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2026.01.13
山村 暢彦
オーナーとして知っておくべき「賃貸借契約」の法的常識【弁護士の解説】
- 賃貸管理
- 弁護士
- 執筆記事
「大家さん」は強い?弱い?日本の賃貸借法
日本の賃貸借契約は「借地借家法」という法律により、入居者(賃借人)の権利が強く保護されています。オーナー(大家・賃貸人)だからといって、自由に契約を終了させたり、退去を求めたりできるわけではありません。たとえば、入居者が契約期間満了後も住み続けたいと申し出た場合、原則として「正当な事由」がなければ更新拒絶はできません。正当事由とは、建物の老朽化や自己使用の必要性、立退料の支払いなどを総合的に判断して初めて認められるものです。つまり、単に「他の人に貸したい」「売却したい」といった理由では入居者を退去させられないのが現実です。
このような入居者保護の仕組みは、住まいの安定(居住権)を守るために設けられたものであり、オーナー側には一定の制約が課されています。そのため、賃貸経営を始める際には、「大家の権利」よりも「法律上の義務」を理解することが重要です。
「家賃」は自由に決められる?
家賃は契約の当初に当事者間で定められますが、一度決めた金額をずっと維持しなければならないわけではありません。借地借家法第32条では、「地代・家賃の増減額請求権」が認められており、経済事情や近隣相場との乖離が著しい場合には、オーナー・入居者のどちらからでも変更を求めることができます。
もっとも、「相場より高いから下げたい」「物価が上がったから上げたい」といった主張だけでは認められません。裁判実務では、近隣の賃料相場、固定資産税評価額、建物の老朽度、経済動向など複数の要素を総合的に判断します。
ただ、家賃トラブルの解決を裁判所に持ち込むとなると、時間と費用がかかります。そのため、大家さんと入居者の「言い合い」になってしまうことも少なくありません。お互いに立場を主張し合うだけでは、長期的な信頼関係を損ない、安定した賃貸運営に支障をきたします。したがって、家賃改定交渉は冷静かつ段階的に行うことが望ましいです。
実務的には、更新時に段階的な賃料改定を合意しておく方法や、対外的な指標を参照し、増額・減額幅をあらかじめ設けておくなど、事前のルールを定めておくことがトラブル防止の有効な手段といえるでしょう。
「普通借家契約」と「定期借家契約」の違い
賃貸借契約には大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。多くの住居用物件で使われているのは普通借家契約で、契約期間が満了しても、入居者が希望すれば原則として更新されます。オーナー側が更新を拒むには「正当な事由」が必要であり、単なる経済的事情や売却予定だけでは認められません。
これに対して定期借家契約は、あらかじめ「期間満了で終了する」と定めておく契約です。更新はなく、期間が満了すれば自動的に契約が終了します。ただし、契約時に書面で説明し、定期借家であることを明示しなければ無効となる点に注意が必要です。定期借家契約は、転勤中の自宅を一定期間だけ貸す場合や、事業用物件などで柔軟な賃貸経営を行いたい場合に有効な選択肢となります。
「原状回復」はどこまで入居者に請求できるか
退去時の「原状回復」をめぐるトラブルは、賃貸経営で最も多い紛争のひとつです。原状回復とは、入居前の状態に戻すことを意味しますが、すべての損耗を入居者が負担するわけではありません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「経年劣化」や「通常損耗」はオーナー負担、「故意・過失や不注意による損傷」は入居者負担とされています。たとえば、家具跡や日焼けによるクロスの変色はオーナー負担、タバコのヤニ汚れやペットによる傷は入居者負担となるのが一般的です。これらの線引きが曖昧なままだと、退去時に清算をめぐって紛争になりがちです。そのため、契約書には「特約」としてクリーニング費用や修繕範囲を明確に定めておくことが重要です。事前にルールを明文化することで、不要なトラブルを防ぐことができます。
【参照】国土交通省「住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について」2025年11月26日現在
まとめ
賃貸経営では、「借地借家法」に基づく法律ルールを正しく理解しておくことが不可欠です。家賃設定や更新、原状回復といったトラブルの多い場面も、事前に法的な原則を知っておけば、冷静に対応できます。とくに、契約書の内容次第でオーナーの負担が大きく変わることも少なくありません。物件購入時や入居者募集前には、契約書の内容をよくチェックし、リスクを最小限に抑えることが、安心して賃貸経営を続けるための近道となるでしょう。
この記事を書いた人
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。
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山村 暢彦
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「大家さん」は強い?弱い?日本の賃貸借法
日本の賃貸借契約は「借地借家法」という法律により、入居者(賃借人)の権利が強く保護されています。オーナー(大家・賃貸人)だからといって、自由に契約を終了させたり、退去を求めたりできるわけではありません。たとえば、入居者が契約期間満了後も住み続けたいと申し出た場合、原則として「正当な事由」がなければ更新拒絶はできません。正当事由とは、建物の老朽化や自己使用の必要性、立退料の支払いなどを総合的に判断して初めて認められるものです。つまり、単に「他の人に貸したい」「売却したい」といった理由では入居者を退去させられないのが現実です。
このような入居者保護の仕組みは、住まいの安定(居住権)を守るために設けられたものであり、オーナー側には一定の制約が課されています。そのため、賃貸経営を始める際には、「大家の権利」よりも「法律上の義務」を理解することが重要です。
「家賃」は自由に決められる?
家賃は契約の当初に当事者間で定められますが、一度決めた金額をずっと維持しなければならないわけではありません。借地借家法第32条では、「地代・家賃の増減額請求権」が認められており、経済事情や近隣相場との乖離が著しい場合には、オーナー・入居者のどちらからでも変更を求めることができます。
もっとも、「相場より高いから下げたい」「物価が上がったから上げたい」といった主張だけでは認められません。裁判実務では、近隣の賃料相場、固定資産税評価額、建物の老朽度、経済動向など複数の要素を総合的に判断します。
ただ、家賃トラブルの解決を裁判所に持ち込むとなると、時間と費用がかかります。そのため、大家さんと入居者の「言い合い」になってしまうことも少なくありません。お互いに立場を主張し合うだけでは、長期的な信頼関係を損ない、安定した賃貸運営に支障をきたします。したがって、家賃改定交渉は冷静かつ段階的に行うことが望ましいです。
実務的には、更新時に段階的な賃料改定を合意しておく方法や、対外的な指標を参照し、増額・減額幅をあらかじめ設けておくなど、事前のルールを定めておくことがトラブル防止の有効な手段といえるでしょう。
「普通借家契約」と「定期借家契約」の違い
賃貸借契約には大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。多くの住居用物件で使われているのは普通借家契約で、契約期間が満了しても、入居者が希望すれば原則として更新されます。オーナー側が更新を拒むには「正当な事由」が必要であり、単なる経済的事情や売却予定だけでは認められません。
これに対して定期借家契約は、あらかじめ「期間満了で終了する」と定めておく契約です。更新はなく、期間が満了すれば自動的に契約が終了します。ただし、契約時に書面で説明し、定期借家であることを明示しなければ無効となる点に注意が必要です。定期借家契約は、転勤中の自宅を一定期間だけ貸す場合や、事業用物件などで柔軟な賃貸経営を行いたい場合に有効な選択肢となります。
「原状回復」はどこまで入居者に請求できるか
退去時の「原状回復」をめぐるトラブルは、賃貸経営で最も多い紛争のひとつです。原状回復とは、入居前の状態に戻すことを意味しますが、すべての損耗を入居者が負担するわけではありません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「経年劣化」や「通常損耗」はオーナー負担、「故意・過失や不注意による損傷」は入居者負担とされています。たとえば、家具跡や日焼けによるクロスの変色はオーナー負担、タバコのヤニ汚れやペットによる傷は入居者負担となるのが一般的です。これらの線引きが曖昧なままだと、退去時に清算をめぐって紛争になりがちです。そのため、契約書には「特約」としてクリーニング費用や修繕範囲を明確に定めておくことが重要です。事前にルールを明文化することで、不要なトラブルを防ぐことができます。
【参照】国土交通省「住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について」2025年11月26日現在
まとめ
賃貸経営では、「借地借家法」に基づく法律ルールを正しく理解しておくことが不可欠です。家賃設定や更新、原状回復といったトラブルの多い場面も、事前に法的な原則を知っておけば、冷静に対応できます。とくに、契約書の内容次第でオーナーの負担が大きく変わることも少なくありません。物件購入時や入居者募集前には、契約書の内容をよくチェックし、リスクを最小限に抑えることが、安心して賃貸経営を続けるための近道となるでしょう。
この記事を書いた人
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。