2023.10.11

不動産投資のコツ

ベルテックスコラム事務局

収益不動産で節税する方法は? 減価償却費・法人化による所得分散を解説

  • 節税・税金
  • 法人化
  • 減価償却

不動産投資に興味がある人の中には「所得税の節税を目的として収益不動産を所有したい」という人もいるのではないでしょうか。

この記事では、収益不動産で節税する仕組みとして「損益通算と減価償却費」と「法人化による所得分散」について詳しく解説します。

収益不動産で節税できる仕組み・損益通算と減価償却費

収益不動産で節税するためには、損益通算と減価償却費について理解する必要があります。

所得税の計算式

損益通算と減価償却費を理解する前段階として、まず所得税の計算方法を確認していきましょう。計算式は以下の通りです。

所得税=(所得-各種所得控除)×所得税の税率

「所得」「所得控除」「所得税の税率」について説明します。


  • 所得
    税法上の所得とは、収入から経費を差し引いた利益のことです。
  • 所得控除
    所得控除とは、所得税を計算する際に所得から一定額を差し引くことをいいます。所得控除の区分は、基礎控除、扶養控除、配偶者控除、生命保険料/損害保険料控除、医療費控除など全部で15種類あります。その人の属性(扶養家族がいるか、配偶者がいるかなど)によって差し引ける金額が変わってきます。
  • 所得税の税率
    所得税の税率は、課税される所得金額が増えるほど高くなる累進課税です。税率は、5~45%の範囲内で段階的に高くなっていきます。
課税所得金額 税率
1,000円~194万9,000円まで 5%
195万円~329万9,000円まで 10%
330万円~694万9,000円まで 20%
695万円~899万9,000円まで 23%
900万円~1,799万9,000円まで 33%
1,800万円~3,999万9,000円まで 40%
4,000万円以上 45%

【引用元】国税庁「No.2260 所得税の税率」より

上記の所得税とあわせて住民税や復興特別税も納める必要があります。

不動産所得の計算式

所得税のもとになる所得は、以下の10種類あります。

  • 事業所得
  • 不動産所得
  • 利子所得
  • 配当所得
  • 給与所得
  • 雑所得
  • 譲渡所得
  • 退職所得
  • 一時所得
  • 山林所得

所得ごとに計算式は異なります。例えば、不動産所得の計算式は以下の通りです。

不動産所得=収益不動産による総収入金額-収益不動産の運営にかかった経費

収益不動産の運営にかかった経費

不動産所得は、収益不動産による総収入金額から必要経費を差し引いたものです。つまり同じ賃料収入であれば、計上できる経費が多いほど課税される所得が少なくなる(所得税が安くなる)ということになります。そのため、収益不動産で節税を意識する場合は、不動産賃貸業に関係する経費をもれなく計上することが重要です。不動産投資で計上可能な経費には、以下のようなものがあります。

  • 火災保険料
  • 管理委託料
  • ローン返済の金利
  • 仲介手数料
  • 広告宣伝費
  • 減価償却費
  • 税理士や司法書士への報酬

仲介手数料については「建物の取得価額」に算入されるため、初年度に全額計上することはできません。取得価額によって計算される減価償却の額が、不動産所得の必要経費に算入されます。

収益不動産で所得税を節税するには、損益通算と減価償却費が重要

収益不動産を所有することで「所得税が節税できる」といわれる理由の一つは、不動産所得を赤字にすることで損益通算ができるからです。損益通算とは、同じ年度の利益と損失を合算することです。損益通算には、さまざまなパターンがありますが、収益不動産を所有している場合、総所得金額から不動産所得の赤字分を差し引くことが可能です。

しかし、損益通算によって所得税を節税できても、不動産所得が赤字になってしまったら「そもそも収益不動産を持っている意味がないのではないか」と感じる人もいるかもしれません。もちろん不動産賃貸業で膨大な赤字を出し、貯蓄や他の所得(給与所得や事業所得など)をつぎ込むのは避けるべきといえるでしょう。

ただ実際には、収益不動産の経営がうまくいっている場合でも「減価償却費」を活用することで帳簿上赤字にすることも可能です。

減価償却費とは、現物資産の寿命に合わせて経費を計上すること

減価償却とは、建物や車両、機械装置などの購入費用を寿命(法定耐用年数)に応じて、その一部を毎年必要経費として計上していくことをいいます。ただし、ここでいう「寿命」とは、あくまでも税制上の目安であって実際の寿命ではありません。仮に法定耐用年数が10年に設定されていても実際には15年、20年と、寿命を超えて使い続けられるケースも少なくありません。

この減価償却に関わる経費を計上していく際の勘定科目が「減価償却費」です。なお主な建物構造(住宅)の耐用法定年数は以下の通りです。

鉄筋コンクリート造 47年
木造 22年
木骨モルタル造 20年
金属造 34年、27年、19年

※金属造は骨格材の肉厚によって法定耐用年数が異なる

減価償却費によって、支出と収益を得る期間のズレをなくす

減価償却の仕組みが必要な理由は、支出と収益を得る期間を合わせるためです。例えば、建物価格5,000万円の収益不動産を購入したとしましょう。この建物を使って長期間にわたって賃料収入を得ていくのに建物価格5,000万円を購入した年に全て計上してしまうと支出と収益を得る期間に大きなズレが発生してしまいます。
このようなズレが起きないように建物などを購入した際は、寿命(法定耐用年数)に合わせて経費を計上していく必要があるのです。

減価償却費の扱いは法人と個人で異なる

減価償却費の注意点は、個人事業主と法人で扱いが異なることです。個人事業主の場合は「強制償却」のため、その年度に減価償却費を計上しなければなりません。一方、法人の減価償却費は「任意償却」なので、あえてその年度に減価償却費用の計上をしないという選択が可能です。このように減価償却費の自由度は法人の方が高く、その分節税効果を高めやすいといえます。

収益不動産で節税できる仕組み「法人化と所得分散」

減価償却費の自由度が高いこと以外にも、収益不動産を法人で所有した場合の節税に関するメリットは数多くあります。ここでは、主なメリットを6つ紹介します。

メリット1.一定の所得を超えると税金が安くなる

収益不動産を法人で所有する一番のメリットは、所得税が安くなることです。これは、個人事業主と比べて利益に対する税率が低くなることが理由です。ただし、全てのオーナーが法人化によって税金を抑えられるわけではありません。一定の所得を超えた場合だけ、個人の所得税よりも法人税の税率が安くなります。

「どれくらいの所得があれば法人化するのがよいか」については、さまざまな見解がありますが、年間所得800万円前後を目安として提唱する専門家が多いです。

メリット2.所得分散が可能

個人事業主の場合、不動産賃貸業で得た利益はオーナー1人の不動産所得として確定申告をしなければなりません。一方、法人の場合、不動産賃貸業で得た利益を配偶者や子どもなどの親族に分散して計上することが可能です。
所得税は所得が増えるほど税率が高くなる累進課税が採用されているため、家族に所得を分散することでオーナーの所得税の税率が下がり、家族全員分の所得税の総額も軽減されやすくなります。

メリット3.オーナー自身や家族に退職金が支払われる

法人化するとオーナー自身に役員報酬を支払うことができます。家族については事業専従者であることや税務署への届け出などの要件がありますが、給与を支払うことが可能です。退職金を設定して経費にすることも可能です。退職金にかかる所得税は、給与に課せられる所得税よりも優遇されているため、節税効果があります。ただし、家族が税法上のみなし役員に該当した場合、税法上役員と同様の扱いになり、給与や退職金の支払いに制限がかかるという点には注意が必要です。

メリット4. 純損失の繰越期間が大幅に伸びる

純損失とは、以下に記載した4つの所得のうち損益通算をしても控除できない部分の金額のことです。

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 譲渡所得
  • 山林所得

個人事業主は、この純損失が発生した場合、最長3年間繰り越すことが可能です。一方、法人化した場合、純損失(欠損金)を繰り越せる期間が最長10年と大幅に伸びます。純損失(欠損金)が発生しても次期以降の利益と相殺することで節税効果が見込まれるため、繰越期間が長くなることもメリットの一つです。

メリット5.経費の範囲が拡大する

個人事業主よりも法人で収益不動産を所有した方が、一般的には経費の範囲が拡大します。個人事業主では認められない経費が法人であれば認められるケースが多いからです。
法人化により経費の範囲が拡大する一例としては、社宅家賃があります。社宅家賃は個人事業主には認められませんが、法人なら経費として計上することが可能です。(ただし役員負担分を除く)また営業車の購入代金やリース代は、法人であれば原則として全額経費として計上できます。個人事業主の場合は、プライベートで使った分と仕事で使った分を按分しなければなりません。

メリット6.相続税の負担を軽減できる

個人事業主の場合、不動産所得が個人の資産として蓄積された結果、金融資産などが多くなると将来の相続税課税額が増えてしまいます。しかし、法人の場合、不動産賃貸業で得た利益は、会社に蓄積されたり、家族に所得分散したりすることが可能です。個人事業主のように1人に利益が集中しにくいため、相続税課税額を抑えやすくなります。

収益不動産を法人で所有した場合のデメリット

ここまで見てきたように、収益不動産を法人で所有すると複数の節税に関するメリットがあります。しかし、法人化には以下のようなデメリットもあるため、法人化を検討する際は、デメリットも理解した上で決定することが大切です。

デメリット1.法人設立の手間と費用がかかる

法人化をするには、定款作成や定款認証、設立登記申請などの手間と費用がかかります。 例えば、司法書士に設立登記申請の手続きを依頼した場合の相場は、5万~15万円程度です。登記後も社会保険や労務関係の届け出を管轄する役所に出さなければなりません。

デメリット2.法人の維持費用がかかる

法人化すると法人住民税(均等割と法人税割)を納めなければなりません。2つの種類の法人住民税のうち「均等割」は、赤字か黒字かにかかわらず法人であれば等しく納める義務があります。例えば、資本金等の額が1,000万円以下の法人均等割の場合、都道府県民税が2万円、市町村民税が5万円(従業者数50人以下)で最低7万円が必要です。

もう1つの「法人税割」は、法人税を納めた(利益が出た)会社だけが払います。税額は以下の計算式で算出します。

都道府県:法人税額×1.0%
市町村:法人税額×6.0%

【参照元】総務省「法人住民税」より

デメリット3.社会保険の負担がある

個人事業主の場合、従業員がいても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務はありません。(ただし常時雇用をする従業員が5人以上の場合は加入義務あり)一方、法人化すると役員と従業員は、社会保険への加入が義務づけられるため、法人が負担する分のコストがかさみます。

デメリット4.個人事業主よりも条件が不利になる税金もある

法人化することで個人事業主よりも条件が不利になる税金もあります。特に収益不動産を扱う場合、法人化によって長期譲渡所得の税率が適用されなくなるため、注意が必要です。長期譲渡所得とは、土地や建物の所有期間が譲渡(売却)した年の1月1日現在で5年を超える場合、20.315%(内訳:所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)が課税されるものです。

収益不動産で所得分散を行って節税するための3つの方式

収益不動産で所得分散を行って節税する方式には、以下の3つの選択肢があります。

  1. 不動産所有方式
  2.  一括転貸(サブリース)方式
  3.  管理委託方式

どの方式を選ぶかによってメリットや注意点が異なります。それぞれの方式の違いを理解し、自分に適した方式を選ぶことが大切です。

不動産所有方式:賃料・地代をそのまま法人に移せるため節税効果が高い

特徴

立ち上げた法人が個人所有していた収益不動産を買い取り、オーナーや家族への所得分散を行う方式です。「不動産保有方式」とも呼ばれます。「建物と土地の両方」または「建物のみ」を法人所有にするなどの方法があります。

メリット

収益不動産から得られる賃料・地代などを全て法人に移せるため、節税効果が高いです。

注意点

法人が収益不動産を買い取るためのお金を工面しなければなりません。ローン残債が残っている場合は金融機関との調整も必要です。

一括転貸(サブリース)方式:管理会社を通して所得分散が可能

特徴

一括転貸方式は、サブリース方式ともいわれます。オーナーが所有している収益不動産をオーナーや親族が経営する法人に一括して賃貸、その法人が建物・土地を管理し、第三者の入居者へ転貸する形態です。オーナーは、満室・空室にかかわらず、一定の賃料を受け取り、空室リスクは法人が負います。

メリット

法人と入居者の間の賃料を100とした場合、オーナーが受け取る賃料を85に設定して差をつけることで同族会社に利益を還流できます。法人を経由して所得分散を行うことで節税することが可能です。

注意点

行き過ぎた所得分散を行うと、税務当局から否認されるリスクがあります。

管理委託方式:手軽に始められる一方、節税効果が薄い

特徴

管理委託方式は、収益不動産をオーナーの個人所有にしたまま、親族が経営する管理会社に賃料の徴収や物件管理などの業務を委託するものです。管理会社の役員や従業員を親族にすることで所得分散できます。

メリット

法人の業務負担が比較的少ないため、他の2つの方式よりも手軽に行うことができます。

注意点

一般的に収益不動産の管理料は、賃料の5~8%程度です。法人に流れるのは、賃料収入のごく一部のため、所得分散による節税効果が薄くなります。また一括転貸(サブリース)方式と同様に行き過ぎた所得分散を行うと否認されるリスクがあります。

まとめ

この記事では、収益不動産で節税できる仕組み、具体的には「減価償却費」と「法人化による所得分散」について解説しました。要点をおさらいすると以下のようになります。

  • 収益不動産に関わる経費をもれなく計上することが不動産賃貸業の節税では重要
  • 不動産所得の赤字分を他の所得から差し引ける損益通算も節税には有効
  • 減価償却費を活用することで実際の賃貸経営は順調でも帳簿上赤字にできる
  • 法人化することで親族への所得分散が可能となり節税効果が期待できる
  • 収益不動産を所有しながら所得分散する方式には3つの選択肢があり、自身に合うスキームを選ぶことが大切

収益不動産の所有によって節税をすることは可能ですが、「節税のためだけの不動産賃貸業」にならないよう注意しましょう。節税効果はあっても、それを大きく上回る支出が長期的に続き、資産が目減りしてしまっては意味がありません。

資産を減らす賃貸経営にしないためには、信頼できる不動産会社や賃貸業に強い税理士から適切なアドバイスを受けながら資産を守るためのスキームを構築することが大切です。

ベルテックスでは不動産にまつわる節税対策セミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。

2023.10.11

不動産投資のコツ

ベルテックスコラム事務局

収益不動産で節税する方法は? 減価償却費・法人化による所得分散を解説

  • 節税・税金
  • 法人化
  • 減価償却

不動産投資に興味がある人の中には「所得税の節税を目的として収益不動産を所有したい」という人もいるのではないでしょうか。

この記事では、収益不動産で節税する仕組みとして「損益通算と減価償却費」と「法人化による所得分散」について詳しく解説します。

収益不動産で節税できる仕組み・損益通算と減価償却費

収益不動産で節税するためには、損益通算と減価償却費について理解する必要があります。

所得税の計算式

損益通算と減価償却費を理解する前段階として、まず所得税の計算方法を確認していきましょう。計算式は以下の通りです。

所得税=(所得-各種所得控除)×所得税の税率

「所得」「所得控除」「所得税の税率」について説明します。


  • 所得
    税法上の所得とは、収入から経費を差し引いた利益のことです。
  • 所得控除
    所得控除とは、所得税を計算する際に所得から一定額を差し引くことをいいます。所得控除の区分は、基礎控除、扶養控除、配偶者控除、生命保険料/損害保険料控除、医療費控除など全部で15種類あります。その人の属性(扶養家族がいるか、配偶者がいるかなど)によって差し引ける金額が変わってきます。
  • 所得税の税率
    所得税の税率は、課税される所得金額が増えるほど高くなる累進課税です。税率は、5~45%の範囲内で段階的に高くなっていきます。
課税所得金額 税率
1,000円~194万9,000円まで 5%
195万円~329万9,000円まで 10%
330万円~694万9,000円まで 20%
695万円~899万9,000円まで 23%
900万円~1,799万9,000円まで 33%
1,800万円~3,999万9,000円まで 40%
4,000万円以上 45%

【引用元】国税庁「No.2260 所得税の税率」より

上記の所得税とあわせて住民税や復興特別税も納める必要があります。

不動産所得の計算式

所得税のもとになる所得は、以下の10種類あります。

  • 事業所得
  • 不動産所得
  • 利子所得
  • 配当所得
  • 給与所得
  • 雑所得
  • 譲渡所得
  • 退職所得
  • 一時所得
  • 山林所得

所得ごとに計算式は異なります。例えば、不動産所得の計算式は以下の通りです。

不動産所得=収益不動産による総収入金額-収益不動産の運営にかかった経費

収益不動産の運営にかかった経費

不動産所得は、収益不動産による総収入金額から必要経費を差し引いたものです。つまり同じ賃料収入であれば、計上できる経費が多いほど課税される所得が少なくなる(所得税が安くなる)ということになります。そのため、収益不動産で節税を意識する場合は、不動産賃貸業に関係する経費をもれなく計上することが重要です。不動産投資で計上可能な経費には、以下のようなものがあります。

  • 火災保険料
  • 管理委託料
  • ローン返済の金利
  • 仲介手数料
  • 広告宣伝費
  • 減価償却費
  • 税理士や司法書士への報酬

仲介手数料については「建物の取得価額」に算入されるため、初年度に全額計上することはできません。取得価額によって計算される減価償却の額が、不動産所得の必要経費に算入されます。

収益不動産で所得税を節税するには、損益通算と減価償却費が重要

収益不動産を所有することで「所得税が節税できる」といわれる理由の一つは、不動産所得を赤字にすることで損益通算ができるからです。損益通算とは、同じ年度の利益と損失を合算することです。損益通算には、さまざまなパターンがありますが、収益不動産を所有している場合、総所得金額から不動産所得の赤字分を差し引くことが可能です。

しかし、損益通算によって所得税を節税できても、不動産所得が赤字になってしまったら「そもそも収益不動産を持っている意味がないのではないか」と感じる人もいるかもしれません。もちろん不動産賃貸業で膨大な赤字を出し、貯蓄や他の所得(給与所得や事業所得など)をつぎ込むのは避けるべきといえるでしょう。

ただ実際には、収益不動産の経営がうまくいっている場合でも「減価償却費」を活用することで帳簿上赤字にすることも可能です。

減価償却費とは、現物資産の寿命に合わせて経費を計上すること

減価償却とは、建物や車両、機械装置などの購入費用を寿命(法定耐用年数)に応じて、その一部を毎年必要経費として計上していくことをいいます。ただし、ここでいう「寿命」とは、あくまでも税制上の目安であって実際の寿命ではありません。仮に法定耐用年数が10年に設定されていても実際には15年、20年と、寿命を超えて使い続けられるケースも少なくありません。

この減価償却に関わる経費を計上していく際の勘定科目が「減価償却費」です。なお主な建物構造(住宅)の耐用法定年数は以下の通りです。

鉄筋コンクリート造 47年
木造 22年
木骨モルタル造 20年
金属造 34年、27年、19年

※金属造は骨格材の肉厚によって法定耐用年数が異なる

減価償却費によって、支出と収益を得る期間のズレをなくす

減価償却の仕組みが必要な理由は、支出と収益を得る期間を合わせるためです。例えば、建物価格5,000万円の収益不動産を購入したとしましょう。この建物を使って長期間にわたって賃料収入を得ていくのに建物価格5,000万円を購入した年に全て計上してしまうと支出と収益を得る期間に大きなズレが発生してしまいます。
このようなズレが起きないように建物などを購入した際は、寿命(法定耐用年数)に合わせて経費を計上していく必要があるのです。

減価償却費の扱いは法人と個人で異なる

減価償却費の注意点は、個人事業主と法人で扱いが異なることです。個人事業主の場合は「強制償却」のため、その年度に減価償却費を計上しなければなりません。一方、法人の減価償却費は「任意償却」なので、あえてその年度に減価償却費用の計上をしないという選択が可能です。このように減価償却費の自由度は法人の方が高く、その分節税効果を高めやすいといえます。

収益不動産で節税できる仕組み「法人化と所得分散」

減価償却費の自由度が高いこと以外にも、収益不動産を法人で所有した場合の節税に関するメリットは数多くあります。ここでは、主なメリットを6つ紹介します。

メリット1.一定の所得を超えると税金が安くなる

収益不動産を法人で所有する一番のメリットは、所得税が安くなることです。これは、個人事業主と比べて利益に対する税率が低くなることが理由です。ただし、全てのオーナーが法人化によって税金を抑えられるわけではありません。一定の所得を超えた場合だけ、個人の所得税よりも法人税の税率が安くなります。

「どれくらいの所得があれば法人化するのがよいか」については、さまざまな見解がありますが、年間所得800万円前後を目安として提唱する専門家が多いです。

メリット2.所得分散が可能

個人事業主の場合、不動産賃貸業で得た利益はオーナー1人の不動産所得として確定申告をしなければなりません。一方、法人の場合、不動産賃貸業で得た利益を配偶者や子どもなどの親族に分散して計上することが可能です。
所得税は所得が増えるほど税率が高くなる累進課税が採用されているため、家族に所得を分散することでオーナーの所得税の税率が下がり、家族全員分の所得税の総額も軽減されやすくなります。

メリット3.オーナー自身や家族に退職金が支払われる

法人化するとオーナー自身に役員報酬を支払うことができます。家族については事業専従者であることや税務署への届け出などの要件がありますが、給与を支払うことが可能です。退職金を設定して経費にすることも可能です。退職金にかかる所得税は、給与に課せられる所得税よりも優遇されているため、節税効果があります。ただし、家族が税法上のみなし役員に該当した場合、税法上役員と同様の扱いになり、給与や退職金の支払いに制限がかかるという点には注意が必要です。

メリット4. 純損失の繰越期間が大幅に伸びる

純損失とは、以下に記載した4つの所得のうち損益通算をしても控除できない部分の金額のことです。

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 譲渡所得
  • 山林所得

個人事業主は、この純損失が発生した場合、最長3年間繰り越すことが可能です。一方、法人化した場合、純損失(欠損金)を繰り越せる期間が最長10年と大幅に伸びます。純損失(欠損金)が発生しても次期以降の利益と相殺することで節税効果が見込まれるため、繰越期間が長くなることもメリットの一つです。

メリット5.経費の範囲が拡大する

個人事業主よりも法人で収益不動産を所有した方が、一般的には経費の範囲が拡大します。個人事業主では認められない経費が法人であれば認められるケースが多いからです。
法人化により経費の範囲が拡大する一例としては、社宅家賃があります。社宅家賃は個人事業主には認められませんが、法人なら経費として計上することが可能です。(ただし役員負担分を除く)また営業車の購入代金やリース代は、法人であれば原則として全額経費として計上できます。個人事業主の場合は、プライベートで使った分と仕事で使った分を按分しなければなりません。

メリット6.相続税の負担を軽減できる

個人事業主の場合、不動産所得が個人の資産として蓄積された結果、金融資産などが多くなると将来の相続税課税額が増えてしまいます。しかし、法人の場合、不動産賃貸業で得た利益は、会社に蓄積されたり、家族に所得分散したりすることが可能です。個人事業主のように1人に利益が集中しにくいため、相続税課税額を抑えやすくなります。

収益不動産を法人で所有した場合のデメリット

ここまで見てきたように、収益不動産を法人で所有すると複数の節税に関するメリットがあります。しかし、法人化には以下のようなデメリットもあるため、法人化を検討する際は、デメリットも理解した上で決定することが大切です。

デメリット1.法人設立の手間と費用がかかる

法人化をするには、定款作成や定款認証、設立登記申請などの手間と費用がかかります。 例えば、司法書士に設立登記申請の手続きを依頼した場合の相場は、5万~15万円程度です。登記後も社会保険や労務関係の届け出を管轄する役所に出さなければなりません。

デメリット2.法人の維持費用がかかる

法人化すると法人住民税(均等割と法人税割)を納めなければなりません。2つの種類の法人住民税のうち「均等割」は、赤字か黒字かにかかわらず法人であれば等しく納める義務があります。例えば、資本金等の額が1,000万円以下の法人均等割の場合、都道府県民税が2万円、市町村民税が5万円(従業者数50人以下)で最低7万円が必要です。

もう1つの「法人税割」は、法人税を納めた(利益が出た)会社だけが払います。税額は以下の計算式で算出します。

都道府県:法人税額×1.0%
市町村:法人税額×6.0%

【参照元】総務省「法人住民税」より

デメリット3.社会保険の負担がある

個人事業主の場合、従業員がいても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務はありません。(ただし常時雇用をする従業員が5人以上の場合は加入義務あり)一方、法人化すると役員と従業員は、社会保険への加入が義務づけられるため、法人が負担する分のコストがかさみます。

デメリット4.個人事業主よりも条件が不利になる税金もある

法人化することで個人事業主よりも条件が不利になる税金もあります。特に収益不動産を扱う場合、法人化によって長期譲渡所得の税率が適用されなくなるため、注意が必要です。長期譲渡所得とは、土地や建物の所有期間が譲渡(売却)した年の1月1日現在で5年を超える場合、20.315%(内訳:所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)が課税されるものです。

収益不動産で所得分散を行って節税するための3つの方式

収益不動産で所得分散を行って節税する方式には、以下の3つの選択肢があります。

  1. 不動産所有方式
  2.  一括転貸(サブリース)方式
  3.  管理委託方式

どの方式を選ぶかによってメリットや注意点が異なります。それぞれの方式の違いを理解し、自分に適した方式を選ぶことが大切です。

不動産所有方式:賃料・地代をそのまま法人に移せるため節税効果が高い

特徴

立ち上げた法人が個人所有していた収益不動産を買い取り、オーナーや家族への所得分散を行う方式です。「不動産保有方式」とも呼ばれます。「建物と土地の両方」または「建物のみ」を法人所有にするなどの方法があります。

メリット

収益不動産から得られる賃料・地代などを全て法人に移せるため、節税効果が高いです。

注意点

法人が収益不動産を買い取るためのお金を工面しなければなりません。ローン残債が残っている場合は金融機関との調整も必要です。

一括転貸(サブリース)方式:管理会社を通して所得分散が可能

特徴

一括転貸方式は、サブリース方式ともいわれます。オーナーが所有している収益不動産をオーナーや親族が経営する法人に一括して賃貸、その法人が建物・土地を管理し、第三者の入居者へ転貸する形態です。オーナーは、満室・空室にかかわらず、一定の賃料を受け取り、空室リスクは法人が負います。

メリット

法人と入居者の間の賃料を100とした場合、オーナーが受け取る賃料を85に設定して差をつけることで同族会社に利益を還流できます。法人を経由して所得分散を行うことで節税することが可能です。

注意点

行き過ぎた所得分散を行うと、税務当局から否認されるリスクがあります。

管理委託方式:手軽に始められる一方、節税効果が薄い

特徴

管理委託方式は、収益不動産をオーナーの個人所有にしたまま、親族が経営する管理会社に賃料の徴収や物件管理などの業務を委託するものです。管理会社の役員や従業員を親族にすることで所得分散できます。

メリット

法人の業務負担が比較的少ないため、他の2つの方式よりも手軽に行うことができます。

注意点

一般的に収益不動産の管理料は、賃料の5~8%程度です。法人に流れるのは、賃料収入のごく一部のため、所得分散による節税効果が薄くなります。また一括転貸(サブリース)方式と同様に行き過ぎた所得分散を行うと否認されるリスクがあります。

まとめ

この記事では、収益不動産で節税できる仕組み、具体的には「減価償却費」と「法人化による所得分散」について解説しました。要点をおさらいすると以下のようになります。

  • 収益不動産に関わる経費をもれなく計上することが不動産賃貸業の節税では重要
  • 不動産所得の赤字分を他の所得から差し引ける損益通算も節税には有効
  • 減価償却費を活用することで実際の賃貸経営は順調でも帳簿上赤字にできる
  • 法人化することで親族への所得分散が可能となり節税効果が期待できる
  • 収益不動産を所有しながら所得分散する方式には3つの選択肢があり、自身に合うスキームを選ぶことが大切

収益不動産の所有によって節税をすることは可能ですが、「節税のためだけの不動産賃貸業」にならないよう注意しましょう。節税効果はあっても、それを大きく上回る支出が長期的に続き、資産が目減りしてしまっては意味がありません。

資産を減らす賃貸経営にしないためには、信頼できる不動産会社や賃貸業に強い税理士から適切なアドバイスを受けながら資産を守るためのスキームを構築することが大切です。

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この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

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