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2026.01.13
山村 暢彦
不動産契約の「電子化」はどこまで進んだ? 弁護士が解説する電子契約の法的メリットと「なりすまし」リスク
- 購入
- 弁護士
- 執筆記事
不動産取引における「電子契約」2025年の現状
2022年の宅建業法改正により、重説や売買・賃貸借契約の書面を電子データで交付できるようになり、不動産取引は売買・賃貸ともにオンラインで完結できる体制が整いました。コロナ禍で非対面ニーズが高まったことも後押しとなり、デジタル化は急速に進展しています。
2025年現在、電子契約は大手仲介・管理会社を中心に広く普及し、賃貸では申し込みから契約、鍵渡しまでオンラインで完結するケースも増えました。若い入居者にとってはスマートフォンで署名することが当たり前になっています。一方で、高齢者や一部の法人では紙の契約書を希望するケースも残っており、現状は「紙+電子」の併存状態です。 個人オーナーへの利用も広がり、更新や新規契約時に、管理会社から電子署名を求められる場面が増えています。郵送の手間が省け、書面の保管負担が減る点ではオーナー側にもメリットがありますが、「電子契約は本当に法的に大丈夫なのか?」と不安を抱く人も一定数います。
このように電子化は着実に進んでいるものの、実務では電子化に適応している層と紙の安心感を求める層が混在しています。今後普及が進むことは確実ですが、オーナーとしては、電子契約のメリットとリスクを理解したうえで適切に活用することが重要です。
弁護士が解説:電子契約の「法的メリット」
電子契約は「印紙税が不要」という経済的メリットだけでなく、実務ではスピード・証拠性・紛争対応力の面で紙より優れている場面が増えています。特に賃貸管理では、オーナーにとって大きな利点があります。
まず、契約締結が非常に早いことです。紙の契約書では印刷・押印・郵送などで1〜2週間かかることもありますが、電子契約は申し込みから署名までがオンラインで完結し、数時間〜数日で締結できます。空室期間を短縮できる点は、オーナーにとって大きな利益につながります。
次に、保管・検索が容易です。クラウド保存により紛失リスクがなく、過去の契約内容をすぐに確認できるため、トラブル対応が早くなります。弁護士の実務感覚としても、契約書を迅速に提示できるオーナーほど、問題解決がスムーズに進みます。 さらに、電子契約では「誰が」「いつ」「どの端末で」署名したかといった詳細なログが残ります。紙の署名より本人性を示す証拠が多く、タイムスタンプによって改ざんの疑いも排除しやすくなります。紙の「原本性」に依存しない分、むしろ強い証拠となるケースもあります。
このように電子契約は、単なるデジタル化ではなく、契約の正確性と証拠力を高める法務インフラと言える存在です。オーナーの負担を軽減し、後日の紛争にも強い体制を整えられる点で、紙より有利な側面が大きくなっています。
注意!電子契約の「法的リスク」とは
電子契約には便利さだけでなく、紙にはなかったリスクも存在します。特に注意すべきは ①本人性(なりすまし) と ②改ざん・証拠力 に関する問題です。 まず、なりすましリスクです。家族が代わりにスマートフォンで署名してしまう、法人契約で同僚が勝手に操作するなどの例は、実務上は珍しくありません。ログイン方法が簡易なサービスだと「本人が本当に署名したのか?」が争われやすく、紙の押印より本人性の確認が重要になります。
次に、改ざんリスクです。PDFファイルは実は編集が容易で、タイムスタンプや改ざん検知のないサービスでは「後から書き換えられたのでは?」と問題になることがあります。安価なツールほど、このリスクは高まります。
また、電子契約は紙と異なる立証形態をとります。裁判では、
- 誰が署名したか(本人性)
- いつ署名したか(タイムスタンプ)
- どの端末/IPから操作したか(ログ)
- 改ざんされていないか(ハッシュ値)
といった技術的証拠の有無が評価の中心になります。これらの証跡が揃っていれば紙より強い証拠になりますが、証跡が弱い電子契約は逆に不利になることもあります。 さらに、電子契約に不慣れな入居者や高齢者では、署名の誤操作などが原因で後からトラブルになる例もあります。
このように、電子契約には紙とは異なるリスクがあります。導入の際は「便利さ」だけで判断するのではなく、どのサービスを使うかを含めて、オーナー自身が慎重に選ぶことが不可欠です。
オーナーが導入すべき「電子契約サービス」の選び方
電子契約は「どのサービスを使うか」で安全性も証拠力も大きく変わります。高額な不動産取引では、価格や知名度だけで選ぶのは危険です。ここでは、オーナーが押さえるべきポイントを弁護士視点で整理します。
まず重要なのは、本人確認の強度です。IDとパスワードだけで署名できるサービスは、家族や同僚による“代理操作”が起きやすく、本人性の立証が弱くなります。マイナンバーカードやeKYCを使うサービスは本人確認の精度が高く、紛争になった場合でも、強い証拠となります。
次に、改ざん防止機能です。電子契約では、タイムスタンプやハッシュ値など「この書面がいつ作られて、その後も変更されていない」ことを証明できる仕組みが不可欠です。これがないと電子契約は紙の契約書よりも弱い証拠になるリスクがあります。 さらに、操作ログが充実していることも重要です。「誰が・いつ・どの端末・どのIPから署名したか」といった記録は、紙の契約書にはない強力な証拠になります。これらの記録が、どれくらい長期間クラウドに安全に保存されるかも、確認すべきポイントです。
加えて、不動産契約は長期保存が前提のため、10年以上のデータ保存が可能か、セキュリティや運営会社の信頼性、行政・金融機関での採用実績も判断材料になります。海外製の安価なツールは、途中でサービス終了したり、法令適合性で問題が起きたりするケースもあるため注意が必要です。
最後に、使いやすさも確認すべきポイントです。入居者がスマートフォンで簡単に署名でき、管理会社の運用にも無理がないものを選ぶことが重要です。解約・更新も電子化できれば、実務効率はさらに向上します。 結局のところ、電子契約は「導入」よりも「選定」が重要です。オーナーは、証拠力が高く、長期的に運用できるサービスを選ぶことで、賃貸経営をより安全に進めることができます。
まとめ
電子契約は、不動産取引のスピードと証拠性を高める強力な手段ですが、「本人性の確認」や「改ざん防止」といった技術的な安全性を理解して選ぶことが重要です。 不動産オーナーは、価格や手軽さだけでなく、証拠力を担保する機能を基準にサービスを選定し、デジタル化時代の契約リスクに備えることが求められます。
この記事を書いた人
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。
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不動産取引における「電子契約」2025年の現状
2022年の宅建業法改正により、重説や売買・賃貸借契約の書面を電子データで交付できるようになり、不動産取引は売買・賃貸ともにオンラインで完結できる体制が整いました。コロナ禍で非対面ニーズが高まったことも後押しとなり、デジタル化は急速に進展しています。
2025年現在、電子契約は大手仲介・管理会社を中心に広く普及し、賃貸では申し込みから契約、鍵渡しまでオンラインで完結するケースも増えました。若い入居者にとってはスマートフォンで署名することが当たり前になっています。一方で、高齢者や一部の法人では紙の契約書を希望するケースも残っており、現状は「紙+電子」の併存状態です。 個人オーナーへの利用も広がり、更新や新規契約時に、管理会社から電子署名を求められる場面が増えています。郵送の手間が省け、書面の保管負担が減る点ではオーナー側にもメリットがありますが、「電子契約は本当に法的に大丈夫なのか?」と不安を抱く人も一定数います。
このように電子化は着実に進んでいるものの、実務では電子化に適応している層と紙の安心感を求める層が混在しています。今後普及が進むことは確実ですが、オーナーとしては、電子契約のメリットとリスクを理解したうえで適切に活用することが重要です。
弁護士が解説:電子契約の「法的メリット」
電子契約は「印紙税が不要」という経済的メリットだけでなく、実務ではスピード・証拠性・紛争対応力の面で紙より優れている場面が増えています。特に賃貸管理では、オーナーにとって大きな利点があります。
まず、契約締結が非常に早いことです。紙の契約書では印刷・押印・郵送などで1〜2週間かかることもありますが、電子契約は申し込みから署名までがオンラインで完結し、数時間〜数日で締結できます。空室期間を短縮できる点は、オーナーにとって大きな利益につながります。
次に、保管・検索が容易です。クラウド保存により紛失リスクがなく、過去の契約内容をすぐに確認できるため、トラブル対応が早くなります。弁護士の実務感覚としても、契約書を迅速に提示できるオーナーほど、問題解決がスムーズに進みます。 さらに、電子契約では「誰が」「いつ」「どの端末で」署名したかといった詳細なログが残ります。紙の署名より本人性を示す証拠が多く、タイムスタンプによって改ざんの疑いも排除しやすくなります。紙の「原本性」に依存しない分、むしろ強い証拠となるケースもあります。
このように電子契約は、単なるデジタル化ではなく、契約の正確性と証拠力を高める法務インフラと言える存在です。オーナーの負担を軽減し、後日の紛争にも強い体制を整えられる点で、紙より有利な側面が大きくなっています。
注意!電子契約の「法的リスク」とは
電子契約には便利さだけでなく、紙にはなかったリスクも存在します。特に注意すべきは ①本人性(なりすまし) と ②改ざん・証拠力 に関する問題です。 まず、なりすましリスクです。家族が代わりにスマートフォンで署名してしまう、法人契約で同僚が勝手に操作するなどの例は、実務上は珍しくありません。ログイン方法が簡易なサービスだと「本人が本当に署名したのか?」が争われやすく、紙の押印より本人性の確認が重要になります。
次に、改ざんリスクです。PDFファイルは実は編集が容易で、タイムスタンプや改ざん検知のないサービスでは「後から書き換えられたのでは?」と問題になることがあります。安価なツールほど、このリスクは高まります。
また、電子契約は紙と異なる立証形態をとります。裁判では、
- 誰が署名したか(本人性)
- いつ署名したか(タイムスタンプ)
- どの端末/IPから操作したか(ログ)
- 改ざんされていないか(ハッシュ値)
といった技術的証拠の有無が評価の中心になります。これらの証跡が揃っていれば紙より強い証拠になりますが、証跡が弱い電子契約は逆に不利になることもあります。 さらに、電子契約に不慣れな入居者や高齢者では、署名の誤操作などが原因で後からトラブルになる例もあります。
このように、電子契約には紙とは異なるリスクがあります。導入の際は「便利さ」だけで判断するのではなく、どのサービスを使うかを含めて、オーナー自身が慎重に選ぶことが不可欠です。
オーナーが導入すべき「電子契約サービス」の選び方
電子契約は「どのサービスを使うか」で安全性も証拠力も大きく変わります。高額な不動産取引では、価格や知名度だけで選ぶのは危険です。ここでは、オーナーが押さえるべきポイントを弁護士視点で整理します。
まず重要なのは、本人確認の強度です。IDとパスワードだけで署名できるサービスは、家族や同僚による“代理操作”が起きやすく、本人性の立証が弱くなります。マイナンバーカードやeKYCを使うサービスは本人確認の精度が高く、紛争になった場合でも、強い証拠となります。
次に、改ざん防止機能です。電子契約では、タイムスタンプやハッシュ値など「この書面がいつ作られて、その後も変更されていない」ことを証明できる仕組みが不可欠です。これがないと電子契約は紙の契約書よりも弱い証拠になるリスクがあります。 さらに、操作ログが充実していることも重要です。「誰が・いつ・どの端末・どのIPから署名したか」といった記録は、紙の契約書にはない強力な証拠になります。これらの記録が、どれくらい長期間クラウドに安全に保存されるかも、確認すべきポイントです。
加えて、不動産契約は長期保存が前提のため、10年以上のデータ保存が可能か、セキュリティや運営会社の信頼性、行政・金融機関での採用実績も判断材料になります。海外製の安価なツールは、途中でサービス終了したり、法令適合性で問題が起きたりするケースもあるため注意が必要です。
最後に、使いやすさも確認すべきポイントです。入居者がスマートフォンで簡単に署名でき、管理会社の運用にも無理がないものを選ぶことが重要です。解約・更新も電子化できれば、実務効率はさらに向上します。 結局のところ、電子契約は「導入」よりも「選定」が重要です。オーナーは、証拠力が高く、長期的に運用できるサービスを選ぶことで、賃貸経営をより安全に進めることができます。
まとめ
電子契約は、不動産取引のスピードと証拠性を高める強力な手段ですが、「本人性の確認」や「改ざん防止」といった技術的な安全性を理解して選ぶことが重要です。 不動産オーナーは、価格や手軽さだけでなく、証拠力を担保する機能を基準にサービスを選定し、デジタル化時代の契約リスクに備えることが求められます。
この記事を書いた人
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。