思いますが、部屋を借りる立場に立つと理解しやすくなります。部屋を借りる入居希望者は、物件検索をする際に「追い炊き機能あり」のところにチェックを入れて検索します。
この機能が付加されることにより、少し賃料が高くなったとしても、追い炊き機能がない部屋よりも「明らかに借りる価値を感じる」のであれば、この物件には、元の状態よりも、資産的価値が付加されたことになります。よって、資本的支出となります。
普通の便器から、温水洗浄便座への交換
普通の便座を、温水洗浄便座に交換した場合は、元の便座を撤去してから、新しい便座を設置する必要があります。資本的支出の原則である「古いものを取り去り、新しい付加価値があるものを設置することにより、価値が上昇する」に該当するため、資本的支出になります。
部屋の壁紙をグレードアップ
室内の壁紙を、消臭効果のあるもの、防音効果のあるもの、防湿防カビ効果のあるもの、シックハウス対策の効果があるものなど、室内の機能を高める目的で交換した場合は、室内全体の機能がアップして物件の耐久性が向上するので、資本的支出となります。
ただし、交換する内容が、機能のない壁紙から機能のない布壁紙、色やデザインの良いものにする目的の場合は、修繕費となります。
床を畳からフローリングへ変更
和室仕様だった床を、フローリングに変更するための工事費は、もともとある畳を撤去してから、フローリングのための工事をして、新規に床材を引くことになります。そのため、物件に全く新しい価値を付加したことになりますので、資本的支出となります。
同じ床材をひくのでも、例えば、オーク材から無垢材へ変更するなどの場合は、木材を変更することで物件の価値が向上したわけではないため、修繕費となります。
まとめ
不動産投資では、修繕費の経費計上と、資本的支出への仕訳が、不動産収入や税金に大きな影響を及ぼします。
修理修繕のつもりで工事をしたら、結果的に物件価値が高まってしまったため、修繕費ではなく資本的支出として減価償却をしなければならない場合もあるので注意しましょう。
修繕費と資本的支出の違いを正確に理解しておくことで、不動産経営を計画的に行うことができます。修繕工事は、年度によっては思った以上にかかることもあるので、フローチャートなどを使いながら、修繕費・資本的支出の仕分けをして計画前の段階で調査をしておくとよいでしょう。
ベルテックスでは不動産にまつわるリスクセミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。
この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。
2023.10.10
ベルテックスコラム事務局
不動産投資の修繕費と資本的支出の違いがわかる判断基準とフローチャート
- 修繕
- 賃貸管理
- 不動産投資
不動産投資をスタートすると、退去時の原状回復などの基本的な工事以外にも、建物が古くなったことに対した工事、付帯設備が劣化したことによる工事など、不動産経営を円滑に行うために必要な修繕費用が次々と発生します。これらの費用は、基本的には「修繕費」として経費計上できるものが多いですが、全ての工事費用が経費とみなされるわけではありません。修繕することによって物件の価値が向上する場合には「資本的支出」として減価償却しなければならないケースもあります。
この記事では、修繕費と資本的支出の違いや、スムーズな不動産経営のサポートとなる情報をまとめています。
不動産投資での修繕費は全てが費用計上できるわけではない
まずは、所有している物件に修繕工事した際、どのような基準で、修繕のための経費とそうでないものに分けるのか説明します。
不動産投資・不動産経営において、物件に何らかの工事をすることがあります。退去時の室内の原状回復や、数年ごとに行われるペンキの塗り替えなど、スムーズな経営を続けるために必要だとされる工事はたくさんあります。
工事などに支払った費用は、基本的には不動産経営のための「修繕費」として経費計上できます。しかし、中には、修繕費にはならないケースもあり、会計や経理に詳しくないと、正確な判断が難しいことがあります。
工事にかかった費用が修繕費になるか否かは、その工事内容が、資本的支出なのか、修繕費にあたるのかで変わります。それぞれの振り分け方法は以下の通りですが、オーナーが修繕費だと思っても、経理的な判断ではそうならないこともあります。
・資本的支出
資産価値が向上する、耐久性が増すなど、工事後に物件価値がグレードアップしている
・修繕費
物件で壊れたもの・棄損したものを元の状態に戻すためのもの
物件オーナーとしては、できれば全てを修繕費として計上し、経費として収入から差し引き、所得税や住民税の節税をしたいと思うものです。しかし、なんでもかんでも修繕費としてしまうと、確定申告の際に税務署から指摘をされる可能性があるので注意が必要です。
修繕費・資本的支出の判断基準
かかった費用が、修繕費になるのか、資本的支出となるのかは、その工事の名目ではなく、工事が終わった後、実質的に物件がどのような結果になったかで判断します。
税理士や経理担当などの専門家に相談できる場合は、間違いのない処理ができますが、はじめての不動産投資の場合、オーナーがご自身で判断しなければならないことの方が多いでしょう。
物件オーナーがご自身で修繕費にあたるかどうかを判断するための基準として、以下の3つが挙げられます。
- 20万円未満の修繕:修繕費
- 原状回復のための修繕:修繕費
- 資産価値を高めるための修繕:資本的支出
それぞれの基準について説明します。
20万円未満:修繕費
工事内容が実質的に物件の価値を上昇させる資本的支出に該当する内容であっても、一つの修理・改良にかかった費用が20万円未満であれば、修繕費として全額を経費計上できます。ただし、一つ工事の合計金額が20万円未満であることが条件となるので、費用を分割支払いした結果、一回の支払額が20万円未満になったケースは該当しません。
また、約3年周期などの短いサイクルで定期的に修理・改良をする必要のあるものは、工事費用が20万円以上であっても、修繕費として計上できます。このサイクルは、一物件に対して個別の実績が評価されるため、過去に物件Aに対し2~3年に一度、同じような工事を繰り返した場合、その工事は修繕費とみなしても問題がありません。
原状回復のための修繕:修繕費
物件を元の物件の状態に戻すための原状回復工事、または物件を現状維持させるための工事は、修繕費となります。
修繕費に相当する工事としては、以下のようなものがあります。
- 外壁塗装
- 退去時の原状回復工事全般
- ルームクリーニング費用
- エアコンクリーニング費用
- 現状維持または原状回復するための防水工事
- ベランダの手すり部分などへのペンキ塗り替え
- 床や壁の壊れた部分の取替・畳みの表替え
- 障子・ふすま・網戸の張替え
- ドア・トイレ・キッチン・換気扇などのトラブル修理
- 部屋の単純な改装工事
- 法令に沿った消火器の交換・消火栓取替
ただし、工事前の物件の状態、工事のタイミングや程度などにより、オーナーが修繕のつもりで行った工事だとしても資本的支出とみなされるケースもあります。
基本的に修繕は、物件の原状回復または現状維持が目的なので、畳の部屋をフローリングに変更した場合などは修繕とみなされません。
確実に修繕費としてみなしてもらうためには、税務署からの細かなチェックが入ることを前提として、修繕を行う前に税理士などに内容を確認してから進めることが望ましいでしょう。
資産価値を高めるための修繕:資本的支出
工事を行った結果、物件が以下の要件に当てはまる場合は、修繕費ではなく資本的支出となります。
- 物件設備の機能がグレードアップした(工事前にできなかったことができるようになる)
- 元の状態よりも明らかに設備仕様・機能などの価値が上がった
- 工事をしたことで、物件の使用可能期間が長くなった
つまり、「物件に対するリフォームや、リノベーションなど、その工事をすることにより、明らかに購入当時よりも、物件価値が上昇した工事」は、全て資本的支出となります。
資本的支出の具体例としては以下のようなものがあります。
- 外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更
- 大がかりな間取り変更
- 非常階段・ハシゴなどの新規取付
- 部屋の用途を変更するための模様替え
- システムキッチンの交換
- ユニットバス交換
- エアコン・給湯機の交換
- お風呂に追い炊き機能を追加
- 普通の便器から、温水洗浄便座への交換
- 部屋の壁紙をグレードアップ
- 床を畳からフローリングへ変更
工事の過程で、古いものを撤去して新しいものに取り換えたなど、物件に新しい資産がプラスされたと考えられる工事が、資本的支出となります。
修繕費と資本的支出の違い
不動産経営をすれば所得が発生して税金がかかるので、節税という観点からみると、かかった費用を修繕費にできるか、資本的支出になるかで大きな違いが生まれます。修繕費と資本的支出は、経理上の処理も違います。
修繕費は一括費用計上
修繕費は、支出をした年度に、不動産経営の必要経費として全額を経費にできます。経費になれば、賃料収入から工事費の全額を差し引けるので、所得税や住民税の課税対象額が減り、節税しやすくなります。
修繕費の注意点は、修理を発注して事前支払を終えていたとしても、工事が完了していないと経費計上ができない点です。
工事期間が長いタイプのもの、例えば、範囲の広い改修工事・複数回に及ぶ工事が一工程となっている場合、その年に経費計上したいのであれば、年内に工事が完了している必要があります。年内に工事を完了させるためには、事前のスケジュール調整が必要になります。
税務署に指摘されずに、確実にその年の修繕費として計上するには、工事担当者からの見積書・請求書・領収証以外にも、工事計画書・完了報告書など、工事のスケジュールと完了時期を証明できるものを複数用意しておくとよいでしょう。
資本的支出は減価償却
資本的支出は、一旦、資産として計上してから、減価償却費として毎年、耐用年数に応じた金額を計上していくことになります。
減価償却とは「年月が経つことによって劣化したり性能が落ちたりして、その価値が少しずつ減っていくタイプの資産は、毎年一定額や一定の割合で、分割して費用にしましょう」という会計上の考え方です。
減価償却をする際は、法律で定められている「法定耐用年数」の基準をもとに、品目ごとに対処をしていきます。注意すべきなのは、資本的支出による耐用年数は、原則として資産本体(物件本体)と同じ耐用年数で償却をしなければならないという決まりがある点です。
例えば、鉄筋コンクリート造マンションの法定耐用年数は47年です。このマンションに一区画の物件を持ち、工事代金が1,000万円だった場合でシミュレーションしてみましょう。
この工事費用1,000万円は、新たな資産価値をプラスするためのものとみなされますので、法定耐用年で分割した金額を、毎年、減価償却をしながら、価値を減少させていくことになります。
オーナーは、修理をした年には1,000万円分の修理費を支払済ですが、その年に経費として計上できるのは、法定耐用年数で分割した金額(約20万円程度)のみになります。
大きな工事費を支払ったのにもかかわらず、経費として差し引行ける金額は、期待したほど大きくないため、不動産所得を減らすことができず、その年の税負担は大きくなる可能性があります。
税負担が大きくなれば、不動産経営のキャッシュフローは悪化することになります。ただし、資本的支出として計上をしても、経費として計上しても、トータルでかかった経費としての合計金額は同じです。
修繕費の方がその期での税金圧縮になる
節税目的であれば、修繕費として計上できる方が、圧倒的に節税効果は高くなります。また、全ての項目が修繕費にならなくても、かかった費用の一部だけ修繕費として適用されるケースもあります。修繕費の割合を地道に増やしていくことで、節税効果を高めることができます。
かかった費用を修繕費として確実に認めてもらうためには、適用の正確さが重要なので、以下のフローチャートを参考に、間違いのないように判断してください。
ご自身の判断に自信がない場合は、工事前に税理士などの税やお金の専門家に相談するとよいでしょう。
上記フローチャートでわかる通り、資本的支出は比較的、条件が明確なので間違えにくいのですが、修繕費はケースバイケースで判断することが多いため注意が必要です。
オーナーの判断で「これは修繕費にしよう」と思っていても、修繕費に該当しない場合は、確定申告後に税務署からチェックが入り、申告のやり直しをしなければならないケースもあります。
修繕費として扱うべきか資本的支出として扱うべきかを迷った場合は、⑤の金額で判断する方法を使います。支出額が60万円以下である、または前期物件取得額の1割以下の金額⑤ならば、修繕費になります。
それでもさらに区分が不明なケースがある場合は、⑦支出額の30%または取得額の1割のうち、少ない方を修繕費とし、残りを資本的支出として計上することもできます。
ただし、この方法は、一度選択した方法を継続することが前提となっているため、前回の工事で⑦を採択した場合は、次回の工事でも、⑦方法を選択する必要があります(⑥)。
今後も類似の工事を続ける可能性がある場合は、工事依頼をする前の段階で、税や経理の専門家に相談することが望ましいでしょう。
不動産投資における資本的支出に該当する項目
不動産投資・不動産経営をする上で、比較的よくある工事の中で、確実に資本的支出となる工事内容を紹介します。
「なぜ、これが資本的支出となるのか」の説明もしていますので、読み進めていくうちに、自然と修繕費との違いが理解できるようになります。
外壁の交換
外壁を吹き付けやパネルから防水防汚タイルなどに変更をしたなど、外壁機能を上げるための工事は、資本的支出となります。
本来、外壁自体には、建物の機能を向上させるほどの力はないとみなされています。しかし、外壁を以前よりもグレードの高いものに交換することで、従前の防汚防水以上の効果が期待でき建物の耐久性が向上する場合、工事によって資産価値が向上したことになります。
同じ外壁を取り換えるのでも、外壁をオシャレなデザインのものに交換するなどの場合は、外壁の機能向上・耐久性向上にはならないため、修繕費となります。
外壁塗装工事
外壁塗装自体は防汚防水のためのものであり、物件機能を向上させるほどの力はありませんが、塗料の内容をグレードアップした場合には、資本的支出となります。
例えば、今までは通常の塗装をしていたけれども、今回からはフッ素塗料・光触媒塗装などの、ワンランク上の薬剤を使った塗料に変更したとします。
新しい塗料のコーティング力により、外壁に汚れ・コケ・カビなどがつきにくくなり、外観がキレイな状態が長持ちすることで、結果として建物の耐久性が向上することが明らかな場合は、物件の価値が上昇することになるので、資本的支出となります。
大がかりな間取り変更
世間一般で言われるフルリノベーションやリノベーション工事のことです。例えば、2DKを広い1LDK仕様に変更する間取り変更などは、室内の動線を良くし、利便性を上げることによって物件価値が明らかに向上します。
工事に伴い、当然、床材や壁紙なども変更されます。フルリノベーションの場合は、水回りを配管ごと変更します。これらの工事によって、物件の機能と資産価値そのものが刷新されて物件の耐久性が上がるので、資本的支出となります。
部屋の用途を変更するための模様替え
事務所だったものを一般の住居に変更するなど、物件を購入した時点での用途とは違う目的の物件に模様替えをする場合は、変更内容にかかわらず資本的支出となります。
フルリノベーションやリノベーションと同じ考え方ですが、こちらは、間取りではなく用途変更が主な目的となっており、用途変更は「修繕」に該当しないからです。
非常階段・ハシゴなどの新規取付
非常階段やハシゴなどがプラスされた場合は、建物全体の防災機能が向上するので、資本的支出となります。
システムキッチンの交換
システムキッチンを交換することにより、水回り配管などが物理的に変化し、キッチンの持つ機能自体が大きく向上します。
さらに、キッチンとその周辺機能の耐久性を高めることにより、物件の資産価値が向上するため、資本的支出となります。ただし、交換するシステムキッチンが従前に使っていたものと同レベルの場合は修繕費となります。
ユニットバス交換
ユニットバスはその構造上、交換をすることにより、浴室全体が交換されたのと同じ意味を持ちます。また、ユニットバスを入れるためには、従前のユニットバス全体を取り壊して撤去してから、新しいユニットバスを設置しなければなりません。
その結果、物件に新しい価値の浴室が付加されたとみなされるため、物件価値が向上したことになり、資本的支出となります。
エアコン・給湯機の交換
エアコンや給湯機などを交換するには、古い設備を撤去してから、全く新しい設備を設置する必要があります。新しい設備を付加することにより、物件に対しても資産価値が付加されるとみなすため資本的支出となります。
ただし、エアコンや給湯機は10万円以下であれば消耗品費として一括計上できます。また一つの機器が30万円以下、総額300万円までであれば、青色申告の方のみ、一括経費計上できる中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が適用できます。
お風呂に追い炊き機能を追加
浴室全体の交換をしたわけではないが、お風呂に従前にはなかった機能がプラスされることにより、明らかに物件価値が向上するため、資本的支出となります。
機能を付ける側からすると、あったほうが便利だろうが「なぜ資本的支出?」と不思議に思いますが、部屋を借りる立場に立つと理解しやすくなります。部屋を借りる入居希望者は、物件検索をする際に「追い炊き機能あり」のところにチェックを入れて検索します。
この機能が付加されることにより、少し賃料が高くなったとしても、追い炊き機能がない部屋よりも「明らかに借りる価値を感じる」のであれば、この物件には、元の状態よりも、資産的価値が付加されたことになります。よって、資本的支出となります。
普通の便器から、温水洗浄便座への交換
普通の便座を、温水洗浄便座に交換した場合は、元の便座を撤去してから、新しい便座を設置する必要があります。資本的支出の原則である「古いものを取り去り、新しい付加価値があるものを設置することにより、価値が上昇する」に該当するため、資本的支出になります。
部屋の壁紙をグレードアップ
室内の壁紙を、消臭効果のあるもの、防音効果のあるもの、防湿防カビ効果のあるもの、シックハウス対策の効果があるものなど、室内の機能を高める目的で交換した場合は、室内全体の機能がアップして物件の耐久性が向上するので、資本的支出となります。
ただし、交換する内容が、機能のない壁紙から機能のない布壁紙、色やデザインの良いものにする目的の場合は、修繕費となります。
床を畳からフローリングへ変更
和室仕様だった床を、フローリングに変更するための工事費は、もともとある畳を撤去してから、フローリングのための工事をして、新規に床材を引くことになります。そのため、物件に全く新しい価値を付加したことになりますので、資本的支出となります。
同じ床材をひくのでも、例えば、オーク材から無垢材へ変更するなどの場合は、木材を変更することで物件の価値が向上したわけではないため、修繕費となります。
まとめ
不動産投資では、修繕費の経費計上と、資本的支出への仕訳が、不動産収入や税金に大きな影響を及ぼします。
修理修繕のつもりで工事をしたら、結果的に物件価値が高まってしまったため、修繕費ではなく資本的支出として減価償却をしなければならない場合もあるので注意しましょう。
修繕費と資本的支出の違いを正確に理解しておくことで、不動産経営を計画的に行うことができます。修繕工事は、年度によっては思った以上にかかることもあるので、フローチャートなどを使いながら、修繕費・資本的支出の仕分けをして計画前の段階で調査をしておくとよいでしょう。
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この記事を書いた人
ベルテックスコラム事務局
不動産コンサルタント・税理士
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