2023.10.10

不動産投資のコツ

ベルテックスコラム事務局

不動産投資におけるデッドクロスとは?有効な7つの対策を解説

  • 節税・税金

不動産投資において資金計画をはじめ投資プランを立てるうえで役に立つ考え方の一つに「デッドクロス」というものがあります。デッドクロスとは、キャッシュフローの金額が大きく変動する時期を事前に見定めたり適切な売却タイミングを想定したりする際に有用な概念です。特に節税目的で不動産投資を行っている場合は、デッドクロスという概念について理解しておかないと以下のような深刻な状況に陥ってしまうリスクがあるため、注意しましょう。

  • 節税するどころか追加で課税をされてしまう
  • 思うように手元にお金を残らない
  • キャッシュフローが赤字になったため、物件を急いで売らなければならない

この記事では、不動産投資におけるデッドクロスの概要を紹介した上で、デッドクロスが発生するとどうなるのか、デッドクロスに対して有効な対策は何かについても解説します。

不動産投資におけるデッドクロスとは

不動産投資におけるデッドクロスとは、以下のように年間の「ローンの元金返済額」が「減価償却費」を上回ってしまうタイミングのことです。

ローンの元金返済額>減価償却費

デッドクロスになると計上できる減価償却費が減るにもかかわらず、税金は逆に増えてしまうため、資金繰りが苦しくなります。なぜデッドクロスになると税金が増えるのでしょうか。これは、減価償却費が減って帳簿上の利益が増えることで利益にかかる所得税・住民税が増えるからです。

まずは不動産投資におけるデッドクロスについて、以下4つの項目に分けて解説します。

  1. 税法上の利益とキャッシュフローは同じではない
  2. 経費にならない元金返済金額より減価償却費の額が少なくなっている状態
  3. デッドクロスの状態になると実際の収支より、会計上の利益が大きくなり税金が増える
  4. 建物の構造により耐用年数が異なる

デッドクロスは、税務やキャッシュフロー(資金繰り)という不動産投資における財務に関わる非常に重要な概念となるため、前提知識を含めてよく理解しておきましょう。

税法上の利益とキャッシュフローは同じではない

デッドクロスという概念を理解するための前提知識として、不動産投資における「税法上の利益」と「キャッシュフロー」について説明します。
不動産投資においては「税法上の利益」と「キャッシュフロー」の考え方が大きく異なり、税務の観点と投資としてのパフォーマンスの観点とで厳密に使い分けられています。両者の定義は以下の通りです。

税法上の利益:税法で定められた科目・計算方法に基づいて算出される帳簿上の金額
キャッシュフロー:実際に発生した全ての収入と支出を差し引きした結果、実際に手元に残る金額

税法上の利益は、税法に基づいて算出される形式的な数値ですが、キャッシュフローは実際のお金の出入りによって算出される実質的な数値です。税法によって「実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用」や「実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用」があるため、税法上の利益とキャッシュフローとに差異が生じます。

「実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用」と「実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用」の例は、以下の通りです。

実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用:ローンの元金返済
実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用:減価償却費

両者の金額の多寡によって「デッドクロス」という状態が発生するため、前提として上記の知識を理解しておきましょう。

経費にならない元金返済金額より減価償却費の額が少なくなっている状態

不動産投資における「デッドクロス」とは、ローンの元金返済金額が減価償却費を上回る状態のことです。ローン返済に占める元金返済部分の金額は、期間を問わず一定(元金均等返済)、または返済が進むにつれて増加(元利均等返済)していきます。一方で減価償却費は、期間の経過とともに減少していくため、将来的に両者の逆転が発生するということです。

減価償却費についても、ここで簡単に解説します。減価償却とは、建物など経年とともに価値が下落していく固定資産を取得した際、取得のためにかかった費用を当該資産の耐用年数に応じて分割して計上する会計処理のことです。例えば5,000万円の建物を取得した場合、その年に5,000万円を一括で費用計上するのではなく、建物の耐用年数に応じて数年ないし数十年に分割して費用計上することになります。

建物を取得するための費用となる5,000万円はその年に支出しますが、会計処理上は「減価償却費」という形で数年ないし数十年にわたって分割して費用として計上できるのです。そのため減価償却できる期間内は、課税所得の圧縮が図れます。すでに支払った費用を事後的に分割して経費計上できるため、減価償却費は「実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用」となります。

デッドクロスの状態になると実際の収支より会計上の利益が大きくなり税金が増える

デッドクロスの状態になり、ローンの元金返済(実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用)より、減価償却費(実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用)が少なくなるということは、「税法上の利益が増える」ということです。税法上の利益が増えると、その利益に対して課される所得税額も増えるため、キャッシュフローが減り資金繰りが悪化します。

デッドクロスの状態になると、帳簿上は利益が出ているが経営が破たんしてしまう「黒字倒産」の状況に陥りやすくなってしまうのです。

建物の構造により耐用年数が異なる

減価償却ができる期間は、建物の耐用年数によって決まります。耐用年数は、法定耐用年数を用いて算出します。
法定耐用年数とは、建物などのように経年とともに価値が下落していく固定資産の使用可能期間として法律で定められた年数のことです。住宅に用いられる建物の法定耐用年数は、構造によって以下の表のように定められています。

構造 法定耐用年数
軽量鉄骨造 19年
木造 22年
重量鉄骨造 34年
RC造・SRC造 47年

耐用年数が長い物件は、少額ずつ長期間にわたって減価償却されるのに対し、耐用年数が短い物件は短期間で大きく減価償却されることになります。

デッドクロスが発生するタイミング

デッドクロスが発生するタイミングは、主に以下の2つです。

  • ローン返済が進み経費計上できる金利部分が減少
  • 築年数が経過し減価償却がなくなる(設備は15年)

また、デッドクロスが発生したタイミングで、経年劣化によって家賃収入が減少すると、キャッシュフローが大きく悪化する可能性があります。デッドクロスが発生する仕組みや背景も踏まえて理解しておきましょう。

ローン返済が進み経費計上できる金利部分が減少

ローンの返済方法には「元利均等返済」と「元金均等返済」の2パターンがあり、いずれにおいても返済が進むにつれて返済額に占める利息支払いの部分が減少していくのが特徴です。支払った利息は、元金返済と異なり経費計上できるため、所得の圧縮効果があります。元利均等返済は、利息支払い部分の減少とともに元金返済の金額が大きくなるため、元金均等返済よりもデッドクロスが起こりやすくなります。

ローン返済が進み返済額に占める利息支払いの部分が減少すると計上できる経費の金額が減るため、税法上の利益およびそれにかかる税金が大きくなり、キャッシュフローが悪化するということです。

築年数が経過し減価償却がなくなる(設備は15年)

減価償却ができる期間には、当該建物および設備の耐用年数という上限があるため、永久に計上し続けられるわけではありません。耐用年数が経過して減価償却が完了すると減価償却費の計上ができなくなるため、その時点でローン残高があればデッドクロス状態となってしまいます。耐用年数が短ければ減価償却を短期間でまとめて行えるため、短期的な税法上の利益の圧縮による節税効果は大きいです。

しかし、その分デッドクロスを迎えるタイミングが早くなることは認識しておきましょう。デッドクロスを迎えた後は、計上できる経費が大きく減るため、税金が大きく増える可能性があります。法定耐用年数を超えた木造アパートなどは、減価償却がかなり短くなるため、デッドクロスを迎えるタイミングも早いという点は認識しておく必要があります。

建物附属設備は一部を除き、耐用年数が15年以下と短いため、建物と建物附属設備を分けることにより節税効果を高めることができます。ただし、建物附属設備の減価償却期間が終了すると、デッドクロスが発生する可能性が上がるため、注意が必要です。

経年劣化に伴い家賃収入が減少

デッドクロスとは直接的な関係はありませんが、「キャッシュフローの悪化」というデッドクロスによって引き起こされる本質的な問題についても言及します。家賃収入は、経年による建物や設備の劣化とともに下落していく傾向にあるため、キャッシュフローは築年数の経過とともに悪化しやすくなります。

賃貸需要が旺盛であったり、競合物件にはない強みがあったりして、築年数が経過する中で家賃を維持できたとしても、デッドクロスによってキャッシュフローの悪化が起きる可能性があります。また、デッドクロスの発生と、経年劣化に伴う家賃収入の減少が同時期に起きると、キャッシュフローが急激に悪化するかもしれません。そのため、キャッシュフローの見通しは多角的な観点から定期的に行う必要があります。

ベルテックスでは不動産投資のプロがそういった今持っている物件のキャッシュフローのご相談や、これから取り組む方に向けて持ち方のご相談も承っています。セミナーでなんでもご質問ください。

元利均等返済と元金均等返済

デッドクロスを理解するにあたっては、ローンにおいて元金の返済金額がどのように変化するのかを理解することが必要です。ここでは「元利均等返済」と「元金均等返済」というローン返済の2つのパターンについて解説します。

元利均等返済

元利均等返済とは、「元金返済額+利息額」が一定で毎月金融機関に返済する金額が返済期間中に変動しない返済方法のことです。毎月の返済額は一定ですが、元金返済額と利息額の内訳が毎月変動し、返済の初期は利息の割合が多く返済が進んでいくと元金返済額が占める割合が増えていきます。

ローン返済が進むとともに元金返済額の占める割合が増えていくため、デッドクロスの起きやすさは「元金均等返済」より高いといえるでしょう。

元金均等返済

元利均等返済とは、毎月の返済の元金額が一定で利息金額が変動する返済方法のことです。利息金額は、ローン返済が進むにつれて減少していくため、元利均等返済においては毎月の返済額自体が減少していくことになります。

デッドクロスを避けるための施策

デッドクロスを避けたり、デッドクロスが生じたあとに講じたりする主な施策には、以下の4つが挙げられます。

  • 耐用年数の残っている物件を保有する
  • 融資期間を長くとる
  • 金利を安くする交渉をする
  • 繰り上げ返済する

いかにしてキャッシュフローを最大化するかという観点で自分の投資スタイルや投資目的に適合した手段を検討しましょう。

耐用年数の残っている物件を保有する

築年数が経過していない物件やRC造・SRC造など耐用年数が長い物件に投資することで、減価償却期間を長くとることができるため、デッドクロス状態を避けやすいといえます。なぜなら減価償却が完了するまでにローンを完済できれば(減価償却期間が融資期間よりも長ければ)、デッドクロスが発生する可能性を下げることができるからです。

一方で減価償却期間が長いということは、1年あたりに計上できる減価償却費が少なくなりやすいということです。デッドクロスを避けることばかりを考えるのではなく、節税効果とのバランスを見ながら自身に合った物件を選ぶことが大切です。

融資期間を長くとる

融資期間を長くとることで毎月の元金返済金額を抑えることができるため、デッドクロスを先延ばしにする効果があるといえます。一方、融資期間が長くなると支払金利の総額が増え、結果として総支払額が大きくなりやすいという点は看過できません。

事前にシミュレーションを行い、「総支払額が大きくなったとしても融資期間を長くするか」「デッドクロスの状態になる可能性が高くなったとしても完済時期を早くするか」のどちらが合理的かを俯瞰的に判断しましょう。

金利を安くする交渉をする

デッドクロスの状態になった場合、ローンの借り換えや金融機関への交渉を行うことで金利を下げることも善後策の一つです。デッドクロスの本質的な問題は、キャッシュフローが悪化することのため、金利を下げることができればキャッシュフローの改善につながるでしょう。

繰り上げ返済する

デッドクロスの状態になった場合、残債務の一部ないし全部を繰り上げ返済することでキャッシュフローを改善したり、デッドクロスの状態から脱したりすることができる可能性があります。なぜなら残債務を繰り上げ返済することで毎月の元金返済および支払金利の金額を減らすことができるからです。

ただし、修繕費や空室の発生、税金など賃貸経営のために必要な手元資金を残せなくなる状況で繰り上げ返済を行ってしまうと、デッドクロス状態を脱することができても、資金ショートで賃貸経営が破たんしてしまうリスクがあるため、注意が必要です。繰り上げ返済は余剰資金の範囲内で無理なく行うようにしましょう。

キャッシュフローが得られる物件を購入する

キャッシュフローが高い物件を購入することもデッドクロスの有効な対策の一つです。不動産投資において経営の健全性を測る指標は、デッドクロスだけではありません。キャッシュフローを継続的に十分得てきたかも重要な指標です。


例えば適正な家賃設定で稼働率の高い物件を保有していれば、キャッシュフローの総額(手残りの累計)が順調に積み上がっていきます。このキャッシュフローの総額を借入金の残債が下回っていれば経営の健全性は担保されている状態といえます。

なぜなら「借入金の残債<キャッシュフローの総額」であれば、いつでも繰り上げ返済をして利益確定をしたり(全額返済)、元金返済額を圧縮したり(一部返済)するなどの対応ができるからです。

自己資金を多く入れる

不動産投資ローンを申し込む際、同じ返済期間の場合、自己資金(頭金)を多く入れることで借入総額を抑えると毎月の元金返済額が減少するため、デッドクロスを回避しやすくなります。

例えば同じ条件(返済期間、金利)で不動産ローンを組んだ場合、借入総額が3,000万円(自己資金500万円)と2,000万円(自己資金1,500万円)を比較すると以下のような差になります。

【融資条件】
・返済期間:30年
・借入金利:2%
・元利均等返済

・借入総額3,000万円:23年0ヵ月目の元金返済額約9万6,250円
・借入総額2,000万円:23年0ヵ月目の元金返済額約6万4,166円


【参考】金融広報中央委員会「借入返済額シミュレーション

一方で自己資金を多く入れすぎて手元資金がなくなると、突発的な修繕などが発生したときに対応できなくなるため注意しましょう。

元金均等返済を選ぶ

ローンの返済には「元利均等返済」と「元金均等返済」という2つの方法があります。前述のようにデッドクロスが起きにくい返済方法は「元金均等返済」です。

返済方法 特徴 元金返済額の推移
元利均等返済 毎月の返済額が一定 元金返済額が増えていく
元金均等返済 毎月の返済額が減っていく 元金返済額が一定

上記のように「元金均等返済」は、返済が進んでも元金返済額が変わらないため、デッドクロスが起きにくいといえます。実際に同じ条件で不動産ローンを組んだ場合、2つの返済方法で元金返済額がどれくらい違うか比較してみましょう。

【融資条件】
・返済期間:30年
・借入金利:2%
・借入金額:3,000万円

・元利均等返済:23年0ヵ月目の元金返済額約9万6,250円
・元金均等返済:23年0ヵ月目の元金返済額約8万3,333円


【参考】金融広報中央委員会「借入返済額シミュレーション

事前のシミュレーションが重要

不動産投資においては、物件を購入する時点でデッドクロスや修繕費の発生などを見越して売却までを見据えた資金計画を綿密に立てることが重要です。不動産投資の目的は、お金を増やすことのため、「デッドクロスの時期を迎えたら売却して資産の組み換えを行う」「余剰資金の一部を繰り上げ返済に回す」といったさまざまな選択肢を検討することが大切です。

投資のプランを立てるうえで必要なのがシミュレーションです。長期的な投資プランについて起こり得るあらゆる事象をケースごとに分けながら想定し、どのタイミングでどの施策を講じるのが最も合理的なのかを判断しましょう。デッドクロスのシミュレーションは、売却のタイミングを計るうえで非常に重要な指標です。物件購入から何年目でデッドクロスが生じ、節税効果が薄くなってキャッシュフローが悪化する可能性があるのか、事前にしっかりシミュレーションをしておきましょう。

ここでは、新築木造アパートを購入した場合、デッドクロスが起きる前(経営1年目)とデッドクロスが起きたあと(経営23年目)でどのように経営状態が変わるかをシミュレーションしてみました。

※下記で示したシミュレーションはデッドクロスを理解することを目的にしているため、簡易的な内容になっています。
※また実際には建物本体と住宅設備を区分けして計算することが必要です。

シミュレーション例①:アパート経営1年目

【設定条件】
・アパート購入費用:9,000万円(うち建物5,000万円)
・ローン返済期間:35年
・返済方式:元利均等返済
・利回り:6%
・減価償却期間:22年
・年間の減価償却費:230万円(5,000万円×償却率0.046)
※ここでは残存率を省いて計算
※備考:便宜上、所得税20%(住民税10%)と仮定

上記の条件をもとにアパート経営1年目の次の内容をシミュレーションしてみましょう。

  • デッドクロスになっているか
  • 税引き後利益
  • 年間キャッシュフロー

税引き後利益65万円


内訳)
家賃収入:540万円
減価償却費:△230万円
支払利息:△約178万5,000円
税引き前利益:約131万5,000円

所得税・住民税計△約66万5,000円
税引き後利益:65万円

年間キャッシュフロー115万5,000円


家賃収入:540万円
所得税・住民税計△約66万5,000円
ローン返済額:△約358万円(元金返済額約179万円)
手残り:115万5,000円

1年目は「元金返済額(約179万円)>減価償却費(230万円)」であり、デッドクロスではありません。
次に税引き後利益と年間キャッシュフローを見ていきましょう。それぞれにプラス65万円(税引き後利益)、プラス115万5,000円(年間CF)となっています。帳簿上でもキャッシュフローでもプラスであり、健全経営といえます。

シミュレーション例②:アパート経営23年目

上記のアパートを保有し続けて23年目の経営状況をシミュレーションしてみましょう。新築木造アパートの法定耐用年数は22年です。そのため23年目以降は減価償却費が計上できなくなります。

※あくまでも机上のシミュレーションです。実際には、物件を保有している間に大がかりな修繕をしていれば追加の減価償却費が計上できます。

また一般的に不動産投資の家賃は、築年数が1年増えるごとに年1%程度下がるといわれます。ここでは、便宜上22年間の間に家賃が20%下がったと仮定しました。

税引き後利益:251万円


内訳)
家賃収入:432万円(540万円×80%)
支払利息:△約74万円
税引き前利益:約358万円

所得税・住民税計△約107万円
税引き後利益:251万円

年間キャッシュフロー:マイナス33万円


家賃収入:432万円
所得税・住民税計△約107万円
ローン返済額:△約358万円(元金返済額約284万円)
手残り:マイナス33万円

23年目は「元金返済額(284万円)>減価償却費(0円)」であり、デッドクロス状態です。税引き後利益は251万円で1年目の65万円と比較すると帳簿上の利益が186万円増えています。一見すると儲かっているように見えますが、年間キャッシュフローを確認するとマイナス33万円の赤字です。これを放置すると資金資金繰りが苦しくなります。

不動産投資のデッドクロスのよくある質問とその回答

ここまで解説してきた「不動産投資とデッドクロス」のテーマでよくある質問と回答はこちらです。

デッドクロスはなぜ発生するのか? 

不動産投資におけるデッドクロスとは「減価償却費<元金返済額」の状態を指します。デッドクロスが発生する原因は、減価償却期間(耐用年数)が終わったタイミングで「減価償却費と元金返済額のバランスが変わるから」です。具体的には、以下のようにバランスが変わります。

・減価償却費:計上できなくなる
・元金返済額:変わらない(または増えていく)

例えば新築木造アパートの建物部分の耐用年数は、22年です。この耐用年数を過ぎると減価償却費を計上できなくなり、デッドクロスが発生します。ただし建物の耐用年数は「どのような構造か」「新築か中古か」などで変わってきます。

自分が購入する物件の耐用年数を確認したうえで「デッドクロスが起きたらどうするか」を想定してから不動産投資を始めることが賢明です。

アパートの減価償却が終わったらどうなるのか?

アパートの減価償却が終わると減価償却費が計上できなくなる分、帳簿上の利益が増えます。この利益に対して所得税・住民税(自営業の場合)などの税金が課税されるため、以前よりも納める税金が増えキャッシュフローがきつくなる傾向です。

そのため一般的には「アパートの減価償却期間(耐用年数)が過ぎたら物件を売却したほうがよい」といわれます。しかしケースバイケースで判断することが必要です。

例えば耐用年数とほぼ同時(または耐用年数前)に不動産投資ローンの返済を終えている場合は、デッドクロスになりません。アパートの稼働率が高く、今後の空室や修繕費などのリスクが小さければ「そのまま保有し続ける」という選択もあるでしょう。

まとめ

不動産投資における「デッドクロス」とは、ローンの元金返済金額が減価償却費を上回る状態のことです。デッドクロスが発生すると減価償却費の計上による所得圧縮効果が薄まり、税法上の利益が増えてしまいます。税法上の利益が増えた結果、その利益に対して課される所得税額も増えてしまうため、キャッシュフローが減り資金繰りが悪化します。

またデッドクロスの状態になると帳簿上は利益が出ているが経営が破たんする「黒字倒産」の状況に陥りかねません。デッドクロスによるキャッシュフローの悪化を回避するためには、物件を購入する段階で以下の事柄に留意してシミュレーションをしておくのが賢明です。

  • 物件の構造
  • 物件の築年数
  • ローンの返済方法
  • 融資期間

高いキャッシュフローを維持するための基準としてデッドクロスについて理解し、資金計画を立てたり、売却時期を計ったりする際の判断材料にしてみてはいかがでしょうか。

ベルテックスでは不動産にまつわる節税対策セミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。

2023.10.10

不動産投資のコツ

ベルテックスコラム事務局

不動産投資におけるデッドクロスとは?有効な7つの対策を解説

  • 節税・税金

不動産投資において資金計画をはじめ投資プランを立てるうえで役に立つ考え方の一つに「デッドクロス」というものがあります。デッドクロスとは、キャッシュフローの金額が大きく変動する時期を事前に見定めたり適切な売却タイミングを想定したりする際に有用な概念です。特に節税目的で不動産投資を行っている場合は、デッドクロスという概念について理解しておかないと以下のような深刻な状況に陥ってしまうリスクがあるため、注意しましょう。

  • 節税するどころか追加で課税をされてしまう
  • 思うように手元にお金を残らない
  • キャッシュフローが赤字になったため、物件を急いで売らなければならない

この記事では、不動産投資におけるデッドクロスの概要を紹介した上で、デッドクロスが発生するとどうなるのか、デッドクロスに対して有効な対策は何かについても解説します。

不動産投資におけるデッドクロスとは

不動産投資におけるデッドクロスとは、以下のように年間の「ローンの元金返済額」が「減価償却費」を上回ってしまうタイミングのことです。

ローンの元金返済額>減価償却費

デッドクロスになると計上できる減価償却費が減るにもかかわらず、税金は逆に増えてしまうため、資金繰りが苦しくなります。なぜデッドクロスになると税金が増えるのでしょうか。これは、減価償却費が減って帳簿上の利益が増えることで利益にかかる所得税・住民税が増えるからです。

まずは不動産投資におけるデッドクロスについて、以下4つの項目に分けて解説します。

  1. 税法上の利益とキャッシュフローは同じではない
  2. 経費にならない元金返済金額より減価償却費の額が少なくなっている状態
  3. デッドクロスの状態になると実際の収支より、会計上の利益が大きくなり税金が増える
  4. 建物の構造により耐用年数が異なる

デッドクロスは、税務やキャッシュフロー(資金繰り)という不動産投資における財務に関わる非常に重要な概念となるため、前提知識を含めてよく理解しておきましょう。

税法上の利益とキャッシュフローは同じではない

デッドクロスという概念を理解するための前提知識として、不動産投資における「税法上の利益」と「キャッシュフロー」について説明します。
不動産投資においては「税法上の利益」と「キャッシュフロー」の考え方が大きく異なり、税務の観点と投資としてのパフォーマンスの観点とで厳密に使い分けられています。両者の定義は以下の通りです。

税法上の利益:税法で定められた科目・計算方法に基づいて算出される帳簿上の金額
キャッシュフロー:実際に発生した全ての収入と支出を差し引きした結果、実際に手元に残る金額

税法上の利益は、税法に基づいて算出される形式的な数値ですが、キャッシュフローは実際のお金の出入りによって算出される実質的な数値です。税法によって「実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用」や「実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用」があるため、税法上の利益とキャッシュフローとに差異が生じます。

「実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用」と「実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用」の例は、以下の通りです。

実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用:ローンの元金返済
実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用:減価償却費

両者の金額の多寡によって「デッドクロス」という状態が発生するため、前提として上記の知識を理解しておきましょう。

経費にならない元金返済金額より減価償却費の額が少なくなっている状態

不動産投資における「デッドクロス」とは、ローンの元金返済金額が減価償却費を上回る状態のことです。ローン返済に占める元金返済部分の金額は、期間を問わず一定(元金均等返済)、または返済が進むにつれて増加(元利均等返済)していきます。一方で減価償却費は、期間の経過とともに減少していくため、将来的に両者の逆転が発生するということです。

減価償却費についても、ここで簡単に解説します。減価償却とは、建物など経年とともに価値が下落していく固定資産を取得した際、取得のためにかかった費用を当該資産の耐用年数に応じて分割して計上する会計処理のことです。例えば5,000万円の建物を取得した場合、その年に5,000万円を一括で費用計上するのではなく、建物の耐用年数に応じて数年ないし数十年に分割して費用計上することになります。

建物を取得するための費用となる5,000万円はその年に支出しますが、会計処理上は「減価償却費」という形で数年ないし数十年にわたって分割して費用として計上できるのです。そのため減価償却できる期間内は、課税所得の圧縮が図れます。すでに支払った費用を事後的に分割して経費計上できるため、減価償却費は「実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用」となります。

デッドクロスの状態になると実際の収支より会計上の利益が大きくなり税金が増える

デッドクロスの状態になり、ローンの元金返済(実際にキャッシュアウトしていても経費にできない費用)より、減価償却費(実際にはキャッシュアウトしていなくても経費にできる費用)が少なくなるということは、「税法上の利益が増える」ということです。税法上の利益が増えると、その利益に対して課される所得税額も増えるため、キャッシュフローが減り資金繰りが悪化します。

デッドクロスの状態になると、帳簿上は利益が出ているが経営が破たんしてしまう「黒字倒産」の状況に陥りやすくなってしまうのです。

建物の構造により耐用年数が異なる

減価償却ができる期間は、建物の耐用年数によって決まります。耐用年数は、法定耐用年数を用いて算出します。
法定耐用年数とは、建物などのように経年とともに価値が下落していく固定資産の使用可能期間として法律で定められた年数のことです。住宅に用いられる建物の法定耐用年数は、構造によって以下の表のように定められています。

構造 法定耐用年数
軽量鉄骨造 19年
木造 22年
重量鉄骨造 34年
RC造・SRC造 47年

耐用年数が長い物件は、少額ずつ長期間にわたって減価償却されるのに対し、耐用年数が短い物件は短期間で大きく減価償却されることになります。

デッドクロスが発生するタイミング

デッドクロスが発生するタイミングは、主に以下の2つです。

  • ローン返済が進み経費計上できる金利部分が減少
  • 築年数が経過し減価償却がなくなる(設備は15年)

また、デッドクロスが発生したタイミングで、経年劣化によって家賃収入が減少すると、キャッシュフローが大きく悪化する可能性があります。デッドクロスが発生する仕組みや背景も踏まえて理解しておきましょう。

ローン返済が進み経費計上できる金利部分が減少

ローンの返済方法には「元利均等返済」と「元金均等返済」の2パターンがあり、いずれにおいても返済が進むにつれて返済額に占める利息支払いの部分が減少していくのが特徴です。支払った利息は、元金返済と異なり経費計上できるため、所得の圧縮効果があります。元利均等返済は、利息支払い部分の減少とともに元金返済の金額が大きくなるため、元金均等返済よりもデッドクロスが起こりやすくなります。

ローン返済が進み返済額に占める利息支払いの部分が減少すると計上できる経費の金額が減るため、税法上の利益およびそれにかかる税金が大きくなり、キャッシュフローが悪化するということです。

築年数が経過し減価償却がなくなる(設備は15年)

減価償却ができる期間には、当該建物および設備の耐用年数という上限があるため、永久に計上し続けられるわけではありません。耐用年数が経過して減価償却が完了すると減価償却費の計上ができなくなるため、その時点でローン残高があればデッドクロス状態となってしまいます。耐用年数が短ければ減価償却を短期間でまとめて行えるため、短期的な税法上の利益の圧縮による節税効果は大きいです。

しかし、その分デッドクロスを迎えるタイミングが早くなることは認識しておきましょう。デッドクロスを迎えた後は、計上できる経費が大きく減るため、税金が大きく増える可能性があります。法定耐用年数を超えた木造アパートなどは、減価償却がかなり短くなるため、デッドクロスを迎えるタイミングも早いという点は認識しておく必要があります。

建物附属設備は一部を除き、耐用年数が15年以下と短いため、建物と建物附属設備を分けることにより節税効果を高めることができます。ただし、建物附属設備の減価償却期間が終了すると、デッドクロスが発生する可能性が上がるため、注意が必要です。

経年劣化に伴い家賃収入が減少

デッドクロスとは直接的な関係はありませんが、「キャッシュフローの悪化」というデッドクロスによって引き起こされる本質的な問題についても言及します。家賃収入は、経年による建物や設備の劣化とともに下落していく傾向にあるため、キャッシュフローは築年数の経過とともに悪化しやすくなります。

賃貸需要が旺盛であったり、競合物件にはない強みがあったりして、築年数が経過する中で家賃を維持できたとしても、デッドクロスによってキャッシュフローの悪化が起きる可能性があります。また、デッドクロスの発生と、経年劣化に伴う家賃収入の減少が同時期に起きると、キャッシュフローが急激に悪化するかもしれません。そのため、キャッシュフローの見通しは多角的な観点から定期的に行う必要があります。

ベルテックスでは不動産投資のプロがそういった今持っている物件のキャッシュフローのご相談や、これから取り組む方に向けて持ち方のご相談も承っています。セミナーでなんでもご質問ください。

元利均等返済と元金均等返済

デッドクロスを理解するにあたっては、ローンにおいて元金の返済金額がどのように変化するのかを理解することが必要です。ここでは「元利均等返済」と「元金均等返済」というローン返済の2つのパターンについて解説します。

元利均等返済

元利均等返済とは、「元金返済額+利息額」が一定で毎月金融機関に返済する金額が返済期間中に変動しない返済方法のことです。毎月の返済額は一定ですが、元金返済額と利息額の内訳が毎月変動し、返済の初期は利息の割合が多く返済が進んでいくと元金返済額が占める割合が増えていきます。

ローン返済が進むとともに元金返済額の占める割合が増えていくため、デッドクロスの起きやすさは「元金均等返済」より高いといえるでしょう。

元金均等返済

元利均等返済とは、毎月の返済の元金額が一定で利息金額が変動する返済方法のことです。利息金額は、ローン返済が進むにつれて減少していくため、元利均等返済においては毎月の返済額自体が減少していくことになります。

デッドクロスを避けるための施策

デッドクロスを避けたり、デッドクロスが生じたあとに講じたりする主な施策には、以下の4つが挙げられます。

  • 耐用年数の残っている物件を保有する
  • 融資期間を長くとる
  • 金利を安くする交渉をする
  • 繰り上げ返済する

いかにしてキャッシュフローを最大化するかという観点で自分の投資スタイルや投資目的に適合した手段を検討しましょう。

耐用年数の残っている物件を保有する

築年数が経過していない物件やRC造・SRC造など耐用年数が長い物件に投資することで、減価償却期間を長くとることができるため、デッドクロス状態を避けやすいといえます。なぜなら減価償却が完了するまでにローンを完済できれば(減価償却期間が融資期間よりも長ければ)、デッドクロスが発生する可能性を下げることができるからです。

一方で減価償却期間が長いということは、1年あたりに計上できる減価償却費が少なくなりやすいということです。デッドクロスを避けることばかりを考えるのではなく、節税効果とのバランスを見ながら自身に合った物件を選ぶことが大切です。

融資期間を長くとる

融資期間を長くとることで毎月の元金返済金額を抑えることができるため、デッドクロスを先延ばしにする効果があるといえます。一方、融資期間が長くなると支払金利の総額が増え、結果として総支払額が大きくなりやすいという点は看過できません。

事前にシミュレーションを行い、「総支払額が大きくなったとしても融資期間を長くするか」「デッドクロスの状態になる可能性が高くなったとしても完済時期を早くするか」のどちらが合理的かを俯瞰的に判断しましょう。

金利を安くする交渉をする

デッドクロスの状態になった場合、ローンの借り換えや金融機関への交渉を行うことで金利を下げることも善後策の一つです。デッドクロスの本質的な問題は、キャッシュフローが悪化することのため、金利を下げることができればキャッシュフローの改善につながるでしょう。

繰り上げ返済する

デッドクロスの状態になった場合、残債務の一部ないし全部を繰り上げ返済することでキャッシュフローを改善したり、デッドクロスの状態から脱したりすることができる可能性があります。なぜなら残債務を繰り上げ返済することで毎月の元金返済および支払金利の金額を減らすことができるからです。

ただし、修繕費や空室の発生、税金など賃貸経営のために必要な手元資金を残せなくなる状況で繰り上げ返済を行ってしまうと、デッドクロス状態を脱することができても、資金ショートで賃貸経営が破たんしてしまうリスクがあるため、注意が必要です。繰り上げ返済は余剰資金の範囲内で無理なく行うようにしましょう。

キャッシュフローが得られる物件を購入する

キャッシュフローが高い物件を購入することもデッドクロスの有効な対策の一つです。不動産投資において経営の健全性を測る指標は、デッドクロスだけではありません。キャッシュフローを継続的に十分得てきたかも重要な指標です。


例えば適正な家賃設定で稼働率の高い物件を保有していれば、キャッシュフローの総額(手残りの累計)が順調に積み上がっていきます。このキャッシュフローの総額を借入金の残債が下回っていれば経営の健全性は担保されている状態といえます。

なぜなら「借入金の残債<キャッシュフローの総額」であれば、いつでも繰り上げ返済をして利益確定をしたり(全額返済)、元金返済額を圧縮したり(一部返済)するなどの対応ができるからです。

自己資金を多く入れる

不動産投資ローンを申し込む際、同じ返済期間の場合、自己資金(頭金)を多く入れることで借入総額を抑えると毎月の元金返済額が減少するため、デッドクロスを回避しやすくなります。

例えば同じ条件(返済期間、金利)で不動産ローンを組んだ場合、借入総額が3,000万円(自己資金500万円)と2,000万円(自己資金1,500万円)を比較すると以下のような差になります。

【融資条件】
・返済期間:30年
・借入金利:2%
・元利均等返済

・借入総額3,000万円:23年0ヵ月目の元金返済額約9万6,250円
・借入総額2,000万円:23年0ヵ月目の元金返済額約6万4,166円


【参考】金融広報中央委員会「借入返済額シミュレーション

一方で自己資金を多く入れすぎて手元資金がなくなると、突発的な修繕などが発生したときに対応できなくなるため注意しましょう。

元金均等返済を選ぶ

ローンの返済には「元利均等返済」と「元金均等返済」という2つの方法があります。前述のようにデッドクロスが起きにくい返済方法は「元金均等返済」です。

返済方法 特徴 元金返済額の推移
元利均等返済 毎月の返済額が一定 元金返済額が増えていく
元金均等返済 毎月の返済額が減っていく 元金返済額が一定

上記のように「元金均等返済」は、返済が進んでも元金返済額が変わらないため、デッドクロスが起きにくいといえます。実際に同じ条件で不動産ローンを組んだ場合、2つの返済方法で元金返済額がどれくらい違うか比較してみましょう。

【融資条件】
・返済期間:30年
・借入金利:2%
・借入金額:3,000万円

・元利均等返済:23年0ヵ月目の元金返済額約9万6,250円
・元金均等返済:23年0ヵ月目の元金返済額約8万3,333円


【参考】金融広報中央委員会「借入返済額シミュレーション

事前のシミュレーションが重要

不動産投資においては、物件を購入する時点でデッドクロスや修繕費の発生などを見越して売却までを見据えた資金計画を綿密に立てることが重要です。不動産投資の目的は、お金を増やすことのため、「デッドクロスの時期を迎えたら売却して資産の組み換えを行う」「余剰資金の一部を繰り上げ返済に回す」といったさまざまな選択肢を検討することが大切です。

投資のプランを立てるうえで必要なのがシミュレーションです。長期的な投資プランについて起こり得るあらゆる事象をケースごとに分けながら想定し、どのタイミングでどの施策を講じるのが最も合理的なのかを判断しましょう。デッドクロスのシミュレーションは、売却のタイミングを計るうえで非常に重要な指標です。物件購入から何年目でデッドクロスが生じ、節税効果が薄くなってキャッシュフローが悪化する可能性があるのか、事前にしっかりシミュレーションをしておきましょう。

ここでは、新築木造アパートを購入した場合、デッドクロスが起きる前(経営1年目)とデッドクロスが起きたあと(経営23年目)でどのように経営状態が変わるかをシミュレーションしてみました。

※下記で示したシミュレーションはデッドクロスを理解することを目的にしているため、簡易的な内容になっています。
※また実際には建物本体と住宅設備を区分けして計算することが必要です。

シミュレーション例①:アパート経営1年目

【設定条件】
・アパート購入費用:9,000万円(うち建物5,000万円)
・ローン返済期間:35年
・返済方式:元利均等返済
・利回り:6%
・減価償却期間:22年
・年間の減価償却費:230万円(5,000万円×償却率0.046)
※ここでは残存率を省いて計算
※備考:便宜上、所得税20%(住民税10%)と仮定

上記の条件をもとにアパート経営1年目の次の内容をシミュレーションしてみましょう。

  • デッドクロスになっているか
  • 税引き後利益
  • 年間キャッシュフロー

税引き後利益65万円


内訳)
家賃収入:540万円
減価償却費:△230万円
支払利息:△約178万5,000円
税引き前利益:約131万5,000円

所得税・住民税計△約66万5,000円
税引き後利益:65万円

年間キャッシュフロー115万5,000円


家賃収入:540万円
所得税・住民税計△約66万5,000円
ローン返済額:△約358万円(元金返済額約179万円)
手残り:115万5,000円

1年目は「元金返済額(約179万円)>減価償却費(230万円)」であり、デッドクロスではありません。
次に税引き後利益と年間キャッシュフローを見ていきましょう。それぞれにプラス65万円(税引き後利益)、プラス115万5,000円(年間CF)となっています。帳簿上でもキャッシュフローでもプラスであり、健全経営といえます。

シミュレーション例②:アパート経営23年目

上記のアパートを保有し続けて23年目の経営状況をシミュレーションしてみましょう。新築木造アパートの法定耐用年数は22年です。そのため23年目以降は減価償却費が計上できなくなります。

※あくまでも机上のシミュレーションです。実際には、物件を保有している間に大がかりな修繕をしていれば追加の減価償却費が計上できます。

また一般的に不動産投資の家賃は、築年数が1年増えるごとに年1%程度下がるといわれます。ここでは、便宜上22年間の間に家賃が20%下がったと仮定しました。

税引き後利益:251万円


内訳)
家賃収入:432万円(540万円×80%)
支払利息:△約74万円
税引き前利益:約358万円

所得税・住民税計△約107万円
税引き後利益:251万円

年間キャッシュフロー:マイナス33万円


家賃収入:432万円
所得税・住民税計△約107万円
ローン返済額:△約358万円(元金返済額約284万円)
手残り:マイナス33万円

23年目は「元金返済額(284万円)>減価償却費(0円)」であり、デッドクロス状態です。税引き後利益は251万円で1年目の65万円と比較すると帳簿上の利益が186万円増えています。一見すると儲かっているように見えますが、年間キャッシュフローを確認するとマイナス33万円の赤字です。これを放置すると資金資金繰りが苦しくなります。

不動産投資のデッドクロスのよくある質問とその回答

ここまで解説してきた「不動産投資とデッドクロス」のテーマでよくある質問と回答はこちらです。

デッドクロスはなぜ発生するのか? 

不動産投資におけるデッドクロスとは「減価償却費<元金返済額」の状態を指します。デッドクロスが発生する原因は、減価償却期間(耐用年数)が終わったタイミングで「減価償却費と元金返済額のバランスが変わるから」です。具体的には、以下のようにバランスが変わります。

・減価償却費:計上できなくなる
・元金返済額:変わらない(または増えていく)

例えば新築木造アパートの建物部分の耐用年数は、22年です。この耐用年数を過ぎると減価償却費を計上できなくなり、デッドクロスが発生します。ただし建物の耐用年数は「どのような構造か」「新築か中古か」などで変わってきます。

自分が購入する物件の耐用年数を確認したうえで「デッドクロスが起きたらどうするか」を想定してから不動産投資を始めることが賢明です。

アパートの減価償却が終わったらどうなるのか?

アパートの減価償却が終わると減価償却費が計上できなくなる分、帳簿上の利益が増えます。この利益に対して所得税・住民税(自営業の場合)などの税金が課税されるため、以前よりも納める税金が増えキャッシュフローがきつくなる傾向です。

そのため一般的には「アパートの減価償却期間(耐用年数)が過ぎたら物件を売却したほうがよい」といわれます。しかしケースバイケースで判断することが必要です。

例えば耐用年数とほぼ同時(または耐用年数前)に不動産投資ローンの返済を終えている場合は、デッドクロスになりません。アパートの稼働率が高く、今後の空室や修繕費などのリスクが小さければ「そのまま保有し続ける」という選択もあるでしょう。

まとめ

不動産投資における「デッドクロス」とは、ローンの元金返済金額が減価償却費を上回る状態のことです。デッドクロスが発生すると減価償却費の計上による所得圧縮効果が薄まり、税法上の利益が増えてしまいます。税法上の利益が増えた結果、その利益に対して課される所得税額も増えてしまうため、キャッシュフローが減り資金繰りが悪化します。

またデッドクロスの状態になると帳簿上は利益が出ているが経営が破たんする「黒字倒産」の状況に陥りかねません。デッドクロスによるキャッシュフローの悪化を回避するためには、物件を購入する段階で以下の事柄に留意してシミュレーションをしておくのが賢明です。

  • 物件の構造
  • 物件の築年数
  • ローンの返済方法
  • 融資期間

高いキャッシュフローを維持するための基準としてデッドクロスについて理解し、資金計画を立てたり、売却時期を計ったりする際の判断材料にしてみてはいかがでしょうか。

ベルテックスでは不動産にまつわる節税対策セミナーを開催しています。ぜひお問い合わせください。

この記事を書いた人

ベルテックスコラム事務局

不動産コンサルタント・税理士

不動産ソリューションの面白さや基礎、役に立つ情報や体験談などをフラットな目線で分かりやすくご紹介。宅建士・ファイナンシャルプランナー・税理士など有資格者の知見を生かしつつ、経験豊かなライターたちが不動産投資でおさえておきたいポイントをお届けします。