2024.02.29

資産運用

ベルテックスコラム事務局

FIREの意味は?単なるリタイアとの違いや必要な金額について解説

  • 年収・収入
  • 資産形成
  • 不動産投資
  • FIRE

FIRE(経済的自立と早期リタイア)は、米国でミレニアル世代(※一般的には1981~1996年生まれの世代を指す)に支持されている概念です。日本国内では、2020年春以降に若い世代の個人投資家を中心に注目度が高まりました。

この記事の前半では、FIREの意味や単なるリタイアとの違い、FIREの実現のために必要な金額について解説し、後半では、FIREのための3ステップや不動産投資との相性について紹介します。

FIREの意味・経済的自立によって早期リタイアを実現・継続

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉です。FIREの意味は厳密に定義されていませんが、貯蓄や資産運用などにより「経済的自立」を手に入れ、「早期リタイア」を実現・継続する人生戦略を指すのが一般的です。

FIREが国内で広がったのは関連書籍のベストセラーが大きく影響

FIREの原型となる考え方については、米国でムーブメントになる以前の1990年後半~2010年頃に関連書籍が出版されたり、富裕層を中心に議論されてきたりしたといわれています。その後、第一人者といわれるクリスティー・シェン、ブライス・リャンの両氏などがネットや書籍でFIREに関する情報を発信したことでミレニアル世代を中心に共感が広がりました。

クリスティー・シェン氏らの著書は、日本において『FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド』の邦題で2020年3月に発売されました。その影響力もあり、国内でも2020年春以降に20~30代の若い個人投資家を中心に注目されるようになりました。『FIRE 最強の早期リタイア術』のAmazonのレビュー数は2,000件を超えており(2023年1月現在)、注目度の高さを感じさせます。

FIREと単なるリタイアの違いは、元手が減っていくか維持し続けるか

FIREと単なるリタイアは混同されやすい用語ですが、意味は大きく異なります。

単なるリタイア

老後生活を送るのに十分なお金を退職金や貯金などで用意し、これを切り崩しながら悠々自適な生活を送るようなイメージです。

FIRE

経済的自立による早期リタイアを目指すスキームです。貯金や資産運用で元手となる資産をつくり、リタイア後も資産運用しながら元手を減らさずに生活していくことを目指します。

例えば、同じ1億円の元手を用意しても、単なるリタイアは時間の経過とともに9,000万円、8,000万円、7,000万円と目減りしていきます。一方、FIREは、時間が経っても1億円を維持することを目指す点が大きな違いです。このように、FIREと早期リタイアは、似ているようでも意味が大きく異なります。

FIREをするために必要な金額の基本は「年収の25倍の元手×4%ルール」

FIREでいくら必要なのかを割り出すには「年間支出の25倍の元手(資産)」「4%ルール(年利4%の運用益)」などの関連するキーワードを理解する必要があります。

FIREに必要な元手の目安は、年間支出の25倍

「FIREをするためにいくらの元手(資産)が必要か」という議論では「資産1億円が目安」といわれています。一方「年金制度が充実している日本では1億円もいらない」「若い年齢でFIREするなら1億円あっても全然足りない」など、資産運用の専門家からはさまざまな意見が出されています。これらの意見はどれも間違いではありません。FIREをするためにいくら必要かは、ケースバイケースだからです。

FIREするために必要な資産は、「その人の年間支出がいくらか」「年間支出の何倍を元手に設定するか」で目標額が大きく変わります。例えば、一般的なFIREの考え方では、目標とする元手は「年間支出の25倍」が目安です。年間支出の25倍を基準にした場合、年間支出額によって必要な元手が以下のように変わってきます。

年間支出 FIREに必要な元手* (年間支出の25倍が目安)
300万円 約7,500万円
400万円 約1億円
500万円 約1億2,500万円
1,000万円 約2億5,000万円

※年間利回り4%で試算資産運用した場合

端的にいえば、質素な暮らしをする場合はFIREに必要な元手は少なくて済み、逆に豊かな生活をしたい場合は必要な元手が増えるということです。

FIREを実現させるには「4%ルール」が鍵となる

FIREするために必要な資産は、なぜ年間支出の25倍が目安といわれているのでしょうか。これは、一般的なFIREが「4%ルール(年利4%の運用益)」を想定しているからです。年間支出の25倍の元手を用意し、この元手を年利4%で運用していけば資産が減らない(または、資産が尽きる可能性が低い)というのがFIREの根本的な考え方です。

これは、実際にシミュレーションしてみるとわかりやすいかもしれません。例えば、年間支出が400万円とすると、年間支出の25倍は1億円です。この1億円を年利4%で運用していくと、年間で得られる運用益は400万円となります。年間支出400万円が運用益400万円で相殺され続けるため、理屈上は時間が経っても1億円の元手が減らないというわけです。

「最低限のFIRE」と「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーション

ここまでの内容でFIREの基本(年間支出の25倍の元手が目安、4%ルール)については、ご理解いただけたのではないでしょうか。FIREの基本を深掘りするため、ここでは「最低限のFIRE」と「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーションを紹介します。

「最低限のFIRE」のシミュレーション

総務省の家計調査などを参考にすると2人以上の勤労世帯の平均的な消費支出は1カ月あたり28万5,947円(2022年11月時点)です。少し余裕を持たせて1カ月あたりの消費支出を30万円(年間支出360万円)として計算すると、最低限のFIRE達成に必要な元手の目安は9,000万円(360万円×25倍)となります。

上記は2人以上の世帯であることが前提ですが、一人暮らしで将来も結婚を考えていない人であれば、一人分の年間支出を運用益でカバーできれば問題ありません。同じく総務省の家計調査を参考にすると、単身世帯の平均的な消費支出は1カ月あたり15万5,046円(2022年11月時点)です。少し余裕を持たせて1カ月あたりの消費支出を17万円(年間支出204万円)として計算すると、一人暮らしの人が最低限のFIRE達成に必要な元手の目安は5,100万円(204万円×25倍)になります。

「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーション

次に「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーションをしてみましょう。例えば、毎月の消費支出を先ほどの計算で使用した30万円の1.5倍の45万円(年間540万円)と考えた場合、FIRE達成に必要な元手は1億3,500万円(540万円×25倍)です。さらに年間支出を30万円の2倍の60万円(年間720万円)に設定するとFIREに必要な元手は1億8,000万円(720万円×25倍)となります。

このように「どれくらいの生活レベルを維持したいか」によって、FIREに必要な資産は大きく変わります。質素な暮らしをしている人や支出が少ないミニマリストは、目標額が少なめで済むため、FIREを達成しやすいといえるかもしれません。

FIREの「4%ルール」の意味を考え、捉われないことも大切

FIREの4%ルール(年利4%の運用益)の根拠になっているのは、S&P500種株価指数の成長率7%から、米国のインフレ率3%を引いた割合だといわれています。つまり株式市場の状況や暮らしている国が変われば運用益の目安も変わってくるというわけです。 例えば、S&P500種株価指数の長期的な成長率が上昇することを考えた場合、想定する年利も上がるでしょう。

しかし、反対に同指数の成長率が鈍化すると考えるなら、想定する年利が下がります。また日本の場合、米国よりもインフレ率が低い状況が続いているため、長期的なインフレ率が3%以下と考える人も多いでしょう。あるいは、資産運用の手段は必ずしもS&P500種株価指数とは限りません。個別銘柄や日本株式、不動産投資などで資産運用をする場合、4%ルールの前提となる年利4%の運用益も変わります。

これらのことを考慮すると、「3%ルール」や「5%ルール」を設定した方がよいケースもあるかもしれません。

FIREを達成するための3ステップ

ここでは、上述した内容をもとに、「4%ルール」を前提としたFIREを達成するための3つのステップを紹介します。

ステップ1.年間支出を確認して、元手の目標額を設定する

FIREを達成するためのはじめの一歩は「現在の年間支出はいくらか」を把握することです。年間支出を25倍することで、FIRE達成に必要な元手(資産)が見えてきます。普段から家計簿をつけている人であれば過去のデータを見返すことにより簡単に年間支出を把握できるでしょう。これまで支出を記録していない場合は、家計簿アプリなどで支出を記録する習慣をつけてみてはいかがでしょうか。

これから家計簿をつける場合、「直近1カ月の支出×12カ月」でおおまかな年間支出が割り出せます。ただし、季節によって光熱費や衣類の購入費などが変動するため、1年間を通して家計簿をつけて年間支出を割り出すことが望ましいでしょう。

ステップ2.元手をいつまでにつくるか目標期間を設定する

年間支出を25倍して元手となる資産の目標額が把握できた後は「そのお金をいつまでにつくるか」について目標を立てます。例えば、現在保有する資産が1,000万円で目標額が7,000万円の場合、あと6,000万円足りません。仮に年間300万円ずつ貯金していった場合、6,000万円を貯めるのに20年かかります。

しかし、年間300万円(毎月25万円)ずつ積み立て、さらにそれを年利4%で運用していくと、15年で約6,152万円(元本4,500万円+運用益約1,652万円)貯めることができます。このように同じ金額を積み立ていても資産運用を活用すると目標額達成までの期間を短縮することができるのです。

ステップ3.収入の入口をさらに増やす

FIRE達成までの期間をさらに短縮したい場合は、「本業の収入」と「資産運用」に加えて「副業」という第3の収入源を持つことも有効な方法の一つです。副業で得た収入をさらに資産運用に回すことで運用益が得られ、FIRE達成までの期間短縮化につながります。参考までに会社員に人気の副業の一例をご紹介します。

サービス業(接客・販売など) ネットビジネス(通販・アフィリエイト・ネットショップ運営など) Webサイト、CG制作 塾講師、家庭教師 編集・ライター 運送・配達(Uber Eatsなど)

最近、よく見かける「FIRE卒業」の意味は?

2022年後半にTwitterで「FIRE卒業」のキーワードがトレンド入りしたことが話題になりました。FIRE卒業とは「一度早期リタイアした後、再び働き始める」という意味です。FIRE卒業のケースが増えている理由の一つとして「株式市場の低迷(株式投資信託含む)」と「インフレ率の上昇傾向」によって期待していた年利を得にくいことが挙げられます。

前述したようにFIREの考え方のベースになっている「4%ルール(年利4%の運用益)」は、米S&P500種株価指数の成長率7%から米国のインフレ率3%を引いた割合でした。しかし、米S&P500種株価指数の1年間のトータルリターンは、-7%(米ブルームバーグ チャート:2022年1月~2023年1月)で、ここから日本の直近のインフレ率3~4%(2022年下期の消費者物価指数)を差し引くと-3~4%となります。

株式や投資信託を主体としてFIREを継続していくことが困難な状況になっていることがうかがえるでしょう。

FIREによる早期リタイアの失敗パターンは?

FIREによる早期リタイアの失敗パターンとして代表的な例を2つ紹介します。

想定していたよりも出費が増える

FIREによる早期リタイアの失敗パターンとして多いのは、想定していた以上に出費が増えるというケースです。

FIREの基本的な考え方は「年間支出の25倍を目安に資産形成を進め、その後年4%の運用益を確保することで資産をなるべく維持する」というものでした。しかし、「結婚した」「子どもが増えた」「子どもの教育費がかかるようになった」などの理由により、年間支出自体が増えてしまうと、仮に年4%の運用益を得られても資産が目減りしていきます。

このようなことを意識するとFIREを決断する際は、「現在の年間支出が長期的に変わらないか」をチェックすることも大切といえるでしょう。また、生活水準を変えなくても想定していたよりもインフレ率が上昇して支出が増える可能性もあります。もちろんインフレになれば運用益も増えるのが一般的です。しかし、スタグフレーション(景気停滞と物価上昇が同時に起きている状態)が長く続いた場合は、インフレ率の上昇に運用益の上昇が追いつかない可能性もあります。

充実感を得られなくなる

FIREに成功した後に充実感を得られなくなるというケースも、FIREによる早期リタイアの失敗パターンといえるでしょう。

FIREによって経済的自立を手に入れると生活費を稼ぐための労働をしなくても済むようになります。その結果、あり余る自由な時間で心ゆくまで趣味や旅行などを楽しめますが、次第に刺激が少なくなり充実感を感じられなくなる人は少なくありません。自分がこのタイプにあてはまりそうであれば、FIREを達成できる状態になっても早期リタイアを選択しないほうが無難かもしれません。

潤沢な資産を築くことに成功しても、FIRE以外の選択肢として「気楽な気持ちで今の仕事を続ける」「収入が減っても精神的に負荷の少ない仕事に転職する」「以前からやりたかった仕事に転職する」などもあります。実際に日経ヴェリタスの個人投資家1,000人調査では、4割以上の人たちがFIREを達成できる状態にあるものの、仕事を続けていると回答しています。その内訳は、以下の通りです。

  • FIREを達成できる状態にあるが、元々の仕事を続けている:34.6%
  • FIREを達成できる状態にあるので、やりたかった仕事に転職した:4.8%
  • FIREを達成できる状態にあるので、負担の少ない仕事に転職した:5.2%

ちなみに本調査で「FIREを達成して会社を辞めた」と回答したのは全体の12%でした。つまり資産形成に成功しても仕事を続けるのが多数派ということです。

FIREと不動産投資は相性がよい

上述したように2022年度の株式市場の低迷によって「FIRE卒業」を決断する人が増えています。しかし安定的な利回りを確保しやすい不動産投資を選択すれば、FIREを達成・継続することも可能かもしれません。

不動産投資には、キャピタルゲイン(売却益)とインカムゲイン(家賃収入)の2種類のリターンがあり、家賃収入を軸に戦略を考えるのが基本です。家賃収入は、不景気の影響を受けにくく安定的な利回りが期待できます。これからFIREを目指すなら不動産投資を主体にしたポートフォリオ(投資商品の組み合わせ)を検討するのも賢い選択といえるかもしれません。

まとめ

この記事では、2020年以降、若い世代の個人投資家に支持されたFIREの基本について解説しました。改めて要点を振り返ってみましょう。

  • FIREの意味は、経済的自立によって早期リタイアを実現する人生戦略
  • 単なるリタイアは時間の経過とともに資産が目減りしていくが、FIREでは時間が経過しても資産を維持することを目指すことが可能
  • FIREを達成するには、年間支出の25倍の元手(資産)が目安
  • FIRE達成後は4%ルール(年利4%の運用益)で資産を維持していく考え方が一般的

株式市場が好調だった時期は、株式投資信託によるFIREが主流でした。しかし、株式市場の低迷により、それを見直す時期になっています。安定的な利回りを確保するには、不動産投資や国債投資信託など複数の投資商品を組み合わせたポートフォリオを構築することが大切です。

ベルテックスでは不動産にまつわる資産形成セミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください 。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。

2024.02.29

資産運用

ベルテックスコラム事務局

FIREの意味は?単なるリタイアとの違いや必要な金額について解説

  • 年収・収入
  • 資産形成
  • 不動産投資
  • FIRE

FIRE(経済的自立と早期リタイア)は、米国でミレニアル世代(※一般的には1981~1996年生まれの世代を指す)に支持されている概念です。日本国内では、2020年春以降に若い世代の個人投資家を中心に注目度が高まりました。

この記事の前半では、FIREの意味や単なるリタイアとの違い、FIREの実現のために必要な金額について解説し、後半では、FIREのための3ステップや不動産投資との相性について紹介します。

FIREの意味・経済的自立によって早期リタイアを実現・継続

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉です。FIREの意味は厳密に定義されていませんが、貯蓄や資産運用などにより「経済的自立」を手に入れ、「早期リタイア」を実現・継続する人生戦略を指すのが一般的です。

FIREが国内で広がったのは関連書籍のベストセラーが大きく影響

FIREの原型となる考え方については、米国でムーブメントになる以前の1990年後半~2010年頃に関連書籍が出版されたり、富裕層を中心に議論されてきたりしたといわれています。その後、第一人者といわれるクリスティー・シェン、ブライス・リャンの両氏などがネットや書籍でFIREに関する情報を発信したことでミレニアル世代を中心に共感が広がりました。

クリスティー・シェン氏らの著書は、日本において『FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド』の邦題で2020年3月に発売されました。その影響力もあり、国内でも2020年春以降に20~30代の若い個人投資家を中心に注目されるようになりました。『FIRE 最強の早期リタイア術』のAmazonのレビュー数は2,000件を超えており(2023年1月現在)、注目度の高さを感じさせます。

FIREと単なるリタイアの違いは、元手が減っていくか維持し続けるか

FIREと単なるリタイアは混同されやすい用語ですが、意味は大きく異なります。

単なるリタイア

老後生活を送るのに十分なお金を退職金や貯金などで用意し、これを切り崩しながら悠々自適な生活を送るようなイメージです。

FIRE

経済的自立による早期リタイアを目指すスキームです。貯金や資産運用で元手となる資産をつくり、リタイア後も資産運用しながら元手を減らさずに生活していくことを目指します。

例えば、同じ1億円の元手を用意しても、単なるリタイアは時間の経過とともに9,000万円、8,000万円、7,000万円と目減りしていきます。一方、FIREは、時間が経っても1億円を維持することを目指す点が大きな違いです。このように、FIREと早期リタイアは、似ているようでも意味が大きく異なります。

FIREをするために必要な金額の基本は「年収の25倍の元手×4%ルール」

FIREでいくら必要なのかを割り出すには「年間支出の25倍の元手(資産)」「4%ルール(年利4%の運用益)」などの関連するキーワードを理解する必要があります。

FIREに必要な元手の目安は、年間支出の25倍

「FIREをするためにいくらの元手(資産)が必要か」という議論では「資産1億円が目安」といわれています。一方「年金制度が充実している日本では1億円もいらない」「若い年齢でFIREするなら1億円あっても全然足りない」など、資産運用の専門家からはさまざまな意見が出されています。これらの意見はどれも間違いではありません。FIREをするためにいくら必要かは、ケースバイケースだからです。

FIREするために必要な資産は、「その人の年間支出がいくらか」「年間支出の何倍を元手に設定するか」で目標額が大きく変わります。例えば、一般的なFIREの考え方では、目標とする元手は「年間支出の25倍」が目安です。年間支出の25倍を基準にした場合、年間支出額によって必要な元手が以下のように変わってきます。

年間支出 FIREに必要な元手* (年間支出の25倍が目安)
300万円 約7,500万円
400万円 約1億円
500万円 約1億2,500万円
1,000万円 約2億5,000万円

※年間利回り4%で試算資産運用した場合

端的にいえば、質素な暮らしをする場合はFIREに必要な元手は少なくて済み、逆に豊かな生活をしたい場合は必要な元手が増えるということです。

FIREを実現させるには「4%ルール」が鍵となる

FIREするために必要な資産は、なぜ年間支出の25倍が目安といわれているのでしょうか。これは、一般的なFIREが「4%ルール(年利4%の運用益)」を想定しているからです。年間支出の25倍の元手を用意し、この元手を年利4%で運用していけば資産が減らない(または、資産が尽きる可能性が低い)というのがFIREの根本的な考え方です。

これは、実際にシミュレーションしてみるとわかりやすいかもしれません。例えば、年間支出が400万円とすると、年間支出の25倍は1億円です。この1億円を年利4%で運用していくと、年間で得られる運用益は400万円となります。年間支出400万円が運用益400万円で相殺され続けるため、理屈上は時間が経っても1億円の元手が減らないというわけです。

「最低限のFIRE」と「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーション

ここまでの内容でFIREの基本(年間支出の25倍の元手が目安、4%ルール)については、ご理解いただけたのではないでしょうか。FIREの基本を深掘りするため、ここでは「最低限のFIRE」と「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーションを紹介します。

「最低限のFIRE」のシミュレーション

総務省の家計調査などを参考にすると2人以上の勤労世帯の平均的な消費支出は1カ月あたり28万5,947円(2022年11月時点)です。少し余裕を持たせて1カ月あたりの消費支出を30万円(年間支出360万円)として計算すると、最低限のFIRE達成に必要な元手の目安は9,000万円(360万円×25倍)となります。

上記は2人以上の世帯であることが前提ですが、一人暮らしで将来も結婚を考えていない人であれば、一人分の年間支出を運用益でカバーできれば問題ありません。同じく総務省の家計調査を参考にすると、単身世帯の平均的な消費支出は1カ月あたり15万5,046円(2022年11月時点)です。少し余裕を持たせて1カ月あたりの消費支出を17万円(年間支出204万円)として計算すると、一人暮らしの人が最低限のFIRE達成に必要な元手の目安は5,100万円(204万円×25倍)になります。

「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーション

次に「ゆとりのあるFIRE」のシミュレーションをしてみましょう。例えば、毎月の消費支出を先ほどの計算で使用した30万円の1.5倍の45万円(年間540万円)と考えた場合、FIRE達成に必要な元手は1億3,500万円(540万円×25倍)です。さらに年間支出を30万円の2倍の60万円(年間720万円)に設定するとFIREに必要な元手は1億8,000万円(720万円×25倍)となります。

このように「どれくらいの生活レベルを維持したいか」によって、FIREに必要な資産は大きく変わります。質素な暮らしをしている人や支出が少ないミニマリストは、目標額が少なめで済むため、FIREを達成しやすいといえるかもしれません。

FIREの「4%ルール」の意味を考え、捉われないことも大切

FIREの4%ルール(年利4%の運用益)の根拠になっているのは、S&P500種株価指数の成長率7%から、米国のインフレ率3%を引いた割合だといわれています。つまり株式市場の状況や暮らしている国が変われば運用益の目安も変わってくるというわけです。 例えば、S&P500種株価指数の長期的な成長率が上昇することを考えた場合、想定する年利も上がるでしょう。

しかし、反対に同指数の成長率が鈍化すると考えるなら、想定する年利が下がります。また日本の場合、米国よりもインフレ率が低い状況が続いているため、長期的なインフレ率が3%以下と考える人も多いでしょう。あるいは、資産運用の手段は必ずしもS&P500種株価指数とは限りません。個別銘柄や日本株式、不動産投資などで資産運用をする場合、4%ルールの前提となる年利4%の運用益も変わります。

これらのことを考慮すると、「3%ルール」や「5%ルール」を設定した方がよいケースもあるかもしれません。

FIREを達成するための3ステップ

ここでは、上述した内容をもとに、「4%ルール」を前提としたFIREを達成するための3つのステップを紹介します。

ステップ1.年間支出を確認して、元手の目標額を設定する

FIREを達成するためのはじめの一歩は「現在の年間支出はいくらか」を把握することです。年間支出を25倍することで、FIRE達成に必要な元手(資産)が見えてきます。普段から家計簿をつけている人であれば過去のデータを見返すことにより簡単に年間支出を把握できるでしょう。これまで支出を記録していない場合は、家計簿アプリなどで支出を記録する習慣をつけてみてはいかがでしょうか。

これから家計簿をつける場合、「直近1カ月の支出×12カ月」でおおまかな年間支出が割り出せます。ただし、季節によって光熱費や衣類の購入費などが変動するため、1年間を通して家計簿をつけて年間支出を割り出すことが望ましいでしょう。

ステップ2.元手をいつまでにつくるか目標期間を設定する

年間支出を25倍して元手となる資産の目標額が把握できた後は「そのお金をいつまでにつくるか」について目標を立てます。例えば、現在保有する資産が1,000万円で目標額が7,000万円の場合、あと6,000万円足りません。仮に年間300万円ずつ貯金していった場合、6,000万円を貯めるのに20年かかります。

しかし、年間300万円(毎月25万円)ずつ積み立て、さらにそれを年利4%で運用していくと、15年で約6,152万円(元本4,500万円+運用益約1,652万円)貯めることができます。このように同じ金額を積み立ていても資産運用を活用すると目標額達成までの期間を短縮することができるのです。

ステップ3.収入の入口をさらに増やす

FIRE達成までの期間をさらに短縮したい場合は、「本業の収入」と「資産運用」に加えて「副業」という第3の収入源を持つことも有効な方法の一つです。副業で得た収入をさらに資産運用に回すことで運用益が得られ、FIRE達成までの期間短縮化につながります。参考までに会社員に人気の副業の一例をご紹介します。

サービス業(接客・販売など) ネットビジネス(通販・アフィリエイト・ネットショップ運営など) Webサイト、CG制作 塾講師、家庭教師 編集・ライター 運送・配達(Uber Eatsなど)

最近、よく見かける「FIRE卒業」の意味は?

2022年後半にTwitterで「FIRE卒業」のキーワードがトレンド入りしたことが話題になりました。FIRE卒業とは「一度早期リタイアした後、再び働き始める」という意味です。FIRE卒業のケースが増えている理由の一つとして「株式市場の低迷(株式投資信託含む)」と「インフレ率の上昇傾向」によって期待していた年利を得にくいことが挙げられます。

前述したようにFIREの考え方のベースになっている「4%ルール(年利4%の運用益)」は、米S&P500種株価指数の成長率7%から米国のインフレ率3%を引いた割合でした。しかし、米S&P500種株価指数の1年間のトータルリターンは、-7%(米ブルームバーグ チャート:2022年1月~2023年1月)で、ここから日本の直近のインフレ率3~4%(2022年下期の消費者物価指数)を差し引くと-3~4%となります。

株式や投資信託を主体としてFIREを継続していくことが困難な状況になっていることがうかがえるでしょう。

FIREによる早期リタイアの失敗パターンは?

FIREによる早期リタイアの失敗パターンとして代表的な例を2つ紹介します。

想定していたよりも出費が増える

FIREによる早期リタイアの失敗パターンとして多いのは、想定していた以上に出費が増えるというケースです。

FIREの基本的な考え方は「年間支出の25倍を目安に資産形成を進め、その後年4%の運用益を確保することで資産をなるべく維持する」というものでした。しかし、「結婚した」「子どもが増えた」「子どもの教育費がかかるようになった」などの理由により、年間支出自体が増えてしまうと、仮に年4%の運用益を得られても資産が目減りしていきます。

このようなことを意識するとFIREを決断する際は、「現在の年間支出が長期的に変わらないか」をチェックすることも大切といえるでしょう。また、生活水準を変えなくても想定していたよりもインフレ率が上昇して支出が増える可能性もあります。もちろんインフレになれば運用益も増えるのが一般的です。しかし、スタグフレーション(景気停滞と物価上昇が同時に起きている状態)が長く続いた場合は、インフレ率の上昇に運用益の上昇が追いつかない可能性もあります。

充実感を得られなくなる

FIREに成功した後に充実感を得られなくなるというケースも、FIREによる早期リタイアの失敗パターンといえるでしょう。

FIREによって経済的自立を手に入れると生活費を稼ぐための労働をしなくても済むようになります。その結果、あり余る自由な時間で心ゆくまで趣味や旅行などを楽しめますが、次第に刺激が少なくなり充実感を感じられなくなる人は少なくありません。自分がこのタイプにあてはまりそうであれば、FIREを達成できる状態になっても早期リタイアを選択しないほうが無難かもしれません。

潤沢な資産を築くことに成功しても、FIRE以外の選択肢として「気楽な気持ちで今の仕事を続ける」「収入が減っても精神的に負荷の少ない仕事に転職する」「以前からやりたかった仕事に転職する」などもあります。実際に日経ヴェリタスの個人投資家1,000人調査では、4割以上の人たちがFIREを達成できる状態にあるものの、仕事を続けていると回答しています。その内訳は、以下の通りです。

  • FIREを達成できる状態にあるが、元々の仕事を続けている:34.6%
  • FIREを達成できる状態にあるので、やりたかった仕事に転職した:4.8%
  • FIREを達成できる状態にあるので、負担の少ない仕事に転職した:5.2%

ちなみに本調査で「FIREを達成して会社を辞めた」と回答したのは全体の12%でした。つまり資産形成に成功しても仕事を続けるのが多数派ということです。

FIREと不動産投資は相性がよい

上述したように2022年度の株式市場の低迷によって「FIRE卒業」を決断する人が増えています。しかし安定的な利回りを確保しやすい不動産投資を選択すれば、FIREを達成・継続することも可能かもしれません。

不動産投資には、キャピタルゲイン(売却益)とインカムゲイン(家賃収入)の2種類のリターンがあり、家賃収入を軸に戦略を考えるのが基本です。家賃収入は、不景気の影響を受けにくく安定的な利回りが期待できます。これからFIREを目指すなら不動産投資を主体にしたポートフォリオ(投資商品の組み合わせ)を検討するのも賢い選択といえるかもしれません。

まとめ

この記事では、2020年以降、若い世代の個人投資家に支持されたFIREの基本について解説しました。改めて要点を振り返ってみましょう。

  • FIREの意味は、経済的自立によって早期リタイアを実現する人生戦略
  • 単なるリタイアは時間の経過とともに資産が目減りしていくが、FIREでは時間が経過しても資産を維持することを目指すことが可能
  • FIREを達成するには、年間支出の25倍の元手(資産)が目安
  • FIRE達成後は4%ルール(年利4%の運用益)で資産を維持していく考え方が一般的

株式市場が好調だった時期は、株式投資信託によるFIREが主流でした。しかし、株式市場の低迷により、それを見直す時期になっています。安定的な利回りを確保するには、不動産投資や国債投資信託など複数の投資商品を組み合わせたポートフォリオを構築することが大切です。

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この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。