2024.02.29

不動産投資のコツ

ベルテックスコラム事務局

不動産投資の修繕リスク、事前にいくらぐらい必要か把握しておこう

  • リスク
  • 修繕
  • 賃貸管理

不動産投資は、メリットが多い資産運用の方法の一つですが、成功には計画性とリスク管理が不可欠です。 特に修繕リスクへの対策は、将来的な資産価値を維持していくために避けては通れない重要課題の一つです。不動産投資を始める前に、運用中に発生する修繕費用について、必ず把握しておきましょう。

本記事では、不動産投資の修繕リスクについて貸主と借主の負担割合を解説し、必要となる修繕費用や対策をご紹介します。修繕費について正しく理解し、リスクを最小限に抑えた賢い投資をしましょう。

不動産投資の修繕リスクとは

不動産投資の修繕リスクとは、投資不動産を所有して運用する際、何らかの事情により将来的に発生するメンテナンスに関わるリスクのことです。 屋根や外壁、配管、電気設備、水回り設備、フローリングやクロスなど、範囲は多岐にわたります。

原因の多くは、建物や設備の経年劣化によるもので、定期的に発生する代表的なリスクは下記の3点が挙げられます。

入居者退去時の原状回復

まず、既存の入居者が退去する際、毎回必要になるのが原状回復の費用です。 原状回復とは、賃貸借契約を結んでいる賃貸物件において、部屋を入居前の状態に戻すことを指します。 一般的に必ずかかる費用はルームクリーニング費用で、広さや間取りが大きくなるにつれ、価格が高くなります。

また、清掃業者が提示するルームクリーニングの基本料金の多くは、エアコンクリーニング費用が含まれていません。仮に含まれていた場合でも、ほとんどのケースは簡易清掃のみで、オプション依頼が必要となります。オプション発注する場合、エアコン1台あたり1万円以上からが相場です。

その他は、室内の使用状況を加味した上で必要があれば取替、交換を行います。 次の入居者が不快な思いをしないよう、退去部屋をチェックする際、主に下記項目における修繕の必要性を確認します。

  • 床や壁の損傷部の取替
  • 畳の表替え
  • 障子・ふすまの張替え
  • 網戸の張替え
  • ベランダの手すり部分など塗装のペンキ塗り直し
  • ドア・トイレ・キッチンの交換
  • 軽微な建付調整
  • 洗濯機エルボの持ち出し

設備の故障による交換

設備故障による修繕リスクは、投資物件内の設備・機器が故障し、修理もしくは交換が必要となるリスクを指します。 不動産投資において、設備故障は意外と頻繁に発生するもので、突然の大きな出費はキャッシュフローを左右させる要因の1つです。代表的な設備交換として、以下のようなものがあります。

  • 給排水設備(トイレやシンクなど)の詰まり
  • 冷暖房設備の故障
  • 浴室設備の故障
  • 給湯器の故障
  • 換気扇の故障
  • ガスコンロの故障
  • インターフォンの故障

上記のようなトラブルは急を要するケースが多く、入居中に発生すると、価格を重視したいオーナー心理は後回しで、商品の納品を優先する傾向にあります。設備故障に備えるには、不動産投資家は修繕のための予備資金を用意し、あらかじめ安価で信頼のできる業者を探しておくことが大切です。

建物全体の大規模修繕費

建物全体の大規模修繕費は、物件の建物全体に対して必要な、広範囲にわたる修繕・改装にかかる費用を指します。

外観・共有スペース・設備など、「建物の長期的な価値」と「機能性の保存」を目的として実施される、大規模な工事や修繕です。建物全体の大規模修繕は、対象と目的において「事前保全」と「事後保全」2つのシーンに大別されます。

経年劣化による修繕

経年劣化による大規模修繕は、物件の年月経過に伴って進化した劣化・摩耗に対応するために行われます。屋根や外壁、配管や設備など、すでに劣化で状況が悪化している損傷に対して、修繕を施します。

修復することで価値を維持、回復することが目的で、使用を続けていくことが可能です。

予防保全のための修繕

予防保全のための大規模修繕は、将来の劣化・摩耗・損傷などの問題を事前予防し、建物価値の維持の長期化を目的として行われます。例えば、エレベータの保守点検や、設備のアップグレード、光熱費に関連するエネルギー効率の向上における改装などです。

両者の違いを1つ例に挙げると、実際に雨漏りが発生した後に対応する屋根の修繕は「経年劣化による修繕」、雨漏りは発生していないが、事前に行うコーキング補修や屋根の葺き替え工事は「予防保全のための修繕」になります。

どのぐらいコストがかかる?修繕費の費用負担について

修繕リスクには様々な要因が含まれていますが、具体的な費用は物件の構造や使用材料、地域や業者の設定料金によっても大きく異なります。

これらの修繕費は具体的にどれほどの金額が必要なのか、考えていきましょう。

原状回復と設備交換

まずは、原状回復と設備交換で発生する、室内にかかる補修費用です。

これらは、所有する部屋にかかる費用だからと言って、全額をオーナーが負担する義務はありません。入居者が故意的に壁に穴を開けていたり、掃除を怠って部屋を汚したりした場合、入居者側が費用負担をして修繕するのが妥当です。

賃貸人と入居者の負担割合について

賃貸物件において、賃貸人および入居者のどちらが、どれだけの割合で修繕すべきかについては、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を基準に考えられます。

ガイドラインの制定以前は、原状回復に関するトラブルや問題が多く、トラブルの未然防止と公正に解決するための方策として、本ガイドラインが作成されました。

負担割合の基準を示すために現場でよく取り入れられるのは、「経過年数による減価割合」です。

例えば、中古物件の入居者が退去する際、「汚れているから」いう理由でクロス張替費用を全額請求してしまったら、「すでに先の入居者が汚していた部分」も支払うことになり、納得がいかないでしょう。そのような不公平さを取り除くため、経過年数とともに残存価値の低下を数値として、ガイドライン内で定義しています。

ちなみに、クロスは6年経過すると価値が0、もしくは1円になる計算で、それ以降は故意過失の損傷と認められない限り、入居者は負担しないものとされています。

ガイドライン内では過去の判例にも触れているので、一度確認してみると良いでしょう。

概算費用一覧※弊社作成(添付図)

「原状回復」「設備交換」における項目ごとの費用については、弊社で独自作成した下記の図をご参照下さい。

(※上記は、あくまで概算の目安です。)

経年による故障が起こりやすい設備交換は、自分で交換時期に備えた貯蓄が必要となる上、1つ1つの単価が高額です。中古物件で入居中の不動産を購入すると、室内確認ができず、いきなり多額の修繕がかかる場合があるので、あらかじめ留意しておかなくてはいけません。

建物全体の大規模修繕費

建物に必要な大規模修繕費は、所有および運用する物件が「区分マンション投資」なのか、「一棟マンション投資」なのかで、考え方が異なります。

区分マンション所有の場合(修繕積立金)

区分マンションでは、何年後にどこの箇所を修繕工事するのか、管理組合による「大規模修繕計画」が新築当初から定められています。大規模修繕計画における工事は、区分マンションの所有権を有する者が毎月積み立てる、「修繕積立金」でまかないます。

修繕積立金の計算方法と費用相場は、2021年9月に改訂版が発表された、国土交通省による「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」内のポイントを目安にしてみましょう。(下記図参照)

マンションは世帯数や規模などの条件によってばらつきが大きいため、上記の算出式に金額を当てはめていくと、おおよその修繕積立金の目安が分かります。

【修繕積立金の額の目安を用いた算定例】
・10階建て、建築延床面積が8,000㎡のマンション
・専有床面積80㎡の住宅を購入する場合
目安の平均値 80㎡×202円/㎡・月=16,160円/月
(目安の幅として140円~265円の平均値として算出)

また、エレベータの設置台数や機械式駐車場の有無など、大掛かりな機器は定期的なメンテナンス・修理が必要なので、相場よりも高くなりがちです。

下記では、機械式駐車場の機種ごとにどれほど高くなるのか記した図をご紹介します。

【機械式駐車場がある場合の加算額】
・2段昇降式の機械式駐車場が50台分あり
・住戸の占有床面積80㎡
・マンション全体の占有面積計6,000㎡の場合
7,085円(月額修繕工事費の目安)×50台×80/6000
=4,723円

築年数が古くなるにつれて老朽化が進行し、大規模修繕にかかる費用は増額するので、一般的には将来に向けて修繕積立金は上昇します。

一棟マンション所有の場合

一棟マンション経営の場合、修繕積立金のような決められた計画は存在せず、運用計画は全て自分の判断に委ねられます。構造によって必要な修繕費用は異なり、木造よりもコンクリート造の方が頑丈な構造ですが、トータル的に高くなるとも言われています。

「1K×10世帯」規模のアパートは、共用部の塗装や室内整備において、木造・コンクリート造いずれも5~10年を目安に約80万円程度必要です。

また、10~15年程度経過すると屋根や外壁の塗装、防水など大掛かりな工事も考えていかなくてはなりません。20年目以降は様々な箇所にガタが来やすく、これらを合計すると500~1,000万円かかるとも言われています。

区分マンションの「修繕積立金」と同様に、毎月の収益から一定額を修繕費として計画的に積み立てていくことが大切です。

不動産投資の修繕リスクの対策

不動産投資は修繕リスクへの直面は不可避ですが、対策をとることで予防は可能です。 「事前確認」「管理会社の選定」「積立貯蓄」、3つリスクヘッジについてご説明します。

購入前に確認しておく事

新築・中古いずれの物件にしても、修繕積立金が適切な相場であるか、将来の値上げがどれほどかの予測立ては大切です。修繕積立金は一度値上げが見られると、その後の毎月の固定費として大きな影響を及ぼすので、事前確認が重要です。

また、中古物件を購入する場合、下記2点は特に要チェック項目です。

1.これまでの修繕履歴

室内及び建物の修繕履歴について、十分な確認を怠ってしまうと、修繕リスクは急増します。 中古マンションの修繕履歴は、不動産会社へ依頼することで、取得できる場合があります。特に居室内で大きな出費となる給湯器や冷暖房設備は、いつ頃交換されたのか、必ず確認するようにしましょう。

また、築年数が何十年と経っている物件は、キッチンや洗面化粧台、トイレなど、水回り設備の交換時期についても確認して下さい。

大規模修繕履歴において、計画性を持ったメンテナンスが定期的に行われているかどうかは、マンションの管理体制を図るポイントです。適切な処置が行われている物件は、資産価値が下落しづらく、売却時の価値が下がりにくいでしょう。

2.管理組合の積立金がいくら集金できているか

中古マンションは、上記に加えて、修繕積立金がいくら貯蓄できているのかを確認しましょう。積立金はあるのに修繕工事が実施されていない、または定期的な修繕工事はされているが積立金の貯蓄額が少ない、これらの状況はいずれも危険です。

さらに塗り替えや耐震性強化など、足場を組んで行う巨額な工事前後には、不足した修繕積立金を補うために、一時金の徴収や毎月の修繕積立金の増額も予想されます。

修繕履歴と修繕積立金に関する確認をしながら、運用開始後の修繕費について試算していきましょう。

保証プランが充実している管理会社を選ぶ

賃貸物件は「管理会社」によって、修繕に対する保証範囲が様々です。

様々なリスクに備えて親身になってくれる、良心的な会社を選びたいところですが、物件購入までに不動産会社の本質を見極めるのはなかなか難しいでしょう。

その際は、管理会社ごとの「保証プラン」を比較してみることがおすすめです。 修繕リスクに備えて金銭を支払うことで「設備保証サービス」を提供している会社もあり、設備故障が発生した際、管理会社側が負担してくれます。 中古物件で購入早々の大きな出費を防ぐためには、このようなサービス利用も視野に入れておくとよいでしょう。稀に仲介会社がサービスを提供しているケースもあります。

自分で積み立てる

不測の事態に備え、毎月のキャッシュフローに余裕があっても、手は付けずに修繕リスクに備えて貯蓄しておきましょう。

突然の故障による設備交換を求められても、痛手とならないよう計画的に資金の用意が必要です。 資金の用意をしておくと、空室リスクや災害リスクなど、他の面で資金が必要となった場合にも、対応することができます。

まとめ

本記事では、比較的発生しやすい修繕リスクについて、「原状回復」「設備交換」「大規模修繕」3つの観点から解説しました。 修繕リスクに備えるためには、これらの費用を事前に予測し、かつ緊急の修繕資金も確保しておくことが重要です。月々の収支を計算し、予期せぬ事態が発生しても資金不足で困ることがないようシミュレーションした上で、不動産投資に取り組みましょう。

ベルテックスでは、不動産投資の専門家による無料オンラインセミナーを開催しています。ご自宅からオンラインでご参加いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。

2024.02.29

不動産投資のコツ

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不動産投資の修繕リスク、事前にいくらぐらい必要か把握しておこう

  • リスク
  • 修繕
  • 賃貸管理

不動産投資は、メリットが多い資産運用の方法の一つですが、成功には計画性とリスク管理が不可欠です。 特に修繕リスクへの対策は、将来的な資産価値を維持していくために避けては通れない重要課題の一つです。不動産投資を始める前に、運用中に発生する修繕費用について、必ず把握しておきましょう。

本記事では、不動産投資の修繕リスクについて貸主と借主の負担割合を解説し、必要となる修繕費用や対策をご紹介します。修繕費について正しく理解し、リスクを最小限に抑えた賢い投資をしましょう。

不動産投資の修繕リスクとは

不動産投資の修繕リスクとは、投資不動産を所有して運用する際、何らかの事情により将来的に発生するメンテナンスに関わるリスクのことです。 屋根や外壁、配管、電気設備、水回り設備、フローリングやクロスなど、範囲は多岐にわたります。

原因の多くは、建物や設備の経年劣化によるもので、定期的に発生する代表的なリスクは下記の3点が挙げられます。

入居者退去時の原状回復

まず、既存の入居者が退去する際、毎回必要になるのが原状回復の費用です。 原状回復とは、賃貸借契約を結んでいる賃貸物件において、部屋を入居前の状態に戻すことを指します。 一般的に必ずかかる費用はルームクリーニング費用で、広さや間取りが大きくなるにつれ、価格が高くなります。

また、清掃業者が提示するルームクリーニングの基本料金の多くは、エアコンクリーニング費用が含まれていません。仮に含まれていた場合でも、ほとんどのケースは簡易清掃のみで、オプション依頼が必要となります。オプション発注する場合、エアコン1台あたり1万円以上からが相場です。

その他は、室内の使用状況を加味した上で必要があれば取替、交換を行います。 次の入居者が不快な思いをしないよう、退去部屋をチェックする際、主に下記項目における修繕の必要性を確認します。

  • 床や壁の損傷部の取替
  • 畳の表替え
  • 障子・ふすまの張替え
  • 網戸の張替え
  • ベランダの手すり部分など塗装のペンキ塗り直し
  • ドア・トイレ・キッチンの交換
  • 軽微な建付調整
  • 洗濯機エルボの持ち出し

設備の故障による交換

設備故障による修繕リスクは、投資物件内の設備・機器が故障し、修理もしくは交換が必要となるリスクを指します。 不動産投資において、設備故障は意外と頻繁に発生するもので、突然の大きな出費はキャッシュフローを左右させる要因の1つです。代表的な設備交換として、以下のようなものがあります。

  • 給排水設備(トイレやシンクなど)の詰まり
  • 冷暖房設備の故障
  • 浴室設備の故障
  • 給湯器の故障
  • 換気扇の故障
  • ガスコンロの故障
  • インターフォンの故障

上記のようなトラブルは急を要するケースが多く、入居中に発生すると、価格を重視したいオーナー心理は後回しで、商品の納品を優先する傾向にあります。設備故障に備えるには、不動産投資家は修繕のための予備資金を用意し、あらかじめ安価で信頼のできる業者を探しておくことが大切です。

建物全体の大規模修繕費

建物全体の大規模修繕費は、物件の建物全体に対して必要な、広範囲にわたる修繕・改装にかかる費用を指します。

外観・共有スペース・設備など、「建物の長期的な価値」と「機能性の保存」を目的として実施される、大規模な工事や修繕です。建物全体の大規模修繕は、対象と目的において「事前保全」と「事後保全」2つのシーンに大別されます。

経年劣化による修繕

経年劣化による大規模修繕は、物件の年月経過に伴って進化した劣化・摩耗に対応するために行われます。屋根や外壁、配管や設備など、すでに劣化で状況が悪化している損傷に対して、修繕を施します。

修復することで価値を維持、回復することが目的で、使用を続けていくことが可能です。

予防保全のための修繕

予防保全のための大規模修繕は、将来の劣化・摩耗・損傷などの問題を事前予防し、建物価値の維持の長期化を目的として行われます。例えば、エレベータの保守点検や、設備のアップグレード、光熱費に関連するエネルギー効率の向上における改装などです。

両者の違いを1つ例に挙げると、実際に雨漏りが発生した後に対応する屋根の修繕は「経年劣化による修繕」、雨漏りは発生していないが、事前に行うコーキング補修や屋根の葺き替え工事は「予防保全のための修繕」になります。

どのぐらいコストがかかる?修繕費の費用負担について

修繕リスクには様々な要因が含まれていますが、具体的な費用は物件の構造や使用材料、地域や業者の設定料金によっても大きく異なります。

これらの修繕費は具体的にどれほどの金額が必要なのか、考えていきましょう。

原状回復と設備交換

まずは、原状回復と設備交換で発生する、室内にかかる補修費用です。

これらは、所有する部屋にかかる費用だからと言って、全額をオーナーが負担する義務はありません。入居者が故意的に壁に穴を開けていたり、掃除を怠って部屋を汚したりした場合、入居者側が費用負担をして修繕するのが妥当です。

賃貸人と入居者の負担割合について

賃貸物件において、賃貸人および入居者のどちらが、どれだけの割合で修繕すべきかについては、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を基準に考えられます。

ガイドラインの制定以前は、原状回復に関するトラブルや問題が多く、トラブルの未然防止と公正に解決するための方策として、本ガイドラインが作成されました。

負担割合の基準を示すために現場でよく取り入れられるのは、「経過年数による減価割合」です。

例えば、中古物件の入居者が退去する際、「汚れているから」いう理由でクロス張替費用を全額請求してしまったら、「すでに先の入居者が汚していた部分」も支払うことになり、納得がいかないでしょう。そのような不公平さを取り除くため、経過年数とともに残存価値の低下を数値として、ガイドライン内で定義しています。

ちなみに、クロスは6年経過すると価値が0、もしくは1円になる計算で、それ以降は故意過失の損傷と認められない限り、入居者は負担しないものとされています。

ガイドライン内では過去の判例にも触れているので、一度確認してみると良いでしょう。

概算費用一覧※弊社作成(添付図)

「原状回復」「設備交換」における項目ごとの費用については、弊社で独自作成した下記の図をご参照下さい。

(※上記は、あくまで概算の目安です。)

経年による故障が起こりやすい設備交換は、自分で交換時期に備えた貯蓄が必要となる上、1つ1つの単価が高額です。中古物件で入居中の不動産を購入すると、室内確認ができず、いきなり多額の修繕がかかる場合があるので、あらかじめ留意しておかなくてはいけません。

建物全体の大規模修繕費

建物に必要な大規模修繕費は、所有および運用する物件が「区分マンション投資」なのか、「一棟マンション投資」なのかで、考え方が異なります。

区分マンション所有の場合(修繕積立金)

区分マンションでは、何年後にどこの箇所を修繕工事するのか、管理組合による「大規模修繕計画」が新築当初から定められています。大規模修繕計画における工事は、区分マンションの所有権を有する者が毎月積み立てる、「修繕積立金」でまかないます。

修繕積立金の計算方法と費用相場は、2021年9月に改訂版が発表された、国土交通省による「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」内のポイントを目安にしてみましょう。(下記図参照)

マンションは世帯数や規模などの条件によってばらつきが大きいため、上記の算出式に金額を当てはめていくと、おおよその修繕積立金の目安が分かります。

【修繕積立金の額の目安を用いた算定例】
・10階建て、建築延床面積が8,000㎡のマンション
・専有床面積80㎡の住宅を購入する場合
目安の平均値 80㎡×202円/㎡・月=16,160円/月
(目安の幅として140円~265円の平均値として算出)

また、エレベータの設置台数や機械式駐車場の有無など、大掛かりな機器は定期的なメンテナンス・修理が必要なので、相場よりも高くなりがちです。

下記では、機械式駐車場の機種ごとにどれほど高くなるのか記した図をご紹介します。

【機械式駐車場がある場合の加算額】
・2段昇降式の機械式駐車場が50台分あり
・住戸の占有床面積80㎡
・マンション全体の占有面積計6,000㎡の場合
7,085円(月額修繕工事費の目安)×50台×80/6000
=4,723円

築年数が古くなるにつれて老朽化が進行し、大規模修繕にかかる費用は増額するので、一般的には将来に向けて修繕積立金は上昇します。

一棟マンション所有の場合

一棟マンション経営の場合、修繕積立金のような決められた計画は存在せず、運用計画は全て自分の判断に委ねられます。構造によって必要な修繕費用は異なり、木造よりもコンクリート造の方が頑丈な構造ですが、トータル的に高くなるとも言われています。

「1K×10世帯」規模のアパートは、共用部の塗装や室内整備において、木造・コンクリート造いずれも5~10年を目安に約80万円程度必要です。

また、10~15年程度経過すると屋根や外壁の塗装、防水など大掛かりな工事も考えていかなくてはなりません。20年目以降は様々な箇所にガタが来やすく、これらを合計すると500~1,000万円かかるとも言われています。

区分マンションの「修繕積立金」と同様に、毎月の収益から一定額を修繕費として計画的に積み立てていくことが大切です。

不動産投資の修繕リスクの対策

不動産投資は修繕リスクへの直面は不可避ですが、対策をとることで予防は可能です。 「事前確認」「管理会社の選定」「積立貯蓄」、3つリスクヘッジについてご説明します。

購入前に確認しておく事

新築・中古いずれの物件にしても、修繕積立金が適切な相場であるか、将来の値上げがどれほどかの予測立ては大切です。修繕積立金は一度値上げが見られると、その後の毎月の固定費として大きな影響を及ぼすので、事前確認が重要です。

また、中古物件を購入する場合、下記2点は特に要チェック項目です。

1.これまでの修繕履歴

室内及び建物の修繕履歴について、十分な確認を怠ってしまうと、修繕リスクは急増します。 中古マンションの修繕履歴は、不動産会社へ依頼することで、取得できる場合があります。特に居室内で大きな出費となる給湯器や冷暖房設備は、いつ頃交換されたのか、必ず確認するようにしましょう。

また、築年数が何十年と経っている物件は、キッチンや洗面化粧台、トイレなど、水回り設備の交換時期についても確認して下さい。

大規模修繕履歴において、計画性を持ったメンテナンスが定期的に行われているかどうかは、マンションの管理体制を図るポイントです。適切な処置が行われている物件は、資産価値が下落しづらく、売却時の価値が下がりにくいでしょう。

2.管理組合の積立金がいくら集金できているか

中古マンションは、上記に加えて、修繕積立金がいくら貯蓄できているのかを確認しましょう。積立金はあるのに修繕工事が実施されていない、または定期的な修繕工事はされているが積立金の貯蓄額が少ない、これらの状況はいずれも危険です。

さらに塗り替えや耐震性強化など、足場を組んで行う巨額な工事前後には、不足した修繕積立金を補うために、一時金の徴収や毎月の修繕積立金の増額も予想されます。

修繕履歴と修繕積立金に関する確認をしながら、運用開始後の修繕費について試算していきましょう。

保証プランが充実している管理会社を選ぶ

賃貸物件は「管理会社」によって、修繕に対する保証範囲が様々です。

様々なリスクに備えて親身になってくれる、良心的な会社を選びたいところですが、物件購入までに不動産会社の本質を見極めるのはなかなか難しいでしょう。

その際は、管理会社ごとの「保証プラン」を比較してみることがおすすめです。 修繕リスクに備えて金銭を支払うことで「設備保証サービス」を提供している会社もあり、設備故障が発生した際、管理会社側が負担してくれます。 中古物件で購入早々の大きな出費を防ぐためには、このようなサービス利用も視野に入れておくとよいでしょう。稀に仲介会社がサービスを提供しているケースもあります。

自分で積み立てる

不測の事態に備え、毎月のキャッシュフローに余裕があっても、手は付けずに修繕リスクに備えて貯蓄しておきましょう。

突然の故障による設備交換を求められても、痛手とならないよう計画的に資金の用意が必要です。 資金の用意をしておくと、空室リスクや災害リスクなど、他の面で資金が必要となった場合にも、対応することができます。

まとめ

本記事では、比較的発生しやすい修繕リスクについて、「原状回復」「設備交換」「大規模修繕」3つの観点から解説しました。 修繕リスクに備えるためには、これらの費用を事前に予測し、かつ緊急の修繕資金も確保しておくことが重要です。月々の収支を計算し、予期せぬ事態が発生しても資金不足で困ることがないようシミュレーションした上で、不動産投資に取り組みましょう。

ベルテックスでは、不動産投資の専門家による無料オンラインセミナーを開催しています。ご自宅からオンラインでご参加いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。