2023.10.11

不動産投資の基本

ベルテックスコラム事務局

不動産投資の減価償却とは?計算方法と税金が安くなる仕組みを解説

  • 節税・税金
  • 不動産投資
  • 減価償却

不動産投資では、減価償却費を計上して利益を圧縮できれば、所得税や住民税を減らすことが可能です。税金負担を軽減するためには、減価償却費の仕組みや計算方法を理解することが大切です。

この記事では、土地と建物の按分方法や、新築と中古の計算方法の違いなど、不動産投資家が気になるポイントを事例も交えながら解説します。

不動産投資における減価償却費とは

不動産投資における減価償却とは、建物価格を毎年少しずつ経費として計上する仕組みのことです。減価償却で計上する経費のことを減価償却費といいます。不動産投資で建物を購入したら確定申告の際に「減価償却費の計算」の欄に建物の金額を記載します。例えば、建物価格が2,000万円なら「建物2,000万円」と記載します。

建物は、経年劣化に伴い資産価値が減っていくため、減価償却費を経費として計上しながら決算書の建物金額を減らすことが必要です。例えば、2,000万円の建物に投資し、1年目に100万円を減価償却費として計上した場合、建物の未償却残高は1,900万円となります。また2年目に100万円を減価償却費として計上すれば、建物の未償却残高は1,800万円です。

このように建物価格は毎年少しずつ減価償却費として計上できます。一方、土地は建物のように経年劣化することがないため、減価償却の対象ではありません

不動産投資の利益(所得)は、家賃収入から減価償却費を含む経費を差し引いて算出します。所得税や住民税は、利益(不動産所得)に税率を乗じて計算するため、減価償却費を計上して利益を圧縮できれば支払う税金も少なくて済みます。このように、減価償却費は不動産投資でかかる税金に大きな影響を与える重要な項目です。

減価償却の額の決まり方

減価償却費は、上述したように税金額に影響を与える重要な経費なので、減価償却費の計算方法は厳密に定められています。経年劣化の状態を自己判断して自由に金額を決められるわけではないことを認識しておきましょう。減価償却費の計算の仕組みを十分に理解していれば減価償却費を多く計上できる物件に投資して税金を抑えることも可能です。減価償却費は、以下の計算式で簡易的に算出できます。

減価償却費=建物価格÷減価償却期間

仮に建物が2,000万円で減価償却期間が20年だとすると「2,000万円÷20年=100万円」となり、毎年100万円を減価償却費として計上できます。次に、減価償却費に影響を与える3つの要素について詳しく見ていきましょう。

建物価格

上述したように、不動産のうち建物は減価償却できますが土地は減価償却できません。そのため、まずは投資した金額から建物と土地を分ける必要があります。売買契約書に土地と建物の金額が記載されていることが多いですが、記載されていない場合は土地と建物に按分しなければなりません。ここで知っておきたいのは、建物の金額が大きいほど減価償却費として計上できる金額も大きくなることです。

つまり投資家目線では建物の金額が大きい方が有利になります。しかし、節税目的で極端に建物に偏った按分にしてしまうと税務署から指摘を受けることになりかねません。そうならないためには、専門家に相談しながら根拠を明確にした上で按分することが重要です。建物の金額が明確になった後は、建物と建物付属設備を分けます。

建物と建物付属設備で分ける理由は、それぞれ減価償却期間が異なるからです。建物の減価償却期間は最長50年ですが、建物付属設備は最長15年です。減価償却期間が長い場合は、少額ずつしか経費計上できないため、利益の圧縮効果が小さくなり、その分税金が高くなります。全て建物に計上した場合、毎年の減価償却費が少なくなり所得税や住民税が多くかかることになります。

このように建物付属設備に分けられるものは分けて計上した方が投資家にとっては有利なのです。建物付属設備には、例えば以下のようなものがあります。

  • アーケード、日よけ設備
  • 電気設備(照明設備を含む)
  • 給排水
  • 衛生設備、ガス設備

法定耐用年数

法定耐用年数とは、税金を計算する上での使用可能期間のことです。新築なら法定耐用年数がそのまま減価償却期間となります。建物の法定耐用年数は、以下のように構造と用途ごとに定められています。

構造 用途 法定耐用年数
木造・合成樹脂造 住宅用
事務所用
22年
24年
木骨モルタル造 住宅用
事務所用
20年
22年
鉄骨鉄筋コンクリート造
鉄筋コンクリート造
住宅用
事務所用
47年
50年
金属造
※骨格材の肉厚が3mm以下
住宅用
事務所用
19年
22年

※財務省令の別表「主な減価償却資産の耐用年数表」より一部抜粋。

残存年数

中古物件の場合、すでに一定年数を経過した状態で取得することになるため、簡便法と呼ばれる計算式で耐用年数をもとに残存年数を計算して減価償却期間とします。残存年数の計算式は以下の通りです。

築年数と耐用年数の状況  残存年数
 築年数>耐用年数の場合  耐用年数×20%
 築年数≦耐用年数の場合  耐用年数-築年数+築年数×20%

 なお1年未満の端数は切り捨てることとされています。中古物件は、耐用年数ではなく残存年数で減価償却費を計算するため、新築物件より利益の圧縮効果が大きいです。中古物件に投資する際は、残存年数を計算することで毎年どのくらい減価償却費として計上できるかを知ることができます。

中古の場合の建物価格(土地との按分)

ここまで減価償却費の計算方法を解説してきました。減価償却費に与える影響が最も大きいのは、建物の価格です。減価償却期間は、新築・中古のどちらの場合でも計算方法が決まっており、それに従って計算します。建物価格は、売買契約書に記載されていることも多いですが、中古物件の場合は交渉の余地がある項目です。

また契約書に土地と建物の総額しか記載されていない場合は、按分して減価償却費を計算しなければなりません。ここでは、土地と建物の按分について詳しく見ていきましょう。

固定資産税評価額で按分

売買契約書に土地と建物の金額が記載されていない場合は、根拠を明確にした上で按分する必要があります。一般的には、固定資産税評価額をもとに按分します。固定資産税評価額とは、毎年かかる固定資産税を計算するための基準となる評価額のことです。市区町村から送られてくる固定資産税の課税明細に記載されています。

固定資産税の課税明細の建物の割合を投資金額に乗じることで投資金額のうち建物の価格を求めることができるでしょう。計算式は以下の通りです。

投資金額(土地と建物の合計額)×建物の固定資産税評価額÷(建物の固定資産税評価額+土地の固定資産税評価額)

不動産業界では、売買時に売主と買主との間で固定資産税を清算する慣習があるため、課税明細のコピーなどをやり取りすることが一般的です。売買契約書などの資料と一緒に課税明細のコピーが入っていることが多いため、それをもとに計算すれば簡単に求められます。手もとに資料がない場合は、市区町村に問い合わせて固定資産評価証明書(有料)を発行してもらうことも可能です。

固定資産税評価額で按分する方法は広く用いられており、根拠としても明確なため、この計算方法であれば税務署から指摘を受けるリスクは非常に低いでしょう。

当事者間での割合合意

売主と買主で話し合って、お互いに建物と土地の金額で合意して契約書に明記するという方法もあります。ただし、土地と建物の按分には、減価償却費と消費税の問題が絡んでくるため注意が必要です。知らないと損をするリスクもあるため、契約書をチェックするだけでなく、必要に応じて交渉を行うようにしましょう。

買主にとっては、投資金額のうち建物の割合が高い方が得になります。減価償却費を多く計上できるため、毎年の税金が安くなるからです。一方、売主にとっては、土地の割合が高い方が得になります。支払う消費税が少なくなるからです。土地は、消費税が非課税となるため、建物だけに消費税がかかります。つまり建物の割合が高いと収入にかかる消費税が多くなり、国に納める消費税も増えることになるのです。

売上高1,000万円を超えると法人でも個人事業主でも消費税の課税事業者となりますが、売上高1,000万円以下なら免税事業者となるため、消費税を納めなくても問題ありません。売主が免税事業者なら消費税を納める必要がないので、売主と買主の間で土地と建物の按分を巡って利害が対立することはありません。

減価償却費の算出

減価償却の考え方や減価償却費の計算方法について解説してきましたが、ここからは減価償却費の計算の流れについて事例を交えながら説明します。

新築の場合

投資金額が1,500万円でそのうち土地が900万円、建物(鉄筋コンクリート造/住宅用の投資物件)が600万円だとします。まず建物のうち建物付属設備に含まれるものがないか確認しましょう。例えば、50万円分がガス設備等の建物付属設備に該当したと仮定します。続いて、建物と建物付属設備の耐用年数を確認します。

耐用年数表を見ると鉄筋コンクリート造の住宅用建物の耐用年数は47年、建物付属設備となるガス設備の耐用年数は15年です。定額法(耐用年数に応じて定められた定額法の償却率を用いた計算方法)で計算すると、この場合の建物と建物付属設備の減価償却費は以下のようになります。

建物:
550万円×0.022(償却率)=12万1,000円
建物付属設備:
50万円×0.067(償却率)=3万3,500円

減価償却費の合計額は、約15万4,500円です。

中古の場合

投資金額や土地建物の内訳は、上述した新築と同じ前提条件で建物の築年数が10年とします。中古物件なので、まずは残存年数を求めましょう。耐用年数は建物が47年、建物付属設備が15年は変わりません。築年数が耐用年数を超えていないため、残存年数は、以下のように計算します。

建物:
(47年-10年)+(10年×20%)=39年
建物付属設備:
(15年-10年)+(10年×20%)=7年

残存年数をもとに定額法で減価償却費を計算すると以下のようになります。

建物:
550万円×0.026(償却率)=14万3,000円
建物付属設備:
50万円×0.143(償却率)=7万1,500円

減価償却費の合計額は21万4,500円です。 中古物件の場合、残存年数が短くなる分、減価償却費が大きくなり、毎年払う税金が安くなります。

耐用年数を過ぎている場合

投資金額や土地建物の内訳は先ほどと同じ前提条件で、建物の築年数が50年の場合をシミュレーションしてみましょう。築年数が耐用年数を超えているため、残存年数は以下のように計算します。

建物:
47年×20%=9.4年(端数は切り捨てのため9年)
建物付属設備:
15年×20%=3年

残存年数をもとに減価償却費を計算すると以下のようになります。

建物:
550万円×0.112(償却率)=61万6,000円
建物付属設備:
50万円×0.334(償却率)=16万7,000円

減価償却費の合計額は、78万3,000円です。 築年数が長いと残存年数が短くなるため、減価償却費として計上できる金額はさらに大きくなります。ただし、老朽化が進んでいる場合は、リフォーム工事が必要になるケースも多いため、税金だけではなくトータルでかかるお金をもとに投資判断を行うことが大切です。

減価償却費が節税になる仕組み

減価償却費を多く計上できれば、不動産投資の利益にかかる所得税や住民税を減らすことができます。さらに、減価償却費を計上することにより、給与にかかる所得税や住民税を軽減できる可能性もあります。ここでは、減価償却費が節税になるといわれる理由や税金が安くなる仕組みを解説します。

所得税がかかる所得には、給与所得、不動産所得、事業所得などさまざまな種類があることをご存じでしょうか。この中で、給与所得と不動産所得は「損益通算」ができます。損益通算とは、種類が異なる所得の損失と利益を合算できる制度のことをいいます。不動産所得が赤字の場合、不動産所得と給与所得を損益通算すれば課税所得金額を減らすことができます。例えば、不動産所得が100万円の赤字で給与所得が400万円の場合、損益通算を行うと課税所得金額は300万円です。

所得税や住民税は、課税所得金額に税率を乗じて計算するため、100万円分の所得にかかる税金が安くなります。不動産所得が赤字と聞くと損をしているように感じる人もいるかもしれませんが、減価償却費は実際に現金を支出しない経費です。

例えば、年間の家賃収入が500万円、経費が50万円、減価償却費が550万円、ローン返済が250万円の場合、不動産投資の利益は以下のような計算式になります。

家賃収入500万円-経費50万円-減価償却費550万円=▲100万円

しかし、実際に手もとに残るお金は以下の通りです。

家賃収入500万円-経費50万円-250万円=200万円

「不動産所得が赤字だと、次の物件に投資する際、金融機関のローン審査で不利になるのでは?」と気にする人も少なくありません。しかし、金融機関の担当者は、減価償却費の仕組みを当然理解しています。実際に賃貸経営自体が順調であれば、減価償却費による赤字だけで不利になる心配はないといえるでしょう。

売却時の簿価について

減価償却費は、実際に現金の支出を伴わない経費で利益の圧縮効果が大きい点は魅力ですが、注意点もあります。例えば、不動産の売却時に税金が高くなる可能性があることです。2,000万円で買った物件を数年後に2,000万円で売却した場合、利益が出ていないため、税金はかからないと思う人もいるかもしれません。しかし、売却時の税金は、売却価格と簿価の差額に対してかかります。

簿価とは、毎年の減価償却費を差し引いた帳簿上の建物価格のことです。例えば2,000万円の物件に投資して毎年100万円ずつ減価償却費を計上していた場合、8年後の建物の簿価は「2,000万円-(100万円×8年)」で1,200万円となります。このとき2,000万円で建物を売却すると利益は「2,000万円-1,200万円」で800万円です。

減価償却費が売却時の税金に影響を与えることを押さえた上で、専門家に相談しながらトータルで税金の効果が高くなるように工夫することが大切です。売却時の税率は「5年以内の売却か」「5年を超えての売却か」で大きく変わります。譲渡所得税は、5年以内だと税率30%(住民税は9%)ですが、5年超だと15%(住民税は5%)です。

売却日がたった1日違うだけで税額が大きく変わる可能性があるため、注意しましょう。また、所得に応じて所得税率は5~45%まで変化するため、給与収入や不動産投資の利益によっても減価償却費による節税効果は変わってきます。このようなポイントを押さえて売却のタイミングを見極めるとよいでしょう。

まとめ

減価償却は、不動産投資を行うなら必ず押さえておきたい重要なポイントです。減価償却について理解して、減価償却費がいくらになるかシミュレーションをしておけば、投資後の所得や税金の効果を見積もることができます。

また、ローン返済を続けるうちに返済額に占める利子の割合が少なくなり、税金の効果が変わってくることがあります。税金の効果を正しく把握して不動産投資を成功させるためには、信頼できる専門家を探してアドバイスを受けながら二人三脚で不動産投資をするとよいでしょう。

ベルテックスでは不動産にまつわる節税対策セミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。

2023.10.11

不動産投資の基本

ベルテックスコラム事務局

不動産投資の減価償却とは?計算方法と税金が安くなる仕組みを解説

  • 節税・税金
  • 不動産投資
  • 減価償却

不動産投資では、減価償却費を計上して利益を圧縮できれば、所得税や住民税を減らすことが可能です。税金負担を軽減するためには、減価償却費の仕組みや計算方法を理解することが大切です。

この記事では、土地と建物の按分方法や、新築と中古の計算方法の違いなど、不動産投資家が気になるポイントを事例も交えながら解説します。

不動産投資における減価償却費とは

不動産投資における減価償却とは、建物価格を毎年少しずつ経費として計上する仕組みのことです。減価償却で計上する経費のことを減価償却費といいます。不動産投資で建物を購入したら確定申告の際に「減価償却費の計算」の欄に建物の金額を記載します。例えば、建物価格が2,000万円なら「建物2,000万円」と記載します。

建物は、経年劣化に伴い資産価値が減っていくため、減価償却費を経費として計上しながら決算書の建物金額を減らすことが必要です。例えば、2,000万円の建物に投資し、1年目に100万円を減価償却費として計上した場合、建物の未償却残高は1,900万円となります。また2年目に100万円を減価償却費として計上すれば、建物の未償却残高は1,800万円です。

このように建物価格は毎年少しずつ減価償却費として計上できます。一方、土地は建物のように経年劣化することがないため、減価償却の対象ではありません

不動産投資の利益(所得)は、家賃収入から減価償却費を含む経費を差し引いて算出します。所得税や住民税は、利益(不動産所得)に税率を乗じて計算するため、減価償却費を計上して利益を圧縮できれば支払う税金も少なくて済みます。このように、減価償却費は不動産投資でかかる税金に大きな影響を与える重要な項目です。

減価償却の額の決まり方

減価償却費は、上述したように税金額に影響を与える重要な経費なので、減価償却費の計算方法は厳密に定められています。経年劣化の状態を自己判断して自由に金額を決められるわけではないことを認識しておきましょう。減価償却費の計算の仕組みを十分に理解していれば減価償却費を多く計上できる物件に投資して税金を抑えることも可能です。減価償却費は、以下の計算式で簡易的に算出できます。

減価償却費=建物価格÷減価償却期間

仮に建物が2,000万円で減価償却期間が20年だとすると「2,000万円÷20年=100万円」となり、毎年100万円を減価償却費として計上できます。次に、減価償却費に影響を与える3つの要素について詳しく見ていきましょう。

建物価格

上述したように、不動産のうち建物は減価償却できますが土地は減価償却できません。そのため、まずは投資した金額から建物と土地を分ける必要があります。売買契約書に土地と建物の金額が記載されていることが多いですが、記載されていない場合は土地と建物に按分しなければなりません。ここで知っておきたいのは、建物の金額が大きいほど減価償却費として計上できる金額も大きくなることです。

つまり投資家目線では建物の金額が大きい方が有利になります。しかし、節税目的で極端に建物に偏った按分にしてしまうと税務署から指摘を受けることになりかねません。そうならないためには、専門家に相談しながら根拠を明確にした上で按分することが重要です。建物の金額が明確になった後は、建物と建物付属設備を分けます。

建物と建物付属設備で分ける理由は、それぞれ減価償却期間が異なるからです。建物の減価償却期間は最長50年ですが、建物付属設備は最長15年です。減価償却期間が長い場合は、少額ずつしか経費計上できないため、利益の圧縮効果が小さくなり、その分税金が高くなります。全て建物に計上した場合、毎年の減価償却費が少なくなり所得税や住民税が多くかかることになります。

このように建物付属設備に分けられるものは分けて計上した方が投資家にとっては有利なのです。建物付属設備には、例えば以下のようなものがあります。

  • アーケード、日よけ設備
  • 電気設備(照明設備を含む)
  • 給排水
  • 衛生設備、ガス設備

法定耐用年数

法定耐用年数とは、税金を計算する上での使用可能期間のことです。新築なら法定耐用年数がそのまま減価償却期間となります。建物の法定耐用年数は、以下のように構造と用途ごとに定められています。

構造 用途 法定耐用年数
木造・合成樹脂造 住宅用
事務所用
22年
24年
木骨モルタル造 住宅用
事務所用
20年
22年
鉄骨鉄筋コンクリート造
鉄筋コンクリート造
住宅用
事務所用
47年
50年
金属造
※骨格材の肉厚が3mm以下
住宅用
事務所用
19年
22年

※財務省令の別表「主な減価償却資産の耐用年数表」より一部抜粋。

残存年数

中古物件の場合、すでに一定年数を経過した状態で取得することになるため、簡便法と呼ばれる計算式で耐用年数をもとに残存年数を計算して減価償却期間とします。残存年数の計算式は以下の通りです。

築年数と耐用年数の状況  残存年数
 築年数>耐用年数の場合  耐用年数×20%
 築年数≦耐用年数の場合  耐用年数-築年数+築年数×20%

 なお1年未満の端数は切り捨てることとされています。中古物件は、耐用年数ではなく残存年数で減価償却費を計算するため、新築物件より利益の圧縮効果が大きいです。中古物件に投資する際は、残存年数を計算することで毎年どのくらい減価償却費として計上できるかを知ることができます。

中古の場合の建物価格(土地との按分)

ここまで減価償却費の計算方法を解説してきました。減価償却費に与える影響が最も大きいのは、建物の価格です。減価償却期間は、新築・中古のどちらの場合でも計算方法が決まっており、それに従って計算します。建物価格は、売買契約書に記載されていることも多いですが、中古物件の場合は交渉の余地がある項目です。

また契約書に土地と建物の総額しか記載されていない場合は、按分して減価償却費を計算しなければなりません。ここでは、土地と建物の按分について詳しく見ていきましょう。

固定資産税評価額で按分

売買契約書に土地と建物の金額が記載されていない場合は、根拠を明確にした上で按分する必要があります。一般的には、固定資産税評価額をもとに按分します。固定資産税評価額とは、毎年かかる固定資産税を計算するための基準となる評価額のことです。市区町村から送られてくる固定資産税の課税明細に記載されています。

固定資産税の課税明細の建物の割合を投資金額に乗じることで投資金額のうち建物の価格を求めることができるでしょう。計算式は以下の通りです。

投資金額(土地と建物の合計額)×建物の固定資産税評価額÷(建物の固定資産税評価額+土地の固定資産税評価額)

不動産業界では、売買時に売主と買主との間で固定資産税を清算する慣習があるため、課税明細のコピーなどをやり取りすることが一般的です。売買契約書などの資料と一緒に課税明細のコピーが入っていることが多いため、それをもとに計算すれば簡単に求められます。手もとに資料がない場合は、市区町村に問い合わせて固定資産評価証明書(有料)を発行してもらうことも可能です。

固定資産税評価額で按分する方法は広く用いられており、根拠としても明確なため、この計算方法であれば税務署から指摘を受けるリスクは非常に低いでしょう。

当事者間での割合合意

売主と買主で話し合って、お互いに建物と土地の金額で合意して契約書に明記するという方法もあります。ただし、土地と建物の按分には、減価償却費と消費税の問題が絡んでくるため注意が必要です。知らないと損をするリスクもあるため、契約書をチェックするだけでなく、必要に応じて交渉を行うようにしましょう。

買主にとっては、投資金額のうち建物の割合が高い方が得になります。減価償却費を多く計上できるため、毎年の税金が安くなるからです。一方、売主にとっては、土地の割合が高い方が得になります。支払う消費税が少なくなるからです。土地は、消費税が非課税となるため、建物だけに消費税がかかります。つまり建物の割合が高いと収入にかかる消費税が多くなり、国に納める消費税も増えることになるのです。

売上高1,000万円を超えると法人でも個人事業主でも消費税の課税事業者となりますが、売上高1,000万円以下なら免税事業者となるため、消費税を納めなくても問題ありません。売主が免税事業者なら消費税を納める必要がないので、売主と買主の間で土地と建物の按分を巡って利害が対立することはありません。

減価償却費の算出

減価償却の考え方や減価償却費の計算方法について解説してきましたが、ここからは減価償却費の計算の流れについて事例を交えながら説明します。

新築の場合

投資金額が1,500万円でそのうち土地が900万円、建物(鉄筋コンクリート造/住宅用の投資物件)が600万円だとします。まず建物のうち建物付属設備に含まれるものがないか確認しましょう。例えば、50万円分がガス設備等の建物付属設備に該当したと仮定します。続いて、建物と建物付属設備の耐用年数を確認します。

耐用年数表を見ると鉄筋コンクリート造の住宅用建物の耐用年数は47年、建物付属設備となるガス設備の耐用年数は15年です。定額法(耐用年数に応じて定められた定額法の償却率を用いた計算方法)で計算すると、この場合の建物と建物付属設備の減価償却費は以下のようになります。

建物:
550万円×0.022(償却率)=12万1,000円
建物付属設備:
50万円×0.067(償却率)=3万3,500円

減価償却費の合計額は、約15万4,500円です。

中古の場合

投資金額や土地建物の内訳は、上述した新築と同じ前提条件で建物の築年数が10年とします。中古物件なので、まずは残存年数を求めましょう。耐用年数は建物が47年、建物付属設備が15年は変わりません。築年数が耐用年数を超えていないため、残存年数は、以下のように計算します。

建物:
(47年-10年)+(10年×20%)=39年
建物付属設備:
(15年-10年)+(10年×20%)=7年

残存年数をもとに定額法で減価償却費を計算すると以下のようになります。

建物:
550万円×0.026(償却率)=14万3,000円
建物付属設備:
50万円×0.143(償却率)=7万1,500円

減価償却費の合計額は21万4,500円です。 中古物件の場合、残存年数が短くなる分、減価償却費が大きくなり、毎年払う税金が安くなります。

耐用年数を過ぎている場合

投資金額や土地建物の内訳は先ほどと同じ前提条件で、建物の築年数が50年の場合をシミュレーションしてみましょう。築年数が耐用年数を超えているため、残存年数は以下のように計算します。

建物:
47年×20%=9.4年(端数は切り捨てのため9年)
建物付属設備:
15年×20%=3年

残存年数をもとに減価償却費を計算すると以下のようになります。

建物:
550万円×0.112(償却率)=61万6,000円
建物付属設備:
50万円×0.334(償却率)=16万7,000円

減価償却費の合計額は、78万3,000円です。 築年数が長いと残存年数が短くなるため、減価償却費として計上できる金額はさらに大きくなります。ただし、老朽化が進んでいる場合は、リフォーム工事が必要になるケースも多いため、税金だけではなくトータルでかかるお金をもとに投資判断を行うことが大切です。

減価償却費が節税になる仕組み

減価償却費を多く計上できれば、不動産投資の利益にかかる所得税や住民税を減らすことができます。さらに、減価償却費を計上することにより、給与にかかる所得税や住民税を軽減できる可能性もあります。ここでは、減価償却費が節税になるといわれる理由や税金が安くなる仕組みを解説します。

所得税がかかる所得には、給与所得、不動産所得、事業所得などさまざまな種類があることをご存じでしょうか。この中で、給与所得と不動産所得は「損益通算」ができます。損益通算とは、種類が異なる所得の損失と利益を合算できる制度のことをいいます。不動産所得が赤字の場合、不動産所得と給与所得を損益通算すれば課税所得金額を減らすことができます。例えば、不動産所得が100万円の赤字で給与所得が400万円の場合、損益通算を行うと課税所得金額は300万円です。

所得税や住民税は、課税所得金額に税率を乗じて計算するため、100万円分の所得にかかる税金が安くなります。不動産所得が赤字と聞くと損をしているように感じる人もいるかもしれませんが、減価償却費は実際に現金を支出しない経費です。

例えば、年間の家賃収入が500万円、経費が50万円、減価償却費が550万円、ローン返済が250万円の場合、不動産投資の利益は以下のような計算式になります。

家賃収入500万円-経費50万円-減価償却費550万円=▲100万円

しかし、実際に手もとに残るお金は以下の通りです。

家賃収入500万円-経費50万円-250万円=200万円

「不動産所得が赤字だと、次の物件に投資する際、金融機関のローン審査で不利になるのでは?」と気にする人も少なくありません。しかし、金融機関の担当者は、減価償却費の仕組みを当然理解しています。実際に賃貸経営自体が順調であれば、減価償却費による赤字だけで不利になる心配はないといえるでしょう。

売却時の簿価について

減価償却費は、実際に現金の支出を伴わない経費で利益の圧縮効果が大きい点は魅力ですが、注意点もあります。例えば、不動産の売却時に税金が高くなる可能性があることです。2,000万円で買った物件を数年後に2,000万円で売却した場合、利益が出ていないため、税金はかからないと思う人もいるかもしれません。しかし、売却時の税金は、売却価格と簿価の差額に対してかかります。

簿価とは、毎年の減価償却費を差し引いた帳簿上の建物価格のことです。例えば2,000万円の物件に投資して毎年100万円ずつ減価償却費を計上していた場合、8年後の建物の簿価は「2,000万円-(100万円×8年)」で1,200万円となります。このとき2,000万円で建物を売却すると利益は「2,000万円-1,200万円」で800万円です。

減価償却費が売却時の税金に影響を与えることを押さえた上で、専門家に相談しながらトータルで税金の効果が高くなるように工夫することが大切です。売却時の税率は「5年以内の売却か」「5年を超えての売却か」で大きく変わります。譲渡所得税は、5年以内だと税率30%(住民税は9%)ですが、5年超だと15%(住民税は5%)です。

売却日がたった1日違うだけで税額が大きく変わる可能性があるため、注意しましょう。また、所得に応じて所得税率は5~45%まで変化するため、給与収入や不動産投資の利益によっても減価償却費による節税効果は変わってきます。このようなポイントを押さえて売却のタイミングを見極めるとよいでしょう。

まとめ

減価償却は、不動産投資を行うなら必ず押さえておきたい重要なポイントです。減価償却について理解して、減価償却費がいくらになるかシミュレーションをしておけば、投資後の所得や税金の効果を見積もることができます。

また、ローン返済を続けるうちに返済額に占める利子の割合が少なくなり、税金の効果が変わってくることがあります。税金の効果を正しく把握して不動産投資を成功させるためには、信頼できる専門家を探してアドバイスを受けながら二人三脚で不動産投資をするとよいでしょう。

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この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

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