2023.10.13

資産運用

ベルテックスコラム事務局

資産形成の必要性を解説 老後破産しないために今から出来ること

  • 老後資金
  • 投資の種類・方法
  • 資産形成

定年後は年金だけで過ごせると考え、退職までに老後の資金対策を行わず、老後破産してしまう老夫婦は少なくありません。厚生労働省の「令和3年度被保護者調査 年次調査(基礎・個別)」によると、生活保護の受給者のうち60歳以上の割合が60.4%と公表されているように、老後に経済的困窮に陥っている人が多いのです。

本記事では、老後破産を回避し、安定した生活を確保するために、資産形成の必要性について解説します。さらに、今から着手できる具体的な資産形成の方法やアプローチについても紹介します。老後を安心して迎えるための第一歩を踏み出すために、ぜひお読みください。

なぜ資産形成って必要なの?

今の日本では、老後の生活や思い描く未来を確かなものとするために、資産形成は欠かせない要素となっています社会の変化や不測の事態に対処するために、積極的に取り組む必要があります。本記事では、資産形成の必要性と具体的な方法について探っていきます。

老後対策の必要性

2019年6月に金融庁の金融審議会による市場ワーキング・グループが公表した「老後2,000万円問題」が話題になったように、私たちは老後に向けて対策を行う必要があります。 「老後2,000万円問題」は仮定した条件に伴い試算したものなので、一概に全ての人に当てはまるとは言えませんが、老後に必要な生活費や年金受給額等を計算してみると、老後の資金が足りなくなるのは明白です。

老後の生活費について

総務省統計局のデータを参照すると、2021度における老後の必要生活費は、夫婦二人で約26万円、独身者で約15万円となっています。また、2022年10月6日、生命保険文化センターより発表された2022(令和4)年度「生活保障に関する調査」《速報版》によると、「ゆとりある老後生活費」は月額で平均 37.9 万円となっています。

会社員の方であれば定年後に国民年金と厚生年金がもらえます。年収が500万円以上の会社員の夫と専業主婦の妻の夫婦の場合、厚生年金加入期間40年で試算すると、約22万円もらえる事になっています。

しかし、上記で述べたゆとりある老後生活費には足りません。定年後30年間生きるとした場合、老後資金は5,724万円不足するという計算になります。この不足額を年金以外で賄う必要があります。

・年金以外で必要な老後生活費
ゆとりある老後生活費37.9万円-年金受給額22万円
=不足額15.9万円 (不足額15.9万円×12か月)×30年=5,724万円

少子高齢化による年金受給額の減額

さらに、日本は少子高齢化が進んでいる事によって年金受給額が年々減ってきています令和2年度の国民年金受給額は65,141円でしたが、令和3年度は65,075円、令和4年度は64,816円と下落が見られました。平均寿命が伸びている事や生産年齢人口の減少によって、私たちが受給年齢になった時には今よりもさらに減少している可能性が高いです。

【参照元】日本年金機構「令和4年4月分からの年金額等について」 より

労働力不足による介護費の高騰

高齢化に伴い、介護サービスの需要が高まっています。しかし、生産年齢人口の減少から労働力不足の問題が生じており、今後は介護費が高騰すると想定されています。

月間の個人負担介護費の目安は、「生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度」によると在宅介護で4.8万円、施設利用で12.2万円が平均です。介護が必要な期間の平均が61カ月なので、在宅であれば292.8万円、施設利用であれば744.2万円になります

また、後述しますが、法改正で介護保険の自己負担額が上がる可能性もあります。

【参照元】生活保険文化センター「リスクに備えるための生活設計」より

平均寿命が延びている

日本の平均寿命は令和2年時点で男性81.64歳、女性87.74歳となっており、30年前の1990年と比較すると5歳も伸びています。内閣府の予測によれば、令和47年には男性84.95歳、女性91.35歳まで伸びると予想されています平均寿命が伸びるということは、老後までに用意しないといけない資金額が増えるということです。これまで、定年後20年分の資金を用意していたものが、次第に25年分、30年分となっていくのです。

上記のように、老後は年金だけで生活するのが難しい時代となっており、老後資産を現役時代のうちから築いていく必要があります。さらに、今後の年金受給額の減額・医療費や介護費の高騰、平均寿命が伸びている事を考慮すると、貯蓄だけでは十分な資金の確保は難しいでしょう今後はより一層、計画的な資産形成が必要になるでしょう。

【参照元】厚生労働省「令和2年簡易生命表」より

スタグフレーションに陥る可能性?

スタグフレーションとは、景気が後退(スタグネーション)しつつも物価上昇(インフレーション)が続く状態を指します。通常、景気が後退していると、需要が落ち込むため物価は下落するのですが、原材料の高騰等で不景気でも物価が上昇することがあります。賃金は上がっていないにも関わらず、物価が上がる現在は苦しい状況と言えます。現在の日本では賃金は上がっていないにも関わらず、物価が上がる苦しい状況が続いています。このままの状況が続いてしまうと、スタグフレーションに陥る可能性があります。

インフレーション

50年前と比べると、日本では多くの物の価格が上昇しています。例えば私たちが普段利用しているバス代は50年前の1970年と比較してみると50倍以上になっています。10年前と比較しても、ものやサービスの価格は上がり続けているのが分かります。今後2050年、2070年、政府のインフレ施策に大きな変更がない限り、このように上昇していく可能性が大きいでしょう。

【身近な商品・サービスの価格遷移(単位:円)】

  1970 1980 1990 2000 2010 2020  
小麦粉 77 175 202 197 224 266 3.4倍
コーヒー 95 247 351 418 411 512 5.3倍
バス代 4 110 160 200 207 217 54倍
ノートブック 40 96 114 129 144 162 4倍
新聞代(全国紙) 750 1,800 3,190 3,925 3,925 4,344 5.7倍
映画観覧料 351 1,357 1,615 1,800 1,800 1,834 5.2倍

【参照元】統計局「小売物価統計調査」よりベルテックス作成

今後の税制改正

いま話題になっている岸田政権の「税制改正」計画。2023年度のインボイス制度から、2024年度のたばこ税、法人税、所得税などの増税、医療費介護費の負担割合の引き上げなど、次々と税制改正が計画されています。

2023年10月 ・インボイス制度開始
2024年 ・たばこ税の引き上げ(1本あたり3円)
・法人税増税(税額4~4.5%分を上乗せ)
・復興特別所得税の期間延長
・所得税増税(税額1%分を上乗せ)
・生前贈与の相続税加算機関を3年から7年に
・高齢者介護保険の自己負担を1割から2割に
・後期高齢者医療保険の保険料上限を年73万に
・国民年金の保険料納付期間を45年へ(60→65歳まで)
2025年 ・扶養控除の縮小
・結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度廃止
・後期高齢者医療保険の保険料上限を年80万に引き上げ
2026年以降 ・教育資金の一括贈与の非課税制度廃止
・退職金の非課税枠を縮小

内容については現状検討中のものも含み、実施時期や税率も予定です。

何点か見ていきましょう。たばこ税であれば、1本3円値上がりしますので、1箱20本とすれば1箱60円の値上げです。1日1箱吸う方であれば、年間約22,000円の増税になります。

復興特別所得税は東日本大震災からの復興のために設けられた税金です。所得税の2.1%が課税対象額となります。例えば課税所得が700万円の方であれば、700万円×0.23 – 636,000円= 974,000円が所得税額となりますが、その額の2.1%、つまり約20,000円が対象となります。今回20年間延長となるので、このケースであれば20,000円×20年で約400,000円が増税になります。

また、所得税も1%分が上乗せで増税になるので、上記のケースであれば974,000円の1%、つまり9,740円が増税となり、年間だと136,360円です。

高齢者の介護保険の自己負担額も2割に上がります。例えば、施設利用で介護をしていた場合、月額25,000円の自己負担1割で施設費を払っていたのであれば、シンプルに費用が2倍になりますから、1か月約25,000円増税となります。

国民年金の保険料納付期間も5年延長される予定です。令和5年時点では保険料16,520円ですから、年間198,240円の増税です もちろんすべて実施されるとは限りませんが、物価が上がっているにも関わらず、出ていくお金も増えていくのが分かります。 

日本の平均年収の推移と手取り額の減少

日本の平均年収は2019年時点で436万円、1990年では425万円であり、約30年間で10万円ほどしか変わっていません。これまで物価が何倍も上昇してきている中で、年収はわずか2.5%しか増えていないのです。

さらに、健康保険料や税金の引き上げ、厚生年金の保険料率の引き上げなどから、実際に使える手取り額が減ってきており、高年収の人ほど負担が多くなっています手取り額が減ると老後への貯蓄は難しく、現状の生活の維持も厳しくなるでしょう。

【参照元】国税庁「民間給与実態統計調査」より作成
【参照元】酒井会計事務所「年収別手取り収入」より

このような状況下で、どのように老後対策をしていくべきか悩む方も多いでしょう。 貯蓄が難しい世の中ですから、計画的に資産形成をはじめていく必要があります。

日本人の投資状況

現在の日本人の投資状況はいかがなものでしょうか。

近年の投資人口の増加

どのぐらいの人がはじめているの?

年々、投資をはじめる人が増えてきています。野村総合研究所が行っている「生活者1万人アンケート調査(金融編)」によると、投資人口は2015年以降増加し続けています。 また、同アンケートによると、投資経験を持つ回答者の割合と投資に興味を持つ回答者の割合を合わせると、約47%に達しています。これは、18歳から79歳までの幅広い世代で投資に対する意識が高まっていることを示しており、多くの人々が資産運用や投資に興味を持ち、積極的に取り組んでいることがうかがえます。

iDeCoの加入者数とNISA口座数の推移

国が推奨しているiDeCoやNISAも増加傾向にあります。iDeCoは4年で2倍の加入者数に、NISAは8年で2倍の口座開設数となっています。

【参照元】iDeco公式サイト「加入者数等について(令和5年5月時点)」より
【参照元】日本証券業協会「NISA口座開設・利用状況調査結果 (2023年3月31日現在)」より

上記のように、投資人口は増加傾向にあります。 野村総合研究所が行っている「生活者1万人アンケート調査(金融編)」の「初めて投資に利用した口座」の図表をみると、2020年以降NISAの割合が大きい事が分かります。投資人口の増加には、つみたてNISA(少額投資非課税制度)などの制度改革や金融機関のサービスの向上が大きく寄与していると考えられます。
つみたてNISAは、少額から手軽に始められる投資を支援する制度として、多くの投資初心者に受け入れられています。また、ネット専業証券や銀行の台頭により、投資の情報収集や取引がオンライン上でより便利になり、投資へのアクセスが拡大したことも要因の一つとして挙げられます。

これまで株式・投資信託・債権のようにリスクが高く“賭ける”スタイルだった投資が、NISA制度の開始によりリスクの低い“積む”スタイルの投資になってきています。事実、2023年3月末時点でのつみたてNISA口座での買付額は2,769億円であり、2022年末から14.3%増加しています。一般NISA口座での買付額も2022年末と比較して7.9%増加しており、積極的な資産運用の動きがうかがえます。

資産形成のはじめ方

今、資産形成をするならNISA口座を作って始めるのがオススメです。同「生活者一万人アンケート」でも、2020年以降はつみたてNISA口座で始める方が全体の42%を占めており、人気を博しているのが分かります。

2023年3月末時点でのつみたてNISA口座開設者の投資未経験者割合は89.9%であり、一般NISAは51.0%となっています。投資未経験者にとっても敷居が低く、資産形成をはじめるのに適した制度と言えるでしょう。

NISAをしたり、投資信託や株式を取引したりするためには証券口座が必要です。証券会社の特長や手数料を比較し、自分に合った証券口座を選びましょう。口座の開設は大手銀行や地方銀行、ネット専業証券などでも可能です。特定口座の「源泉徴収あり」または「源泉徴収なし」が初心者におすすめです。

資産形成をはじめるときのコツ

ポートフォリオの組み方から商品の選び方、各商品のメリットデメリットの比較、おすすめの投資商品についてご紹介します。

ポートフォリオの組み方

投資においてのポートフォリオとは、複数の投資商品を組み合わせた内容を指します。異なるリスクやリターンの特性を持つ複数の投資商品を選び、分散投資を行うことが重要ですこれにより、リスクを分散させることができ、全体のリターンを安定化させることができます。ポートフォリオを組む際に意識すべき点は以下の4点です。

1. 目標と運用方針を設定

目標や運用方針を明確にしましょう。具体的な目標とリスク許容度に合わせて、運用方針を決める事が重要です

2. 偏らない投資の配分

リスクを分散させるために、一つの資産に過度に偏らないようにしましょうそれぞれの特徴を効率良く活かせるように組んでください。

3. 具体的な投資先を選択

適切な分析と調査を行い、投資先を慎重に選択する事が重要です。投資信託や債権であれば、評価機関が投資商品の評価をおこなっています。投資信託であればファンドレーティング高いもの、債権であれば発行体格付が高いものがリスクの目安になるでしょう。

4. 定期的な見直し

定期的にポートフォリオを見直しましょう株式と債券のバランスを調整や、成績の良い・悪い商品のリバランスを行う事で、安定した運用成績を維持できます。

投資商品の選び方

個人の目標やリスク許容度に合わせて選ぶ事が重要です。リスクを理解し、堅実な運用を心掛けるようにしましょう。

1.余剰資金の金額の範囲で商品を選ぶ

資産形成は「余剰資金」で行う事が基本となりますまずは3~6ヵ月分の給与を預貯金として準備し急な出費に備えた上で、余剰資金からはじめていきましょう。

2. 運用期間や目的を考慮する

投資の目的に応じて適切な商品を選びましょう。老後の資産形成なら、複利効果を活かす長期間での運用がおすすめです複利とは生じた利益にも利子がつくことです。一方、単利は元金にのみ利子がつきます。

【例】
・単利:100万円を単利5%、10年で運用した場合
…100万円+(5万円×10年)→150万円
・福利:100万円を複利5%、10年で運用した場合
…100万円×1.05の10乗→162.9万円

このように、複利運用は期間が長ければ長いほど、投資額が多ければ多いほど利益が出ます。また、得た利益をそのまま再び運用に投じる事を続ければ、資金が徐々に膨らんでいきます。

3.リスクとリターンを理解する

投資はリスクとリターンが比例しますハイリターンを狙うと当然ハイリスクになり、失敗する可能性も高まります。政治・経済・災害などの様々な影響を考慮し、自分のリスク許容度に合った商品を選びましょう。

投資商品のメリットデメリットを比較

いくつかの投資商品を比較してみましょう。

  メリット デメリット
つみたてNISA ・少額の自己資金で運用可能
・20年間非課税
・2024年からの新NISA
➔非課税期間が無期限に
➔年間投資枠の拡大 …等
・投資枠に制限がある
・運用益1,800万円から課税対象
iDeCo ・運用利益が非課税
・掛金全てが所得控除の対象
・受取方法によって「退職所得控除」もしくは「公的年金等控除」が適用される
・60歳になるまで解約する事ができない
貯蓄型保険 ・万一の場合も備えられる資産形成
・将来の保険料の軽減や保険金の増加が見込める
・運用成績によっては資産が減少するリスクがある
・基本的には長期契約で、途中解約に制約がある
株式投資 ・売却による値上がり益、ハイリターンが期待できる
・株主優待を受けられる
・比較的に大きな自己資金が必要
・投資先企業の業績や経済状況に大きく左右される
・株価の変動幅(ボラティリティー)の変動幅が大きい
・投資先企業が倒産した場合、投資元本の回収がしづらい
個人向け債権
(米国債等)
・国が発行している為信用度が高い
・償還まで保有すれば元本割れのリスクが低い
・1万円から購入可能
・値動きの変動幅が少ない
・中途換金は発行から1年経過後にできる
・中途換金の場合「中途換金調整額」が差し引かれる
・国の信用状況の悪化によって元本や利子の支払不能になるリスクがある
不動産投資 ・少額の自己資金ではじめられる
・保険効果、節税効果がある
・実物資産でインフレ対策になる
・インカムゲイン、キャピタルゲインの2つの収益を狙える
・物件によっては空室になり家賃収入を得られない場合がある
・エリアによって災害リスクがある
・流動性が低い(物件によって売却に時間を要する場合がある)

どの商品からはじめていくか迷っている方は、まずはiDeCoやつみたてNISAをはじめると良いでしょう。基本的に長期運用なので低リスクであり、国が設けている非課税制度を活用して効率よく運用する事ができます。

また、併せて不動産投資もおすすめです。 不動産投資は購入した物件を人に貸して家賃収入を得る投資です。一般的に、物件購入時にはローンを組んで購入費用を返済していきますが、その返済費用に家賃収入でまかないます。つまり、自己資金をほとんど使わずに、将来的に数千万の物件を手に入れることになりますローン返済が終われば、家賃がそのまま毎月の収入になります。
不動産は実物資産であるため、経済動向の影響を受けにくく、インフレにも強いと言われています。入居者対応などは、管理会社に委託できますので自分で行う必要はありません。

iDeCoやつみたてNISAを活用すると、月々の投資金額は大きくなります。そこに他人資本を使って資産形成できる不動産投資も併せることで、分散投資でリスクヘッジしつつ、月々の手出しは抑えながら、資産形成をさらに加速させることができるかもしれません。

将来、どれだけのお金が必要になるか。どれほどの税金が掛かるのかは誰にもわかりません。今から資産形成をしっかり進め、老後生活の準備をするようにしましょう

まとめ

資産形成の必要性から、資産形成のはじめ方・コツ・各商品のメリットデメリット等紹介しました。
老後対策は貯蓄のみでは効率が悪く、若いうちから少しずつ資産形成をはじめる必要があります。定年後に老後破産に陥らないように計画的な資産形成をはじめていきましょう。 また、投資商品は様々な種類がありますが商品によって特徴が大きく異なるので、自分の目的に合ったポートフォリオに沿って、商品を選んでいきましょう。

ベルテックスでは不動産投資やその他の資産運用にまつわる資産形成セミナーを開催しています。ご自宅からオンラインでご参加いただけますので、より詳しく話を聞いてみたい方はぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。

2023.10.13

資産運用

ベルテックスコラム事務局

資産形成の必要性を解説 老後破産しないために今から出来ること

  • 老後資金
  • 投資の種類・方法
  • 資産形成

定年後は年金だけで過ごせると考え、退職までに老後の資金対策を行わず、老後破産してしまう老夫婦は少なくありません。厚生労働省の「令和3年度被保護者調査 年次調査(基礎・個別)」によると、生活保護の受給者のうち60歳以上の割合が60.4%と公表されているように、老後に経済的困窮に陥っている人が多いのです。

本記事では、老後破産を回避し、安定した生活を確保するために、資産形成の必要性について解説します。さらに、今から着手できる具体的な資産形成の方法やアプローチについても紹介します。老後を安心して迎えるための第一歩を踏み出すために、ぜひお読みください。

なぜ資産形成って必要なの?

今の日本では、老後の生活や思い描く未来を確かなものとするために、資産形成は欠かせない要素となっています社会の変化や不測の事態に対処するために、積極的に取り組む必要があります。本記事では、資産形成の必要性と具体的な方法について探っていきます。

老後対策の必要性

2019年6月に金融庁の金融審議会による市場ワーキング・グループが公表した「老後2,000万円問題」が話題になったように、私たちは老後に向けて対策を行う必要があります。 「老後2,000万円問題」は仮定した条件に伴い試算したものなので、一概に全ての人に当てはまるとは言えませんが、老後に必要な生活費や年金受給額等を計算してみると、老後の資金が足りなくなるのは明白です。

老後の生活費について

総務省統計局のデータを参照すると、2021度における老後の必要生活費は、夫婦二人で約26万円、独身者で約15万円となっています。また、2022年10月6日、生命保険文化センターより発表された2022(令和4)年度「生活保障に関する調査」《速報版》によると、「ゆとりある老後生活費」は月額で平均 37.9 万円となっています。

会社員の方であれば定年後に国民年金と厚生年金がもらえます。年収が500万円以上の会社員の夫と専業主婦の妻の夫婦の場合、厚生年金加入期間40年で試算すると、約22万円もらえる事になっています。

しかし、上記で述べたゆとりある老後生活費には足りません。定年後30年間生きるとした場合、老後資金は5,724万円不足するという計算になります。この不足額を年金以外で賄う必要があります。

・年金以外で必要な老後生活費
ゆとりある老後生活費37.9万円-年金受給額22万円
=不足額15.9万円 (不足額15.9万円×12か月)×30年=5,724万円

少子高齢化による年金受給額の減額

さらに、日本は少子高齢化が進んでいる事によって年金受給額が年々減ってきています令和2年度の国民年金受給額は65,141円でしたが、令和3年度は65,075円、令和4年度は64,816円と下落が見られました。平均寿命が伸びている事や生産年齢人口の減少によって、私たちが受給年齢になった時には今よりもさらに減少している可能性が高いです。

【参照元】日本年金機構「令和4年4月分からの年金額等について」 より

労働力不足による介護費の高騰

高齢化に伴い、介護サービスの需要が高まっています。しかし、生産年齢人口の減少から労働力不足の問題が生じており、今後は介護費が高騰すると想定されています。

月間の個人負担介護費の目安は、「生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度」によると在宅介護で4.8万円、施設利用で12.2万円が平均です。介護が必要な期間の平均が61カ月なので、在宅であれば292.8万円、施設利用であれば744.2万円になります

また、後述しますが、法改正で介護保険の自己負担額が上がる可能性もあります。

【参照元】生活保険文化センター「リスクに備えるための生活設計」より

平均寿命が延びている

日本の平均寿命は令和2年時点で男性81.64歳、女性87.74歳となっており、30年前の1990年と比較すると5歳も伸びています。内閣府の予測によれば、令和47年には男性84.95歳、女性91.35歳まで伸びると予想されています平均寿命が伸びるということは、老後までに用意しないといけない資金額が増えるということです。これまで、定年後20年分の資金を用意していたものが、次第に25年分、30年分となっていくのです。

上記のように、老後は年金だけで生活するのが難しい時代となっており、老後資産を現役時代のうちから築いていく必要があります。さらに、今後の年金受給額の減額・医療費や介護費の高騰、平均寿命が伸びている事を考慮すると、貯蓄だけでは十分な資金の確保は難しいでしょう今後はより一層、計画的な資産形成が必要になるでしょう。

【参照元】厚生労働省「令和2年簡易生命表」より

スタグフレーションに陥る可能性?

スタグフレーションとは、景気が後退(スタグネーション)しつつも物価上昇(インフレーション)が続く状態を指します。通常、景気が後退していると、需要が落ち込むため物価は下落するのですが、原材料の高騰等で不景気でも物価が上昇することがあります。賃金は上がっていないにも関わらず、物価が上がる現在は苦しい状況と言えます。現在の日本では賃金は上がっていないにも関わらず、物価が上がる苦しい状況が続いています。このままの状況が続いてしまうと、スタグフレーションに陥る可能性があります。

インフレーション

50年前と比べると、日本では多くの物の価格が上昇しています。例えば私たちが普段利用しているバス代は50年前の1970年と比較してみると50倍以上になっています。10年前と比較しても、ものやサービスの価格は上がり続けているのが分かります。今後2050年、2070年、政府のインフレ施策に大きな変更がない限り、このように上昇していく可能性が大きいでしょう。

【身近な商品・サービスの価格遷移(単位:円)】

  1970 1980 1990 2000 2010 2020  
小麦粉 77 175 202 197 224 266 3.4倍
コーヒー 95 247 351 418 411 512 5.3倍
バス代 4 110 160 200 207 217 54倍
ノートブック 40 96 114 129 144 162 4倍
新聞代(全国紙) 750 1,800 3,190 3,925 3,925 4,344 5.7倍
映画観覧料 351 1,357 1,615 1,800 1,800 1,834 5.2倍

【参照元】統計局「小売物価統計調査」よりベルテックス作成

今後の税制改正

いま話題になっている岸田政権の「税制改正」計画。2023年度のインボイス制度から、2024年度のたばこ税、法人税、所得税などの増税、医療費介護費の負担割合の引き上げなど、次々と税制改正が計画されています。

2023年10月 ・インボイス制度開始
2024年 ・たばこ税の引き上げ(1本あたり3円)
・法人税増税(税額4~4.5%分を上乗せ)
・復興特別所得税の期間延長
・所得税増税(税額1%分を上乗せ)
・生前贈与の相続税加算機関を3年から7年に
・高齢者介護保険の自己負担を1割から2割に
・後期高齢者医療保険の保険料上限を年73万に
・国民年金の保険料納付期間を45年へ(60→65歳まで)
2025年 ・扶養控除の縮小
・結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度廃止
・後期高齢者医療保険の保険料上限を年80万に引き上げ
2026年以降 ・教育資金の一括贈与の非課税制度廃止
・退職金の非課税枠を縮小

内容については現状検討中のものも含み、実施時期や税率も予定です。

何点か見ていきましょう。たばこ税であれば、1本3円値上がりしますので、1箱20本とすれば1箱60円の値上げです。1日1箱吸う方であれば、年間約22,000円の増税になります。

復興特別所得税は東日本大震災からの復興のために設けられた税金です。所得税の2.1%が課税対象額となります。例えば課税所得が700万円の方であれば、700万円×0.23 – 636,000円= 974,000円が所得税額となりますが、その額の2.1%、つまり約20,000円が対象となります。今回20年間延長となるので、このケースであれば20,000円×20年で約400,000円が増税になります。

また、所得税も1%分が上乗せで増税になるので、上記のケースであれば974,000円の1%、つまり9,740円が増税となり、年間だと136,360円です。

高齢者の介護保険の自己負担額も2割に上がります。例えば、施設利用で介護をしていた場合、月額25,000円の自己負担1割で施設費を払っていたのであれば、シンプルに費用が2倍になりますから、1か月約25,000円増税となります。

国民年金の保険料納付期間も5年延長される予定です。令和5年時点では保険料16,520円ですから、年間198,240円の増税です もちろんすべて実施されるとは限りませんが、物価が上がっているにも関わらず、出ていくお金も増えていくのが分かります。 

日本の平均年収の推移と手取り額の減少

日本の平均年収は2019年時点で436万円、1990年では425万円であり、約30年間で10万円ほどしか変わっていません。これまで物価が何倍も上昇してきている中で、年収はわずか2.5%しか増えていないのです。

さらに、健康保険料や税金の引き上げ、厚生年金の保険料率の引き上げなどから、実際に使える手取り額が減ってきており、高年収の人ほど負担が多くなっています手取り額が減ると老後への貯蓄は難しく、現状の生活の維持も厳しくなるでしょう。

【参照元】国税庁「民間給与実態統計調査」より作成
【参照元】酒井会計事務所「年収別手取り収入」より

このような状況下で、どのように老後対策をしていくべきか悩む方も多いでしょう。 貯蓄が難しい世の中ですから、計画的に資産形成をはじめていく必要があります。

日本人の投資状況

現在の日本人の投資状況はいかがなものでしょうか。

近年の投資人口の増加

どのぐらいの人がはじめているの?

年々、投資をはじめる人が増えてきています。野村総合研究所が行っている「生活者1万人アンケート調査(金融編)」によると、投資人口は2015年以降増加し続けています。 また、同アンケートによると、投資経験を持つ回答者の割合と投資に興味を持つ回答者の割合を合わせると、約47%に達しています。これは、18歳から79歳までの幅広い世代で投資に対する意識が高まっていることを示しており、多くの人々が資産運用や投資に興味を持ち、積極的に取り組んでいることがうかがえます。

iDeCoの加入者数とNISA口座数の推移

国が推奨しているiDeCoやNISAも増加傾向にあります。iDeCoは4年で2倍の加入者数に、NISAは8年で2倍の口座開設数となっています。

【参照元】iDeco公式サイト「加入者数等について(令和5年5月時点)」より
【参照元】日本証券業協会「NISA口座開設・利用状況調査結果 (2023年3月31日現在)」より

上記のように、投資人口は増加傾向にあります。 野村総合研究所が行っている「生活者1万人アンケート調査(金融編)」の「初めて投資に利用した口座」の図表をみると、2020年以降NISAの割合が大きい事が分かります。投資人口の増加には、つみたてNISA(少額投資非課税制度)などの制度改革や金融機関のサービスの向上が大きく寄与していると考えられます。
つみたてNISAは、少額から手軽に始められる投資を支援する制度として、多くの投資初心者に受け入れられています。また、ネット専業証券や銀行の台頭により、投資の情報収集や取引がオンライン上でより便利になり、投資へのアクセスが拡大したことも要因の一つとして挙げられます。

これまで株式・投資信託・債権のようにリスクが高く“賭ける”スタイルだった投資が、NISA制度の開始によりリスクの低い“積む”スタイルの投資になってきています。事実、2023年3月末時点でのつみたてNISA口座での買付額は2,769億円であり、2022年末から14.3%増加しています。一般NISA口座での買付額も2022年末と比較して7.9%増加しており、積極的な資産運用の動きがうかがえます。

資産形成のはじめ方

今、資産形成をするならNISA口座を作って始めるのがオススメです。同「生活者一万人アンケート」でも、2020年以降はつみたてNISA口座で始める方が全体の42%を占めており、人気を博しているのが分かります。

2023年3月末時点でのつみたてNISA口座開設者の投資未経験者割合は89.9%であり、一般NISAは51.0%となっています。投資未経験者にとっても敷居が低く、資産形成をはじめるのに適した制度と言えるでしょう。

NISAをしたり、投資信託や株式を取引したりするためには証券口座が必要です。証券会社の特長や手数料を比較し、自分に合った証券口座を選びましょう。口座の開設は大手銀行や地方銀行、ネット専業証券などでも可能です。特定口座の「源泉徴収あり」または「源泉徴収なし」が初心者におすすめです。

資産形成をはじめるときのコツ

ポートフォリオの組み方から商品の選び方、各商品のメリットデメリットの比較、おすすめの投資商品についてご紹介します。

ポートフォリオの組み方

投資においてのポートフォリオとは、複数の投資商品を組み合わせた内容を指します。異なるリスクやリターンの特性を持つ複数の投資商品を選び、分散投資を行うことが重要ですこれにより、リスクを分散させることができ、全体のリターンを安定化させることができます。ポートフォリオを組む際に意識すべき点は以下の4点です。

1. 目標と運用方針を設定

目標や運用方針を明確にしましょう。具体的な目標とリスク許容度に合わせて、運用方針を決める事が重要です

2. 偏らない投資の配分

リスクを分散させるために、一つの資産に過度に偏らないようにしましょうそれぞれの特徴を効率良く活かせるように組んでください。

3. 具体的な投資先を選択

適切な分析と調査を行い、投資先を慎重に選択する事が重要です。投資信託や債権であれば、評価機関が投資商品の評価をおこなっています。投資信託であればファンドレーティング高いもの、債権であれば発行体格付が高いものがリスクの目安になるでしょう。

4. 定期的な見直し

定期的にポートフォリオを見直しましょう株式と債券のバランスを調整や、成績の良い・悪い商品のリバランスを行う事で、安定した運用成績を維持できます。

投資商品の選び方

個人の目標やリスク許容度に合わせて選ぶ事が重要です。リスクを理解し、堅実な運用を心掛けるようにしましょう。

1.余剰資金の金額の範囲で商品を選ぶ

資産形成は「余剰資金」で行う事が基本となりますまずは3~6ヵ月分の給与を預貯金として準備し急な出費に備えた上で、余剰資金からはじめていきましょう。

2. 運用期間や目的を考慮する

投資の目的に応じて適切な商品を選びましょう。老後の資産形成なら、複利効果を活かす長期間での運用がおすすめです複利とは生じた利益にも利子がつくことです。一方、単利は元金にのみ利子がつきます。

【例】
・単利:100万円を単利5%、10年で運用した場合
…100万円+(5万円×10年)→150万円
・福利:100万円を複利5%、10年で運用した場合
…100万円×1.05の10乗→162.9万円

このように、複利運用は期間が長ければ長いほど、投資額が多ければ多いほど利益が出ます。また、得た利益をそのまま再び運用に投じる事を続ければ、資金が徐々に膨らんでいきます。

3.リスクとリターンを理解する

投資はリスクとリターンが比例しますハイリターンを狙うと当然ハイリスクになり、失敗する可能性も高まります。政治・経済・災害などの様々な影響を考慮し、自分のリスク許容度に合った商品を選びましょう。

投資商品のメリットデメリットを比較

いくつかの投資商品を比較してみましょう。

  メリット デメリット
つみたてNISA ・少額の自己資金で運用可能
・20年間非課税
・2024年からの新NISA
➔非課税期間が無期限に
➔年間投資枠の拡大 …等
・投資枠に制限がある
・運用益1,800万円から課税対象
iDeCo ・運用利益が非課税
・掛金全てが所得控除の対象
・受取方法によって「退職所得控除」もしくは「公的年金等控除」が適用される
・60歳になるまで解約する事ができない
貯蓄型保険 ・万一の場合も備えられる資産形成
・将来の保険料の軽減や保険金の増加が見込める
・運用成績によっては資産が減少するリスクがある
・基本的には長期契約で、途中解約に制約がある
株式投資 ・売却による値上がり益、ハイリターンが期待できる
・株主優待を受けられる
・比較的に大きな自己資金が必要
・投資先企業の業績や経済状況に大きく左右される
・株価の変動幅(ボラティリティー)の変動幅が大きい
・投資先企業が倒産した場合、投資元本の回収がしづらい
個人向け債権
(米国債等)
・国が発行している為信用度が高い
・償還まで保有すれば元本割れのリスクが低い
・1万円から購入可能
・値動きの変動幅が少ない
・中途換金は発行から1年経過後にできる
・中途換金の場合「中途換金調整額」が差し引かれる
・国の信用状況の悪化によって元本や利子の支払不能になるリスクがある
不動産投資 ・少額の自己資金ではじめられる
・保険効果、節税効果がある
・実物資産でインフレ対策になる
・インカムゲイン、キャピタルゲインの2つの収益を狙える
・物件によっては空室になり家賃収入を得られない場合がある
・エリアによって災害リスクがある
・流動性が低い(物件によって売却に時間を要する場合がある)

どの商品からはじめていくか迷っている方は、まずはiDeCoやつみたてNISAをはじめると良いでしょう。基本的に長期運用なので低リスクであり、国が設けている非課税制度を活用して効率よく運用する事ができます。

また、併せて不動産投資もおすすめです。 不動産投資は購入した物件を人に貸して家賃収入を得る投資です。一般的に、物件購入時にはローンを組んで購入費用を返済していきますが、その返済費用に家賃収入でまかないます。つまり、自己資金をほとんど使わずに、将来的に数千万の物件を手に入れることになりますローン返済が終われば、家賃がそのまま毎月の収入になります。
不動産は実物資産であるため、経済動向の影響を受けにくく、インフレにも強いと言われています。入居者対応などは、管理会社に委託できますので自分で行う必要はありません。

iDeCoやつみたてNISAを活用すると、月々の投資金額は大きくなります。そこに他人資本を使って資産形成できる不動産投資も併せることで、分散投資でリスクヘッジしつつ、月々の手出しは抑えながら、資産形成をさらに加速させることができるかもしれません。

将来、どれだけのお金が必要になるか。どれほどの税金が掛かるのかは誰にもわかりません。今から資産形成をしっかり進め、老後生活の準備をするようにしましょう

まとめ

資産形成の必要性から、資産形成のはじめ方・コツ・各商品のメリットデメリット等紹介しました。
老後対策は貯蓄のみでは効率が悪く、若いうちから少しずつ資産形成をはじめる必要があります。定年後に老後破産に陥らないように計画的な資産形成をはじめていきましょう。 また、投資商品は様々な種類がありますが商品によって特徴が大きく異なるので、自分の目的に合ったポートフォリオに沿って、商品を選んでいきましょう。

ベルテックスでは不動産投資やその他の資産運用にまつわる資産形成セミナーを開催しています。ご自宅からオンラインでご参加いただけますので、より詳しく話を聞いてみたい方はぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。