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- もしオーナーが「認知症」になったら?弁護士が解説する「家族信託」で不動産経営を守る方法
2026.01.13
山村 暢彦
もしオーナーが「認知症」になったら?弁護士が解説する「家族信託」で不動産経営を守る方法
- 弁護士
- 執筆記事
- はじめ方・基礎知識
認知症オーナーが直面する「資産凍結」リスク
不動産オーナーにとって「認知症」は、継続的な経営を脅かす最大級のリスクの一つです。もしオーナー自身が認知症を発症し、「意思能力がない」と判断されると、家賃収入の管理や修繕費の支払い等の意思決定ができなくなります。さらに、売買契約や融資契約といった法律行為もできなくなるため、建物の大規模修繕や資産の組み換えも不可能になります。
このような状況に備える方法として「成年後見制度」がありますが、後見人は裁判所の監督下で「財産の保全」を目的に活動するため、積極的な投資や売却などの判断には制約があります。つまり、資産を守ることはできても「経営を続ける」ことは難しいのです。不動産オーナーにとっては、意思能力の喪失がそのまま「経営停止」につながる深刻な問題となります。
「家族信託」とは?(民事信託の基本)
「家族信託(民事信託)」とは、オーナー(委託者)が自分の資産を、信頼できる家族(受託者)に託し、定めた目的に従って管理・運用してもらう仕組みです。たとえば、父親が所有する賃貸物件を、将来の認知症リスクに備えて息子に信託し、「家賃の管理」「修繕契約」「売却判断」を息子が行う、という形です。
この契約を結ぶと、登記上の所有権は受託者(息子)に移りますが、実際の経済的利益(家賃収入など)は引き続き委託者(父親)に帰属します。つまり「法律上の名義」と「経済上の利益」を分けて管理できる点が特徴です。
信託契約は公正証書などで作成し、どの資産をどのように管理するか、誰のために使うかを細かく定めることができます。自由度が高く、生前の財産管理から相続後の承継までを一貫して設計できるのが大きな魅力です。
不動産経営における「家族信託」のメリット
家族信託を活用する最大のメリットは、「オーナーが認知症になっても、不動産経営を止めずに続けられること」です。信託契約によって、オーナー(委託者)の代わりに家族(受託者)が、家賃の入出金、修繕の発注、物件の売却などをスムーズに行うことができます。これにより、認知症発症による「経営の空白期間」を防ぎ、安定した賃貸運営が可能になります。
成年後見制度と異なり、家庭裁判所の許可をその都度得る必要がないため、リフォーム契約や金融機関との手続きもスムーズに進められます。たとえば、建物の修繕や資産の組み換えを行う場合でも、信託契約に基づいて受託者が即座に判断できるため、機動的な対応が可能です。
さらに、家族信託は「相続の指定」まで一体的に設計できる点でも優れています。信託契約で、「父が亡くなった後は母に収益を渡し、その後は子に承継する」といった複数段階の指定が可能です。つまり、生前の資産管理と、相続後の財産承継を一本化できるのです。 不動産経営は、判断の遅れが損失につながる世界です。家族信託は、万一のときも家族が経営を守れる“攻めと守りの両立策”といえるでしょう。
「遺言」や「成年後見」との違い
「家族信託」は、従来の「遺言」や「成年後見」とは目的も仕組みも大きく異なります。まず、遺言は本人の死後にしか効力が発生しません。そのため、生前に資産をどう管理・活用するかという問題には対応できず、「認知症対策」としては機能しません。
一方、成年後見制度は、判断能力を失った後に財産を守る制度ですが、基本的には「財産の維持・保全」が目的であり、積極的な投資や売却などは制限されます。たとえば、老朽化したアパートの建て替えや売却を後見人が行う場合、家庭裁判所の許可が必要で、スピード感に欠けます。
これに対して家族信託は、元気なうちから契約を発動させ、本人が判断できなくなっても信頼できる家族が継続的に運用を行えます。生前から死後までの財産管理を一貫して設計できるため、「経営の継続」と「円滑な承継」を両立できる点が最大の違いです。
まとめ
家族信託は、オーナーが元気なうちに「資産を守り、経営を続ける仕組み」を整える制度です。成年後見や遺言では対応できない“不動産経営の継続性”を確保できるのが大きな特徴です。
近年、「家族信託で生前対策を!」という言葉を耳にする機会も増えています。しかし、家族信託は決して“親の資産対策”だけを目的とした制度ではありません。本来の目的は、遺言や後見制度との違いを理解したうえで、収益不動産を持っている方が相続・承継対策として活用することです。早めに検討することが、将来の安心につながります。
この記事を書いた人
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。
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2026.01.13
山村 暢彦
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認知症オーナーが直面する「資産凍結」リスク
不動産オーナーにとって「認知症」は、継続的な経営を脅かす最大級のリスクの一つです。もしオーナー自身が認知症を発症し、「意思能力がない」と判断されると、家賃収入の管理や修繕費の支払い等の意思決定ができなくなります。さらに、売買契約や融資契約といった法律行為もできなくなるため、建物の大規模修繕や資産の組み換えも不可能になります。
このような状況に備える方法として「成年後見制度」がありますが、後見人は裁判所の監督下で「財産の保全」を目的に活動するため、積極的な投資や売却などの判断には制約があります。つまり、資産を守ることはできても「経営を続ける」ことは難しいのです。不動産オーナーにとっては、意思能力の喪失がそのまま「経営停止」につながる深刻な問題となります。
「家族信託」とは?(民事信託の基本)
「家族信託(民事信託)」とは、オーナー(委託者)が自分の資産を、信頼できる家族(受託者)に託し、定めた目的に従って管理・運用してもらう仕組みです。たとえば、父親が所有する賃貸物件を、将来の認知症リスクに備えて息子に信託し、「家賃の管理」「修繕契約」「売却判断」を息子が行う、という形です。
この契約を結ぶと、登記上の所有権は受託者(息子)に移りますが、実際の経済的利益(家賃収入など)は引き続き委託者(父親)に帰属します。つまり「法律上の名義」と「経済上の利益」を分けて管理できる点が特徴です。
信託契約は公正証書などで作成し、どの資産をどのように管理するか、誰のために使うかを細かく定めることができます。自由度が高く、生前の財産管理から相続後の承継までを一貫して設計できるのが大きな魅力です。
不動産経営における「家族信託」のメリット
家族信託を活用する最大のメリットは、「オーナーが認知症になっても、不動産経営を止めずに続けられること」です。信託契約によって、オーナー(委託者)の代わりに家族(受託者)が、家賃の入出金、修繕の発注、物件の売却などをスムーズに行うことができます。これにより、認知症発症による「経営の空白期間」を防ぎ、安定した賃貸運営が可能になります。
成年後見制度と異なり、家庭裁判所の許可をその都度得る必要がないため、リフォーム契約や金融機関との手続きもスムーズに進められます。たとえば、建物の修繕や資産の組み換えを行う場合でも、信託契約に基づいて受託者が即座に判断できるため、機動的な対応が可能です。
さらに、家族信託は「相続の指定」まで一体的に設計できる点でも優れています。信託契約で、「父が亡くなった後は母に収益を渡し、その後は子に承継する」といった複数段階の指定が可能です。つまり、生前の資産管理と、相続後の財産承継を一本化できるのです。 不動産経営は、判断の遅れが損失につながる世界です。家族信託は、万一のときも家族が経営を守れる“攻めと守りの両立策”といえるでしょう。
「遺言」や「成年後見」との違い
「家族信託」は、従来の「遺言」や「成年後見」とは目的も仕組みも大きく異なります。まず、遺言は本人の死後にしか効力が発生しません。そのため、生前に資産をどう管理・活用するかという問題には対応できず、「認知症対策」としては機能しません。
一方、成年後見制度は、判断能力を失った後に財産を守る制度ですが、基本的には「財産の維持・保全」が目的であり、積極的な投資や売却などは制限されます。たとえば、老朽化したアパートの建て替えや売却を後見人が行う場合、家庭裁判所の許可が必要で、スピード感に欠けます。
これに対して家族信託は、元気なうちから契約を発動させ、本人が判断できなくなっても信頼できる家族が継続的に運用を行えます。生前から死後までの財産管理を一貫して設計できるため、「経営の継続」と「円滑な承継」を両立できる点が最大の違いです。
まとめ
家族信託は、オーナーが元気なうちに「資産を守り、経営を続ける仕組み」を整える制度です。成年後見や遺言では対応できない“不動産経営の継続性”を確保できるのが大きな特徴です。
近年、「家族信託で生前対策を!」という言葉を耳にする機会も増えています。しかし、家族信託は決して“親の資産対策”だけを目的とした制度ではありません。本来の目的は、遺言や後見制度との違いを理解したうえで、収益不動産を持っている方が相続・承継対策として活用することです。早めに検討することが、将来の安心につながります。
この記事を書いた人
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。